「ゼロエミッション」の意味や「カーボン○○」の違いについて解説します!

「ゼロエミッション」の意味や「カーボン○○」の違いについて解説します!

例えば、よく耳にする「カーボン○○」という言葉。そもそもカーボンとは炭素を意味する言葉なのに、環境関連用語においてはCO2(二酸化炭素)を指して使われています。あるいはCO2の排出を意味するエミッションに関わる言葉なども多くあり、世間には知っているようでよく知らない環境関連用語があふれています。今回は「ゼロエミッション」「カーボン○○」など、基本の環境関連用語を紐解きながら、脱炭素化に向けた世界の潮流と国の政策、東京都や企業の取組についても解説していきます。

ゼロエミッションとネガティブエミッション

「ゼロエミッション」とは、1994年に国連大学によって提唱された環境問題に関する考え方で、“エミッション”は排出の意。産業活動で出される廃棄物を再利用するなどして、“廃棄物の排出”を“ゼロ”にすることを意味します。ここでいう廃棄物には、大気汚染物質、水質汚濁物質、温室効果ガスなど広義の廃棄物質が含まれますが、気候変動対策の観点からは、主にCO2など温室効果ガスの排出量ゼロを目指す言葉として使用されています。

一方「ネガティブエミッション」とは、大気中のCO2を回収あるいは吸収し、貯蓄・固定化することで、CO2を除去する技術を総称した言葉です。具体的には、植林や再生林、土壌炭素貯蓄などによる森林吸収、海藻など海洋植物に取り込むブルーカーボン、大気中から直接回収して貯蓄するDACCS などの技術があります。

東京都では2019年5月に行われたU20東京メイヤーズ・サミットにおいて、世界の大都市の責務として平均気温の上昇を1.5℃に抑えることを追求し、2050年までにCO2排出実質ゼロに貢献する「ゼロエミッション東京」の実現を宣言しました。ここでいう“実質ゼロ”とは、再生可能エネルギーなどによるCO2排出削減には限りがあるため、大気中に放出されてしまったCO2をネガティブエミッションなどの技術により吸収・除去することで“実質ゼロを目指す”ということです。
TOKYO ZERO EMISSION

出典・引用:
ゼロエミッションフォーラム
経済産業省「ネガティブエミッション技術について」
東京都環境局「ゼロエミッション東京」

カーボンニュートラル

2020年10月、政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「2050年カーボンニュートラル」を目指すことを宣言しました。“排出を全体としてゼロにする”とは、CO2など温室効果ガスの排出量から、吸収量と除去量を差し引いた合計をゼロにするということ。産業活動を続けるうえで排出せざるを得ない分については、植林や森林管理を進めてCO2の吸収量を増やしたり、ネガティブエミッション技術を活用して回収、貯留するなどして同じ量を差し引き、実質的にゼロを目指す、ということです。

気候変動問題の解決に向けた世界の潮流としては、2015年にパリ協定が採択され、世界共通の長期目標として「世界的な平均気温上昇を工業化以前に比べて2℃より十分に低く保つとともに、1.5℃に抑える努力をすること(2℃目標)」などの合意がなされました。この実現に向けて、120以上の国と地域が「2050年カーボンニュートラル」という目標を掲げています。カーボンニュートラルの宣言は国や地域だけではなく、企業においても目指す動きが進んでおり、宣言した企業のリストには日本企業の名前も多くあります。

引用:経済産業省「カーボンニュートラル」って何ですか?(前編)

カーボンハーフ

「カーボンハーフ」とは、2021年1月27日、世界経済フォーラム主催の「ダボス・アジェンダ」において、東京都知事が「2030年までに温室効果ガスを2000年比50%削減、再エネ電力の利用割合を50%まで高めていく」と表明した目標のこと。これは、2019年に宣言した「ゼロエミッション東京」の実現に向けては、2030年までの10年間の行動が重要との考えで取組を加速させたものです。東京都では、CO2を「ハーフ」にしていくことをめざし、都民・行政・企業などがともに行動を起こす「TIME TO ACT for カーボンハーフスタイル」を呼びかけています。
2030年カーボンハーフ目標と現状

引用:
東京都環境局「2030年までに温室効果ガスを50%削減する「カーボンハーフ」を知事が表明」
東京都環境局「2030年カーボンハーフに向けた取組の加速」

カーボンプライシング

脱炭素化社会の実現に向けた有効な手段の一つとして、欧州をはじめ世界で導入が広がりつつあるのが「カーボンプライシング」という方法です。企業などが排出したCO2に価格付け(プライシング)する仕組みで、排出量に応じて費用負担を求めるものです。温室効果ガス排出にかかるコストを明らかにすることで、脱炭素社会に向けた行動を促すことを目的としています。カーボンプライシングにはさまざまな手法がありますが、政府主導で行われるものとしては、主に以下の3つがあります。

  • ・企業などが燃料や電気を使用して排出したCO2に対して課税する「炭素税」
  • ・企業ごとに排出量の上限を決め、それを超過する企業と下回る企業の間でCO2の排出量を取引する「排出量取引制度」
  • ・CO2削減を価値と見なして証書化し、売買取引を行う「クレジット取引」

そのほか「石油石炭税」などエネルギーにかけられる諸税や、電気料金に上乗せされている「再エネ賦課金」(FIT賦課金)もカーボンプライシングに含まれます。「再エネ賦課金」は、再生可能エネルギーでつくられた電気を電力会社が買い取る費用の一部に当てられていて、今はまだコストの高い再生可能エネルギーの導入を支えています。

「炭素税」については欧州を中心に導入が進んできました。EU諸国のうちフランスや英国、フィンランドなどでは「排出取引制度」に加えて「炭素税」も導入しています。日本では、「2050年カーボンニュートラル」の実現を目指して、政府が法制化を進めている段階です。また、政府主導のしくみ以外にも、企業が独自に自社のCO2排出に価格付けをして投資判断に活用する「インターナル(企業内)カーボンプライシング」などの手法もあります。
カーボンプライシングの分類

引用:
経済産業省 資源エネルギー庁 「脱炭素に向けて各国が取り組む「カーボンプライシング」とは?」
環境省「カーボンプライシングの意義」

カーボンリサイクル

CO2を資源としてとらえて分離・回収し、コンクリート、化学品、燃料などさまざまな製品に再利用してCO2の排出を抑制しようという取組で、「2050年カーボンニュートラル」実現の鍵を握るテクノロジーとして期待されています。カーボンリサイクルは、化学、セメント、機械、エンジニアリング、化石燃料、バイオなど様々な事業分野で取組が可能であり、日本においては「カーボンリサイクル産業」と呼べる各種の産業が育ちつつあります。コスト削減や社会実装を進めていけば、新たな産業としてグローバル展開できる可能性もあります。

主な技術としては、CO2を吸収してつくったコンクリート製品や構造物、CO2で培養する藻類からつくるバイオ燃料、太陽エネルギーを使ってCO2と水から有機物(でんぷん)と酸素を生み出す「人工光合成」などがあります。カーボンリサイクルの過程ではCO2の分離回収に関する技術が重要になりますが、日本では発電所から高濃度CO2を分離回収する設備が実証段階に入っています。また、CO2回収プラントの実績では日本企業がトップシェアを誇っており、日本の産学が数多くの特許を取得しています。
CCUS

引用:経済産業省「CO2削減の夢の技術!進む『カーボンリサイクル』の開発・実装」