ナビゲーターインタビュー
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ナビゲーターインタビュー
vol.2 齊藤潤さん



東京都は2030年にカーボンハーフを実現するため、気候変動への対応はもとより、中長期的なエネルギーの安定確保につなげるための取組を加速。そのキーワードであるHTT(電力をへらす・つくる・ためる)と東京都の取組について、中小企業の皆様へ伝え広めるのがHTT実践推進ナビゲーターの役割です。今回で2回目となるインタビューでご紹介するのは、ナビゲーターリーダーを務める齊藤潤さん。ご自身のキャリアを活かしつつ取り組んでいる、ナビゲーター活動について伺いました。

法人営業30年のキャリアを活かして、環境問題解決に向けた
最適なソリューションを提案

HTT実践推進ナビゲーター事業のスタートにあたり、中小企業の皆様と東京都の取組を橋渡しするナビゲーターとして、さまざまな経歴を持つエキスパートが集められました。旅行業界で30年を超えるキャリアを持つ齊藤さんもその一人。大手旅行会社の法人営業担当として、一般企業はもちろん、官公庁や自治体などあらゆる顧客のニーズを引き出しながら旅行企画を提案してきました。また、本社勤務になった後には、販売データの分析や営業戦略の策定、全国の法人営業支店の販売支援や人材育成にも携わってきたといいます。これまで培ってきたキャリアは、ナビゲーターの仕事にどのように活かされているのでしょうか。

齊藤「旅行の企画と環境問題への取組。この2つは扱っている内容がまるで違いますが、仕事としてやるべきことの根底は一緒だと考えているんです。私が携わってきたのは法人に対するソリューション営業。企業様から旅行に関わる課題やニーズを引き出して、その時々で最適なプランをご提示することに努めてきました。HTTのナビゲーター事業においては、解決すべき課題が旅行から環境問題に変わりましたが、企業様にとって有効なソリューションをご提案する意味では同じだと考えています」

ソリューション営業とは、顧客が抱える問題を引き出して、その解決策(ソリューション)を提案する営業スタイル。顧客の課題やニーズを聞き出すためのコミュニケーション・スキルはもちろん、事業内容や業界のトレンドなどを事前に知る情報収集力も重要です。

齊藤「企業様を訪問する際には、事業内容や規模はもちろん、どのような企業とお取り引きをされているのか、あるいは業界における環境問題の取組のトレンドなど、できる限り調べてから伺うようにしています。まずは現況についてお話を伺いながら、事業内容にリンクした環境問題のお話をさせていただき、どのような施策が有効なのか、企業価値を高めることができるのかをご説明しています。サポートの受け入れ体制によってもご提案の内容は違ってきますし、毎回、試行錯誤の繰り返しですが、喜んでいただけることも多くやり甲斐を感じています」

脱炭素経営の最初の一歩は自社のエネルギー使用量、CO2排出量を
見える化すること

東京都には約44万の中小規模事業所があり、CO2の排出量は業務・産業部門の約6割を占めています。脱炭素社会の実現に中小企業の協力が不可欠である所以はここにあり、実際、中小企業の取組がどの程度進んでいるのか気になるところ。HTT実践推進ナビゲーター事業がスタートして約半年、齊藤さんはナビゲーターとして企業様を訪問するなかで、環境問題への意識について、企業によってかなりの温度差があることを感じています。

齊藤「照明をLEDに変えるとか、空調設備を最新の省エネ型に変えるとか、社用車にEVを導入するとか、積極的に取組を進めていて『とりあえずやれることはやった』と言い切る企業様がある一方で、まったく頓着していない企業様も多くあります。ただ、総じていえることは、自社のCO2排出量を把握してない企業様が大半であって、現状分析ができていないため充分な解決に至っていないと感じることが多々あります。突然CO2の排出量を聞かれてもわからないのは無理からぬことですが、電気やガスなどエネルギー使用量から導き出す算定方法がありますので、まずは自社がどの程度CO2を排出しているのか、現状を知ることが最初のステップだとお伝えしています。電気使用量を可視化することでエネルギー効率の悪い設備を洗い出せば、効率的にCO2を削減することが可能です。設備交換にあたっては、東京都の支援策を利用することで投資費用を抑えることもできます」

企業が省エネ・脱炭素経営に取り組む際には、一般的に次の4つのステップを踏んでいくことを推奨しています。
STEP1:自社のエネルギー使用状況を見える化する
STEP2:電気の契約を再生可能エネルギー由来の電気プランに切り替える等の運用改善
STEP3:LED照明、高効率空調設備等の省エネ設備を導入する
STEP4:太陽光発電システムを導入して自社で創った再エネ電気を自家消費する

それぞれのステップに対応する東京都の支援策が用意されています。脱炭素経営への第一歩である自社のエネルギー使用状況の見える化は、現在何処にどれくらいのエネルギーを使用しているかを具体的に把握することで今後の省エネの具体的な取組がイメージしやすくなり、中小企業の皆様の課題解決に向けた有効なソリューションといえるでしょう。

脱炭素志向が企業価値を高める
大切な情報に気づいていただくことが使命

企業における環境問題の取組は、これまでCSR活動の文脈で語られることが多かったと思いますが、急速に進む温暖化や世界情勢の変化で浮き彫りとなったエネルギー問題を背景に、経営上の重要課題として捉える企業が増えています。大企業には自社が排出する温室効果ガスの量を報告する義務が課せられているため、サプライヤーである中小企業に対しても脱炭素経営を求める動きが見られるようです。

齊藤「訪問先の企業様からは、取引先である大企業に『脱炭素の取組についてアンケートを求められた』という話も何度か耳にしております。大企業にはサプライチェーン全体のCO2排出量を見極める必要があるため、脱炭素の取組に誠意が見られない回答を提出した場合、いつの日か取引先として選ばれなくなってしまう可能性があります。たとえ今は何もできていなくても、現状の把握や将来的に解決しなければならない課題を理解していることが伝われば、それだけでも意味があります。HTTについてお伝えするのが本来の役目ではありますが、企業様のご要望にお応えして、こうしたアンケートの記入について相談にのることもございます」


デジタル化が進む現代においては、インターネットを使えばすぐに情報を引き出すことも可能です。そこで、少し辛口な質問を齊藤さんに投げかけてみました。企業を訪問して情報提供するナビゲーターの活動にどのような存在意義があるのでしょうか?

齊藤「脱炭素をはじめ、環境問題への取組はいまや企業にとって不可欠であることに気づいていただく。それが我々ナビゲーターの第一の使命だと考えています。気候変動、パンデミック、世界情勢など、さまざまな物事が大きく変化する昨今を称した、VUCA(ブーカ)時代という言葉を耳にするようになりました。VUCAとは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った言葉で、目まぐるしく変化して先が見通せない状況を意味しています。そうした状況下で膨大な量のさまざまな情報が飛び交う「超情報化社会」の現代においては、企業は自社が関心のある情報は使い慣れたソースから定期的に収集できても、それ以外の価値ある情報を見過ごしてしまうリスクが高まっていると言われています。東京都がさまざまな支援策を用意して打ち出したHTTについても然り。脱炭素社会の実現に貢献することは、中小企業様にも多くのメリットがあり、企業価値の向上につながることをお伝えすることが私たちの使命。アナログな手法であればこそ、価値ある情報をお伝えできると信じています」

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