サプライチェーンの削減努力を繋ぎ、
社会全体の脱炭素化を目指す

サプライチェーンの削減努力を繋ぎ、社会全体の脱炭素化を目指す

株式会社NTTデータ
コンサルティング事業本部 サステナビリティサービス&ストラテジー推進室 統括室長
南田 晋作(みなみだ しんさく)氏

脱炭素化の努力を社会全体で共有するために〜今から取り組める脱炭素アクション解説〜

2025/5/21

株式会社NTTデータにグリーンコンサルティングを確立、日本企業のサプライチェーン排出量可視化を推進するため、さまざまな業界にソリューションを提供している南田晋作さん。インタビューでは・・・

株式会社NTTデータにグリーンコンサルティングを確立、日本企業のサプライチェーン排出量可視化を推進するため、さまざまな業界にソリューションを提供している南田晋作さん。インタビューでは「脱炭素化の努力を社会全体で共有するために」と題したセミナーを振り返りながら、中小企業に求められる役割や、削減努力を反映した排出量算定の方法など、排出量可視化のノウハウにフォーカスしてお話を伺います。

Q1. NTTデータではGHG排出量を可視化するツールを開発、多くの企業にソリューションとして提供していると伺っておりますが、開発の背景についてお話いただけますか。

弊社が提供するGHG排出量可視化プラットフォームというのは、CDP※1が保持する一次データを活用して排出量算定を行うシステムで、企業の削減努力を反映できるのが特徴です。また、クラウドサービスにより自動的に排出原単位が最新化されるので、面倒な排出原単位の転記も必要ありません。コンサルティングに頼らずとも、簡単に排出量を算定することができます。

このシステムを開発した背景にあるのが、セミナーでもお話したGHGプロトコルのScope3です。ご存じのようにScope1、2は自社の排出量を算定すればよいのですが、Scope3は関係他社の排出量を対象としていて、サプライチェーン全体で取組を促進するための仕組みといえます。東証プライム上場企業は気候変動関連の情報開示が義務化されている背景もあり、事業規模が大きくサプライチェーンの企業数も多いことから、関係他社に取組を促進する役割を担ってもらおうという狙いですね。中小企業には排出量を可視化する動機が少ないですから、取引先である大企業や融資をしている金融機関から働きかけてもらおう、ということです。我々の活動はそれを後押しするもので、中小企業の皆様に排出量の可視化を進めていただくため、インフラ企業の役割としてGHG排出量可視化プラットフォームを開発した経緯があります。

※1 CDP カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト(Carbon Disclosure Project)https://www.httnavi.metro.tokyo.lg.jp/column3/

Q2. 実際、Scope3の取組として大企業がサプライヤーである中小企業に対応を求める動きがあるようです。中小企業にはどのような役割が求められているでしょうか。

まずは日本全体の排出量と中小企業の関係から考えてみましょう。2023年の日本全体の排出量は10億7100万トンでした。このうち中堅・中小企業の排出量はどれくらいかというと、全体の約3割を占めるといわれます。ここで20%でも30%でも排出量を減らしていかないと、ネットゼロを実現できないという実情があり、削減努力を促すための仕組みがGHGプロトコルのScope3なのです。大企業が削減努力をするのは当然であり、実際に行われているわけですが、中堅・中小企業においては取組が手付かずの企業が少なくありません。これを何とかしなければいけない、そのためにまず求められるのが排出量の算定です。取引先企業や金融機関から「排出量を提出して欲しい」と要請されるケースも出始めているのではないでしょうか。

Q3. 取引先から排出量算定を求められた時は、何をどのように計算すればよいのでしょうか。

Scope3には15のカテゴリーがありますが、まずはどの業界にも関係があるカテゴリー1「購入した製品・サービス」を例にお話します。購入した製品、つまりサプライヤーから見れば取引先に納めた製品やサービスが作られるまでにどれだけCO2を排出したかを算定する、ということです。どのように計算するかというと、環境省のHPなどにも掲載されている「産業連関表ベースの排出原単位」を使うのが一般的です。ここにはさまざまな製品・サービスが製造される際のGHG排出量が物量ベース、あるいは金額ベースで掲載されています。これを見ながら該当する物の排出量を足していけばいいということです。ただし、この数字には問題があり、2005年に作られてから一度も更新されていないのです。企業の削減努力が反映されていない古い2次データですから、これを利用して計算した排出量を提出すると、製品購入数を減らさない限り排出量を削減できないことになります。

