有限会社鈴木建材店
代表取締役 鈴木徳光様
ダンプ一台でスタートし、地域の住宅や店舗の解体・建築から、街づくり、緑道やスーパー堤防の整備、公園の造成といった大規模な土木案件まで、いつしか幅広い分野の社会インフラを支える存在となったのが鈴木建材店様です。その取組は環境に配慮した省資源、省エネルギーに資するものばかり。東京都が推進するHTTを高いレベルで実践されています。
鈴木社長「もともと当社は、父がダンプ一台で始めました。都心部は良質な関東ローム層の赤土が出てきます。かつて建設現場から発生した残土は自由処分が許されていたので、父は捨て場に持っていってしまう良質土を目利きし、畑の土や植樹帯の土として再利用していました」
土は地元の農家や植木屋さんへ。こうした活動がご縁となって、後年、公園や緑道整備などのお仕事に広がっていったと鈴木社長は語ります
鈴木社長「父から私に代替わりする以前、私は別の企業に勤めていました。一級建築士の資格を取得していたため、入社とともに〝家を建てる〟という事業も加わりました。解体の現場からは柱や梁といった廃材が出てきます。それらは新たに建てる家やお店で、装飾や家具の一部としてリユースしています。古材とはいえ、しっかりした強度を持つものは建築資材としても十分に使えます。古い建具や門扉、ガラス窓なども、当社の資材置き場で大切に保管しているんですよ」
絶えず続けてきたこれらの取組は、いつしか従業員の皆さんにも環境意識を芽生えさせるきっかけとなっていったようです。使えるものは再資源として残す。そのためには丁寧に取り壊す。資源の再利用は自然な形で行われてきました。
同社が本格的な脱炭素経営へと舵を切る決定的な出来事が訪れたのは15年ほど前。地元周辺エリアの再開発が進み、エネルギーインフラがプロパンガスから都市ガスへと変わっていく中で、ご自宅や顧客先にエネファームの導入を推進してきました。
鈴木社長「事務所や資材置き場では、屋根に太陽光パネルを設置し、日中はその再生エネルギーで電力を賄っています。また、蓄電池を設けて夜間に使用する分の電力も蓄えておく。これによって現在は購入電気量の約8割が削減できています。
しかも、都や区の補助金が活用できたため、導入に関わる初期費用を低く抑えることができました。事務所では7年前に耐震補強や高気密・高断熱化工事など、昨年の改修工事では4.4kWの太陽光パネルと9.7kWの蓄電池を設置し、必要な改修工事を行っています。また、新築住宅では低酸素住宅やZEH住宅、ゼロエミ住宅の助成金制度を活用させてもらっています。」
また、会社所有の営業車両をEV車に切り替えたのも施策の一つ。今後は、EVワゴン車をもう一台増やすことが決まり、現在はその申請作業が着々と進められています。
鈴木社長「贅沢なことかもしれませんが、これで働きやすさが改善され、さらに環境にもいいとなれば、やらない理由はないですよね。もちろん導入時のコストは補助金だけではカバーしきれません。ある程度の自社負担を要します。しかし月々の電気代が数千円程度に収まり、3〜8年でほとんど償却できています。そして、そこで得たノウハウを、今度はお客様から寄せられる改修工事などのご依頼に生かすことができるんです」
界隈の住宅建築において、太陽光パネルの設置実績は既に数軒にのぼります。しかし、企業の脱炭素化において補助金申請はとかく煩わしいもの。鈴木社長は「それもまた学び」だと教えてくれました。
鈴木社長「当社では、東京都中小企業振興公社の助成金事業を活用させていただきました。専門のコンサルタントさんにお越しいただき、さまざまなアドバイスをしてもらいました。HTTもまた実践推進ナビゲーターさんが個別の事情を汲んで伴走してくださるとお聞きしています。
太陽光パネルを導入したいと思うと、どうしても20〜30年後の製品寿命を考えてしまいがちです。しかし、例えばテレビや冷蔵庫といった電化製品にも寿命があります。壊れてしまうことを心配しながらも購入するでしょう。悩んでいないで、まずは始めてみるのがいいと私は思っています」
同社は、2019年にISO14001(環境マネジメントシステムに関する国際規格)を取得しています。これは同業種同規模の会社では極めて珍しいといえるケースです
