省エネだけじゃない!環境課題と考えれば、
脱炭素のアプローチはたくさんあります

省エネだけじゃない!環境課題と考えれば、脱炭素のアプローチはたくさんあります

株式会社KAZコンサルティング
代表取締役社長 鈴木 和男(すずき かずお)氏

サステナブルな世界実現のための第一歩 脱炭素経営とその実例

2025/11/19

環境マネジメントシステムの構築やSDGsを組み込んだビジネス戦略をはじめ、幅広いサービスで中小企業の経営を支援する鈴木和男さん。セミナーでは、サステナブル社会の実現を背景に、・・・

環境マネジメントシステムの構築やSDGsを組み込んだビジネス戦略をはじめ、幅広いサービスで中小企業の経営を支援する鈴木和男さん。セミナーでは、サステナブル社会の実現を背景に、環境経営の視点を織り交ぜたお話をいただきました。インタビューではさらに深掘りして、環境課題からみた、省エネの固定観念にとらわれない脱炭素のアプローチについて伺います。

Q1. 鈴木様はコンサルティング企業の代表であると同時に日本経営士会の理事も務めておられますが、これまでの経歴や日頃の活動について教えていただけますか。

かつては大手情報機器メーカーのSE部門で事業部長などを歴任し、在職中からシステムコンサルとして顧客企業の経営課題の解決に取り組んできました。その後、日本社会が環境問題に関心を持ち始めたのを機に、56歳で早期退職して立ち上げたのが株式会社KAZコンサルティングです。今年で創立21年を迎えるこの会社では、中小企業を中心に環境経営や品質経営に対するコンサルティングを行っており、顧客企業の皆さまとは長くお付き合いさせていただいております。

本業の傍ら、設立74年になるコンサルタント団体、一般社団法人日本経営士会の代表理事としても活動しておりまして、会長職を務めて3期、6年目になります。その他、環境関連のNPO、団体の理事や顧問も務め、横浜市立大学や中国の遼寧科技大学等、多くの大学の講師もしており、日夜、環境経営に関わるコンサルティングや講演、執筆などに関わらせていただいております。

Q2. 長らくコンサルタントとして活動されるなかで、環境のテーマも変化していると思われますが、中小企業にはどのような対応が求められてきたのでしょうか。

大手企業による、サプライヤーに対する環境への取組要請は今に始まったことではありません。取組要請の代表的なものとしてはグリーン調達があり、2000年頃から始まりました。グリーン調達とは、企業が資材やサービスを購入する際に、環境に配慮した商品や環境活動を行っている業者を優先して取引するということです。施策として、中小企業にも環境マネジメントシステムの構築が求められるようになり、その代表がISO14001※1なのです。

この頃から、環境に配慮する経営を行う時代がスタートしました。ただし、ISO14001というのはマニュアルや規定類の作成なども求められるため、取得するのが大変で、中小企業ではやり切れるものではないのです。そのため、中小企業にも取組やすい環境マネジメントシステムとして導入されたのが、エコステージやエコアクションという認証制度です。現在は下請法※2があるので強制まではされませんが、15、16年前は、認証がなければ取引しないといわれた時代でした。それで皆さん苦労をされ、これらの環境マネジメントシステムの取得をされています。私もコンサルタントとして多くの中小企業さんを支援してまいりました。



※1 ISO14001 環境マネジメントシステムに関する国際規格。認証を取得することで環境への取組を国際的に証明できる。

※2 下請取引の公正化と下請事業者の利益保護のための法律。令和8年1月1日から改正されて適用範囲が拡大、新たに取適法として施行される。

Q3. 経営課題に脱炭素というテーマが入ってきたのはいつ頃からでしょうか。

地球温暖化対策の推進に関する法律である温対法に基づき、平成18年から、温室効果ガスを相当程度多く排出する者に、自らの温室効果ガスの排出量を算定し、国に報告することが義務付けられてからでしょう。特に、5年ほど前からScope1,2,3というGHGプロトコルが大手企業中心に導入されてから急激に脱炭素時代が始まったといっても良いかと思います。ただし、脱炭素の根幹にある地球温暖化対策というのは、以前からある環境経営やCSR(企業の社会的責任)活動にも含まれるものですから、新しい取組というわけではないのです。

また、東京都でも今年の4月からは「東京都社会的責任調達指針」※3というのが始まりまして、競争入札の申請者に対して、指針に関わる取組を行っているか否かを問うチェックリストの提出が求められるようになりました。

このチェックリストには、温室効果ガスの削減、省エネルギーの推進、持続可能な資源利用の推進、生物多様性の保全、国際的人権基準や労働基準の遵守・尊重など、環境や人権、労働に関わる項目が数多く設けられています。すでに、脱炭素なんて当たり前の時代なのだと思ってください。これからは、環境問題、人権問題、そういった課題も含めて取り組んでいかなければならないのです。

