TCFD、CDP、SBT、RE100 カーボンニュートラルのイニシアチブ、どこがどう違う?

TCFD、CDP、SBT、RE100 カーボンニュートラルのイニシアチブ、どこがどう違う?

森林火災や洪水など、異常気象による自然災害が増えつつある昨今、企業に対して気候変動対策と情報開示を求める動きが加速しています。気候変動対策を進めるにあたっては、活動を評価する国際的なイニシアチブの理解が不可欠ですが、TCFDやCDPなど英文の略語表記ばかりが見られ、その違いや関係性に分かりづらさを感じる人も多いことでしょう。そこで今回は、代表的なイニシアチブであるTCFDとCDP、SBT 、RE100の4つについて解説していきます。

TCFD

TCFDとは、G20の要請により2015年に金融安定理事会(FSB)が設立した「気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)」のこと。気候変動が企業活動に与える影響を投資家や金融機関が把握できるよう、情報開示のためのガイドラインの策定が行われ、2017年6月に最終報告書「TCFD提言」を公表しました。「TCFD提言」では、企業に対して気候変動による財務上の影響を把握して開示することを求めていて、情報開示項目として以下の4つを挙げています。


開示項目ガバナンス戦略リスク管理指標と目標
項目の詳細気候関連のリスク及び機会に係る組織のガバナンス気候関連のリスク及び機会がもたらす組織のビジネス・戦略・財務計画への影響気候関連リスクについて、どのように識別・評価・管理しているかについて気候関連のリスク及び機会を評価・管理する際に使用する指標と目標
出典:TCFD「最終報告書 気候関連財務情報開示タスクフォースによる提言」(2017年)

TCFDにコミットするには「賛同」と「情報開示」の2つの方法があります。まず「賛同」については、公式ウェブサイトにアクセスして、所定のフォーマットに団体名、業種、地域、担当者の連絡先などを記入するだけで行えます。賛同した企業や団体の名称は公式ウェブサイトに公表され、希望すれば代表者名を入れた声明文を掲載することも可能です。賛同しても情報開示を求められるわけではないのでハードルも低く、2023年10月12日現在、世界では4,872、日本では1,470の企業・機関※1がTCFDに賛同していて、国別で見ると日本が最多となっています。

賛同のうえ「情報開示」を行う場合は、先の4項目についてシナリオ分析を行って財務報告書などを開示する必要があり、少し難易度が上がります。ただし、4項目すべてについて開示する必要はなく、必ずしも完璧な内容が求められているわけではないようです。日本では、東京証券取引所がプライム上場企業に対して気候変動関連情報の開示を義務化しており、TCFDまたはそれと同等のイニシアチブにもとづく開示を求めています。国土交通省が行った調査(2022年9月7日時点)※2によれば、プライム市場上場企業でTCFDに賛同している企業(786社)のうち82%が情報開示も済ませています。国内外の投資家の評価が高まることが期待されるため、今後も情報開示が進むことが予想されます。

※1 経済産業省「TCFD賛同企業・機関の一覧」
※2 国土交通省「TCFD提言と気候関連情報開示」

CDP

CDPは、2000年に英国で設立された国際環境NGO(非政府組織)であり、正式名称を「カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト(Carbon Disclosure Project)」といいます。国家や地域、企業、投資家などが環境リスクに対応するための情報開示システムで、日本では2005年より活動しています。世界においては約18,700の企業がCDPで情報開示を行っており、情報量が多く、企業同士の比較がしやすいことから、多くの投資家が評価材料として活用しています。

情報開示システムの仕組みはというと、CDPが対象となる企業へ環境に関する質問書を送付して回答を要請、企業の回答をもとにAからDまで4段階のスコア付けと分析を行い、その結果を公式ウェブサイト上で公開(非公開も可能)しています。質問書の内容は「気候変動」「水セキュリティ」「フォレスト(森林減少リスク・コモディティ)」と3つの分野があり、このうち「気候変動」の質問書は「TCFD提言」に沿った内容となっています。つまり、CDPの質問書に回答すれば、同時にTCFDの情報開示にも対応できるということです。

質問書の送付は毎年春に行われ、夏に回答を締め切り、秋に分析とスコアリングを行い、冬に結果が公表されます。日本を対象とした気候変動に関する調査は2022年で17回目※3となり、東京証券取引所の情報開示要請を受け、調査対象となった企業数はプライム市場上場企業全体の1,841社にまで拡大しました。このうち、質問書に回答した企業数は1,056社で回答率は57%。前年の500社を対象とした調査に比べると、回答率は14%低下したものの、回答企業数は3倍にまで増えています。ちなみに、気候変動におけるスコアでAリストに認定された日本企業は75社で世界最多となっています。このように、日本においてはCDPの活用が積極的に進められており、今後も日本企業の参加が増えることが予想されます。


