
環境省 水・大気環境局 脱炭素モビリティ事業室
室長 井上 雄祐(いのうえ ゆうすけ)氏
2030年までにCO2排出量を46%削減。ネットゼロに至る国の中間目標まで残り4年に迫った2026年1月のセミナーは、環境省 水・大気環境局の井上雄祐さんの「行動に移す機会にしていただきたい」という力強い訴えで始まりました。大企業が進める取組の現状、国の政策方針や支援策を伺いながら、中小企業が取るべき道を探ります。

産業革命前の比で世界の平均気温の上昇を1.5℃以内に抑える目標が国際的な合意になっていますが、すでに国内の平均気温は1.48℃※1まで上昇しています。昨年も高温や異常気象が続き、それによる自然災害も頻発しましたので、多くの方が温暖化を実感されたのではないでしょうか。
日本は2050年までにCO2排出量を実質的にゼロにする目標を立てていますが、目標達成には排出量を2030年までに46%、2035年までに60%、2040年には73%まで減らすという、劇的な削減努力が求められています。これを実現するため、国は多方面で温暖化対策を推進しているところです。
産業・業務・運輸等の領域では、Scope3排出量の算定方法を整備してバリューチェーン全体の脱炭素化を促し、中小企業の皆様を主要プレイヤーとして支援を進めています。さらに、こうした取組を後押しする方策として、成長志向型のカーボンプライシング※2が本格稼働いたします。これは今年の4月からスタートする排出量取引の規制で、現時点では大手企業が対象ですが、削減目標を履行できない場合はクレジットないし、課徴金で相殺いただく、そういった強制履行の取組となっています。
※1 2024年の年平均気温偏差
典拠:気象庁 https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/an_jpn.html
※2 参照:環境省/「成長志向型カーボンプライシング構想について」
https://www.env.go.jp/content/000110549.pdf
商工会議所の調査によれば、現在のエネルギー価格上昇について、中小企業の約9割が影響を受けていると回答しています。ガソリンの暫定税率廃止など負担軽減の動きもありますが、いまだ高値圏にありますので、エネルギー問題は経営課題のど真ん中にあるといえるでしょう。化石燃料からの脱却はエネルギーコストの削減となりますので、エネルギー問題の解決策として脱炭素経営を認識していただきたいのです。
また、大企業はバリューチェーン全体の課題として脱炭素に取り組んでいますので、彼らにとって取引先の協力は不可欠であり、取引先とエンゲージメントする(連携して取り組む)必要があります。実際、大企業の多くがエンゲージメントする企業の選定を始めているところでしょう。ほとんどの大企業は2030年までにScope3を3割、4割削減する目標をたてていて、残り4、5年で削減する必要に迫られています。まずは排出量の大きい取引先と連携することが考えられますが、脱炭素の取組に意欲があるかないか、というのも大きな選択基準になろうかと思います。対象企業に選ばれることはバリューチェーンで優位に立つことですから、いち早く脱炭素経営に着手して協力体制を整えておくことが重要ではないでしょうか。
脱炭素経営を始める時は、排出量を算定し、削減目標を立て、SBTの第三者認証を受ける企業が多いと思います。このSBT認証の取得が日本では進んでいて、2024年時点では1378社が認定を取得していますが、そのうち1048社を中小企業が占めているのです。

