株式会社ハバリーズ 代表取締役社長
矢野 玲美(やの れみ)氏
事業継承をきっかけに、徹底した環境ブランディングによって新たな付加価値の創出を実現された、株式会社ハバリーズ代表取締役・矢野玲美さん。紙パック包装のナチュラルウォーター「ハバリーズ」で一躍時の人となった矢野さんが、4月20日のHTTセミナーで語られたお話には、今、私たちが取り組むべき脱炭素化経営と、事業効率化やコスト削減を越えた業績拡大の大いなるヒントが散りばめられていました。
京都で生まれた私は、幼い頃から母の仕事を間近に見ていました。母は大分県出身、宇佐市の羽馬礼(はばれい)という地域を中心に複数の水源を所有し、ミネラルウォーターの製造・販売を手掛けてきました。事業の内容は、ホテルやドラッグストアなどが主なクライアントとなり、その相手先のブランド名でペットボトルの水を製造するOEMがメイン。営業は代理店、販売は取引先に委ねるという完全な製造業が主体で、常に1円以下の価格競争が付いてまわり、お客様からお値引きのご相談があると応じるほかなく、あまり公平性があるとはいえない事業スタイルではと感じていました。
水は人にとってなくてはならないものですが、その価値はとても曖昧です。
羽馬礼の湧水がどんなに優れた天然水であっても、おいしい水は他の地域でも産出されています。あとは価格勝負。しかも日本は欧米とは異なり「水はタダ」という感覚がいまだに根強い。おぼろげながら、やがては私がこの家業を受け継ぐんだろうなと考えてはいましたが、正直、水ビジネスにはネガティブなイメージしか持っていなかったんです。
大学卒業後、私は技術系商社に入社しました。海外を飛びまわる中で、ある日「紙パックで包装された水」を見つけたんです。その当時、紙パックは日本では見かけないマテリアルでした。社会全体が脱プラスティック、カーボンニュートラルを叫んでいる今、環境問題を語り合う国際会議の場で、なぜかテーブルの上にペットボトルの水が並んでいることに違和感を覚えてもいました。
時代が変わり、省エネ、再エネ、脱炭素化に取り組んでいることが企業活動の評価につながり、今やそれが株価にも結びついています。この状況を逆手に取って水ビジネスを始めようと宣言したら、周囲の方々からは「この業界は厳しい」「事業継承の魅力に乏しい」「せっかく商社に勤めているのにもったいない」など、反対意見が多々寄せられました。でも、大分県が誇る大切な水源を守り、それを未来へ残してゆくために、業界を変え、健全な事業化を進めていく。この信念を強みにして、第二創業を推し進めようと決意したのです。
2020年6月、コロナ禍の真っ只中にハバリーズを立ち上げました。平時でさえ難しいのに「よりによって、なんでこの時期に?」という声があったのも事実です。しかし、私の中には、東京オリンピック・パラリンピックの開催に向けて「サステイナブルな紙パックのナチュラルウォーターを世に出したい」という強い思いがありました。
商品開発にあたってはいくつかのポイントがあります。まず、経済合理性に適うかどうか。少々高くても手の出せる価格帯でないとその商品は売れません。また、商品に込めた理念やストーリーも重要です。水源が羽馬礼地区にあることからパッケージには羽の生えた馬、つまりペガサスをデザインしました。これはペガサスのように優雅でありながら、社会に輝きをもたらす存在でありたいという願いが込められています。ちなみにセミナーでもご質問を受けましたが、デザインや制作物に関する世界観については当事者である私たち自身が中心となって、細部に至るまで考えています。
サイクル循環が100%可能であることにもこだわりました。包装本体がFSC認証(※1)取得済の紙であるだけでなく、キャップもBONSUCRO認証(※2)を取得したサトウキビ由来の植物性ポリエチレンを使用しています。ただただ「自然に優しい」を謳っても独りよがりなメッセージにしかなりませんから、国際機関が定める認証を取得しています。
世界が取り組むべきSDGs(持続可能な開発目標)にフィットした認証取得は、例えば融資をお願いする金融機関から求められることも多いんです。
