「CO₂排出量を教えて」と言われたら?中小企業が最初に確認すべきことと簡単な算定ステップ

「CO₂排出量を教えて」と言われたら?中小企業が最初に確認すべきことと簡単な算定ステップ

近年、大企業を中心にサプライチェーン(供給網)全体のCO₂排出量を把握し、削減していく動きが急速に進んでいます。その影響は中小企業にも及んでおり、ある日突然、取引先や親会社から「御社のCO₂排出量を教えてください」と調査票が届くケースが増加しています。

環境専任の部署がない中小企業において、総務や経理、営業などの担当者が兼務で対応しようとしたとき、「何をどう計算すればよいか全く分からない」「専門用語が多くて理解に時間がかかる」と頭を抱えてしまう方は少なくありません。

しかし、ご安心ください。CO₂排出量の算定は、最初から高度なシステムを導入しなくても、皆さんの手元にある身近なデータから始めることができます。本記事では、突然の依頼に戸惑っている担当者に向けて、まず確認すべきこと、集めるべきデータ、そして簡易的な考え方を初心者向けに分かりやすく整理します。

【まずは状況整理から】

取引先からCO₂排出量の回答を求められ、何から始めればよいか分からない場合、まず依頼内容と手元データを確認することから始めてみましょう。

取引先から依頼が来たら、まず確認すべきこと

取引先からCO₂排出量の調査依頼が来た際、避けたいのは「よく分からないまま、なんとなく数字を計算し始めること」です。
算定の範囲やルールは依頼元によって異なるため、まずは相手が「何を求めているのか」を正確に把握することが重要です。以下の項目について、依頼文や調査票に指定がないか確認しましょう。

 

確認項目チェックするポイント
対象年度いつからいつまでのデータが必要か(例:2023年度実績、直近1年間など)
対象範囲会社全体か、特定の工場・店舗のみか、あるいは特定の製品・取引分のみか
求められている排出量自社の直接・間接排出(Scope1・2)か、サプライチェーン全体(Scope3)か、製品1個あたりの排出量か
回答期限いつまでに提出する必要があるか
回答フォーマット取引先指定のExcelシートや専用システムへの入力フォームがあるか
算定方法の指定排出係数(計算に使う数値)の指定や、特定のガイドラインに準拠するよう指示があるか
精度のレベルまずは概算でよいのか、請求書などの根拠資料の提出まで求められているのか

 

もし、これらの項目が不明確な場合は、自己判断せず、取引先の担当者に質問して条件をすり合わせることが、確実で効率的です。

【初心者向け】CO₂算定の基本式と「Scope(スコープ)」

条件が確認できたら、次は基本的な計算方法を把握しましょう。CO₂排出量の算定と聞くと難しく感じますが、基本となる計算式は非常にシンプルです。

 

CO₂排出量 = 活動量 × 排出係数

 

  • 活動量:自社が活動した量のことです。「電気を何kWh使ったか」「ガソリンを何L消費したか」「廃棄物を何kg出したか」など、主に事業活動に伴うエネルギーや物質の量などを指します。
  • 排出係数:活動量1単位あたり(1kWh、1Lなど)に、どれくらいのCO₂が排出されるかを示す係数です。国や電力会社が公表している数値を使用するのが一般的です。

 

例えば、「今月の電気使用量が1,000kWh」で、「電力会社の排出係数が0.00045t-CO₂/kWh」だった場合、「1,000 × 0.00045 = 0.45t-CO₂」が排出量となります。

Scope(スコープ)1・2・3とは?

CO₂排出量を報告する際、必ずと言っていいほど登場するのが「Scope(スコープ)」という分類です。これは「誰がどこでCO₂を出したか」を整理するための世界共通の基準です。

 

  • Scope1(直接排出):自社が直接燃やして出したCO₂(例:自社工場のボイラーで使う都市ガス、社用車のガソリンなど)
  • Scope2(間接排出):他社から供給された電気や熱を使ったことに伴うCO₂(例:オフィスの照明や空調で使う電気など)
  • Scope3(その他の間接排出):自社の活動に関連する、他社の排出。(例:購入した原材料の製造過程、商品の配送、出張、廃棄物の処理など)

 

出典:GVCPサプライチェーン排出量_概要資料

 

