排出権取引が本格稼働
中小企業の脱炭素経営は新たなフェーズに

排出権取引が本格稼働 中小企業の脱炭素経営は新たなフェーズに

株式会社山本技術経営研究所
代表取締役 山本 肇(やまもと はじめ)氏

2026年、迫られる中小企業の脱炭素経営

2026/2/24

世界情勢がめまぐるしく変化するなか、日本ではGX推進を掲げて政府が再始動。この4月からは排出権取引制度が本格稼働し・・・

世界情勢がめまぐるしく変化するなか、日本ではGX推進を掲げて政府が再始動。この4月からは排出権取引制度が本格稼働し、日本企業の脱炭素経営は新たなフェーズに入ります。「2026年、迫られる中小企業の脱炭素経営」と題したセミナーを振り返りながら、今、中小企業が取組を加速すべき背景と脱炭素経営の新たなフェーズについて、講師の山本肇さんに伺います。

Q1. 世界情勢がめまぐるしく変化するなか、脱炭素化の流れが変わるのではと危惧する声も聞かれます。

トランプ政権のパリ協定離脱や長引くウクライナ侵攻など、世界情勢の影響で欧州などは少しトーンダウンしているとは思います。とはいえ、気候変動対策なしに社会の持続はあり得ないわけですから、一時的に多少の温度差が出たとしても、向かう方向は同じです。特に日本では経済成長をセットに進めているので、世界情勢がどう変わろうと、脱炭素への動きは変わらないと考えています。

現在の政府は高い経済成長を目指し、力強く成長戦略を進めると明言しています。その成長戦略の核となるのが、エネルギー問題や脱炭素、環境課題の解決につながるGX戦略です。エネルギー問題は脱炭素化と表裏一体ですから、単に使用量を減らすだけではなく、安定供給を目指すことも重要視されています。ペロブスカイトの実装化、脱炭素電源など、さまざまな技術開発の推進が期待され、そうした動きのなかに、新たなビジネスの芽も育まれています。気候変動対策であると同時に、自社の事業を伸ばすチャンスとして脱炭素経営に取り組むべきではないでしょうか。

Q2. GX戦略の動向についてご教授ください。脱炭素化をどのように推進するのでしょうか。

GX(グリーントランスフォーメーション)の流れを振り返りますと、まず2023年にはGX実現に向けた基本方針ができ、それを受けた法律やGX推進戦略などが閣議決定されました。2025年にはGX推進戦略を改訂したGX2040ビジョンが発表され、取組が加速しています。

どういうことかと申しますと、徹底した省エネを推進しつつも、エネルギーの安定供給と経済成長を求めて、脱炭素電源への転換を図ろうということです。単にエネルギー消費を減らすだけではなく、エネルギーを確保しつつ、経済成長を目的として脱炭素を進めましょうということです。特徴的なのは、10年間で官民合わせて150兆円超の大規模な投資を行うということ。その呼び水として、政府はGX経済移行債によって20兆円規模の先行投資を行うことを戦略の骨子としていて、民間の積極的な投資を促す仕組みが、成長志向型カーボンプライシング構想です。

Q3. 4月から排出権取引制度が始まりますが、これも成長志向型カーボンプライシング構想の一環でしょうか。

成長志向型カーボンプライシングとは、CO2など温暖化ガスの排出に価格をつける仕組みのことで、将来的にはGX経済移行債の償還財源にもあてられます。カーボンプライシングには炭素税という課税方式のものと、排出権取引という排出量に値付けをして売買する2つの方法があります。このうち炭素税については、2028年度から化石燃料賦課金というかたちで始まることになっていますが、排出権取引については、2026年4月から本格稼働します。

これは、企業に排出上限枠を割り当て、実際の排出実績との過不足分を市場で取引してもらう仕組みです。つまり、CO2削減が進み排出量が上限枠より下回れば余剰分を販売できるし、排出量が上回った場合は超過分の排出枠を市場で購入することが求められるのです。

義務化されたのはCO2排出が一定量を超える大企業ですが、すでに温室効果ガスの削減量を取引するJクレジット※1の仕組みもあり、中小企業も多く参加しています。排出権取引は排出量が多い大企業には負担になるかもしれませんが、脱炭素化の成果をあげた中小企業には排出枠を販売できるメリットになる、ということです。

※1 参照「GXへの取組を加速!カーボン・クレジット市場が取引を開始。そもそもカーボン・クレジットとはなに?」https://www.httnavi.metro.tokyo.lg.jp/column4/

