中小企業をますます元気に!
利益追求で脱炭素化経営を
【セミナーレポート】

一般社団法人 東京都中小企業診断士協会
 大東 威司(おおひがし たかし)氏

中小企業の脱炭素化に向けた取組と実践事例

2023/3/23

3月23日に行われたセミナー講演「中小企業の脱炭素化に向けた取組と実践事例」の振り返りとして、脱炭素化の流れや中小企業が脱炭素化に取り組むメリット、具体的なアクション、実践事例などについて・・・

3月23日に行われたセミナー講演「中小企業の脱炭素化に向けた取組と実践事例」の振り返りとして、脱炭素化の流れや中小企業が脱炭素化に取り組むメリット、具体的なアクション、実践事例などについて、講師の中小企業診断士、大東威司さんにお話を伺いました。

 

Q1. 脱炭素化に向けたグローバルと日本の動きについて教えてください。

2015年のCOP21ではパリ協定(産業革命以前に比べて2℃より十分に低く保ち、1.5℃に抑える努力をする)が採択され、CO2排出量の削減に向けた長期目標に対して、主要排出国を含む多くの国が足並みを揃えたことに大きな意義があると思います。具体的な目標が出揃ってきたところで、今は日本を含めた各国がちゃんと行動できるか否かが試されているのだと思います。

パリ協定では、気温上昇を2℃未満に抑えるというシナリオと整合した、企業が取り組む温室効果ガス排出削減目標としてSBT(Science Based Targets)が設定され、日本では中小企業向けとして2030年に目標を定めた独自のガイドラインが設定されました。SBTでは削減すべき温室効果ガスを、Scope1(事業者自らによる温室効果ガスの直接排出)、Scope2(他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出)、Scope3(Scope1,2以外の間接排出)の3つのカテゴリーに分類していますが、中小企業向けSBTでは主にScope1と2の排出量を2018年比で30〜50%削減することを目指しています。

Q2.  東京都ではどのような取組が行われているのでしょうか。

東京都は日本の首都であり、人口も企業の経済活動も桁外れに大きく、都市というより国に近い経済規模があります。当然、CO2の排出量も多いわけで、大都市の責務として1.5℃目標を追求し、2019年には「ゼロエミッション東京戦略」を策定、2021年には取組を加速して都内CO2排出量を2030年までに50%削減する「カーボンハーフ」を表明しました。そうした流れのなかで、2021年1月、全国レベルで電力需給がひっ迫する事態や、ウクライナ・ロシア情勢による世界的なエネルギー不足が生じたこともあり、CO2排出削減だけではなく、いまはエネルギーの安定確保が待ったなしの状況なのです。

こうした背景もあって昨年の2022年4月には節電や省エネの取組として「HTT=電力を減らす(H)、創る(T)、蓄める(T)」のキャンペーンがスタートしました。印象深いのは、昨年12月の都議会で太陽光パネル義務化条例が成立したことで、建築物に対する脱炭素化を進める大きな一歩であり、東京都の強い意気込みを感じます。東京には非常に多くの建物がありますしオフィスビルや工場だけでなく住宅からのCO2排出も多いため、建築物の脱炭素化に注目したのはよい観点だと思いました。

日本の太陽光発電の普及は欧米に比べて後れを取っていましたが、東京都の動きをみて川崎市でも義務化を決定するなど、全国的な動きに繋がる大きな流れをつくったといえるでしょう。

Q3. 中小企業が脱炭素化に取り組むメリット、導入しないリスクについて教えてください。

脱炭素化を入り口に考え、構えてしまう人も少なくないのですが、そうではなくて、純粋に自社の利益追求の視点で考えていただきたいのです。まずHTTの1番目のH(電気を減らす)についてですが、省エネでCO2を削減するということは光熱費を減らすことであり、製造原価や管理費を節約する分、そのまま利益が上がるということです。たとえば省エネによるコストカットで20万円の利益が生じた場合、同じ利益を営業活動で得ようと思うと、かかる経費を勘案すれば数百万円の売上アップが必要になります。つまり、脱炭素化の取組は、営業活動より効率よく利益を上げられる可能性が高いということです。

次に2番目のT(創る)については、太陽光発電を導入することでクリーンなエネルギーを創り出すと同時に、余ったエネルギーを蓄電しておけば停電などの非常時にも速やかに事業復帰ができるなど、リスク対策にも繋がります。東京は直下型地震などの自然災害や、電力需給のひっ迫など、さまざまなリスクにさらされていますので、非常用電源の確保には大きなメリットがあると思います。