鈴木社長「以前の会社でISO9000シリーズを取得したことがありました。申請から認証に至るまで、かなり苦労していたのを間近に見てきました。ところが当社の場合は驚くほどスムーズにことが運びました。これまでの取組に少し手を加えればよかったからです」
認証取得の意義の一つに会社のイメージ向上が挙げられますが、「従業員の誇りになればそれがいい」と鈴木社長。誰もがここで働きたいと思える会社を目指すための取組だと力強く語ってくださいました。
同社はリモート勤務やワークシェアリングにも積極的です。4年前に事務職員を募集した際、4名の女性スタッフを採用したといいます。
鈴木社長「テレワークはコストが抑えられます。まず移動時間のムダや交通費が省けます。仮に通勤時間が往復で2時間かかるとしたら、その分を労働に充ててもらえますよね。うちもありがたいし、働く側にとっても大きなメリットになります」
社長は一級建築士。30年以上前からデジタルソフトを駆使して図面を引き、オンライン上のツールを介してデータの受授を行ってきたため、抵抗感はほとんどなかったとか。この導入によって、子育てや介護に携わる人材やダブルワーク希望者が活躍できる環境が一気に構築されていきました。
鈴木社長「冒頭でもお話したように、当社では古材の再利用に力を入れています。古木が持つ趣や味わい深さを多くの人に知ってもらい、何らかの事業に繋げたいと前々から考えていたんです。
そこで、テレワークスタッフに古材に関する資料づくりや企画の立案を任せました。いいアイデアがたくさん出てきて、私の発想にはなかった多様なプロジェクトが動き出しています。倉庫を使ってワークショップを開こうという計画もその一つです。廃材レンガでピザ窯をつくり、ピザを焼くというプランもあるんですよ」
本社から少し離れた鹿骨地区にある資材置き場。その一画に立つ倉庫は、近くの畑で採れた野菜でバーベキューを行うなど、レクリエーションの場としても活用されているそうです。さらには今後、その倉庫を災害時の緊急対策業務が必要な時の拠点として活用できるよう、前述した太陽光パネルの設置も検討中とのことです。
鈴木社長「〝edogawa_kozai_lab〟という名でInstagramのアカウントを設けて、コンテンツを制作したこともテレワークがきっかけとなって始まった試みです。生成AIを使って文章や構成を考えたり、現場で撮り収めた写真や動画を用いてリールを投稿したり。こういった取組も、DXに目を向けてきたからこそできた新しい道でした」
また、鈴木社長の先見性や、新しいテクノロジーへの関心と興味、深い理解は、江戸川区が掲げる多文化共生にも寄与しています。
鈴木社長「現在、当社で働く外国人は7名。それぞれ個性豊かな面々ですから、役割をあえて固定せず、現場ごとに多様な働き方を学んでもらっています」
技能実習生の受け入れは、彼らやその家族の暮らしを支え、中長期的には日本の技術を途上国に伝播させるSDGs的な役割も担います。
鈴木社長「何より伝えたいのは、この仕事が子どもたちに誇れるものであるということです。この業界には相変わらず3K(きつい・汚い・危険)のようなネガティブなイメージがつきまといます。私はそこを変えていきたいのです。なぜなら、私たちのような企業がいなければ、公園や道路などのインフラのメンテナンスができなくなってしまうからです。家の修理もおざなりになる。国籍を問わず、若い人たちがこの仕事に興味を持ってくれないと、ノウハウの継承が途絶え、やがては衰退してしまいます。今は外国人技能実習生のおかげでなんとかなっていますが将来が心配です」
近年は自然災害が増え、復興作業の現場においても土木建設業の存在は不可欠となっています。その役割を今後も果たしていくためには、子どもに勧めたくなる仕事にしていきたい。そして、地球の気候変動に対応するため、少しでも脱炭素化を進めたい。そう語る鈴木社長の横顔には、社会インフラを陰で支える職人の矜持が窺えました。
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