Aリスト国・地域別企業数(上位8ヵ国)
Aリスト地域別企業数

※3 「CDP気候変動レポート 2022日本版」

SBT

SBTとは、パリ協定が求める水準※4と整合した、企業が設定する温室効果ガス排出削減目標のこと。正式名称を「Science Based Targets」といい、「科学的根拠に基づいた目標設定」といった意味になります。SBTとともに SBTiという言葉も多く見られますが、SBTiとは「Science Based Targets initiative」の略で、SBTのガイダンスを設定した組織を指します。SBTiは、2015年にCDP、UNGC(国連グローバル・コンパクト)、WRI(世界資源研究所)、WWF(世界自然保護基金)により設立された共同イニシアチブで、SBT認定はSBTiのもとで行われます。

SBT認定を受けるには、自社の事業活動による直接排出(Scope1、2)だけではなく、サプライチェーンの上流・下流における間接排出(Scope3)についても目標設定する必要があります。サプライチェーン全体でSBTを達成するには、大企業だけではなく、中小企業も積極的に取り組む必要があることから、SBTiでは中小企業向けSBTのガイドラインも用意しています。実際、中小企業による認定が増え続けていて、SBT認定を受けた日本企業は2023年9月30日現在※5で601社となり、このうち約7割を中小企業が占めています。中小企業向けSBTの場合、目標設定の対象が直接排出(Scope1、2)だけになるなど、通常のSBTと比べて要件が緩やかになっています。通常のSBTと中小企業向けSBTの概要をまとめると以下のようになります。


通常のSBT中小向けSBT
対象特になし従業員500人未満、非子会社、独立系企業
目標年申請時から5年以上先、10年以内の任意年2030年
基準年最新データが得られる年で設定を推奨2018年〜2022年
削減対象範囲原則、Scope1、2、3排出量Scope1、2排出量
目標レベル■Scope1、2
1.5℃目標において最低年4.2%削減
■Scope3
2℃の努力目標において最低年2.5%削減
■Scope1、2
1.5℃目標において最低年4.2%削減
費用USD9,500(外税)※最大2回の目標設定可能
3回目以降USD4,750(外税)
1回 USD1,000(外税)
承認までのプロセス目標提出後、事務局による審査が行われる目標提出後、自動的に承認されSBTi webサイトに掲載
出典:環境省「SBT(Science Based Targets)について」

SBTは、気候科学という共通基準で評価・認定を行う目標であることから、世界中の多くの企業が活用するグローバル・スタンダードの指標となっています。さらにCDPの質問書にもSBTに関する項目があり評価の対象となっていることから、CDPに参加する企業の多くはSBT認定も受けているようです。

※4:パリ協定で盛り込まれた世界共通の長期目標「産業革命以前からの平均気温上昇を2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力を追求」
※5:環境省/グリーンバリューチェーンプラットフォーム「SBTiの参加日本企業」

参考・引用:環境省「SBT(Science Based Targets)について」

RE100

RE100は、「Renewable Energy 100%」を略した名称で、文字通り、エネルギーの全てを再生可能エネルギーの電力に置き換えることを目標としたイニシアチブです。RE100の運営は、CDPとのパートナーシップのもと英国のNPO団体The Climate Groupが行っていて、2014年から活動をスタートしています。

TCFD、CDP、SBTなど、これまで紹介したイニシアチブとの大きな違いは、温室効果ガスの削減の取組全般というより、再生可能エネルギーの電力への置き換えに特化していること。RE100に参加するには、2050年を期限として再生可能エネルギー100%を達成するための目標設定を行ったうえで、2030年までに60%、2040年までに90%を達成する中間目標も設定し、年に一度、進捗状況を事務局に報告する必要があります。さらに参加する企業には、消費電力量が年間100GWh以上であることや、化石燃料に関連する事業や企業に投資を行っていないなど、さまざまな要件や基準が設けられています。ただし、日本の遅れている再生可能エネルギー環境を鑑みて、日本企業に対しては消費電力量を年間50GWh以上とし、中間目標の設定も必須から推奨にするなどの緩和措置が採られています。

対象企業に求める基準や要件が高いため、中小企業にとってはハードルが高いイニシアチブといえそうですが、要件を満たさない企業に対しては「再エネ100宣言RE Action」が推奨されています。「再エネ100宣言RE Action」とは、RE100の要件を満たさない国内の企業や自治体、教育機関などを対象とした日本独自のイニシアチブで、RE100に比べ参加要件が緩やかになっています。「再エネ100宣言RE Action」に参加することで優遇される補助金制度もあるので、再エネ電力への切り替えを考えている場合は検討の価値があるといえそうです。


参考・引用:環境省「RE100について」 再エネ100宣言RE Action