中小企業が初めて算定を行う場合、まずは自社でコントロールしやすくデータが集めやすい「Scope1」と「Scope2」から始めるのが基本です。Scope3は対象範囲が非常に広いため、取引先からどこまで求められているかを確認しながら、段階的に対応していくと整理しやすくなります。

手元の請求書から始められる!中小企業が集めやすいデータ一覧

「活動量」を把握するためには、社内に散らばるデータを集める必要があります。実は、特別な測定器がなくても、皆さんの手元にある「請求書」や「明細書」が有効データ源になります。

まずは以下の表を参考に、社内のどの部署にどんな資料があるかを探してみましょう。

 

Scope1:赤、Scope2:黄、Scope3:青

 

データ項目確認する資料
(活動量の根拠)
社内で確認する部署注意点・コツ
電気使用量電気料金の請求書、検針票、電力会社のWeb明細総務、経理、工場管理金額ではなく「使用量(kWh)」を見ます。
都市ガス / LPGガス料金の請求書、検針票総務、経理、工場管理プロパンガス(LPG)と都市ガスで係数が異なります。
燃料(ガソリン・軽油など)燃料の購入明細、給油カードの明細、請求書総務、車両管理、工場管理A重油や灯油など、種類ごとに「リットル(L)」を合算します。
社用車の移動走行距離記録、車両管理台帳、燃料使用量営業、総務燃料使用量が不明な場合は、燃費と走行距離から推計することも可能です。
廃棄物マニフェスト(産業廃棄物)、処理委託契約書、請求書総務、工場管理種類(廃プラスチック、紙くず等)と重量(kg、t)を把握します。
物流・輸送配送費の請求明細、運送会社からの輸送データ営業、物流管理トンキロ(重量×距離)で計算するか、運送費から推計する場合があります。
原材料の購入購買データ、仕入明細、発注書購買、製造購入した重量や金額を把握します。Scope3の対象となります。

【HTT実践推進ナビゲーターへの相談も一つの手】

対象範囲の決定や、どの排出係数を使えばよいかなどの判断に迷う場合は、自社だけで抱え込まず、ナビゲーターや公的支援を活用しながら整理する方法もあります。

 

▼参考(Scope3 15個のカテゴリーについて)

出典:環境省_サプライチェーン排出量の考え方

担当者が悩みやすい「よくあるつまずき」と解決のヒント

データを集め始めると、実務担当者ならではの壁にぶつかります。よくあるお悩みとその対処法をご紹介します。

 

  • 「電気の使用量(kWh)が分からず、電気代(円)しか分からない」
    テナントビルに入居しており、共益費として電気代を払っている場合によく起こります。まずはビル管理会社に使用量(kWh)を問い合わせてみましょう。どうしても不明な場合は、面積按分(オフィスの広さで割る)や、金額から推計する代替手法が使えるか、取引先に相談してみましょう。

  • 「複数拠点の請求書がバラバラで集めるのが大変」
    本社、支店、工場で契約している電力会社やガス会社が違うと、集計作業に手間がかかります。初年度は少し大変ですが、これを機に「エネルギー管理の台帳」をExcel等で1つ作っておくと、次年度以降の集計作業を効率化できます。

  • 「取引先からScope3と言われたが、範囲が広すぎて意味が分からない」
    Scope3には15のカテゴリーが存在します。すべてを完璧に計算するのは大企業でも至難の業です。「どのカテゴリーの提出が必須か(例:カテゴリー1の購入した製品・サービスのみでよいか)」を取引先に確認しましょう。

  • 「排出係数をどこから取ってくればよいか分からない」
    環境省が公表している「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン」などに、標準的な排出係数一覧が掲載されています。電気については、契約している電力会社が毎年公表している「基礎排出係数」または「調整後排出係数」を使用することが一般的です。

  • 「社内の経理、総務、工場、営業のどこに聞けばよいか分からない」
    CO₂算定は部署を横断するプロジェクトになります。担当者一人で走り回るのではなく、まずは経営層から各部署へ「取引先からの要請でデータ提出が必要になった」という協力を仰いでもらうと、スムーズに進みます。

初年度は「完璧」を目指しすぎなくてよい

初めてCO₂排出量を算定する際、多くの担当者が「1kgの誤差も許されないのではないか」「データが欠けているから提出できない」と完璧主義に陥りがちです。

 