また、脱炭素化経営は環境問題に積極的に取り組む企業としてイメージアップにもなるので、人材確保の上でも有利です。今の若い人は環境問題について義務教育で学んでいるので、環境問題に関心の薄い企業というのは就職先として対象外と考える傾向にあります。


そして何より大事なのは、銀行などの融資条件に環境問題への取組が求められつつあることです。有価証券報告書などに環境問題の取組が明記できないようだと、将来、融資を受けにくくなる可能性もあります。取引先からの評価も同様であり、脱炭素化の取組を条件とする企業が増えているので、対策を怠るとサプライヤーとして選ばれなくなる恐れもあります。

Q4. 脱炭素化に向けて、具体的にどのような対策が考えられますか。

脱炭素化を進める行動指針としては、先に説明したSBT(Science Based Targets)の目標を基準に考えるとよいと思います。まずScope1については、自社で使う熱源エネルギーによる直接排出の削減にあたりますので、ボイラーや暖房などに使っているガスや化石燃料、電気の使用量を減らしましょう、ということです。Scope2は、余所から供給されたエネルギーによる間接排出を削減することですので、いま使っている電力などを太陽光発電など再生エネルギーにスイッチしていくことになります。Scope3は、原材料の仕入れなど事業活動の上流における排出から、製品の使用や廃棄など下流における排出までが含まれ、少し複雑になっています。

取り組む手順としてはScope1、2から、まずは自社で使っているエネルギーの量を把握し、プロセスの改善、設備更新などで電気の使用量をどこまで減らせるかを考えるのが最初のステップになると思います。

Q5. 支援事業の申請方法や申込み後の流れはどのようになりますか。

東京都には省エネ設備導入や運用改善を対象とした支援事業(助成制度)が数多くあり、クール・ネット東京などを通じて申し込むことが可能です。窓口探しで戸惑うようであれば、まずは東京都中小企業振興公社やHTT実践推進ナビゲーター事業(本事業)に問い合わせるとよいでしょう。

私が携わっている東京都中小企業振興公社の「ゼロエミッション実現に向けた経営推進支援事業」では、まずは相談窓口を設けて、その場でわかる範囲でアドバイスをお返ししています。そこでは、将来に向けた事業の展望や夢を伺ったうえで、経営戦略の一環として省エネ対策をどう埋め込んでいくかなどをお話ししています。実際に取組を進める場合は、現地調査による準備支援の段階を経た後、ハンズオン支援といって、経営戦略・ロードマップ策定のサポートなどを行いながら、最長2年半にわたって継続的に伴走支援を行うことになります。

Q6. 脱炭素化経営について、どのような導入事例がありますか。


セミナーでもお伝えしたパン工場の例ですが、「バリューチェーンの中で選ばれる企業になる」という社長の目標があって、取引先大手企業から要請されたCO2削減の取組を行う期限に先んじて、「ものづくり補助金」を利用して既に急速冷凍技術を獲得されていました。ただし、冷凍したパンを保存するスペースがなかったため、工場を拡張して冷凍貯蔵スペースを造り、その上に太陽光発電を載せてCO2削減を図るという、さらなる脱炭素化による経営戦略をたてることにしました。

また、私の地元である板橋区の金属メッキ工場では、古い電源設備を更新することで、脱炭素化の取組を利益追求に繋げた例もあります。工場では高圧電気を使うため変圧器などを納めたキュービクルという設備を設置していますが、40年ぐらい更新していなかったため、電力変換時にかなりの電気ロスが生じていました。そこでキュービクルを更新することで省エネを図ることにしたのですが、板橋区の補助金を利用するなどして1千万円以上かかる投資費用を数百万円に抑えることができました。さらに、更新した設備が変圧器のトップランナー制度の対象であったため、固定資産税が3年間減免される、税制優遇を受けることもできたのです。

このように、老朽化した製造設備を使っている工場などは更新への投資のチャンスだと思います。補助金を使って少ない投資で設備を更新できますし、税制優遇を受けられる可能性もあります。CO2削減とともに光熱費のコストカットにもなりますし、設備更新するにはいいタイミングになるわけです。あくまで理論値ではありますが、この金属メッキ工場の場合は電気代を約40%削減できる計算なので、投資資金を回収するのに必要な期間もかなり圧縮できると思われます。脱炭素化を視野に入れた経営戦略においては、目先の投資額で判断せずに、中長期的な視野で利益に繋げることを考えることが大切です。



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