Q4. 削減努力を反映するにはどのように算定すべきでしょうか。

環境省では一次データによるScope3排出量の算定を推奨しています。一次データ、つまり企業の削減努力が反映された各社固有の値を使って計算しましょう、ということです。各企業が個別に排出量を計算したデータであり、削減努力を反映してScope3排出量を算定するには、一次データを利用することが必須となってきています。
一次データによる排出原単位の考え方には、大きく分けると「製品レベル算定」と「組織レベル算定」の2つがあります。製品レベル算定とは、製品やサービスごとに主要なプロセスを洗い出し、各プロセスの排出量を合計して導き出す計算方法です。いわゆるCFP(カーボン・フット・プリント)※2といわれる値で、データの固有性は高いのですが、算定のハードルが高く、取引先から求められても応じられないケースが多いようです。

※2 CFP Carbon Footprint of Productの略語。製品やサービスの原材料調達から廃棄、リサイクルに至るまでのライフサイクル全体を通して排出されるGHGの排出量を製品に表示する仕組み。

Q5. 製品個別の排出量となると難易度が高そうです。もう一方の「組織レベル算定」とはどのような計算方法でしょうか。

これは総排出量配分方式という算定方法で、何を買ったかではなく、誰から買ったかで評価する方式です。企業が自社全体の総排出量を公表したうえで、総排出量と売上金額から導き出される排出原単位を用いて、納品先別に排出量を配分するというものです。つまり、総排出量が100万トンで売上金額が100億円の企業であれば、100万トンを100億円で割ると売上1億円あたり1万トンの排出量になる、という計算です。取引先への納品額が10億円であれば、一次データとして提出する排出量は10万トンになるということです。

組織レベル算定の場合、サプライヤーである企業が削減努力をして排出量を半減すれば、取引先企業は自社の削減効果として取り込めるということです。取引と紐づけて排出量をやり取りするため、削減努力が取引額を通じて下流企業へも取り込まれ、サプライチェーン全体の削減効果に繋がります。

Q6.  金融機関から要請されるケースもあるようですが、なぜでしょうか。

中小企業の場合は要請されるケースも多いと思います。これはファイナンスド・エミッションというもので、Scope3のカテゴリー15にあたります。金融機関が投融資先に排出量の算定と削減を促す仕組みです。最初はお付き合いで始める中小企業も多いと思いますが、うまく活用すれば経営に反映するチャンスにもなります。脱炭素の取組を進めるうえでは設備投資が重要になりますので、金融機関との関わりは重要です。

日本では建物の省エネ化が遅れていて、LED化、外壁の断熱、空調など、設備更新が進んでいないのが現状。建物の省エネ化は排出量削減の効果が高いのですが、設備投資には資金が必要ですので、金融機関の協力が不可欠です。金融機関に提出する排出量に削減努力を反映できれば、融資の際に金利優遇を受けられる可能性もあるでしょう。今後は金利が上昇する傾向にあるのでメリットは大きいと思います。また、設備投資の工事を地域の施工会社が請け負えば地域活性にも繋がりますので、脱炭素を巡る経済の流れも期待されます。そのスタートにあるのが排出量の可視化というわけです。我々も金融機関を通じてほぼ無償でソリューションを提供していますが、弊社グループ全体としても設備の提供を行っているので、どこかでビジネスに繋がればいいと思っています。このように、脱炭素をビジネスチャンスとして捉えることも大切です。

Q7. 脱炭素経営をめざす東京都の中小企業の皆さんへのメッセージをお願いします。

いろいろな企業がScope3の算定を行い、HPなどで報告書やサステナビリティレポートを公開しています。しかし、ただ排出量を調べて公開しただけでは意味がありません。削減努力にこそ意味があるのです。Scope3というのは、企業が互いに算定・削減要請をしあって、その成果を褒め合う環境を生み出すためのツールともいえます。各社の削減努力をつなげた相乗効果によって、社会全体でネットゼロの達成を目指すというのが今後の流れになるでしょう。

東京都は助成金や支援制度も多く、脱炭素を進めるには恵まれた環境といえますが、制度を活用するうえでも排出量の算定は必須です。難しく考えずにまずは可視化によって第一歩を踏み出していただきたいと思います。

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