東京で水素をエネルギーとした燃料電池バスが走り始めたのは2017年3月。以来、さまざまな交通各社への導入が進み、現在では135台(2024年度末時点)もの燃料電池バスが運行しています。水素社会は遠い未来の話ではなく、着実に私たちの暮らしに近づいています。脱炭素化とエネルギーの安定供給を目指し、官民連携で水素エネルギーの社会実装を力強く推進する東京。水素社会への道のりはどこまで進んでいるのか。水素エネルギーの普及拡大をめざす東京の現在地を解説します。
水素で何がどう変わる?
東京都は脱炭素社会とエネルギーの安定供給の切り札として、水素の社会実装を加速しています。しかし、エネルギーを化石燃料から水素に置き換えると何がどう変わるのでしょうか。まずは物質としての特色、エネルギーとしてのメリットなど、水素の基本について解説します。
地球上で最も豊富に存在する資源
地球上で最も軽く、豊富に存在する水素。水や化石燃料、メタノール、エタノールなどさまざまな物質に含まれていて、物質を分解して水素だけ取り出すことが可能です。その他、下水汚泥、廃プラスチックなど、さまざまな廃棄物からつくることもできます。限りある資源である化石燃料に対し、あらゆる物質から生成、再生できる水素は、無尽蔵の資源でもあるのです。こうした物質的な特色から、エネルギーの9割近くを輸入に依存している日本にとって、水素は究極のエネルギー源となることが期待されています。
CO2排出ゼロ。脱炭素社会の切り札
水素は酸素と結びつけることで発電し、その電気はエネルギーとして利用することができます。あるいは水素を直接燃焼することで熱エネルギーとすることも可能。いずれの場合もCO2の排出はゼロ。非常にクリーンなエネルギーなのです。

出典:Tokyo水素ナビより
さらに、水素は大規模かつ長期間にわたって貯蔵することが可能で、風力や太陽光などの再生可能エネルギーからつくり、貯蔵して運ぶこともできます。例えば、電力需要の少ない春に再エネで作った電気を水素に変えて貯蔵し、電力需要が多い夏や冬に電気に戻して使うことが可能。このように、季節や天候で左右される再エネの普及拡大を支えるインフラとしても期待されています。
水素には「グレー」「ブルー」「グリーン」の色がある?
エネルギーを生み出す際にはCO2を排出しない水素ですが、水素そのものの製造過程ではCO2を排出する場合もあります。そのため、製造時にCO2が発生するか否かといった脱炭素への貢献度によって、水素はグリーン、ブルー、グレーと色分けして表現されています。このうち「グレー水素」は、低コスト化のため安価な褐炭や未使用のガスなど化石燃料をもとにつくられた水素で、現段階で最も多く使用される水素でもあります。次に「ブルー水素」は、化石燃料を原料とするものの、製造工程で発生したCO2を回収、貯蔵して大気中に放出しない水素のことをいいます。そして、脱炭素社会実現の柱と位置づけられているのが、再エネ由来の電気でCO2を排出せずに製造される「グリーン水素」です。東京都はこのグリーン水素の本格活用を最終目標として、現段階ではブルー水素やグレー水素も排除せずに水素需要の拡大と社会実装を進めています。
※水素の基本情報や東京都が目指す水素社会については「2050年。東京都が目指す水素社会」をご参照ください。https://www.httnavi.metro.tokyo.lg.jp/column7/
社会実装のプロジェクトが一斉稼働
FCVで水素を「つかう」アクションが加速
東京都は2050年の脱炭素社会にいたるマイルストーンとして、2030年までに水素需要の拡大と社会実装を推し進め、本格活用に向けた基盤づくりを行っています。まずは水素の需要拡大が重要であるため、水素が身近にある社会環境の醸成を目指し、FCV(Fuel Cell Vehicle 燃料電池自動車)の導入に力を入れています。2017年にお目見えしたFC(燃料電池)バスはその一つで、現在は都内で135台が運行。FUEL CELL BUSの文字が描かれた近未来的デザインのバスを見かけた方も多いのではないでしょうか。近々の動きとしては、2025年9月からFCVを起用した燃料電池タクシーの運用がスタート。「水素を使う」アクションを加速する官民連携プロジェクト「TOKYO H2」の第一弾で、トヨタ自動車や都内タクシー会社7社が参画し、2030年度までに燃料電池タクシー約600台の導入を目指しています。