しかし、初年度において最も重要なのは「算定の範囲を決め、データがどこにあるかを整理すること」です。どうしてもデータが集まらない項目があったり、推計に頼らざるを得ない部分があったりしても、まずは算定できた範囲で全体像を把握することが第一歩となります。

 

不明点や推計した部分はしっかりと記録に残し、「今回はこの前提条件で計算しました。ここは次年度以降の改善課題です」と取引先に説明できる算定根拠を持っておくことの方が重要です。算定結果そのものよりも、「自社の状況を把握し、今後改善していく姿勢」を見せることが、取引先との信頼関係構築につながります。

(※ただし、取引先から特定の算定方法や係数の厳密な指定がある場合は、当然その条件を優先してください。)

算定の第一歩はコスト削減への第一歩。東京都の支援策を活用しましょう

CO₂排出量の算定のために、電気使用量や燃料の消費量をかき集める作業。実はこれ、単なる「取引先への報告業務」で終わらせてはもったいない取組です。

 

自社のエネルギー使用状況を正確に把握することは、「どこに無駄があるのか」を可視化することであり、そのまま「省エネ」や「コスト削減(光熱費・燃料費の削減)」に直結します。

東京都では、企業の脱炭素化と経営力強化を後押しする「HTT(電力をH:へらす、T:つくる、T:ためる)」の取組を推進しており、中小企業向けの様々な支援策をご用意しています。

 

「手元データは集めたけれど、算定結果が合っているか不安」「自社のビルや工場のどこに無駄があるのか、専門家に見てほしい」「設備更新に使える補助金を知りたい」といった場合は、東京都の「HTT実践推進ナビゲーター」の活用がおすすめです。

 

HTT実践推進ナビゲーターは、中立的な立場から現場を訪問し、無料で企業の現状に合わせた省エネ診断や、各種支援策・補助金の案内など、次の一歩を踏み出すための伴走支援を行います。自社だけで判断が難しい場合は、ぜひこうした公的支援を有効活用してみてください。

【次の一歩をご検討の方へ】

自社に合う省エネ・脱炭素の進め方や、活用できる支援策を知りたい方は、ナビゲーターが無料で現状整理をサポートする「HTT実践推進ナビゲーター」のお申し込みもこちらから可能です。

よくあるご質問(FAQ)

Q1. 取引先から急にCO₂排出量を聞かれました。法律で回答義務があるのですか?
A. 中小企業に対して直接的にCO₂排出量の報告を義務付ける法律は現在ありません。しかし、大企業が自社のサプライチェーン全体の排出量を削減する方針を掲げているため、取引条件の一環として情報の開示を求められるケースが急増しています。

 

Q2. 環境に関する知識が全くない総務担当ですが、自社だけで計算できますか?
A. Scope1(直接排出)とScope2(間接排出)の範囲であれば、電気料金やガス・ガソリン代の請求書など、手元にあるデータを使って基本的な計算(活動量×排出係数)を行うことが可能です。本記事で紹介した確認事項から始めてみてください。

 

Q3. 電気代の「金額」しか分かりません。「使用量(kWh)」はどうやって調べればよいですか?
A. 電力会社から届く「電気ご使用量のお知らせ(検針票)」や、Web上のマイページ明細に「ご使用量(kWh)」が記載されています。テナントビルで共益費に含まれている場合は、ビル管理会社に問い合わせてみてください。

 

Q4. 提出期限が迫っており、すべてのデータが揃いません。どうすればよいですか?
A. 初年度から完璧なデータを揃えるのは困難な場合があります。まずは取引先に状況を説明し、「現在集計可能な範囲(例:主要拠点のみ、Scope1・2のみ)」で仮提出が可能か、推計値での算出が認められるかを相談することが大切です。

 

Q5. 東京都の「HTT実践推進ナビゲーター」とは何ですか?相談すると費用はかかりますか?
A. 東京都の支援事業の一つで、ナビゲーターが無料で企業を訪問(またはオンライン相談)し、省エネや脱炭素化に向けた現状把握、コスト削減のアドバイス、活用できる補助金の案内などを行うサービスです。費用は無料ですので、お気軽にご活用ください。
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