ピコットエナジー株式会社 代表取締役 / ゼロエミッション経営推進相談員
田村 健人(たむら たけと)氏
これまで、中小企業診断士として多くの企業コンサルティングを手掛けてきた田村健人さんは、エネルギー管理士、東京都排出量取引制度技術管理者の立場からも常に的確な助言をされてきた経営改善支援のスペシャリストです。先日行われたセミナーにおいても、エネルギーコストアップの原因と対策、省エネの基本的な考え方など、脱炭素経営への取組に欠かせないさまざまなポイントを講義していただきました。
ご存じの通り、2015年にパリ協定が採択されて以来、脱炭素に向けた動きは世界的に加速し続けています。日本でも2020年10月の「2050年カーボンニュートラル宣言」に続き、2030年度における温室効果ガス削減目標を46%に設定(2013年度比)することを表明したほか、今年2月には「GX(グリーントランスフォーメーション)※1 実現に向けた基本方針」が閣議決定され、4月からは改正省エネ法が施行されました。とりわけGX戦略は、戦後日本における産業・エネルギー政策を大転換させるエポックメイキングな出来事といえるでしょう。気候変動問題に対して、日本が国家を挙げて取り組むという強い決意表明が発信されたわけです。
当然ながら中小企業の皆様も、この大きな時代のうねりから目を逸らさずにはいられません。温室効果ガス排出量の「見える化」、カーボンニュートラルに向けた「設備投資の促進」が拡大し、地域の金融機関や中小企業団体などの支援機関も「プッシュ型」の積極的な働きかけを行っていくことになるでしょう。また、グリーンな製品が尊ばれ、官民ともにグリーン製品の選定や調達が推奨されるようになると、そこに新たな市場が創出されていきます。
さらには、すでに欧米で一般化されている炭素税が、やがて日本でも導入されることになるかもしれません。日本の地球温暖化対策のための税(いわゆる温対税)はCO2排出量1tあたり289円ですが、イギリスでは2,870円/t-CO2、フランスでは5,930円/t-CO2、スウェーデンにいたっては15,470円/t-CO2です(2018年為替レート)。もちろん温対税の拡充についての議論はこれからの話ですが、日本でも他国と同等規模の税制度が2028年から本格導入されるという見方もあります。
※1 GXは「Green Transformation」の略称。温室効果ガスを発生させる化石燃料から太陽光発電、風力発電などのクリーンエネルギー中心の経済社会システムへと変革し、カーボンニュートラルと経済成長の両立を目指す取組です。
第1次オイルショックを契機として1979年に制定された省エネ法は、エネルギー使用の合理化が最大の目的でした。今年から施行された改正省エネ法は、化石エネルギーから非化石エネルギーへの転換を目指すとともに、合理化の対象範囲を非化石エネルギーにも広げています(太陽光発電も報告対象)。この法律における省エネとは、経済産業省が推進する「経済の健全な発展に不可欠なエネルギーの効率的活用」という考え方に基づいています。
一方、環境省が主導するCO2排出量削減は、温室効果ガスの排出をとにかく減らしていこうというのが本旨。極論を申し上げると、経済活動を縮小してしまえばゼロエミッションの達成に近づくのですが、それだけでは平和な日常を持続させるための環境負荷低減には繋がりません。両者は一見すると全く異なる方針を採っているようにも思えますが、目標とする到達点は同じです。脱炭素社会の実現と企業の成長にバランスよく取り組んでいかなければなりません。エネルギー管理の専門家として、私が心がけているのは付加価値の創造です。付加価値を生み出すことにエネルギーを集中して使う大切さを説きながら、ご相談に来られるそれぞれの企業様にフィットした取組をご提案しています。
照明をLED電球に替える、社用車にEVを導入する、空調を最新の省エネ型に置き換えるなど、とかく設備投資に目が行きがちですが、実はエネルギーコストが上がってしまう原因は他にもあり、相応の対策を図ることでエネルギー使用の合理化が実現できます。電力会社との契約の見直しもその一つでしょう。規模が大きい企業は高圧電力、小規模な企業は一般家庭と同じ低圧電力で契約されていることと思います。
