中小企業なくして脱炭素の成功はない
今こそ、サプライチェーンのキーマンとなるとき

中小企業なくして脱炭素の成功はない
今こそ、サプライチェーンのキーマンとなるとき

中小企業アドバイザー
鷹羽 毅(たかは たけし)氏

サプライチェーン全体で脱炭素化を実現!~競争力の高い脱炭素経営計画と5つの事例~

2024/06/28

中小企業基盤整備機構近畿本部のカーボンニュートラルアドバイザーとして、関西を拠点に活動されている鷹羽毅さん。昨年に続く2度目のご登壇となった今回のセミナーではサプライチェーン排出量削減についてお話いただきましたが、・・・

中小企業基盤整備機構近畿本部のカーボンニュートラルアドバイザーとして、関西を拠点に活動されている鷹羽毅さん。昨年に続く2度目のご登壇となった今回のセミナーでは、サプライチェーン排出量削減についてお話いただきましたが、「中小企業こそが脱炭素のキーマン」と訴えた言葉が印象的でした。インタビューでは、サプライチェーン排出量削減の取組で中小企業がいかにしてキーマンとなるのか、また、脱炭素経営で戦略的優位に立つ方法について探ります。

Q1. 大企業はサプライチェーン排出量削減の義務化が進む中、中小企業にはどのような対応が求められているのでしょうか。


サプライチェーンは事業活動の流れであり、多くの企業が取引関係でつながっています。ひとつの物を製造して使用、廃棄にいたるまでには多くの企業活動があり、それぞれの段階でCO2が排出されていて、すべての排出量を合計したものがサプライチェーン排出量となります。大企業に対しては、このサプライチェーン排出量を削減することが求められていますが、事業活動の上流、下流に位置する中小企業の取組がなければ、脱炭素化を進めることはできません。そのため、大企業はサプライヤーである中小企業にもCO2削減を求めることになります。

現在の傾向としては、サプライヤーに対してSBT目標の設定※1を求めるケースが増えているようです。SBT目標とは、企業の温室効果ガス削減活動を認証するもので、脱炭素化の取組を表明する代表的な方法です。大企業向けの通常SBT認証はサプライチェーン全体を対象とするため決まり事も多く複雑ですが、中小企業向けのSBT認証はScope1,2の自社排出だけを対象としており、要件の緩やかなものになっています。

※1 SBT目標設定
SBTとは、企業が環境問題に取り組んでいることを示す目標設定の一つ。2015年のパリ協定で定められた「2℃目標」や「1.5℃目標」を目指し、各企業は温室効果ガスの排出削減目標を策定する必要があります。

Q2. サプライチェーンの一員として、中小企業も脱炭素化に取り組むべき、とお考えですか。


中小企業からみると、脱炭素は大企業のために「やらざるを得ない取組」と認識されることも多いと思いますが、そうではないのです。中小企業の取組がなければ、大企業も脱炭素化を進めることができないわけですから、自社の排出量削減の成果を取引先の大企業への貢献としてアピールするチャンスでもあるのです。サプライチェーン排出量の削減とは、脱炭素化に取り組む企業が競争優位に立つための仕組みと捉えることもできます。


取組を進めるにあたっては、製造ラインの無駄を省く、あるいは製品の輸送頻度を減らすなど、カーボンニュートラル実現という大義のもと、取引先へ交渉材料を提示することもできるはずです。一方的な要求をのむのではなく、大企業に対してアドバンテージを発揮するチャンスであることにも気づいていただきたい。発想を切り替えることも大切です。

Q3. 実際に脱炭素経営を始めるには、どのような考えで進めればよいでしょうか。


自社のための脱炭素、他社のための脱炭素という、2つの考え方があると思います。まず自社のための脱炭素とは、SBT目標のScope1、Scope2の実践であり、「知る」「測る」「減らす」の3ステップが基本となります。まずは自社のCO2排出量の見える化から始め、次に化石燃料を電動化することを検討、節電、省エネにも取り組みます。その先に太陽光発電など再エネ電力の導入を検討するとよいでしょう。それでもカーボンニュートラルが達成できない場合は、カーボンクレジットなどオフセット取引を活用する流れになります。

一方で他社のための脱炭素とは、CO2削減に繋がる製品やサービスを開発して、他社を支援する事業を創出するということを指します。それがセミナーでもお話しした脱炭素事業計画にあたります。CO2削減のため、燃料転換や節電、あるいは再エネ導入を行う際には、それらに関わる製品や装置を利用することになりますが、販売している企業は脱炭素化の取組によって利益を得ているわけですね。他社のための脱炭素とは、このように脱炭素市場を視野に入れた事業戦略を考えるということです。

