「省エネ診断」は光熱費高騰対策の切り札!
専門家の力で効果的にエネルギーコスト削減を
【セミナーレポート】

株式会社山本技術研究所
代表取締役
山本 肇(やまもと はじめ)氏

今からでも遅くない!中小企業が活用できる省エネ診断のポイント

2024/02/16

電気の専門知識を活かした技術コンサルタントとして、企業の技術支援、経営支援を行うかたわら、東京都中小企業振興公社のゼロエミッション経営推進マネージャーとして活躍する山本肇さん。今回のセミナーでは・・・


電気の専門知識を活かした技術コンサルタントとして、企業の技術支援、経営支援を行うかたわら、東京都中小企業振興公社のゼロエミッション経営推進マネージャーとして活躍する山本肇さん。今回のセミナーでは、省エネ対策の第一歩となる「省エネ診断」について解説いただきました。昨年来のエネルギー価格高騰により、中小企業にとって省エネ対策は喫緊の課題。インタビューでは、「省エネ診断」を着実に「省エネ」へと繋げるポイントを探ります。

 

Q1. セミナーでは「省エネ診断」の活用についてご講義いただきました。あらためて、中小企業にとってのメリットや重要性についてお話いただけますか。


高騰する光熱費をどうにか抑えたい、脱炭素を何から始めればいいのかわからない、そのようなお悩みをお持ちの企業様が多いのではないでしょうか。省エネにあたっては、使用する装置ごとに電気、燃料の活動量を把握して対応策を検討する必要がありますが、技術的な専門知識がない場合、効率的に行うのは難しいと思います。省エネ診断では、第三者である専門家が現地に出向いて調査を行い、導き出されたデータをもとにコスト削減の改善策を提案します。専門家の指摘は課題を見つけるうえで非常に有効ですし、省エネを進めることは脱炭素化の第一歩にもなります。中小企業の多くはエネルギーコストの削減に熱心であることから、照明のLED化など「やれることはやっている」そう考える企業様も多いかと思いますが、省エネ診断を受けることで「新たにコスト削減のポイントが見つかった」というケースも少なくありません。また診断レポートによって、これまで行ってきた省エネ対策に対する具体的評価も得られるため、担当者のモチベーションに繋がるというメリットもあります。


Q2. 省エネ診断の具体的な流れについてご教授ください。また、調査や診断にはどういった専門家があたるのでしょうか。


省エネ診断は、対象となる企業様が省エネ対策の何を知りたいのか、どの装置の問題で困っているのか、目的や対象をヒアリングすることから始まります。次に、エネルギーの使用状況のデータなどを見ながら、対象を絞るための事前打ち合わせを行います。この時は、電気や燃料などの領収書が必要となるのでご用意いただく必要があります。打合せの内容を受けて、電気工事士やエネルギー管理士などの専門家が現場を訪れ、空調、熱源、照明などの各設備を調査します。さらに詳しく調べる場合は、それぞれの装置がどれくらい電気を使っているのか、具体的に電力を計測する場合もありますが、時間や費用もかかりますので行うか否かはケースバイケースですね。

このように、ヒアリング、事前打合せ、現地調査を経て、専門家が結果を診断レポートにまとめて企業様へ提出いたします。内容にもよりますが、打合せから診断レポートの提出まではひと月程度の期間を要します。診断レポートには、電気やエネルギーの使用状況がグラフや表を使ってわかりやすく記載されるとともに、費用対効果の高い順に改善策も提案されており、全体で十数ページに及ぶ詳細な内容になります。この診断結果にもとづいて、省エネ対策の改善提案が行われます。

Q3. どのような改善策が提案されるのでしょうか。


改善策は主に「運用改善」「設備導入」「プロセス変更」の3つに大別されますが、誰にでも取りかかりやすく、省エネ効果が高いのが「運用改善」になります。例えば空調設備の場合、温度設定やタイマー設定の見直し、省エネモードや人感センサーの活用などが考えられますね。最近の空調はさまざまな機能を有しているので、運用方法を見直すだけでも大きな効果が得られるのです。身近なところでいうと、清掃や点検をこまめに行うだけでも変化がありますので、設備導入の前段階として行っていただくとよいでしょう。

次の段階として行うのが「設備導入」ですが、現状装置では効率が悪い、あるいは電気の使用量が多くなっている場合などに、最新式のものに替えるという改善策です。空調の更新や照明のLED化、あるいは冷凍庫、ボイラー、モーター関係を最新式に更新するなどです。また、空調の高効率化を図るため、建屋の断熱を改善するという方法もありますね。一歩進んだ設備導入としては、太陽光発電や蓄電池を導入して、自社で再エネ発電してエネルギーの一部をまかなうという方法も考えられます。

さらに先を行く大きな改善策としては「プロセス変更」という提案もあります。例えば製造業の場合、現状の生産ラインだと多くの熱量がかかる、あるいは廃棄物の処理で無駄なエネルギーコストがかかるといった場合、製造プロセスそのものを抜本的に見直そうという考えです。このように改善策には3段階ぐらいのステップがありますが、企業様のケースに合わせて行うことになります。なかでも運用改善については、すぐに取り組めて効果も大きいというメリットがありますので、省エネ対策の第一歩としておすすめしています。

