サプライチェーン排出量の算定、中小企業はどう取り組む?【セミナーレポート】

株式会社山本技術経営研究所 代表取締役
 山本 肇 (やまもと はじめ)氏

カーボンニュートラルに向けたサプライチェーンにおける動向と具体的な取り組み方

2023/6/29

「カーボンニュートラルに向けたサプライチェーンにおける動向と具体的な取り組み方」と題した本セミナーでは、事業活動に関わるあらゆる排出量を合計したサプライチェーン排出量の重要性について・・・

「カーボンニュートラルに向けたサプライチェーンにおける動向と具体的な取り組み方」と題した本セミナーでは、事業活動に関わるあらゆる排出量を合計したサプライチェーン排出量の重要性について解いていただきました。とはいえ、Scope3にあたる上流、下流の間接排出の把握や、排出量の算定方法に難しさを感じやすく、何から手を付ければいいのか頭を悩ます担当者の方も少なくないはず。そこで、サプライチェーン排出量の捉え方や実際に算定する際のポイント、取組の事例などを伺いながら、講師の山本肇さんにアドバイスをいただきました。

 

Q1. サプライチェーン排出量の考え方について教えてください。上流、下流にあたる他社の排出を含めると、日本全体の排出量として重複する可能性はありませんか?

サプライチェーン排出量とは、自社における排出だけでなく、事業活動に関わるあらゆる排出を合計した排出量を指します。まずは自社の工場などで燃料を燃焼した時の排出をScope1といい、電気を使った時の間接排出をScope2といいます。次に事業活動全体に視野を広げて、上流では原材料調達やその輸送・配送において、下流では製品の使用から廃棄にいたる段階の他社の排出をScope3と捉えます。カーボンニュートラルを実現するには、Scope1、2、3すべてを考える必要があるということです。

Scope3は他社の事業活動による排出であるため、コントロールに難しさを感じるかもしれませんが、たとえ自社においてカーボンニュートラルを実現できたとしても、原材料調達で多くのCO2が排出されているようでは、トータルの評価には繋がりにくくなります。逆に省エネ効果の高い製品を作って世に送り出せば、製品使用時の排出量を減らすことで間接的にカーボンニュートラルに貢献することも可能なのです。サプライチェーン排出量の全体像を把握すれば、優先的に削減すべき対象を特定できるようになります。

サプライチェーン排出量には関連する他社の排出量も含まれるため、各社で算定が行われた場合、「重複するのでは?」と懸念される声も聞かれます。結論をいえば重複はします。しかし、日本全体の総排出量を求めることが目的ではないので問題はないのです。サプライチェーン排出量というのは、事業活動の上流、下流も含めた全体で世の中にどのような影響を与えているのかを認識することで、各企業に脱炭素経営の指標としていただくことが目的なのです。


Q2. サプライチェーン排出量の算定にあたっては、 Scope1、2、3、どこから手を付ければよいでしょうか。


まずは自社の脱炭素化に取り組むことが大切ですので、Scope1、2における排出量の算定から始めましょう。Scope1は自社における直接排出ですから、重油、ガソリン、ガスなど、燃料ごとに使用量を調べて計算式にあてはめて算出します。Scope2は他社から供給された電気や熱の使用に伴う間接排出ですので、供給元の電気事業者ごとの排出係数をもとに算出します。次の段階として、事業活動の上流、下流にあたるScope3について目を向けるとよいと思います。

Scope1、2は省エネルギー対策になりますから、脱炭素を進めるとともに、自社のエネルギーコストを下げることにも繋がります。特にScope2においては、東京都がHTT(電力をH「へらす」T「つくる」T「ためる」)の取組を加速させており、さまざまな支援策が用意されているため、取り組みやすい領域といえるでしょう。

また、組織単位で排出量を算定するサプライチェーン排出量とは別に、カーボンフットプリント※1で製品単位の排出量をだしておけば、他社から問合せがきた時に確度の高い情報を提供できるようになります。このように各社で取組が進み、Scope1、2における確度の高い排出量と製品の排出量を公表できるようになれば、Scope3における他社の情報が得やすくなり、サプライチェーン排出量が算定しやすくなると考えられます。


※1 気候変動への影響に関連するライフサイクルアセスメントに基づき、当該製品システム(製品単位)における温室効果ガスの排出量から除去・吸収量を除いた値をCO2排出量相当に換算したもの。

Q3. 排出量を正確に算定することに難しさはないでしょうか。


排出量は、「活動量」×「排出原単位」という基本式によって求めることができます。ここでいう活動量とは、燃料や電気の使用量、貨物の輸送量、あるいは取引金額などが該当します。排出原単位とは、活動量あたりのCO2排出量のことで、たとえば電気なら1kWh使用あたりの排出量、貨物の輸送なら1トンキロあたりの排出量をいいます。基本式に入れる活動量と排出原単位の特定には、環境省のガイドラインやデータベース※2を活用することができます。

