地球温暖化は、もはや目に見える形で世界中にさまざまな影響を与えています。もし、私たちが対策を講じなかったら、果たして世界はどうなってしまうのでしょうか?
IPCCが予見し、警鐘する「+4℃の世界」
2014年、極めてセンセーショナルな提言が発表され、世界中を駆け巡りました。それは、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が作成した「第5次評価報告書」です。私たちが直面する地球温暖化の危険性と対策の緊急性を訴える内容で、例えば、今後100年間で生じる気温上昇が地球に与える影響について約1,200ものシナリオが集計され、最終的に最も上昇率が低いシナリオ(RCP2.6シナリオ/2℃前後の上昇)から、最も上昇率が高くなるシナリオ(RCP8.5シナリオ/4℃前後の上昇)まで、4つのシナリオとして提示されています。
IPCCとは、現在195ヵ国で構成される国連の政府間組織。世界中の学者や専門家のあらゆる知見を集め、科学的根拠のあるデータやアドバイスを、政治的に中立な立場から提供することを目的としています。IPCCが定期的にまとめる報告書は、信頼できる指針として世界各国の政策決定者が参考にしており、18年に補完的意味合いから発表された「1.5度特別報告書」、23年にさらなる提言が加味された「第6次評価報告書」と、その時々で注目を集めてきました。
15年に採択された「パリ協定」以降、世界各国の政府はそれぞれ温室効果ガスの排出抑制策に取り組み、21年に開催された「G7(主要7ヵ国首脳会議)」や「COP26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)」でも「産業革命以前から比べて、地球の平均気温の上昇を2℃未満、または1.5℃に抑える努力目標」の継続が確認されています。
しかし、IPCCが18年に取りまとめた「1.5度特別報告書」では新たな知見が披露され、「1.5℃を目指す努力」がもはや不可欠であることが示唆されました。と同時に、将来起こりうる悪影響に適応するための備え(防災対策、治水事業、水資源の確保、農作物の品種改良、エアコンの普及など)が必要だとされています。 加えて、最新のIPCC「第6次評価報告書」でも、世界の平均気温の基準となる「産業革命以前」に比べ、すでに1.1℃ほど上昇しており、30年代にはいよいよ1.5℃に達する可能性が高いことが示されました。温暖化の進行を食い止めるためには「2℃未満」では不十分で、「1.5℃」を目標とする考え方が主流となっています。
ところが、現在の温室効果ガス排出量の実態は、IPCCが予測した4つのシナリオのうち、最悪のシナリオ(RCP8.5シナリオ)にほぼ一致しているといわれています。
つまり、このまま石油や石炭、天然ガスといった化石エネルギーに依存した経済活動が続けられると、100年後の未来は「+4℃の世界」になるということです。地球規模で起きる気温上昇は、人々の生活様式や社会環境に多様な変化をもたらしますが、そこには取り返しのつかないリスクも数多く孕んでいます。
すでに深刻化している世界的気候変動
私たちが住む日本国内を見渡しても、いまだかつて経験したことのないような酷暑や局地的豪雨(ゲリラ豪雨)が発生し、人々の暮らしを脅かしていることがわかります。気流や海流の変化、海水温の上昇をはじめとする複合的要素が絡み合い、農作物の品質低下や収穫量減少、作付け品種・エリアの変更、水産資源の生息域急変、それに伴う漁獲量激減などがみられ、安定的な供給が損なわれています。一方、海外では、その度合いを強めている地域が多数あり、熱波、干ばつ、寒波、河川の氾濫、土砂災害、洪水といった異常気象が頻繁に観測されるようになってきました。
IPCCの「第5次評価報告書」では、脅威となる負の影響として以下「8つのリスク」が示されています。
- 高潮、沿岸洪水、海面上昇による健康障害や生計崩壊のリスク
- 大都市部への内水氾濫による健康障害や生計崩壊のリスク
- 極端な気象現象によるインフラ機能停止のリスク
- 熱波による死亡や疾病のリスク
- 気温上昇や干ばつなどによる食料安全保障が脅かされるリスク
- 水資源不足と農業生産減少による生計および所得損失のリスク
- 陸域や淡水の生態系、生物多様性が失われることで生じるリスク
- 同じく海域の生態系、生物多様性が失われることで生じるリスク
1℃、1℃、上昇するごとに変わりゆく未来
では、実際に平均気温の上昇が進んでいくと、世界はどう変わっていくのでしょう。
前述した「8つのリスク」は、温度上昇の速度、地域、今後の各国の対策の進み具合などによって当然緩和されていきますが、何もしなければさまざまなリスクに晒される結果が待っています。
1.0℃ 上昇 |
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1.5℃ 上昇 |
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2.0℃ 上昇 |
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2.5℃ 上昇 |
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3.0℃ 上昇 |
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3.5℃ 上昇 |
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4.0℃ 上昇 |
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一説には、気温が1℃上昇するごとに1日あたりの降水量が約7%上昇するといわれています。これまでは普通の雨だったものが強い雨脚を伴う豪雨や大雨となり、短時間での降水量増加が河川の氾濫や洪水、家屋への浸水をもたらすかもしれません。
逆に熱帯雨林では異常気象による干ばつで大量な枯死が起こり、枯死個体の分解から生じる二酸化炭素の放出が、地球温暖化を促進させています。
また、1.5℃の気温上昇は、急激な環境変化が生じ始めるティッピングポイント(転換点)とされ、自然災害が激化・甚大化し、いよいよ後戻りできなくなる分水嶺といわれています。
すでに地球の平均気温は+1℃を超え、数年後には+1.5℃となる可能性が高まってきました。世界気象機関(WMO)は、仮に気温上昇が1.5℃に抑えられたとしても、海面上昇は止むことなく、やがて最大3mにまで上昇し続けると予測しています。1mの海面上昇でも、島しょ国の大部分は国土を大きく減らし、海抜の低い東京、大阪、名古屋、福岡、札幌などの大都市も、人が住めなくなってしまうほどの被害を被ります。
そして、最も危機が叫ばれているのは、水資源の確保と食料事情の悪化です。すでに現在、世界中ではたくさんの人々が飢餓に苦しんでいますが、気温上昇が招く水不足は農地の肥沃化を妨げ、地下水の汲み上げによる地盤沈下、土壌劣化による砂漠化など、確実にマイナスの影響を与え続けます。本来収穫されるはずの作物も、生育障害を起こして品質を低下させたり、場合によっては生産量を大きく減らしたりすることでしょう。漁業もこれまで獲れていた魚がその生息域を追われることで漁獲量を著しく下げ、動植物の絶滅が頻出するといわれる「+4℃の世界」では、食べることができなくなる魚が出てきます。
こうした食糧問題は、やがて人々の健康被害や労働生産性の低下につながります。栄養不足が食料の生産性を下げ、物資の高騰や、それに伴う分配不均衡を加速させます。経済力を持たない途上国などでは政治的に不安定な状況が進み、治安悪化や紛争が起こりやすくなります。食料を巡って人と人とが争うという、救いようのない未来がやってくるかもしれません。
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いみじくも、とある研究者が「地球温暖化が進んだ時代に生まれる〝次の世代〟は、それを当たり前の世界として捉えてしまうため、改善よりも順応する道を選び取ってしまうのではないか」と語っていました。人々が住みやすい地球環境の維持を切実に願い、あらゆる対策を考え、実践していけるのは〝私たち世代〟であり、私たち一人ひとりがその重責を担っているということを決して忘れてはいけません。
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