取組から市場参入へ発想転換。
脱炭素でビジネスチャンスをつかむ

取組から市場参入へ発想転換。
脱炭素でビジネスチャンスをつかむ

中小企業アドバイザー
鷹羽 毅(たかは たけし)氏

成長戦略への脱炭素計画作成と8業界の企業取組事例

2023/12/20

業界調査会社において多方面の調査やコンサルティング業務に35年の実績を持ち、現在は中小企業基盤整備機構近畿本部にてカーボンニュートラルアドバイザーとして活躍する鷹羽毅さん。セミナーでは脱炭素を成長戦略に繋げる「脱炭素計画作成」について・・・


業界調査会社において多方面の調査やコンサルティング業務に35年の実績を持ち、現在は中小企業基盤整備機構近畿本部にてカーボンニュートラルアドバイザーとして活躍する鷹羽毅さん。セミナーでは脱炭素を成長戦略に繋げる「脱炭素計画作成」についてお話いただきましたが、インタビューではさらに内容を深掘りして、脱炭素市場の可能性やビジネスチャンスの見つけ方にフォーカスしてお話を伺いました。

 

Q1. 鷹羽さんは多方面の分野における調査や、コンサルティング業務に35年の実績をお持ちと伺っています。これまでどのような活動をされてきたのでしょうか。

前職は業界調査会社に在籍していて、多方面の分野を対象とした専門的調査を通じて、企業様の個別コンサルティングを行ってきました。蓄電池や太陽電池、あるいは再生可能エネルギーなど、セミナーでお話したような業界市場についても長年携わってきまして、リチウムイオン電池や太陽電池、燃料電池については開発段階からリサーチを続けてきました。昨今では気候変動、温暖化問題への対策が喫緊の課題となったことから、前職の知見を活かして、現在は脱炭素を中心に企業様のさまざまなご事情に応じた支援、アドバイスをさせていただいています。2年ほど前には中小企業基盤整備機構にカーボンニュートラルに対する相談窓口が開設され、私は近畿本部のアドバイザーも務めさせていただくようになりました。


Q2. アドバイザーとして相談に応じる中で、中小企業における脱炭素の意識や取組状況についてどのように感じていますか。率直な意見をお聞かせください。


一口に中小企業といっても規模はさまざまです。従業員が数十人規模の企業様を例にすると、多くの場合は脱炭素に取り組む余裕がないというのが実情のようです。CO2排出量を国に報告する義務がある大企業と違い、中小企業に対しては法的規制がないので、取組を始める強い動機付けがないということも取組が進まない理由の一つでしょう。一方で大手企業のサプライチェーンの一員である場合、脱炭素の取組を求められて始めるケースが増えているようです。大手企業がカーボンニュートラルを推進するためには、Scope3にあたる川上、川下においても脱炭素の取組を進める必要があります。そのため、取引先の中小企業にも取組が要請され、やらざるを得ないという事情があります。

中小企業においても脱炭素に取り組むことで省エネによるコスト削減の効果が期待されるのですが、小売業やサービス業の中には、電気の使用量を減らしたところでさほど影響はないのでは?と考える方もいらっしゃるようです。企業価値やブランド力の向上についてもお伝えしていますが、数十人規模の中小企業様にとっては、魅力あるメリットに感じられないというのが本音ではないでしょうか。実際のところ、中小企業にとって最も大切なのは今日明日の売上です。こうした現状を鑑みると、中小企業が取組を始めるには、ビジネスチャンスであるという動機付けが必要だと考えています。

Q3. セミナーでも脱炭素のビジネスチャンスについて訴えておられました。コンサルティングのご経験をもとに、中小企業における事業戦略の考え方や、脱炭素市場の可能性についてお聞かせください。


新製品の開発、新規事業の立ち上げ、新市場に参入するなど、事業戦略にはさまざまな手法があります。事業戦略の策定にあたっては、市場において自社製品にどのような強みがあるのか、競合他社に負けない技術は何であるのか、市場のニーズや動向についても徹底的に調査や分析を行います。自社製品、技術の独自性を見極めたうえで、新しい市場へ売り出す方法を考えるわけです。業界調査会社におけるコンサルティングでは大企業を対象としておりましたが、事業戦略を立てる道筋というのは大企業も中小企業も同じです。現在は中小企業の皆様に対して、脱炭素を取り組むべき課題ではなく、参入すべき市場と捉えて事業戦略を立てましょう、という提案をさせていただいています。

脱炭素というテーマは、今後も拡大を続ける成長市場であることは間違いありません。温暖化対策は世界共通の課題であり、各国が脱炭素社会の構築に向けた政策に大きく舵を切っています。日本でもGX(グリーントランスフォーメーション)の取組が盛んになり、化石燃料から再生可能エネルギーへの転換が進められ、太陽光発電や蓄電池の市場が拡大しています。そういった市場への参入は大企業の戦略であって、中小企業にどのような活路があるのか?と思われるかもしれませんが、例えば製造業であればそうした設備に使用する優位な部品や材料の開発。IT関連やサービス業であれば、脱炭素を支援するシステムやサービスの提供。あるいは小売業であれば環境に配慮したブランドや商品を展開することも考えられます。中小企業にも市場参入の可能性が十分あることに気づいていただき、脱炭素の対策から脱炭素をテーマとした事業戦略へと発想を転換して欲しいと考えています。