Q4. 空調や照明など、設備によってはどのような改善対策があるのでしょうか。


まず空調関係についてですが、オフィスビルや工場などでは、セントラル方式という全体システムが採用されていることが多いかと思います。この場合、空調機の他にも、熱源機、温風や冷風を送るポンプやパイプ、ダクトなどさまざまな機器があり、それぞれにおいて省エネ策があります。ダクトや配管の場合は空気漏れ、あるいは結露などもエネルギーロスに繋がりますので配管の長さや曲がりを少なくしたり、断熱したりすることも省エネ対策に繋がります。また、外気の取入れ量を低減することで空調の負荷を下げる方法なども考えられますね。工場など天井が高い空間の場合は、建屋全体を温めたり冷やしたりすると大きなエネルギーがかかるので、作業している人に直接温冷風があたるようにスポットクーラーを使う方法もあります。

最近の機器は高効率化されているため、更新することで非常に大きな効果を得ることができます。実際、空調を更新して、冷房で約4分の1、暖房で約3分の1まで消費電力が下がった事例もあります。照明についてはLED化がよく知られていますが、白熱電球をLEDに替えることで85%の省エネ効果が得られるケースもあります。LEDの性能が年々向上していることもあり、照明を替えるだけでエネルギー消費量がドラスティックに変わるのです。私が関わった事例ですが、店舗と事務所を含めて照明をLED化したところ、非常に大きな効果が得られました。照明の多い店舗であったことも理由の一つですが、省エネによるコスト削減効果のうち、実に8割近くを照明で得ることができました。このように小売業で店舗を多くもつ企業様の場合は、LED化だけでも大きな効果が得られると思います。

また社会全体で考えた場合では、CO2を多く排出するポンプやモーター、コンプレッサなど、工場における電動力応用設備の対策が喫緊の課題であり、ここに手を入れることで非常に大きな脱炭素、省エネ効果を得ることができます。例えば、高効率のトップランナーモーターを導入した場合、35%程度の高効率化が期待されます。こうした設備導入の前段階としては、適正な負荷率で効率良く運転する、不使用時は運転停止するなどの運用改善を行います。

Q5. 省エネ診断に際して企業側はどのような下調べや準備を行う必要がありますか。また、診断を活かすポイントは?


まずは、どういう目的で省エネ診断を行うのか、改善したい対象は何なのか、事前打合せの際に目的と対象を明確に伝えることが大切です。そうすれば、自社の状況にカスタマイズした省エネ診断を行うことができます。現地調査ではエネルギーの使用状況を検分しますので、事前に電気や燃料の使用量がわかる領収書やデータを用意する必要があります。この時、季節や時間による使用料の変化がわかると詳細な診断ができますので、供給会社から提供される月別使用量の記録などがあれば用意しておくとよいでしょう。

また、診断を受けただけでは何も変わりませんので、改善提案に沿って実行に移すことが何より大切です。そうはいっても、診断結果をフォローできる技術担当者がいない、改善策に沿って設備更新する資金がない、といった事情もあろうかと思います。技術担当者がいない、あるいは資金面で困難がある場合でも、それぞれに対応した公的支援がありますので、ぜひご活用いただきたいです。

例えば、私も関わっている東京都の支援事業の一つである「ゼロエミッション実現に向けた経営推進支援事業」では、脱炭素化の取組から経営戦略の策定まで、中小企業を対象として総合的な支援を行っています。省エネ診断に始まり、改善策の提案、脱炭素化を事業にどう活かしていくか、従業員の意識をどう向上させるかなど、約2年半をかけて伴走支援を行っています。また、東京都環境公社(クールネット東京)では省エネ診断を中心にさまざまな支援を行っています。こうした公的支援を積極的に利用して、省エネを実行に移すことが大切です。

Q6. 東京都が進めるHTTについてのご意見と、取組を始めようとしている中小企業の皆様へのメッセージをお願いいたします。


東京都は脱炭素社会実現に向けて、電力をH「へらす」T「つくる」T「ためる」HTTの取組を進めていますが、その第一歩がH「へらす」にあたる省エネの実行です。そうはいっても、事業活動のどのプロセス、どの装置で、どれくらいエネルギーを消費しCO2を排出しているのか、それを改善するにはどうしたらよいか、自社のみで判断するのは容易なことではないと思います。その場合、まずは「省エネ診断」により第三者である専門家の診断を受けて、自社の改善点の気づきを得ることが活動の出発点になります。

「省エネ診断」は、公的支援の枠組みで行えば無料、ないしは数万円程度の負担で受けることが可能です。先にご紹介した通り、東京都環境公社(クールネット東京)の省エネ支援策や、東京都中小企業振興公社の「ゼロエミッション実現に向けた経営推進支援事業」など、東京都にはさまざまな支援事業があるので、問合せに迷う場合は「HTT実践推進ナビゲータ事業」の窓口へご相談されるのが近道でしょう。目的に合わせた支援事業へと導いてくれるはずです。公的支援を活用してまずは最初の一歩を踏み出してください。