ナビゲーターインタビュー
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ナビゲーターインタビュー
vol.4 河田力さん



東京が世界の大都市として機能し続けるには、世界情勢に左右されることなくエネルギーを安定確保することが喫緊の課題といえるでしょう。このエネルギー問題を解決するため、東京都が推進するHTT(電力をへらす・つくる・ためる)の取組を伝え広めるのがHTT実践推進ナビゲーターの役割です。今回で4回目となるナビゲーターインタビューでご紹介するのは河田力さん。企業様との対話で得た学びや、HTTの活動に込める想いについて伺いました。

第一次オイルショック以来の国策、
エネルギー安定供給のために再エネの推進を

30年以上に亘り、IT業界のトップランナー企業に勤務していた河田さん。営業職やITインフラソリューションの提案活動など、IT業界で幅広いキャリアを積んできました。その後は心機一転、環境分野の世界へ。太陽光や風力発電の設計から工事までを一括して請け負うEPC(Engineering, Procurement and Construction)の会社で、再生可能エネルギーの普及に努めてきました。まずはHTT実践推進ナビゲーターになった経緯について伺います。

河田「EPCの会社では、企業に脱炭素のご説明をしながら、主にFIT制度(固定価格買取制度)※1を利用した小型風力発電の提案をしてまいりました。日々環境問題について学ぶ過程で、この国にとってエネルギーの安定確保が重要であるということにあらためて気づかされました。ちょうどその頃、HTT実践推進ナビゲーター事業が始まったことを知り、エネルギー問題をはじめ、これまで学んだ環境問題の知識がお役に立つのではと考えたのです」
EPCの会社では、再生可能エネルギーの分野に深く関わってきた河田さん。太陽光や風力など、自然環境を活用した再生可能エネルギーは、カーボンニュートラルの実現とともに、日本のエネルギー自給率を上げるうえで欠かせないエネルギーであることに気づきます。

河田「一口に環境問題といいますが、フォーカスされているのは気候変動対策であり、CO2をいかに減らすかということ。これは裏を返すとエネルギー問題の話でもあるのです。50年前の第一次オイルショック以来、日本は国際情勢に左右されずエネルギーを調達する道を探ってきたわけですが、近年では戦争や災害、パンデミックなど予測不能な事態が立て続けに起こり、たちまちエネルギー危機に直面することが明らかになりました。これに対処するにはエネルギー自給率を上げるしかありませんが、日本には資源がありません。つまり、エネルギー自給率を上げるには再生可能エネルギーの普及を急がねばならない、そういう状況が差し迫っているのだと感じました」

電力をH(へらす)、T(つくる)、T(ためる)のスローガンの通り、HTTの取組がフォーカスしているのもエネルギー問題。中長期的なエネルギーの安定確保は、多くの企業が集中する東京都にとって最優先事項。気候危機への対応とともに大きな課題の一つに掲げられています。ナビゲーターとして多くの企業様と対話を重ねる河田さんですが、都内中小企業の間でエネルギー問題における危機感はどの程度共有されているのでしょうか。

河田「猛暑で電力ひっ迫が起こりやすくなったとはいえ、実際に停電が起きたわけではないので、一般的に中小企業の危機感は薄いというのが正直な印象です。ただし、海外に事業展開している企業の場合は事情が違います。たとえば、ベトナムに工場がある企業様の話では、熱波の影響でたびたび停電が起こり、その都度設備を止めざるを得ない状況が続いているそうです。いずれ日本でもそういう時がくるのではないかと危機感をお持ちでした。また、あるIT企業の役員の方とお話をした時には『日本の再エネは太陽光と風力に偏りすぎている』とお叱りの声をいただいたことも。環境問題の取組にとても熱心な方で、ご自宅では太陽光発電と蓄電システム、EV車用のポートも設置されていました。エネルギーコストがかかる製造業と違って、IT企業の場合は会社でできる省エネに限りがありますが、サーバーを更新することで消費電力を下げられるのではと検討されていたので、対応できそうな助成金についてご紹介させていただきました」

※1 再生可能エネルギーの買取価格を法律で定める方式の助成制度。世界50ヵ国以上で用いられ、日本では2012年に施行された再生可能エネルギー特別措置法によって開始されました。太陽光発電、風力発電、水力発電など、再生可能エネルギーから作られた電気を、電力会社が「一定価格」で「一定期間」買い取ることを国が保証しています。

脱炭素社会の実現に向けて
より一層高まる省エネの役割と必要性

HTTの中で最も身近といえるH(へらす)の取組は「省エネ」を指しますが、第一次オイルショックの教訓から省エネ法が設けられたのは1979年のこと。以来、日本は長らくエネルギー効率の向上を追求し続け、世界でもトップクラスの省エネ率を達成してきました。この上さらにHTT(電力をへらす・つくる・ためる)に取り組むには、どのような方法が考えられるでしょうか。