世界で脱炭素の要請が厳しくなるなか、国も規制や対策を強化したため、それに呼応するようにして、まずは大企業のSBT認証の取得が進みました。SBT認証取得の際、大企業の多くは国と歩調を揃えて目標設定をしていて、Scope3も含めて2050年までにCO2排出量をゼロにするとしています。
Scope3も含めてということは、サプライヤーである中小企業に対しても第三者認証の取得を要請している、ということなのです。中小企業のSBT認証の飛躍的な増加には、そうした背景があるといえるでしょう。実際、大企業によるサプライヤーへの排出量算定、目標設定への要請は高まる傾向にあり、2020年の7.7%から2022年には15.4%※3と、2年の間に倍増しているのです。
※3 典拠:中小企業庁/2023年度版「中小企業白書」(中小企業・小規模事業者のカーボンニュートラルの取組状況)
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2023/chusho/b1_2_2.html
来年からは、SSBJ※4というサステナビリティ関連情報の開示規制も始まり、Scope3を含めた排出量の算定、開示が求められるようになります。対象となるのはプライム上場の大企業ですが、Scope3の開示ということは、バリューチェーンの上流、下流にあたる事業者の排出量も含まれるわけですから、中小企業にとっても他人事ではありません。
取引先がグローバルに展開する企業の場合、SBTやカーボンディスクロージャーなど第三者認証を受けた目標設定と、その目標に沿った削減行動をとっていることなどが入札条件になっている場合もあります。つまり脱炭素に取り組んでいなければ、ビジネスの入口ではじかれてしまう、というのが現状なのです。

※4 参照:「SSBJとは?サステナビリティ情報開示で経営戦略が変わる」
脱炭素経営を進めるにあたっては、さまざまな支援策が用意されています。まずバリューチェーン全体のCO2排出削減を支援する環境省の事業として、省CO2設備投資への支援というものがあります。企業間連携による取組を促進するための事業で、大企業と中小企業が連携して脱炭素化を推進する場合、削減効果の高い設備の導入に対して補助金による支援を行っています。
中小企業に対しては15億円を上限として、設備投資に必要な資金の1/2を支援しています。一方、個社で取組を進める際に利用できる事業もあり、中小企業の皆さんが排出量を大幅に削減する目的で再生可能エネルギーを導入したり、燃料を天然ガスに切り替えたりする場合、1億円、または5億円を上限として導入費用の1/3を補助いたします。さらに、デジタルシステムを活用してCO2削減対策を行う場合には、200万円を上限として費用の3/4を補助する事業もあります。この他に東京都の補助金もあり、併用することができますので、中小企業の皆様にはぜひご活用いただきたいと思っております。
CO2排出量全体の約2割が運輸部門、つまり人や物資の移動に伴うものとなっています。運輸部門の排出量では車が圧倒的に多く、その他に鉄道、航空、船となっております。

環境省ではこうしたモビリティ分野の脱炭素化を進めるため、電動車の導入や充電、充てん設備の整備を推進する支援を行っています。営業車やトラック、タクシーなどの商用車、建設機械の電動化、充電設備の導入に対する支援がありますので、ぜひご活用いただければと思います。
補助の内容ですが、価格の高い水素車に対しては通常車両との差額の3/4を国が、残り1/4は東京都から補助がでますので、通常の車両更新と変わらない費用で導入することが可能です。電気自動車については、差額の2/3を国が、残り1/3は東京都から補助がでます。これはEV、水素、プラグインハイブリッドを対象とした補助で、国は300億円の予算を確保しております。こうした補助制度がある間に、ご活用いただくことをおすすめします。
東京都が行っているHTTの取組は都民の皆さんに対する行動変容という意味でも、東京都の中小企業の皆さんの脱炭素経営を支援するという意味でも、率先した取組だと思っています。国も東京都と連携しながら進めていますので、中小企業の皆様は脱炭素をピンチにせずチャンスに変えていただきたいと思います。

先ほど、脱炭素モビリティ事業の予算は300億円とお伝えしましたが、いまのフレームだと2032年と期限が決まっていますので、残り6年しかない、ということです。その期間中ずっと予算がつくのかといえば、状況次第でもあるのです。先行して取り組む企業に対する支援ですから、出遅れた場合は支援なしで進めざるを得ない可能性もあります。そうならないよう、支援があるうちに、戦略的にベストなタイミングで脱炭素経営に舵を切っていただきたいと考えています。国も自治体も一丸となって支援に動いておりますので、悩まれたらまず、HTT実践推進ナビゲーター事業にご相談ください。
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