Q4. 脱炭素をテーマとした場合、どのような手順で事業戦略を進めればよいでしょうか。


それが、セミナーでもお伝えした「脱炭素マーケティング戦略」です。社長・社員の知識と理解を深める「脱炭素教育計画」、企業活動全体における対策と方法を考える「脱炭素経営計画」、新規事業を創出する「脱炭素事業計画」の順に進めることをお薦めしています。脱炭素市場に参入するための製品やサービスを開発することが最終目標ですが、そこに至るにはまず、社員に対する教育、つまり脱炭素分野における人材育成が重要になります。脱炭素に対する理解が進めば省エネ対策や再生可能エネルギー導入の目処が立ちますし、対策のプロセスを実践することで、脱炭素に関わる製品やサービスの需要を正しく理解できるようになります。

また、脱炭素をテーマとした事業戦略においては、社長のトップダウンで取組を進めることと、脱炭素分野における人材育成の方法に成功の鍵があると考えています。「脱炭素に取り組む」という社長の意思決定があればこそ、社員は熱意を持って取り組むことができるのです。人材育成の方法としては、脱炭素分野の担当者を決めてプロジェクトチームを立ち上げ、外部研修やセミナーを受講するなどして、脱炭素のスペシャリストを育てることが肝要です。チームのスペシャリストが自社製品やサービスのなかに脱炭素市場における優位性を見出すことで、新たな事業戦略の道筋も見えてくるでしょう。

Q5. 具体的には、どのようにビジネスチャンスを見つけたらよいでしょうか。


企業の脱炭素のプロセスにあたっては、石油やガスから電気への燃料転換、省エネ節電などの効率化、再生可能エネルギーの導入などの対策が行われるため、それに関わる製品やサービスの需要が高まるということになります。つまり、対応した製品やサービスを売っている企業は業績が上がることが見込まれるということです。例えば製造業の場合、省エネに繋がる高効率設備に関わる製品を開発すれば、その企業は売上が上がりますね。サービス業であれば、CO2の排出量を測定するサービスや、環境配慮型製品をブランディングするなどもいいですね。自社の製品やサービスを脱炭素市場にあてはめてみて、新たなビジネスイノベーションに繋げることができないかを考えてみてください。

また、中小企業が脱炭素化を進める上での課題として「対処方法や他社事例などの情報不足」を挙げる企業の割合が高いという調査結果があります。つまり、脱炭素を実践するノウハウへの潜在的ニーズが高いということでもあるのです。その場合、他社に先駆けて脱炭素化を実践して先例をつくり、方法論を提供するサービスの展開も考えられます。この場合、業種の如何を問わず、製造業、小売業、サービス業、どれにもあてはまりますね。より実践的な提案ができるわけですから、専門家やコンサルタントのアドバイスより有効かもしれません。このように、考え方次第でビジネスチャンスはいくらでも見つけられるはずです。

Q6. 東京都が進めるHTTについてのご意見と、取組を始めようとしている中小企業の皆様へのメッセージをお願いいたします。


中小企業基盤機構がカーボンニュートラルの相談窓口を設けて、すでに2年の月日が経ちます。窓口ができたということは、それだけ脱炭素の取組が重要視されていて、問合せも多いということです。最近では脱炭素について学んでいる方も増えてきていて、SBT認定※1を取得するにはどうしたらいいか、といった専門的なご相談も受けるようになりました。世界的な脱炭素の潮流の中、サプライチェーン全体でカーボンニュートラルを達成するため、中小企業においても取組が広がりつつあるのを感じています。

東京都が推進するHTTというのは、まずは省エネで電力を減らす(H)、次に再生可能エネルギーの導入で電気をつくる(T)、さらに蓄電池で電気をためる(T)という、脱炭素経営で進むべき基本的なステップを表しています。取組の第一歩は自社のCO2排出量の見える化から始まりますが、排出量をどうやって算出したらよいのかわからないという声も多いようです。しかし、排出量の算出は決して難しいことではありません。セミナーでもご紹介しましたが、日本商工会議所がホームページで提供している「CO2チェックシート」※2に毎月の電気・ガス・灯油などの使用量を入力するだけで求めることができるのです。脱炭素の取組においては「情報不足」を課題として挙げる中小企業の方が多いのですが、私がアドバイザーを務める中小企業基盤整備機構やHTT実践推進ナビゲーター事業の窓口は、そうした皆様のために開かれています。このような支援機関や事業をご利用いただいて、脱炭素への第一歩を踏み出していただきたいと思います。

 

※1 SBTはパリ協定が求める水準と整合した企業が設定する温室効果ガス排出削減目標のこと。この目標を立てていることを示す国際認証がSBT認定です。
HTTコラム「TCFD、CDP、SBT、RE100 カーボンニュートラルのイニシアチブ、どこがどう違う?」https://www.httnavi.metro.tokyo.lg.jp/column3/
※2 日本商工会議所 日商エネルギー・環境ナビ https://eco.jcci.or.jp/checksheet