企業インタビューInterview

全日空モーターサービス株式会社様

脱炭素は避けられない課題。
全社一丸となって取り組んでいます。

全日空モーターサービス株式会社
企画総務部 マネージャー 竹中啓光様

POINT
  • 東日本大震災をきっかけに照明のLED化や空調設備の更新を実行し、電力削減目標を達成
  • 日本の航空業界初、廃棄対象地上支援器材のEV車両へのアップサイクルを実現
  • 再エネ導入やリニューアブルディーゼルの販売など、目標達成へ向けてあらゆる施策を実行

今回ご紹介するのは、地上支援器材を通じて航空機の運航を支えるANAグループのエンジニアリング・カンパニー、全日空モーターサービス株式会社様。ANAグループが掲げる2030年、2050年の目標達成に向けて、あらゆる手段を模索する脱炭素の取組をご紹介します。

ANAグループの一員として、
2030年、2050年の目標実現をめざす

全日空モーターサービス株式会社は、ANAホールディングス株式会社の子会社として1969年に創立。羽田空港の敷地内に社屋と整備場を構え、各種地上支援器材や空港設備のメンテナンスを行っています。地上支援器材とはGSE(Ground Support Equipment)と呼ばれる機器で、空港で見かける航空機の牽引車やタラップ車、貨物や手荷物を積み降ろすベルトローダー車などもそのひとつ。全日空モーターサービスは、主に羽田空港内にあるANA保有のGSEをメンテナンスしていて、その数は約40種、2,800台にも上ります。これらGSEの車両整備事業のほか、ボーディングブリッジ(PBB)の製造、販売、メンテナンスを行う空港機事業、GSEなど空港内で稼働する車に燃料を供給する油脂事業を含め、3つの事業を柱として展開しています。

航空業界の脱炭素といえば、CO2を大幅に削減できるSAF(Sustainable Aviation Fuel:廃油やエタノール、バイオマス燃料などから製造)への切り替えが期待されるところですが、供給量の低さと高価格から普及率は非常に低いのが現状です。空における排出量削減の困難を補う意味でも、地上における脱炭素の意義は大きいといえるでしょう。企画総務部マネージャーの竹中啓光さんは、航空業界における脱炭素の背景とグループ全体の目標について、次のように語ります。

竹中さん「航空機はC02を大量に排出しますので、温暖化問題ではいろいろな意味で注目されています。ヨーロッパなどでは一部の利用者が鉄道にシフトする流れも出てきていますし、事業を継続していくうえで、脱炭素は避けては通れない課題なのだと思っています。ANAグループでは2050年のカーボンニュートラルに向け『2030年中期環境目標』を設定していて、航空機事業については2019年度比10%以上の削減、弊社のような航空機以外の事業については33%以上の削減と、脱炭素に向けた高い目標が掲げられています。それぞれ取組内容についても細かく定められていて、我々もそれを目標として取組に力を入れているところです」

全日空モーターサービスでは、照明のLED化や空調設備の更新など、HTTに繋がるような取組は早い段階から行われていて、そのきっかけとなったのが東日本大震災でした。2011年3月11日に発災した東日本大震災では、地震と津波により東北地方に未曾有の被害がもたらされ、福島第一原子力発電所では史上最悪レベルの事故が発生。東日本地域全体で計画停電が行われ、災害時におけるエネルギー供給の脆弱性が露呈したことは記憶に新しいことと思います。

竹中さん「羽田空港において計画停電はなかったのですが、東日本大震災を機にエネルギー供給に対する危機感が一気に高まったと感じています。古くなった空調を更新したり、照明の一部についてLED化を行ったり、いまで言うHTTに繋がるような省エネの取組を進めました。グループ全体で電力削減の目標が定められたのですが、空調更新による効果が思いのほか大きくて、当社の目標はそれだけで達成することができました

技術者たちの挑戦として始まった
廃棄対象の地上支援器材をEV車両へ

今年の5月、全日空モーターサービスは、飛行機への手荷物搭載時に使用するベルトローダーをEV車両へアップサイクルしたことを発表。9月には羽田空港における運用開始を予定しています。日本のエアライングループにおいては初の試みで、地上における脱炭素の取組として、航空業界をはじめ各界で注目を集めています。