河田「第一次オイルショック以来、日本は省エネとともに歩みながら経済成長を遂げてきました。そうした背景もあり、日本企業はエネルギーコストに対する意識が高く、大企業であっても雑巾を絞るようにして節電を心がけていますし、ほとんどの企業様は何らかの形で省エネに取り組んでいます。ただし、脱炭素という観点で取り組む企業様はまだ少ないように感じます。HTTに繋がる取組としては、まずは自社がどれだけCO2を排出しているかを把握することから始めるようお勧めしています。CO2排出量は東京都が提供する地球温暖化対策報告書というExcelシートに記入することで計算でき、この報告書の作成を通して現状を認識すれば、削減すべき箇所や取組の方向性を見つけることが可能になります」

しかし、報告書の作成でCO2排出量を可視化できたとしても、設備更新や再エネ・蓄エネの導入にはそれなりの資金を要します。二の足を踏む企業様が多いのではないでしょうか。

河田「省エネ目的で設備投資をしたいけど資金がない、再エネ導入による費用対効果の判断ができない、脱炭素の取組を仕切れる人がいないなどの声が聞かれますが、そうした課題解決のため、東京都はさまざまな支援策をご用意しています。特に製造業などエネルギーコストが利益を左右する企業様は設備更新のチャンスでもあるので、ぜひご活用いただきたいと思います」

東京都の支援策は多岐にわたり、その補助内容や条件もそれぞれ異なるため、課題の解決策として繋げられずにいるケースも多い中、ナビゲーターである河田さんの訪問により思わぬ支援策を見つけた企業様もあるようです。

河田「製造業ではあるのですが、企画と設計だけをしていて工場を持たないため、効果的な省エネの取組はできないとお考えの企業様がいらっしゃいました。何か省エネ対策としてアプローチできそうなポイントはないかとお話を伺うと、埼玉県に研究所があり、試作品を作るのに多くの電力を消費していることがわかりました。その施設の所在が東京都ではないので対象外と思われていたようですが、太陽光発電や蓄電池の設置については、都内に本社を置かれる企業様であれば助成事業の適用が可能です。埼玉、神奈川、千葉など、東京電力管内の工場や事業所への設置にも使うことができるのです」

HTTの取組によって
東京の産業競争力を強化する

2050年のカーボンニュートラル実現のため、グローバルに展開する大企業を中心に脱炭素経営の機運が高まっています。今後はその動きが中小企業の間で広まることが望まれますが、中小企業が脱炭素経営に取り組むメリットはどこにあるのでしょうか。

河田「大企業には自らの事業活動だけではなく、サプライチェーン全体の排出量を削減することが求められています。将来的には環境負荷の少ない製品やサービスを優先するグリーン調達が進むことも考えられ、サプライヤーである中小企業が脱炭素化を無視した経営を続けた場合は、サプライチェーンから排除される可能性もあります。金融機関もまた、そうしたリスクを先読みしています。脱炭素経営に消極的だと、資金調達に差し障ることも考えられます。脱炭素経営というのは環境問題に対する企業の責任である以前に、中小企業が経営を安定化させるための必須条件となりつつあるのです。環境問題に対する意識変化の高まりは、政治や経済のうえだけではなく、社会全体に見られる傾向です。脱炭素経営で環境に配慮した事業活動をアピールできれば、企業としてのブランド価値も高まりますし、優秀な人材の確保にも繋がるなど多くのメリットが考えられます」

裏を返せば、脱炭素経営はグリーン調達で有利に働く、競合優位性を獲得するビジネスチャンスでもあります。また、東京都には脱炭素経営を後押しする支援策も数多くあります。

河田「これはナビゲーターの仕事をして気づいたことですが、東京都の支援策というのは戦略的にもよく考えられ、設計されています。支援策にはWebサイトやPR広告の制作費、DX推進、BCP対策(事業継続計画)など一見すると無関係に思える物がありながら、全ては中小企業の競合優位性に繋がるような内容になっています。脱炭素の取組を推進することで東京の中長期的なエネルギーの安定供給を目指しつつ、産業競争力強化にも寄与するように組み立てられているのです。企業様が助成事業を利用して脱炭素経営に取り組み、その結果企業価値を高めるということは、東京都の発展に貢献するということなのです」

脱炭素経営の取組を検討されるのであれば、まずはHTT実践推進ナビゲーターにご相談を。企業様それぞれに適した支援策へとナビゲートいたします。

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