株式会社エニマス様

まずは「へらす」が先決。
そのためには「見える化」が必須なのです。

株式会社エニマス
代表取締役 小林昌純様

POINT
  • 自社の照明の消費電力把握のため「電力の見える化装置」を開発し、新たなビジネスを開拓
  • 見える化により、工作機械の待機電力削減や工場内の温度調整など様々な運用改善を実現
  • 脱炭素化を目指す企業へのソリューション提供

脱炭素化への取組には「まとまった先行投資が不可欠」と思われている方々も多いのではないでしょうか。しかし、「電力の見える化」が「エネルギーコスト削減の道筋を照らすことに繋がる」と語ってくださったのは、株式会社エニマスの小林昌純さんです。今回は、自社の脱炭素経営を進めていく過程で電力の測定装置を開発し、新たなビジネスチャンスを開拓するまでに至ったかつてない成功事例を紐解きます。

補助金活用の失敗から学び、生まれた、
「電力の見える化」を叶える〝ENIMAS(エニマス)〟

部品加工業の分野で40年以上にわたってものづくりを続けてきた、株式会社エニマスの親会社であるコバヤシ精密工業株式会社。その2代目代表として経営改革を進めていた小林さんは、自治体の「省エネ補助金制度」を活用し、自社工場の照明設備刷新に踏み切りました。

小林代表「補助金の申請書には〝この取組によって電気代が下がる〟といった誓約事項があるわけです。ところが翌年、仕事が忙しくなって新型の工作機械を3台導入したところ、思いがけず消費電力が跳ね上がってしまったのです」

行政機関からは契約違反と伝えられ、小林さんは悔しさを噛みしめたといいます。

小林代表「照明のLED化によって確実に消費電力は抑えられました。その上で事業が順調に発展したにもかかわらず、補助金の返金を言い渡されたことに大変なショックを受けました。そこでLED化以前と以後を調べあげ、照明の消費電力がどの程度下がったかをお役所に提示したいと考えました。それが、電力測定装置〝エニマス〟を開発する原動力になり、今となっては感謝の念しかありません」

相模原市商工会議所の下部組織である相模原市青年工業経営研究会に所属していた小林さんは、当時、同じ若手経営者の仲間たちに「電力を測る装置を作れないだろうか?」と相談を持ちかけました。もともと相模原市はものづくりの街であり、多士済々のメンバーがそれぞれの知見と技術を持ち寄り、部品加工、基盤製作、プログラム、アプリ開発などを経て、エニマスの初号機が完成しました。

小林代表その装置で工場の消費電力を調べたところ、照明は全体の3%以下。95%以上は工作・加工機械に拠ることがわかりました。ちなみに新しい機械を1台導入すると、それだけで約10%の電力が上積みされます。これでは、前述の結果になるのは当然の成り行きですよね」

時を経て現在、エニマスは相模原市役所に51台が納入され、市庁舎の消費電力をモニタリングしています。2020年に菅義偉元首相が2050年カーボンニュートラル宣言を行ったことを追い風に、経済産業省の「事業再構築補助金」を活用しながらエニマスの製品化と事業化を推し進めた結果でした。

小林代表「興味深いことに市庁舎では、水曜日だけ消費電力が15%ほど下がるんです。なぜだと思いますか?それは〝ノー残業デー〟だから。つまり、仕事の生産性を上げて毎日の業務を定時で終えることができれば、それだけで15%の省エネが叶い、結果、CO2の削減に繋がるということになります」

脱炭素化への資金を捻出するためにできること
それが何かは「見える化」で見極める

コバヤシ精密工業では〝消費電力の見える化〟によって、さまざまな対策を講じてきました。エニマスは各機器の配線ごとに設置することで、電流値をリアルタイムで検出できる機能を持っています。前述の通り、測定したデータでは全体の95%以上を工作・加工機械が消費していました。中には、使用頻度が極めて低いのに待機電力消費が高い機械も見つかりました。