竹中さん「このアップサイクルは技術者たちの脱炭素化に寄与する挑戦としてスタートした取組でした。EV化したのは成田空港で使用され、2022年に廃棄対象となっていたベルトローダーです。エンジンをおろして、EV専用のモーターとバッテリーを積むわけですが、設計から電気配線まですべて自前で行ったため難儀もしましたが、電気自動車協会等のご支援もいただいて実現することができました。車両走行はもちろん、荷役部分の稼働を含めてすべての動力が電力となっていて、60分程度の充電で羽田空港における1日の運航便に使用することを想定しています。ベルトローダーはだいたい20〜25年使用して廃棄されますが、修復してEV化することにより、さらに15年ほど寿命が延びると想定していて、アップサイクルによる廃棄物の削減にも貢献できると考えています」

アップサイクルしたベルトローダー
ベルトローダーとANA Future Promise Jet

同社では2台目以降のアップサイクルも考えていて、ビジネスに繋げることを視野に入れ、修復・EV化の費用と時間を効率化して、脱炭素に向けたソリューションの一つとして育てることを目指しています。このように既存GSEのEV化を進める背景には、2030年の目標に向けて取組を急ぐ必要に迫られている実情もあります。

竹中さん「国内ではGSEをつくるメーカーがほとんどないため、いまは多くが海外製です。ヨーロッパで行われるGSEの展示会を視察した社員からの報告では、世界的にGSEのEV化が流れになっていて、国内におけるEV化も急がれているところです。ANAでも2030年の中期目標への取組として空港車両のEV化促進を目指していますが、円安で海外製は割高なうえ、調達にも時間がかかることもあり、買い替えだけでは間に合わないのが現状です。そうした背景もあり、既存GSEのEV化については今後も進めていきたいという考えがあります」

ならば、羽田空港におけるGSE車両2,800台すべてをEV化できるかというと、そこには別の課題があるといいます。

竹中さん「車だけEV化しても、電力のインフラが進まないとどうしようもありません。関係各所も、羽田空港内の各所に充電器の設置を進めていますが、すべてのGSEをEV化すると電力量が追いつかなくなる恐れがあり、現状のEVでは充電時間が長いという問題もあります。羽田空港の臨海エリアでは水素供給のネットワーク構築も進められていますので、将来的には水素も含めて考えることになると思います」

太陽光パネルの設置、リニューアブルディーゼルの活用、
目標達成に向けあらゆる方策を試みる

一方、空港内の車に燃料を給油する油脂事業においては、空港内の給油所に太陽光パネルの設置を進めるなど、グループ目標達成に向けてあらゆる方策を試みています。

竹中さん「太陽光パネルについては、建物の屋根に乗せられるか構造計算をしているところです。空港内の施設なのでさまざまな制限があり、航空機の運航に支障がないよう、パネルの反射率を調整する必要も。同時に風力発電機器も設置できないかを考えていて、可能か否か多方面に確認中です。給油所の再エネ導入に関しては、脱炭素の意味もありますが、災害時に給油ポンプを稼働するためのBCP対策としての必要性も感じています。そのほか、油脂事業としては東京都の『バイオ燃料活用における事業化促進支援事業』を活用したANAの取組として、環境負荷の少ないリニューアブルディーゼルの販売も行っています。価格や供給量を考えると、実際に普及するのはまだ先の話かもしれませんが、目標達成に向けてはあらゆる方策が必要ということでしょう。当社でいえば、EV車への買い替えが必要ですし、既存GSEのEV化も必要。間に合わなければリニューアブルディーゼルも入れる、ということなのだと思います」

EV車
GSE用充電器

やれることはなんでもやる。そうした思いは会社全体に浸透していて、社員たちが知恵を出し合って生まれたアイデアが、ANA主催のアワードにおいて企業理念を体現した取組として最優秀賞に選ばれました。

竹中さん「整備に使うオイルの空き缶が多量に出るのですが、かさばるので空き缶置き場がすぐに一杯になってしまい、週に1度は回収業者さんに来ていただいていました。そこで、缶を潰せば一度に回収できる量を増やせると考えて、社員たちが仕事の合間に一斗缶を7分の1程度に潰す道具『ぺっちゃん缶』を作ったのです」

竹中さん「これは回収作業の負担軽減になると同時に回収車が排出するCO2を削減することもできるため、協力企業さんのメリットに繋がる取組でもあります。当社はANAの子会社でみなし大企業ではありますが、人員数を考えると悩みどころは中小企業の皆さんと一緒です。こうした事例のように、互いにウィンウィンの関係が築ける会社でありたいと思っています」

最後に、中小企業が脱炭素に取り組むうえで大切なことについて尋ねると「なによりも経営トップの強い意志。トップの強いメッセージがあればこそ自信を持って進められる」と、竹中さんは答えます。排出量削減に向けた技術的課題も多く、脱炭素が難しいとされる航空業界ですが、同社においてはグループトップのANA本社が掲げる明確な目標とメッセージに向けて、より強い使命感をもって取組を進めている様子が印象的でした。

