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【セミナーレポート】

公益財団法人東京都中小企業振興公社
ゼロエミッション経営推進支援事業 相談員
山北 浩史(やまきた ひろし)氏

「脱炭素化支援窓口」に寄せられる声からヒントを探せ!取組不安の解消から、脱炭素経営の強化支援まで

2023/10/17

公的支援機関、とりわけ東京都中小企業振興公社で幅広い業種の企業から経営に関する相談を受けている山北浩史さんは、窓口に寄せられたさまざまな悩みや課題解決に寄り添う経営支援のエキスパート。すべての相談ごとに対して常に「真剣勝負で臨む」という山北さんが・・・


公的支援機関、とりわけ東京都中小企業振興公社で幅広い分野の企業から経営に関する相談を受けている山北浩史さんは、窓口に寄せられたさまざまな悩みや課題解決に寄り添う経営支援のエキスパート。すべての相談ごとに対して常に「真剣勝負で臨む」という山北さんが、日々直面してきた数々の事例を挙げながら、脱炭素経営を成功に導くポイントを語ってくださいました。

 

Q1. まずは、山北様が相談員を務める東京都中小企業振興公社の役割をお聞かせいただけますか。また、相談員としてどのような活動をされているかも併せてお教えください。

東京都中小企業振興公社は、都と連携しながら、東京都を拠点とする中小企業を対象に、幅広いサービスを提供する総合支援機関です。都内中小企業の皆様を元気づけ、経済のさらなる活性化と都民生活の向上に寄与することを理念としています。支援メニューは、経営相談、各種助成金制度のご案内、販路拡大、人材支援、海外展開支援など多岐にわたりますが、公益財団法人であるためご相談は基本的に無料です。私を含め、常時数名の相談員が待機し、お電話やメール、窓口への直接訪問によって寄せられるご要望や疑問にお答えしています。


Q2. ひと口に経営相談といってもお客様の業種や業態はさまざま。どのような相談員の皆様がアドバイスをされていらっしゃるのでしょうか?


私は中小企業診断士、知的財産管理技能士、行政書士、商業施設士、IoTプロフェッショナルなどの資格を有し、自らも経営コンサルタントとしてコンサルティング会社を経営しています。ほかの相談員も経営に通じた専門家ばかりで、税理士、会計士、なかにはデザイナー職の方もいらっしゃいますね。日々、ご相談に来られる中小企業経営者の皆様のサポートに努めています。

当然ながら相談ごとは、基本的な事業計画の立て方から販路開拓、資金調達など多種多様。1999年からこの仕事に携わっていますが、最近はゼロエミッション化推進についてのご相談も増え、年々求められるレベルが高くなってきています。ほとんどの方々がご予約なしで窓口にお越しになられるため、相談員は事前準備のないまま皆様のお話に耳を傾け、コミュニケーションを重ね、最適解を探ることになります。法律や制度の知識はもとより、あらゆる世情やトレンドにも敏感にアンテナを張っていないと立ち行きません。経営そのものに関する情報のアップデートのみならず、新たに開発された最新技術や国内外の企業動向など、書籍、TV、インターネットを駆使して情報収集を心がけています。

Q3. 窓口へいらっしゃる皆様が脱炭素経営に関して抱える不安や課題、それを解決に導いた成功事例には、具体的にどのようなものがあったのでしょうか?


「こんな事業はできないだろうか?」といった、構想段階でのお問い合わせは多いですね。例えば、廃棄植物を利用した植物性由来レザーの製造・販売を行いたいと相談に来られた方には、まず素材となる廃棄植物をどのように調達・確保するかを明らかにするとともに、製造方法の具体化・詳細化についてのアドバイスをさせていただきました。要は、何を始めるにしろ事業計画書が必要になります。キチンとした書類を作成するとなると多くの方々はそれだけで躊躇されてしまうのですが、アイデアをメモ書きにして残しておくだけでもいいんです。

また、断熱効果を有する塗料の販売について相談を受けた際は、その効果について客観的なデータを収集し開示していくことの必要性を説いたり、BtoBかBtoCか、想定する販売先についても助言しました。こちらも事業計画に落とし込む策定作業をお手伝いしたのですが、さまざまな質疑や情報提供を通して、ご相談者に気づきを得ていただくことが私たちの仕事です。


Q4. 事業構想以外の事例もございますか?


事業の計画段階や実施段階で意見を求められる例もあります。ある時、マンション管理の分野で、電力使用量やガス使用量を把握してデータ化するサービスを特色にした事業計画について、ご相談を受ける機会がありました。これは、CO2の排出量を減らし、省エネにも貢献する画期的な試みでしたが、そのデータ収集能力を他分野でも活かせば「より付加価値の高いビジネスも可能になるのでは?」という方向でさまざまなご提案をさせていただきました。

一方、エコバッグの事業化を進めている方からのご相談には、組織づくりの面でアドバイスしました。計画の詳細を伺ったところ、その事業に関わるメンバーの皆さんが出資者であり、労働者であり、経営意識を持たれていました。そこで、2022年10月に施行されたばかりの労働者協同組合法に基づき、会社ではなく相互扶助組織の設立をお勧めしたのです。この案件では創業メンバーのなかに独り親で就労困難な方がいたため、都の支援対象となるソーシャルファーム認証 ※1 の取得も促しました。このように既存の事業計画を第三者視点で拝見し、ブラッシュアップしていくこともお手伝いしています。

※1 ソーシャルファームは、自律的な経済活動を行いながら、就労に困難を抱える方が必要なサポートを受け、他の従業員と共に働いている社会的企業のことです。認証が取得できれば、創設や運営に関わる費用が補助されるなど、さまざまな支援を受けることができます。https://www.social-firm.metro.tokyo.lg.jp/

Q5. その他、販路開拓のご相談も増えているとか。脱炭素経営についてのお問い合わせはいかがでしょうか?


