もはや脱炭素経営に「待ったなし」
 積極的参画でピンチをチャンスに
  【セミナーレポート】

株式会社日本総合研究所
 リサーチ・コンサルティング部門
 ストラテジー&オペレーショングループ
 シニアマネジャー/上席主任研究員
 大森 充(おおもり みつる)氏

中小企業が直面する「環境・エネルギー対策」への第一歩!

2023/5/23

なぜ今、取り組まなければならないのか? 中小企業の役割とは? ESGやSDGsの観点から、企業の経営計画やDX戦略、事業開発の現場に・・・

なぜ今、取り組まなければならないのか? 中小企業の役割とは? ESGやSDGsの観点から、企業の経営計画やDX戦略、事業開発の現場に数多く携わってきた大森充さんを講師に迎え、脱炭素化推進の意義を伺いました。

 

Q1. サステナビリティ経営の本質とは? 世界的な脱炭素化志向によって、企業への要請が強まってきた背景を教えてください。

これまで企業は、顧客に価値を提供し、雇用機会をつくり、納税をすれば、社会に貢献しているとみなされてきました。自由な資本主義を追求する過程で、従業員に負荷をかけたり、サプライヤーに無理を強いたり、外部環境に多少の悪影響を及ぼしても許されてきたのです。 しかし、サステナビリティ(持続可能性)の主語は、企業ではなく、あくまでも「地球」です。そもそも健全な地球環境が維持できなければ、私たちの社会や経済は成り立ちません。そこで生まれたのが2015年に国連加盟国197ヵ国が合意・採択したSDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)です。

SDGsが掲げる17のゴール・169のターゲットにおいて、とりわけ大きな課題が気候変動対応です。地球の劣化は皆さんが想像される以上に深刻です。なんの手立ても講じずに進むと、2050年には海洋に漂うプラスチックゴミと、海に生きる魚の量とが同じになるという試算があります。また、すでに1970年から現在まで脊椎動物の個体群は平均68%減少しました。温暖化による気候変動でハリケーンや台風の甚大化が進み、気象災害の被害額も全世界で年間平均1,200億ドル(2008〜17年)にのぼっています。経済を盛り立てた結果、意図せずして人ですら生きづらい環境を作り上げてしまったのです。ちなみに、前述した2015年に国連で採択された文書の名称は「持続可能な開発のための2030アジェンダ」で、世界を変革する(Transforming our world)という文言で表現されています。チェンジ(変える)ではなく、より強いニュアンスを持つトランスフォーミング(変革・転換)が使われているほど、世界は切迫した状況に陥っています。


Q2. 日本はSDGs対応後進国と言われますが、現在の状況を教えてください。

2020年10月、当時の菅政権が2050年までにCO2排出量をプラスマイナスゼロの状態にするカーボンニュートラル実現を宣言しました。このシナリオは、このまま何もしなければ世界の平均気温が4℃上昇してしまうところを、さまざまな対策によって1.5℃に抑えようとするものです。世界123ヶ国と1地域が賛同している中、日本は後発の宣言となりましたが、その一方でTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言に沿うかたちでプライム市場上場企業に脱炭素化計画の開示が求められるなど、ボランタリー(自発的な任意)から義務化への流れが構築されつつあります。また日本政府の働きかけもあり、このTCFDに賛同する機関数は、イギリスやアメリカをしのぎ世界第1位となりました。

もし地球環境のさまざまなリスクが顕在化すると、これから生まれてくる世代にとってはそれがごく当たり前のことになり、今後思うような改善が見込めないかもしれません。私たちが気候変動を緩和できる最後の世代です。そうした状況や、よりよい社会を未来へつなぐ責任を鑑み、本気で問題解決に取り組もうと考える企業が増えてきたと言えますね。

Q3. 確かに大企業にとっては急務かもしれません。中小企業にもその役割を担う意味はあるのでしょうか?