企業プロフィール

  • 全日空モーターサービス株式会社
  • 東京都大田区羽田空港3-5-6
  • 航空機地上支援器材の保守管理、メンテナンス、開発、設計、製作、販売、および石油製品の販売
  • 116名(2023年4月1日時点)
  • https://www.anams.co.jp/
  • 2024年9月

コーデンシTK株式会社様

手掛かりを指し示し、解決への道を明るく照らす。
ナビゲーターの存在が私たちを導いてくれました。

コーデンシTK株式会社 業務部 ご担当者様

POINT
  • 省エネやSDGsに関心を持ちながらも対策に踏み出せずにいた中、HTTナビゲーターとの出会いをきっかけに具体的な行動を開始
  • 省エネ診断を通じて自社の現状を可視化し、省電力機器の導入可能性や課題を明確化
  • 太陽光発電にも積極的に取り組み、設置困難な状況でも諦めず前進を続ける姿勢が脱炭素化の実現を後押し
コーデンシTK株式会社様
今回ご紹介するのは、光技術を応用した光学機器やセンサー製品を販売するコーデンシTK株式会社様。HTTを知ったきっかけや、その後の課題解決までの道のりを伺いました。

スタート地点は「何から始めていいのかわからない」
対策を加速させたHTTナビゲーターとの出会い

渋谷区南平台に本社を構えるコーデンシTK株式会社は、光センサーや光半導体、デジタルサイネージなど、光の先進技術を駆使した各種製品群を扱う企業です。主な業務はグループ本社が開発・製造する電子機器や光学機器をPRし、東日本エリアの販売戦略を担うこと。社員の大部分がセールスを担当されているため、製造業に比べれば電力消費量の影響は穏やかですが、昨今の原油価格高騰や世界情勢の不安定化によるコスト増の風雨に例外なく晒され、省エネ化推進の必要性が高まっていたようです。

業務部ご担当者様(以下略)「もともと私どもは電子部品を商う会社です。ISO14000シリーズの国際規格認証を取得したほか、SDGsを積極的に推し進めるなど、環境マネジメントに対する意識はそれなりに高かったと考えています。その下地もあって、早い段階から社屋の照明器具をLED電灯に換装するなど、省エネに資する工夫や取組を続けてきました。そんな折、HTT実践推進ナビゲーター事業のスタッフさんから一本の電話がありました。HTTについてのご案内だったんです」

組織全体を縁の下で支え、外部からの窓口役をも担う業務部には、日々さまざまな電話がかかってきます。「最初は怪しい営業の電話かと思っていました」と恐縮した表情で仰るように、省エネや環境対策の話題については関心があったものの、少なからず警戒心の方が先立ってしまったといいます。

「でも、会社にとって有益なことには常にアンテナを張っておくのが私たち業務部の仕事です。また、電気料金を抑えるためには、例えば社員の残業をできるだけ減らすなど、企業内活動を抑制するのが近道ではありますが、それはあくまでも働き方改革の一環として考えるべきものですよね。社員に何事かを強いることもなく、オフィスの快適性を損なうことなく、できるだけみんなが働きやすい環境を維持しながら、人知れず省エネにつながる施策を行っていくことが好ましいと考えていました。抜本的に解決できる手段を探していたので、まずはお電話でご説明を伺ったのち、HTT実践推進ナビゲーター事業のホームページを拝見し、問い合わせフォームからいくつかの質問を投げかけてみました。さっそくHTTナビゲーターの齊藤さんからご連絡があり、弊社を訪問したいとの申し出が。実際に対面で具体的な情報提供やご提案をいただき、そこからは一気にお話が進んでいきました」

診断士のレポートとアドバイスで
迷いが払拭された省エネ対策

当初からコーデンシTK社が注目していたのが、太陽光発電でした。自社ビルの屋上に太陽光発電モジュールを設置すれば、それまで取り組んできた「へらす」に加え、電力を「つくる」ことも可能です。そこでナビゲーターの齊藤氏は、太陽光発電に関連する東京都の助成金制度をご案内。併せて蓄電池設置による「ためる」プランについてもご提案を行い、まずは現在の電力使用状況の見える化を進言したのだとか。省エネ対策立案のベースとなりうる「省エネルギー診断(東京都環境公社)」を通じて、モヤモヤとしていたものが少しずつ形を成していく感覚を得られたのだそうです。