衣料のリサイクルやリメイク事業、ZEH ※2 関連事業、環境配慮型製品を商材とする事業などにおけるマーケティング戦略や販路開拓の助言・進言をすることが確かに増えてきました。私たちは公益財団法人ですから、それぞれの案件に守秘義務があり、ご相談者と将来顧客になりうる企業をマッチングさせるなどの行為は許されていません。しかし、環境問題への取組が注目を集めている今、省エネ事業を自社の強みにされようとする事業者がかなりの数にのぼるため、そういった方々が集う交流会や勉強会をご紹介したり、国土交通省が運営するNETIS(新技術情報提供システム)※3 への登録を促したり、販売促進に繋がるさまざまなPRのしくみや組織活用を提言しています。

同時に、自社の省エネにも関心が高まっています。全社レベルで業務車両のEV化を図ったり、ソーラーパネルや小型風力発電の導入で創エネに取り組もうといったことですね。積極的な企業ほどやりたいことがたくさんあるんです。その場合は、今やれること、やるべきこと、今は難しいが先々に繋げられることを整理して、取組テーマの抽出とロードマップの策定を献策しています。逆に、何から始めていいのかがわからないというご相談者も一定数いて、そういった方々にはヒアリングを通して、活用できる補助金制度や支援策の情報をご提供しています。

※2 ZEHはnet Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の略で、エネルギー収支をゼロ以下にする建物のことです。太陽光発電などの再生エネルギー技術を用いながら、断熱性や設備効率を高めるなどの配慮が施されています。

※3  NETISは国土交通省が新技術の活用のために、その情報の共有および提供を目的として整備したデータベースシステムです。登録された新技術は原則5年、最大10年まで掲載され、自社の信頼性のアピール、他社へのPR、公共工事入札時の加点評価などにも繋がります。

Q6. 本セミナーで山北様は、脱炭素経営への取組パターンとして、事業開発型、販路開拓型によるゼロエミッション化を示唆されていらっしゃいました。成功のポイント、つまずかないためのポイントをご教示いただけますか?


節電によってエネルギーコストの支出を下げることは重要です。そこから一歩、歩みを進め、自社の製品やサービスに脱炭素化の付加価値を与え、それによって収益を上げることができたらこれほど素晴らしいことはありませんよね。その場合、閃いたアイデアを5W2H(いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように、いくらで)で考え、市場規模や成長性といった実現可能性、競合状況、法的規制の有無を調べるなど、事業化ができるかどうかを精査しておかなければなりません。計画段階では、私たちのような外部の専門家にアドバイスを求めるなどして、再検討や軌道修正といった精度を上げる作業も必要になってくるでしょう。そして「時機に乗る」のではなく、「時中に行う」へ発想を転換しておくのが大きなポイントだと思います。これは、タイミングを図りながら先々に行うのではなく、すぐにでもできることを始めておくという意味です。新たな事業の創出に至らないまでも、エネルギーコストを賢く削減し、脱炭素サプライチェーンの一員として選ばれる企業になるためには、今まさに種を撒いておくことが肝要です。タイミングを逃すと収穫はずっと先になるのですから。

さらにもう一つ大切なことは、助成金活用を「目的」にするのではなく、あくまでも課題解決の「手段」と考えていただきたいということです。事業計画を立てる際、企業によっては前期のうちに予算取りを済ませていなければならないため、実際にその事業がスタートする頃には助成金の募集期間が終了し、資金調達が難航してしまうというケースがあります。セミナーの終盤でもご質問をいただきましたが、それに対処するためには日頃から情報を収集しておくことが不可欠です。助成金には例年募集されるベーシックなものがある一方、その年に初めて募集される新制度もあるので、新しいものは情報の先取りがとても難しいのですが、あらかじめそれを想定して事業計画を練っておく必要があるのです。「行政のサポートが得られないなら事業の中身を変更したい、時期を改めたい」と、助成金の有無で事業計画を歪めてしまうのは本末転倒です。

Q7. 最後にHTTの印象と、これから「へらす・つくる・ためる」に取り組もうとされている中小企業経営者の皆様へ、メッセージをお願いします。


窓口でご相談を受けていて感じるのは、ゼロエミッションへのかつてない意識の高まりです。私たちは経済活動の活性化を促進するための経営相談を主な業務としていますが、2050年までにカーボンニュートラルを実現することはもはやマスト。厄介ごとだと後ろ向きに捉えず、付加価値を得るチャンスだと考えて欲しいのです。そういった意味でHTTは、ゼロエミッションを自分ごととして考えていただく機会を提供する素晴らしい取組だと思っています。HTT実践推進ナビゲーターの皆さんは、ゼロエミの意義を世に広めるまさに同志ですね。

また、事業者の皆様には、私たち中小企業振興公社の相談窓口やHTT実践推進ナビゲーター事業などを有効活用して、もっと気軽にご相談ごとを投げかけていただきたいと思っています。無料とはいえ、皆様は貴重な時間を費やしてご相談に臨むことになります。私たち相談員は、そんな中小企業の皆様の期待に応えたい、なんらかのアンサーを導き出し、少しでもお役に立ちたいという一心でお話をさせていただきます。それは、HTT実践推進ナビゲーターの皆さんも同様です。必ず「相談してよかった」と思っていただけるはずですので、決して敷居が高いなどとお考えにならず、ぜひ一度ご相談してみてはいかがでしょうか?