CO2排出量の抑制は大企業だけの問題ではありません。サプライチェーン全体での解決が絶対に必要となってきます。

例えば、製造業におけるサプライチェーン全体のCO2排出量を可視化した場合、資材の調達、製造・加工、流通や販売は大企業がある程度コントロールできます。しかし、原材料の製造をはじめ、実際の製造や加工作業などの下請け業務を担うのは中小企業です。特に商品が消費者の手に渡り、廃棄に至る過程での排出量ボリュームが大きいため、この部分を大幅に削減できなければカーボンニュートラルは実現できません。東京都に所在する企業のうち約99%を中小企業が占めているように、産業やサービスの中心は中小企業の皆さんです。目標達成には中小企業の力が必須となります。

Q4. とはいえ、何から手を付けたらいいのか、お悩みの中小企業経営者の方も多くいらっしゃると思います。どのような心構えで取り組んだらよいのでしょうか。


今後、大企業はサプライチェーン全体で気候変動解決を目指すサプライヤーエンゲージメントの仕組みを作り上げていくでしょう。その際、CSR(企業の社会的責任)を目的に、サプライヤーにはさまざまな基準や条件が課せられ、それをクリアした中小企業がパートナーとして選ばれるようになります。

実際、米国の大手電機メーカーでは、ZEB(ゼロ・エネルギー・ビル ※1)への入居がサプライヤー選定の要件となっています。また、大手自動車メーカーは各部品を製造するサプライヤーにCDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)に回答することを要件としています。サプライチェーンの構成企業として、積極的に取り組んでいる姿勢を示し、責任の一端を担うことができなければ、最悪の場合は排除させられてしまう可能性もあるのです。

仮に取引量の多い顧客からCSR調達の要請を受けたら、一つ一つしっかりと対応していくことが肝要です。決して他人事ではなく、自分が抱える問題として捉え、「この部分はできている」「この部分はできていないが、将来的にこうしたい、こうすればできる」という真摯な回答が重要です。わからないことがあれば調べ、専門知識を少しでも吸収し、自社が置かれている立場や能力を見極めるだけでも、それが後々メリットになっていきます。

※1 ZEB…Net Zero Energy Buildingの略称。快適な環境を実現しながら、その建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指したビルのこと。省エネによってエネルギー消費量を減らし、創エネによってあらたなエネルギーを作ることで、エネルギー消費量を正味ゼロにすることができる。


Q5. これまで大森さんが見聞されてきた中で、どのような好例がありましたか?

最近私がコンサルティングをお手伝いした大阪のプラスチックプレート製造企業では、もともと環境問題に対する意識が高く、100%リサイクル材料でものづくりを行なっていることを武器にしていました。その後、CSR調達をきっかけに、自分たちにどのような貢献ができるのか、あらためて自社に対する理解を深め、PRに転化したことで、廃プラ削減への取り組みが評価されました。コロナ禍による需要もあって、感染症対策用アクリル板の売上がアップし、大幅な受注増につながっています。

また、横浜にある某施工会社は「B-Corp」という国際的な認証制度を取得されました。社会や環境に配慮した公益性の高い企業に対して与えられるこの制度は、例えばアウトドア用品のパタゴニア社が認証を受けたことでも知られています。取得すれば世界的に評価される分、その条件は厳しく、とてもハードルが高いものです。しかし、B-Corpのような国際認証を取得することは社会的信用や国際競争力を高める手段となります。SDGsに関心のある企業への営業チャンスが広がり、中小企業によるSDGsのロールモデルとしても注目を浴びています。

Q6. 東京都が推進するHTTについてのご意見をお聞かせください。


先ほどもお話ししたように、環境・エネルギー対策はまさに総力戦。大企業の努力だけでは成し得ません。十分な効果を得るためには中小企業の皆さんの意識改革が鍵となります。そういった裾野の活動を活性化させる上で、HTTが果たす役割は大きいでしょう。

まずは、社内の照明を白熱電球からLEDに変えるなど、手軽にできる「減らす」から始めてもいいですね。そして、自社の状況を見極め、一つ一つの課題をクリアし、社会的使命を果たすためのパーパス(目的)を設定することが大切です。また、省エネ対策をテコにして、社内環境のイノベーションに役立てたり、環境にやさしい事業を新たに創出したり、ブランディングにつなげるのもよいと思います。文字通り、自社で消費するエネルギーを「つくる」ことも必要ですが、自社の事業を再定義してあらたなビジネスチャンスを「つくる」ことにもチャレンジしていただきたいですね。

さらに、中小企業を取り巻く問題として、しばしば労働人口の減少が取りざたされていますが、若者の価値観は「どの企業に勤めるか?」から「どんな仕事に就くか?」に変化しています。とりわけZ世代は環境問題に関心を持ち、企業が携えるべきパーパスに敏感です。彼らはエコフレンドリーで、やりがいを感じられる企業に魅力を覚える傾向にあるのです。脱炭素化への積極参加は、若く優秀な人材を獲得しやすくなることにも繋がっていくと思います。



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