Scope1、2に関しては自社の燃料使用量や電気量ですので難しくないと思いますが、Scope3に関しても基本的には既存のデータベース※2を使用して算出することが可能です。Scope3の場合は、「購入した製品・サービス」「輸送・配送」「出張」など15のカテゴリがありますので、カテゴリごとに分類してから算出します。

実際にデータベースを見てみると、あてはまる項目がなくて悩まれる方も多いのですが、最初から正確な数値を求めるのは難しいですから、まずはわかる範囲で取り組んでみましょう。たとえば調達した原材料がステンレスであった場合、データベースには鉄、銅材など大まかな分類しかないため、鉄の排出原単位で算定することになります。このように精度の高い数値を計算する必要はありませんが、どのデータベースをもとに計算したのかは明示するようにしてください。まずは、大まかに自社のサプライチェーン排出量の全体像を把握することを心がけましょう。


※2 環境省のデータベース
・サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス排出等の算定のための排出源単位について(環境省)
 https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/tools/unit_outline_V3-2.pdf
・温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度/算定方法・排出係数一覧(環境省)
 https://ghg-santeikohyo.env.go.jp/calc

Q4. 山本さんはパワエレの研究開発に携わった経験をお持ちと伺っています。省エネを目的に設備更新を検討する際のアドバイスをいただけますか。


パワエレとは、パワーエレクトロニクスの略で電力を変換するための技術を指し、省エネ問題を考えるうえのキーテクノロジーとしても注目されています。電力変換の身近な例でいいますと、交流を直流に変換するACアダプタがありますが、ひと昔前に比べると、スマートフォンやパソコンの電源アダプタがずいぶんと小型化して高効率化されたことはご存じの通りだと思います。同じように、電源設備も日進月歩で進歩していますし、古い設備は最新型に比べるとどうしても電力効率が悪くなることもあり、耐用年数を迎えたら設備交換を検討するのがよいと思います。

設備交換に際しては、現状の電気効率はどの程度なのか、それを新しい設備にするとどれくらい効率がよくなるのか、現状を知ることから始めます。省エネ対策とはいえ、あくまで設備投資だということを忘れないでください。

投資額は何年で回収できるのか、電気効率だけで考えると時間がかかりそうな場合も、電気代が高騰している現在の状況を鑑みると案外早くペイできる可能性もあります。また、助成金を使えば初期投資を軽減することもできます。省エネの取組を加速する東京都では多くの助成金や支援策が用意されていますので、老朽化した機器の設備更新にはよいチャンスだと思います。

Q5. これまで相談を受けたなかで、設備投資が脱炭素に繋がった事例はありますか?

実際、設備投資をきっかけに脱炭素経営を始める方は多いのですが、ある企業の場合、設備投資で自社の燃料費が軽減できることから、「Scope1の取組になるのでは?」と考えて相談に来られました。その設備を使うことで製品の製造をスピードアップすることが可能で、生産量を3倍に増やせるということでしたが、お話を伺うなかで、作られる製品がリサイクル材であることがわかりました。つまり、製品の使用によっても排出量を減らせることがわかったのです。

まず、生産スピードが3倍になるということは、燃料費が1/3に下がるということですから、Scope1の取組にあたります。同時に、その設備で作られる製品がリサイクル材であるということは、製品の使用時においても脱炭素に貢献できるので、Scope3の取組にもあたるわけです。当初は燃料費の軽減を目的に設備投資を検討されていましたが、リサイクル製品を作ることでより広く社会に貢献できることがわかり、とても喜んでくださいました。助成金の申請にあたっては、Scope1にあたる直接排出削減の計算とともに、Scope3の製品使用時における計算ものせることができたため、助成金対象としてスムーズに採択されたそうです。

Q6. 脱炭素経営を始めようとする中小企業の皆様へメッセージをお願いします。


脱炭素経営というのは、企業によってそれぞれ違った取組のかたちがあるのだと思います。そのかたちを見極める意味で、サプライチェーン排出量は最初に取り組むべき事柄といえるでしょう。必要性は感じているけど具体的にどうしたらよいかわからない、という場合、まずは公共の窓口に相談するのが一番の近道です。東京都では中小企業をバックアップする体制を整えており、こちらのHTT実践推進ナビゲーター事業もその一つです。また、私が関わる東京都中小企業振興公社とも連携しており、月に一度専門家を派遣するハンズオン支援を行っていて、サプライチェーン排出量の算定についても理解できるまで寄り添いながら支援を行っています。

また、脱炭素経営というのは環境問題における取組である以前に、自社の事業規模を拡大することが目的であると認識していただきたいのです。極端な話ですが、事業を縮小すればCO2の削減に繋がりますがそれでは意味がありません。事業を拡大するために、脱炭素経営で何に取り組むべきなのか、そういう視点が重要です。脱炭素経営によって企業価値を高め、社会から選ばれる企業になること、それが最大の目的です。公的支援が整った今がビジネスチャンスです。まずは第一歩を踏み出してはいかがでしょうか。



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