出典:都庁総合ホームページ 報道発表資料 2025年9月3日より
商用車メーカーが相次いでFCVに参入
物流事業者等による社会実装も進んでいて、都内ではいま、124台(2024年度末時点)※1もの燃料電池小型トラックが運用。水素は充填時間が短いことから、EV(電気自動車)に比べて長距離運輸におけるメリットが大きく、運輸分野における利活用が普及のカギでもあります。2025年の秋に開催された「ジャパンモビリティショー2025」では、いすゞや日野、三菱ふそうなど、商用車メーカーが燃料電池大型車を相次いで公開。2030年度までに大型トラック約500台の導入を目指す東京都が、助成金などによる導入費支援を拡充していることもあり、運輸分野における水素エネルギーの普及が一気に加速しそうです。
急がれる水素ステーションの設置拡大
ただし、FCVの自動車やバス、タクシー、トラックが普及するには、その前提として、水素ステーションの設置拡大が不可欠でもあります。水素ステーションの設置数は、現時点(2025年11月現在)では都内で20箇所、全国でも148箇所※2に留まっており、さらなる設置拡大が急がれます。そのため東京都は、整備費と運営費に対する幅広い補助を設けて、事業者による設置拡大を強力にサポート。商用車に対応した水素ステーションについて、2030年度までに40基、2035年度までに100基の設置を目標とし、設置拡大の取組を加速しています。
※1 「水素エネルギーの普及拡大に向けた東京都の取組状況」/東京都産業労働局
https://www.tokyo-h2-navi.metro.tokyo.lg.jp/assets/pdf/torikumi/situation/torikumi_202506.pdf
※2水素ステーションの整備状況/一般社団法人次世代自動車振興センター
https://www.cev-pc.or.jp/suiso_station/
つくる、はこぶ、つかう。グリーン水素の社会実装が進む
グリーン水素を東京で地産地消
現状、水素ステーションで扱う水素燃料の多くは化石燃料由来のグレー水素ですが、今後は製造時もCO2を排出しないグリーン水素への切り替えが望まれます。脱炭素社会の実現を目指す東京都は、需要の増大が見込まれるグリーン水素を自前でつくる試みとして、大田区京浜島にグリーン水素の製造拠点「京浜島グリーン水素製造所」を整備。2025年10月には第一期目の水電解装置が完成し、グリーン水素の製造をスタートしました。水素の製造に使う電力は、山梨県の県営水力発電所から調達。CO2排出ゼロのクリーンな電力で水を電気分解し、グリーン水素を製造しています。製造したグリーン水素は圧縮機を使って圧縮、カードルという容器や専用トレーラーで需要地まで運びます。水素製造に使われる水電解装置は、従来の2/3の設置面積で1時間に100㎥の水素をつくれる小型で高効率な設備。広い土地の確保が難しい東京でもグリーン水素の製造を可能とする、画期的なシステムといえます。開所式で小池百合子都知事は、「設備の増強を進め、令和9年度には現在の3倍の水素製造ができるよう準備を進める」と意気込みを語り、東京都では今後もグリーン水素の活用促進が期待されます。

水素を活用したまちづくりも
東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会で世界のアスリートを迎えた晴海の選手村跡地では、水素を街のエネルギーとして導入する環境先進都市実現に向けた取組が進められています。この地区では、東京都と東京ガス株式会社を代表企業とする6社が協定を結んで官民連携により事業を実施。2024年3月の「東京晴海水素ステーション」の開所を皮切りに、燃料電池バスなどFCVへの水素供給体制が整えられ、実用段階では国内初となるパイプラインによる街区への水素供給も開始されました。脱炭素社会の先駆けとなる水素を活用したまちづくりとして注目を集めています。

出典:Tokyo水素ナビより
中小企業にも水素ビジネスの商機あり
水素エネルギーの普及促進にあたっては、水素供給のインフラである水素ステーションの拡充が急がれています。そのため東京都では、水素ステーションの整備、運営を検討する事業者に対する助成金などの支援策を拡充。水素ステーションの整備に係るさまざまな費用に対して、大企業の場合は4/5、中小企業の場合は5/5(上限有)という手厚い助成率で支援が行われています。
さらに中小企業に対しては、国の補助申請に必要な基本設計に係る費用や、水素ステーションの安定稼働を目的とした予備品の購入費、設備が故障した際の修繕費への助成など、支援拡充の新たなメニューも設けられました。そのほか、燃料電池自動車の購入補助、業務・産業用燃料電池の導入支援、グリーン水素製造・利用設備の導入支援など、東京都はさまざまな支援策で民間事業者の取組を後押ししています。国や都の支援策が充実したいまは、脱炭素社会に先駆けた水素ビジネスによる経営戦略の商機ともいえるでしょう。
※東京都の支援策の情報
・普及に向けた支援策(補助金等)/Tokyo水素ナビ
https://www.tokyo-h2-navi.metro.tokyo.lg.jp/torikumi/siensaku
・すいすいサポート/東京スイソミル
https://www.tokyo-suisomiru.jp/for-business/helpdesk/
・東京都の支援策の紹介/東京都京浜島グリーン水素製造所
https://keihinjima-h2.metro.tokyo.lg.jp/know_support/
参考・引用:
Tokyo水素ナビ:
https://www.tokyo-h2-navi.metro.tokyo.lg.jp/suisoenergy
「水素エネルギーの普及拡大に向けた東京都の取組状況」/東京都産業労働局
https://www.tokyo-h2-navi.metro.tokyo.lg.jp/assets/pdf/torikumi/situation/torikumi_202506.pdf
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