小林代表「例えばドイツ製の5軸工作機は、電圧が三相交流で400V。トランス(変圧器)を介して日本の200Vに対応させます。調べたところ、機械本体の電源をオフにしていても、このトランスが電力を消費していました。そこで、私たちはトランス側にもブレーカーを設け、機械を使わない時は一切の電力供給が遮断されるようにしたのです。」

小林代表「また、コンプレッサーを1台から2台に増やすことでも電力消費を抑えています。通常は機械の台数を増やせば電力消費は〝上がってしまう〟と考えるでしょう。しかし電気使用量というものは電流値の2乗に比例して上がっていくもの。仮に70Aの機械1台と、26Aの機械2台を比較すると、前者が後者の4倍以上の電力を消費するのです。当社の場合は1台で14kWhだったところを、2台に分けて負荷を和らげたことで1台あたり5kWhとなり、結果4kWhの節電が可能になりました」

他にも、エニマスの活用によって見えてきた運用改善策は多岐にわたります。

・コンプレッサー室の温度調整(季節や外気温に連動した換気扇の稼働調整)
・工場全体の空気の流れ(バランス)を調整することで換気効率アップ
・空調室外機の定期的清掃
・断熱窓の設置による空調効率の向上


また、夏場のエアコン温度を29℃に設定し、その代わりに工場内にサーキュレーターを設置。とある経営塾にともに参加したアパレル企業の代表者さんに相談し、ミストによって脇の下や首筋を冷やすポロシャツを開発したり、従業員に保冷ベストを提供。工場内を循環した空気が流れてこれらの冷感ポロシャツや保冷ベストを着用した従業員の体感温度を下げ、作業効率が格段にアップしたのはいうまでもありません。設備の運用改善にとどまらず、従業員が働きやすい環境づくりにも取り組むなど、細やかな工夫や試行が重ねられていきました。

保冷ベスト着用により体感温度を下げる
見える化画面のイメージ図

小林代表現状を把握するだけではなく、なぜ、これほど電力を浪費しているのかという因果関係を見つけることが重要です。当社の場合、一昨年と昨年の比較データを見ると、使用電力の削減量は11.6万kWにのぼりました。電気料金に換算して480万円ほどの節約になったでしょうか。私たちのような製造業は、500万円の利益を生み出すために数千万円から1億円の売上をあげなきゃいけない。つまり、こうした取組は1億円分の仕事をしたのと同じことになるんです

電気代が下がるということは「利益」を生むのと同意。その利益を、次の一手を打つための「原資」にするという考え方です。

小林代表「脱炭素化というと、それなりに設備投資が必要だとお考えになる方も多いでしょう。省エネタイプの機械に買い替えたり、クリーンエネルギーを導入したり、太陽光パネルや蓄電池の設置をする前にもできることがあります。私は東京都のHTTに深く共感していて、特に『へらす』が最も優先度の高い取組だと思っています。まず『へらす』を徹底して原資となるお金を貯めて、そのあとで老朽化した設備を刷新し、『つくる』や『ためる』へと段階的に歩みを進めていってはいかがでしょうか

試行錯誤の末に得たナレッジをビジネスに転化
その先進的な活動が各方面から注目を浴びています

こうして培われた多彩なノウハウを他の事業者にも還元したい。そう考えた小林さんは、やがて株式会社エニマスを設立。自社の「見える化」のために開発したエニマスも、その後はさまざまな機能が盛り込まれ、幾度となくアップデートを繰り返したことで使い勝手を向上させています。現在は情報関連機器の販売会社との協働でエニマスを商品化するとともに、脱炭素経営を志向する全国の企業にそのソリューションを提供しています。

小林代表「冒頭で触れた相模原市以外にも、川崎市や南足柄市がこのエニマスに興味を示してくださっています。また、さまざまな企業の皆様ともコンサルティング契約を締結し、脱炭素化におけるあらゆる提案を行っています。しかしながら、脱炭素化を叫んでも現場の反応が芳しくない場合も多いです。経営陣はもとより従業員の皆さんも同じ方向を向かないと、取組は前に進みません。例えば、関西のとある企業では年間9,000万円の電気代を支払っていました。代表は『脱炭素化なんて二の次。まずは電気代の削減が急務だ!』と仰っていたほどです」