Q4. 脱炭素市場に参入するということですね。中小企業にもチャンスはあるのでしょうか。


脱炭素市場は今後もさらなる拡大が見込まれていますので、中小企業にも市場参入するチャンスは大いにあります。まずは自分たちの製品やサービスをどのように脱炭素に関わらせるのか、事業内容を丁寧に見直すことが肝要です。例えば、燃料転換する装置の開発は困難だとしても、装置に使用する部品や材料など、間接的に関わる製品の開発は可能ではないでしょうか。あるいは自社の脱炭素経営を実例として、他社にノウハウを提供するサービスの展開も考えられます。

セミナーでもご紹介した印刷会社の取組を例にお話ししますと、同社では石油系溶剤不使用のインキへ切り替え、省エネ性能の高いLED-UV印刷機を導入するなどして、CO2ゼロ印刷を実現。環境に配慮された印刷物として高く評価され、問い合わせや受注の増加に繋げました。さらに工場の屋根に太陽光発電を設置し、新電力を通じた風力発電電力を購入するなどして、2019年には工場全体の使用電力について再エネ化100%を達成しました。自社の取組を実例にセミナーを開催するなど、脱炭素市場で積極的にアピールすることで、環境意識の高い企業としてブランディングにも成功しています。

>>その他の企業の取組をもっと知りたい

Q5. 脱炭素市場へ参入するにはどんなアクションが必要でしょうか。


自社の取組や製品の優位性を積極的にアピールすることが大切です。中小企業の場合、大企業のようなイメージ広告を行うよりも、脱炭素関連の展示会などに参加して見込み客へピンポイントにアピールするのが効果的だと思います。今は脱炭素をテーマとした展示会や見本市も多く開催されていて、企業同士が情報交換する場として賑わいをみせています。出展する企業も増えていますので、それだけリード獲得の効果があるということでしょう。

サプライチェーンもまた、ビジネスチャンスを広げるのに大きな役割を果たしてくれるかもしれません。サプライヤー同士が協働することでイノベーションが生まれ、新たな事業に発展する可能性も。横並びにあったサプライチェーンの企業が輪となって繋がることで、大きなチャンスが生まれるのではと考えています。

>>詳しくはこちらからご相談ください

Q6. 鷹羽さんは関西を拠点に活動されていますが、脱炭素の意識や取組に関東との違いはありますか。セミナーでは全車ZEV化の目標を掲げた関西のタクシー会社の事例もご紹介いただきました。

関東の事情に精通しているわけではないですが、脱炭素に対する意識や取組は、いずれも高いレベルにあると感じています。特に東京都には大企業が集中していますから、サプライチェーンの一員として取組を求められることもあり、中小企業にも意識が浸透しやすいのかもしれません。関西の場合も補助金や支援の申請は多くありますので、環境意識からというより、資金調達面のメリットから脱炭素化の取組を始める企業が多いように思います。

事例としてご紹介したタクシー会社は、全国に先駆けて2030年までに「全車ZEV※2化達成」の目標を掲げました。顧客サービスに優れた企業としても名高く、企業価値を高める意味も含め、いち早くZEV化を宣言したということでしょう。この企業の場合、トップダウンで早い段階に踏み切ったことが功を奏し、行政から大きな補助金を得てEV導入を加速することができました。アピール力のある企業ですから、この取組が業界全体のEV化を推進する力に繋がるのではと期待しています。

※2 ZEV
ZEV(Zero Emission Vehicle)とは、CO2などの排出ガスを出さない電気自動車や燃料電池車を指します。

Q7. 東京都が推進するHTTの取組について印象をお聞かせください。また、中小企業の担当者様へメッセージもお願いします。

2030年のカーボンハーフ、2050年のカーボンニュートラルという大きな目標に向け、東京都では取組がより強化されているのを感じます。セミナーの前半では、HTT実践推進ナビゲーターの方が令和6年度の支援策について紹介されていましたが、実に60近い事業メニューがあって驚きました。助成金事業はもちろん、取組の伴走支援や相談窓口、融資制度や税制優遇など内容も多岐にわたり、さまざまな支援体制が整えられている印象です。

東京都に籍を置く中小企業の方々には、他府県には見られない潤沢な支援体制を十分に活用することで、全国に先駆けた脱炭素化のロールモデルとなっていただくことを願います。いまや中小企業における脱炭素化は、アドバンテージを持って取り組む段階に入りました。カーボンニュートラル実現のキーマンとして、率先してチャレンジしていただきたいと思います。