電力使用料金の多寡は、概ね支払金額(円)÷電力使用量(kWh)で30〜37円/kWhが目安とされています。これを上回る状況なら、契約そのものを見直す余地がありそうです。普段は誰もいない倉庫であれば、不要な空調屋外機を電源から外して契約外とすることで、基本料金の大幅な低減が可能です。また、工場内にある空調や製造機器の起動を一斉に行うと消費電力が一気に跳ね上がりますが、時間をずらして順番に起動すればピーク値を低くできます。電力使用量を平準化することでコストを抑えられるケースもあります。最新型の省エネ設備を導入したのに電気代が思うように下がらない場合は、給排気に伴う熱漏れや、換気扇から冷気や熱が逃げている可能性を疑ってもいいでしょう。空調の設定温度を上げ下げして「我慢の省エネ」を続けるだけではなく、建物の断熱性を高めたり、窓の気密性を向上させた方がよい場合もあるんです。
やはり、ご相談企業との信頼関係の構築が鍵だと思っています。これもダメ、あれもダメと、こちらが否定から入ってしまうと、どうしても反発される方々がいらっしゃいます。企業様が長年培われてきたこと、大切にしてきたことに理解を示し、共感し、皆様が受容できるラインを探っています。
特に伝統ある老舗中小企業の場合は、エネルギーが高コストになりがちです。省エネに対する関心や意識があっても、昔ながらのやり方を曲げたくないという会社さんは多いんです。とある食品加工会社さんのケースを例に挙げると、加熱調理の工程に消費電力のムダが見られました。その工程は安易に省けるものではなかったのですが、機器の使い方を変えたり部品を追加したりして、生産効率をアップさせることができました。結果的には年間で約1,000万円のエネルギーコスト削減が実現できたのです。
最近はTVやラジオなどで「HTT」の話題を耳にする機会が増えてきました。世の中に浸透しつつあると思います。しかしながら、具体的に何から手を付ければいいのか、まだまだ腑に落ちていない企業様が多いのではないでしょうか。
東京都の支援は、他の自治体に比べて格段に手厚いことで知られています。申し込みのハードルが低く、補助率に優れています。しかも企業の成長を促しながらゼロエミッションに資する、幅広い選択肢が設けられているので、おそらく経営者の皆様が抱えている多様な問題をほぼ解決できるといっても過言ではありません。都内に事業所や工場を構えている企業は本当に恵まれていると感じます。ただ、一つだけ申し上げておきたいのは、助成金をもらうことが目的になってはいけないということです。自社が将来どのように成長・発展してゆくか、社会に対して何を還元してゆくのか。それらを叶えていくための手段であると捉えるべきでしょう。
省エネ設備への更新を促す助成金には、導入機器の機種指定や運用期間に一定の制約があります。例えば助成金を利用して設備を導入した後に、エネルギー使用の合理化が進んだことで攻めの経営に転じようとしても、助成金の制約によりすぐに機器の刷新ができない場合があります。つまり、成長のチャンスを逸してしまうということです。企業様のお考えによっては、助成金の活用をおすすめしないこともあるんです。
助成金を上手く活用して脱炭素経営を進めていくためには、まず自社の現状を把握するところから。経済産業省の「カーボンニュートラルに向けた投資促進税制」の計算シートや、日本商工会議所の「CO2チェックシート」、環境省のCO2排出係数公表サイトの情報に沿って、自社のエネルギーコストおよびCO2排出状況を数値化し、今後どうしたいか、ご自身の会社にとって何をすることがベストかを、明確にしてゆくことが肝要だと思います。
何からはじめて良いのか、導入するにはどうしたらいいのか、不明な点等がございましたら、まずはHTTのスペシャリストであるナビゲーターにご相談ください。ご相談は無料で、貴社にとっての最適な方法をご提案させていただきます。詳しくはお電話または下記フォームよりお問い合わせください。
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