「プロの診断士の目に私たちの会社がどのように映るのか。果たしてどのようなアドバイスがいただけるのか。何よりも今、私たちの現在地がどの辺りにあるのかが知りたくて、診断には全面的に協力させていただきました。現況を把握してもらうために揃えるべき資料は多岐にわたり、相応の時間と労力を要しましたが、そこを超えてしまうと進むべき道がとたんに拓けていくものなんですね。例えば、なんとなくエアコンと併用していたサーキュレーターの運用方法や、社員に向けて省エネ意識や節電を啓蒙するために掲げていた社内表示にもお墨付きをいただくことができました。また、当社は社屋内に福利厚生としてドリンクの自動販売機を設置しているのですが、ベンダーに要望を出せば、省エネタイプの機材に置き換えてもらえることもわかりました。今まで行ってきたことに自信が持て、これから改善してゆくべき点に向き合える豊富な知識が養えました」

太陽光発電についても同様です。実現可能な具体案が見つかれば、すぐにでも検討に入る準備は整っていました。しかし、本社社屋ビルのカマボコ型にデザインされた屋上には、建築上、従来型の太陽光パネルの設置が困難であるということが判明します。

「自社ビルの形状についてはどうしようもありません。ただ、私たちには太陽光発電を『諦める』という選択肢もあったのです。これは決してネガティブな話ではなく、ダメなら別の方策を考えるための『前進』に繋がることです。その後、少々の時間経過があって、再び齊藤さんからご連絡がありました」

ナビゲーターの齊藤氏があらためて最新情報としてご案内したのは、フィルム式の太陽光発電モジュールの存在でした。奇しくもコーデンシTK社の取り扱い製品には、軽量かつ薄型で曲がる「Magic Flex」というLEDディスプレイがラインナップされているのですが、まさにそれと似た特性を持つ太陽光パネルが販売されていました。これなら曲線を描くカマボコ型の屋根にもフィットします。

前を向く気持ちがあれば、きっと背中を押してくれる
ナビゲーターへのご相談をおすすめします

さっそくコーデンシTK社は、太陽光発電モジュールおよび蓄電池の設置費用や、具体的な設置プランの策定を専門業者に依頼しました。調査の結果、社屋上層階部分の陽当たりが極めて良好なことがわかり、屋上だけでなく壁面部分にもパネルを延長設置するプランも浮上したといいます。

「実はその後、太陽光パネルの設置業者さんから、当社の屋上には充分な枚数のパネルを設置することができず十分な発電量を得られないという理由から、残念ながら費用対効果は薄いとの回答をいただきました。助成金を活用しても、設置には相応のコストがかかります。コストを回収できなければ、当然ながら設置は断念せざるを得ません。ただ、私たちにとってはこれも『前進した結果』であり、ポジティブに捉えています。中小企業経営者の皆さんになら共感いただけると思うのですが、小さな会社は本来業務に加えて、細かい経理業務や求人、社内環境の整備など、目の前に山積みされる諸問題に忙殺されがちです。環境負荷低減や脱炭素化に向けた取組は大切であると思いながらも、どうしても二の次になってしまうんですよね。でも、今、私たちに何ができて、何ができないのかを見極めることは、エネルギー使用の合理化・最適化はもとより、企業の成長を促す付加価値の創造にも役立つはずです

フィルム式太陽光モジュールは業者の診断の結果設置には至りませんでしたが、ビルの日当たりが非常に良いことから、ナビゲーターの齊藤氏より次なる一手として「ガラス一体型太陽光モジュール」をご案内しており、これから再度の実地調査に入る予定とのことです。

振り返ればいくつかのハードルがあったなか、着実に一歩ずつ進んでこられているのが、何よりの収穫とのこと。迷った時に「きっとできますよ!」と背中を押してくれたHTTナビゲーターの齊藤氏や、省エネルギー診断によってレポートをまとめた診断士さんの存在が、プラスに働いたことは紛れもない事実でした。この大きな一歩は、今後の脱炭素経営を見据えていく上で、一つの成功事例といえるのではないでしょうか。

「準備は大変でしたが、想像以上に詳細かつ的確なレポートにまとめていただくことができました。また、その前後で齊藤さんにお力添えをいただいたことにも大変感謝しています。こうしたHTTの取組が、当社の省エネのみならず、未来の東京を守ることにも繋がっていけばうれしいですね。ぜひ、躊躇されている他の企業の皆さんにも、HTT実践推進ナビゲーターへのご相談を強くおすすめしたいと思います」

企業プロフィール

  • コーデンシTK株式会社
  • 東京都渋谷区南平台町3-1 コーデンシTK渋谷ビル
  • 電子部品、光学部品、電子機器および光学機器の販売
  • 32名
  • https://kodenshi-tk.co.jp/
  • 2023年8月