※3 東京都社会的責任調達指針 https://www.zaimu.metro.tokyo.lg.jp/keiyaku/sr

Q4. 大手企業のサプライヤーとして、中小企業も環境経営に取り組んできたということですが、
今また、脱炭素経営を求められています。その背景についてお聞かせください。

取引先から求められる脱炭素の要求として知られるのが、Scope1,2,3ですね。これは、GHGプロトコル※4のことで、企業活動のどの段階でどれだけ温室効果ガスを排出しているのかを把握して削減に取り組みなさいということです。なぜサプライヤーである中小企業に求めるのかといえば、大手企業各社の排出量削減目標をみるとよくわかります。
例えば建設機械やゼネコン大手の例では、自社の排出であるScope1,2は全体の3%程度しかありません。残りの約97%はサプライヤーの排出量であるScope3なのです。

また、飲料メーカー大手の削減目標をみると、Scope1,2は2030年までにマイナス50%、2050年にはネットゼロとしていますが、Scope3については2030年までの削減目標は30%と低く、現段階でサプライヤーの取組が遅れていることを示しています。

そこからネットゼロを目標とする2050年までに残りの70%を削減することになりますから、サプライヤーには厳しい削減目標が求められるということです。このように大手企業各社の削減目標をみると、ネットゼロの達成はScope3、つまりサプライヤーの取組に委ねられていることがわかります。中小企業に脱炭素経営が求められる理由はそこにあります。

※4 GHGプロトコル 温室効果ガス排出量を算定・報告する際の国際的な基準

参考 「サプライチェーン排出量」と「Scope1,Scope2,Scope3」について

Q5. 中小企業が脱炭素経営を進めるにあたり、どのような課題があると感じていますか。

脱炭素といいますと、まずは省エネが思い浮かびますので、電気の使用量を減らそう、となるかと思います。しかし、中小企業は大企業と比べてエネルギー消費が少なく、もともと電気の使用量はそれほど多くないですよね。私がコンサルで関わる中小企業さんも、省エネに関した指導をした初年度は10%、20%削減できることもあります。しかし、翌年からさらに減らそうと思っても無理があるのです。電気をつけず真っ暗な中で仕事をするわけにいきませんから。しかし、やれることは省エネだけではないのです。

たとえば製造業であれば、不良品を減らすことがCO2削減に繋がるんです。製品を作り直すということは、もう一度、材料とエネルギーを使うことになります。製造工程を繰り返すわけですから、CO2排出量も2倍になる。さらに不良品を廃棄すれば、業者が回収して処理するにもCO2が排出されますね。つまり、不良品をつくらないよう製造工程の見直しや品質管理を徹底することが、脱炭素にも繋がるということです。

Q6. コンサルティングを行うなかで、さまざまな企業の事例を見てこられたと思いますが、記憶に残るエピソードはありましたか。

社内報のエコステージ通信

厨房設備のメンテナンスを行う企業ですが、換気扇等を廃棄する前に、社員の皆さんが分解し、金属類をリサイクル業者に買い取ってもらい、その代金で植林を行っています。廃棄物をリサイクルし、それを売った代金で植林を行うことで脱炭素と社会貢献もしているわけです。

さらに「エコステージ通信」と名付けた社内報をつくり、自社の環境活動と社会貢献活動などを社外へも発信しています。この会社は大規模施設の厨房清掃も行っているのですが、元請けの大企業にも定期的に「エコステージ通信」を送っていて、このような活動が評価され次の仕事に繋がっているそうです。Scope3の成果をあげたい大企業にしてみれば、積極的に環境問題に取り組む下請け企業に発注したいと考えるのは当然のことです。

Q7.  脱炭素経営をめざす東京都の中小企業の皆さんへメッセージをお願いします。

電気使用量やエネルギーを減らす省エネだけが脱炭素ではないのです。もっと広く、環境課題として捉えてください。おすすめするのは、若い社員の方に社会貢献に繋がるアイデアを出してもらうこと。

そのためには、トップの強い意識と手本を示すことが必要です。モノづくりの現場では馴染みの行動指針ですが、「3ム」(ムリ、ムダ、ムラ)を無くすことと、「5S」(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)の活動が基本ですね。資源の無駄遣いを無くし、仕事の生産性を上げ、エネルギーを有効利用し、廃棄物の削減を目指すことが、脱炭素へと繋がっていきます。脱炭素はESGの一つ、Environment(環境)の取組にあたりますが、Social(社会)やGovernance(企業統治)を考慮した取組も必要です。電気やエネルギーを減らすことだけに囚われないで、環境課題を解決する新しい物やサービスを世の中に出す。そして、本業の中で社会貢献できることがないか等、ポジティブな発想をもって取組を進めてください。

>>HTT実践推進ナビゲーターへのご相談はこちら
>>詳しい支援策を知りたい方はこちら