同時に紙のパッケージは、ペットボトルやアルミ缶に比べて気候変動への負荷が最も低いとされていて、ゴミの減資率が78%以上に。廃棄面でもコスト削減が期待できます。さらに、法人向けに開発したリサイクル回収ボックスのスキームも、有名ホテルグループをはじめ多くの企業様から支持をいただいています。まず、ハバリーズの水とともに再生紙で作られたトイレットペーパーを購入していただき、その梱包用のダンボールに飲み終えた水の紙パックをまとめ、指定の工場に送料無料で送り返していただくというしくみです。これによって、紙から紙へのリサイクルが見える化できるようになりました。
こうした一つ一つの付加価値が積み重なり、メディア戦略が功を奏したことも大きいですね。多くの雑誌やTVなどのメディアがハバリーズの水に注目してくださり、環境問題に敏感な世界のハイブランド各社からお問い合わせをいただくことにつながりました。経済性、デザイン性、環境性、これにメッセージ性をプラスした商品開発が多くの取引先企業様を巻き込んで、社会へインパクトを与える大きな渦になっていったんだと思います。
※1 「FSC認証」…持続可能な森林活用・保全を目的として誕生した、「適切な森林管理」を認証する国際的な制度です。認証を受けた森林からの生産品による製品にはFSCロゴマークがつけられます。
※2 「BONSUCRO認証」…持続可能なサトウキビを促進するために2008年に設立された組織が定める認証制度。温室効果ガスを定量的に測る数少ない認証の一つです。
国内の事業継承問題に目を向けると、後継者不在企業は実に61.5%以上にのぼり、社長の平均年齢は60.3歳(2021年 帝国データバンク調べ)というデータが発表されています。祖母から母に受け継がれた水の製造事業は、現在も大分を拠点に継続していますが、ハバリーズの本社は京都に置いています。私は既存の家業をそのままの形で引き継ぐよりも、新たなブランドを構築して新会社を設立するゼロスタートの道を選びました。新規起業の方が行政や銀行のサポートを期待でき、アドバンテージがあると考えたからです。
京都市では、スタートアップ企業を奨励するコンテストが行われていたり、他の企業とのマッチングを促す催しが開かれていたりします。私たちもチャンスがあれば積極的に参加し、メディア関係者をご紹介してもらうなど、さまざまな分野の方々とのパイプづくりに努めてきました。もともと私たちは、少数精鋭の経営で意思決定もスピーディです。水の製造に関する知見やノウハウがありましたし、今の時代にあったスリムでファブレスな企業経営に努めました。今ある経営資源を最大限に活用し、足りないところは外部の方々と協働して目の前の課題に取り組む。そういった面で行政の皆さんの助言やサポートを生かすことができたと思います。
また、東京都が推進されている「HTT」も素晴らしい試みだと思います。エネルギーコストを削減し、脱炭素経営を目指すことで行政の手厚い支援が受けられるのですから、これを活用しない手はありません。それが、私たちも直面した事業継承の問題をクリアするきっかけになったり、皆さんの企業価値、製品価値を高めるブランディングにもつながっていけばなおいいですね。
最初の一歩は「補助金や助成金がもらえるから」「コストを減らし利益を追求したい」というモチベーションでも、私はいいと思います。HTTに参画することで、あらためて環境問題に関心を持ち、設備投資や助成を受ける過程で、さまざまなナレッジや情報を吸収することができます。その蓄積がやがて自社の企業価値を高める武器になるでしょう。「地球環境の保全に資する企業となる」といった大きな目標を掲げることも大切ですが、自分たちの事業活動を維持し、成長してゆくことが肝要です。それそのものがサステナビリティといえます。
私にとっての「水」は、たまたまそこにあったもの。水源を持ち、水の製造事業を行っていたというファミリールーツがあっただけで、皆さんにとっても、それぞれに「何か」があるはず。事業継承や環境ブランディングをきっかけにして、一社でも多くの企業様がSDGsに取り組んでいただけるような世の中になることを願っています。
何からはじめて良いのか、導入するにはどうしたらいいのか、不明な点等がございましたら、まずはHTTのスペシャリストであるナビゲーターにご相談ください。ご相談は無料で、貴社にとっての最適な方法をご提案させていただきます。詳しくはお電話または下記フォームよりお問い合わせください。
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