Q4. 山本様は日頃から企業の経営支援をされていますが、脱炭素の取組に変化は見られますか。大企業、中小企業それぞれについて教えてください。

大企業は、脱炭素の取組みが義務化されている背景もあり、専門部署を立ち上げて取組を推進しています。経営のパラメーターから排出量を算定する、あるいは排出量の実績データを解読して方向性を考えるなど、着実に成果をあげるためにシステムを活用する動きが広がっています。かつては環境対応を表明するイメージだったのが、削減の実績をデータで出さねばならない状況になったということです。

中小企業の場合は、削減目標に向けて行動を落とし込みつつ、社内で一体感をもって進めている段階だと思います。単なる省エネのQCサークル活動ではなく、ビジネス戦略として進めることを目指す企業が増えてきたと感じています。以前は「何をすればいいのか」といった問い合わせが多かったのですが、いまは「取組を進めて得た成果をどう活かしたらいいのか」といった踏み込んだ内容に変わってきました。

本日のセミナーでも参加者からCFP※2の算定方法や、IDEA※3についてなど、具体的なご質問もありましたね。すでに中小企業の多くが脱炭素経営の一歩を踏み出していて、次のフェーズに移っていることの表れだと思います。

※2  CFP(カーボンフットプリント):製品・サービスの原材料調達から廃棄、リサイクルに至るまでのライフサイクル全体を通した温室効果ガス排出量を換算した値
※3 IDEA:日本の全ての製品・サービスを対象とした環境負荷物質(CO2をはじめ、NOx、PM2.5、ヒ素、カドミウム、クロム、鉛などの科学物資の排出、鉄や銅などの資源消費)を定量可能な網羅性のあるデータベース

Q5. 次のフェーズという意味では、中小企業もScope3を算定する必要が出てくるのでしょうか。

これまでは、中小企業のScope3とは、自社製品の脱炭素性をアピールするため、下流にあたる使用時や廃棄時にどれだけ脱炭素に貢献しているか、それを数値で出すために算定する、という考えだったと思います。今は大企業側にScope3を出す必要が出てきており、取引先の中小企業にも目標設定や排出量算定が要請されるケースが増えてきました。そうした流れのなか、Scope3に対する中小企業の考えも変わってきているようです。

取引先の要請が厳しくなり、自社製品がないからScope3は関係ない、という考えが通用しなくなっている。取引先の求めに応じるため、いずれはどの中小企業でもScope3の算定が必要になってくるでしょう。また、中小企業版のSBTが改定されて、Scope3も任意で測定可能という言葉が追加され、算定の義務はなくとも、測定・削減の意思表明は必要という一文も加えられました。中小企業に対しても徐々に要望が高められる傾向にあるのです。

Q6. 脱炭素経営の一歩を踏み出すためには、どのような支援がありますか。

セミナーでもご紹介した省エネ診断は、専門家の現地診断を通してCO2排出量を見える化し、改善のためのポイントを探るというものです。現状と改善点をレポートにして出してくれますので、脱炭素経営の最初のポイントを知ることができるでしょう。

ただし、そこで終わるのではなくて、その結果を踏まえて総合的な支援につなげることが大切です。東京都が行っているゼロエミッション実現に向けた経営推進支援事業は、まさにそのための支援です。排出量の見える化に始まり、施策の検討も行って、2年半にわたって専門家が伴走支援を行います。通常、脱炭素経営の方針を決めるだけでも半年程度はかかりますので、その期間も含め、専門家からアドバイスをもらえるのは大きなメリットだと思います。

製造、飲食、建設、印刷など、さまざまな業種の専門家が対応して、企業ごとの課題にフォーカスしてくれるのも良いところですね。そもそも経営推進支援事業ですから、東京都の支援によって経営戦略を立てるつもりでご利用いただくのが良いでしょう。リスクヘッジだけではなく、チャンスを活かす機会と考えてご利用いただきたいのです。

Q7. 脱炭素経営をめざす東京都の中小企業の皆さんへメッセージをお願いします。

東京都には、助成金など手厚い支援がありますから使わない手はないと思います。日本の脱炭素はCO2削減の活動であるとともに、企業の経済活動を促進して経済全体の成長を目指すことが最終目的でもあるのです。

東京都には支援事業が数多くありますから、どのような支援策があるのか、何を選べば良いのか、わかりにくいと思います。そんな時、自社にはどの支援事業が適しているのか、導いてくれるのがHTT実践推進ナビゲーター事業ですので、まずはご相談されるのがよいと思います。自社に適した支援策を見逃さず、脱炭素経営をチャンスに変えて、事業を大きく成長させてください。

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