そこで小林さんは、年間9,000万円におよぶ電力料金のうち1,200万円の支出減を宣言。さらに従業員の皆さんがプロジェクトを後押ししてさらなる省エネを実現した場合、その分の利益を「ボーナスとして社員に還元してはどうか?」という提案をされたのだそうです。同企業代表はその申し出を快諾し、社員一丸となって対策に取り組む土台づくりに成功しました。

小林代表「来冬のボーナスが上がるとなれば、皆さんの参加意欲を大いに刺激できると考えました。結局、脱炭素化だけをクローズアップしてもうまくいかないんです。対策を立てて皆で取り組んだ結果、電気代が削減され、CO2排出量が抑制できたという流れが好ましい。『自分ごと』として捉えてもらうことが重要だと思うんです」

また、チェーン店を全国展開するある外食系企業では、各店舗にある冷蔵室の運用について見直しを図ったといいます。当然ながら、旧式の機材を使い続けている店舗ほど消費電力は高く、新型の省電力機器を導入した店舗ほど消費電力が抑えられていました。

小林代表「ところが、年式が浅い設備を導入している店舗でも、古い設備の店舗とさほど変わらない状況が見受けられました。各地の現場を視察したところ、冷蔵室の入口にビニール製の簾がかけられている店舗と、そうでない店舗があることが見えてきました。たったこれだけのことで両店舗の消費電力量の差は実に35%も違うことがわかったんです

この企業では、年間の電力料金が数十億円にのぼるのだとか。仮に全店舗を均して全体の約20%の消費電力が削減できれば、数億円から十数億円の節約につながることも期待できます。

小林代表「繰り返しになりますが、設備を最新式に入れ替えるだけが対策ではないのです。見える化によって、今できること、やるべきことが見えてきます。そして因果関係を見極め、対策を講じ、再びどれほどの効果があったかを測定します。効果がなければ因果が崩れているということですね。効果があれば、こまめにやり続けること。それを文化にしてほしいのです」

手段を目的化することなく、あらゆる手段を洗い出して対策に変えチャレンジを継続していく。そのマインドを持つことこそが大切だと小林さんは語ります。

小林代表「日本は2030年までの温室効果ガス削減目標を46%減(2013年度比)に設定しています。当社は既に27%削減を達成しましたので、あと数年かけて19%削減を頑張るということになります。現状の取組で得た原資をもとに空調設備の3割を最新型に入れ替えれば約10%は達成できるでしょう。となると残りの9%は太陽光発電で賄おう、というプランが見えてきます。2030年までになんとか間に合うという算段です。こうした取組を全国の中小企業・小規模事業者500万社がコツコツと進めたら、凄いことになると思いませんか? 『将来の子どもたちのために』などと申し上げると綺麗事に聞こえるかもしれませんが、私たちが今やらなければ、私たち自身も、子どもたちも、生きられない世界になってしまいます」

そんな小林さんの先進的な理念と模範的な取組の数々に地元の各金融機関も賛同し、企業間マッチングという形でエニマスの普及をバックアップしています。また、これらの取組は、川崎市が主催する「かわさき起業家オーディション」の「かわさき起業家賞」をはじめ、数々の賞を受賞。奇しくも取材日には経済産業省が後援する「2023年省エネ大賞」の受賞が内定しました。

小林代表「人は豊かな暮らしを享受してきた分、自然を傷めつけ、ないがしろにしてきました。私たちも、エニマスを作ったから終わり……ではありません。これからも脱炭素化の必要性や取組方法について、わかりやすく発信していくのが私たちの責務だと考えています」

大学では環境工学を学び、一度は大手建築会社に就職したものの、やがて家業の製造業を承継した小林さん。その横顔には、今こうして再び環境問題の解決に向き合っている充実感と、「すべては省エネから始まる」という強い信念が窺えました。

企業プロフィール

  • 株式会社エニマス
  • 東京都町田市原町田4-11-13
  • 電気、電力の測定装置およびアプリケーション・ソフトウェアの設計、開発、製造、販売
  • 8名
  • https://enimas.co.jp/
  • 2024年9月