HTT実践推進ナビゲーター事業では、令和5年度(2023年)より毎月一回のペースで「HTTセミナー」を開催し、講師の方へのインタビュー記事を掲載してまいりました。令和7年度は2025年5月から2026年2月まで全10回を開催。参加された皆様にはアンケートにご回答をいただき、脱炭素経営に関する意識調査も行ってまいりました。今回は、令和7年度に開催したセミナーとインタビューを振り返るとともに、アンケートの回答から見えた中小企業の取組状況についてもお伝えします。
令和7年度のセミナーは、新たな角度から知見を得ていただくため、株式会社NTTデータの南田晋作氏、エプソン販売株式会社の柴崎崇氏など、大企業のサステナビリティ担当者に登壇いただいた点が特徴のひとつです。中小企業の脱炭素経営を支援する、大企業の取組についてお話をいただきました。
株式会社NTTデータでは、インフラ企業の責務としてコンサルティングに頼らずとも簡単にGHG排出量を可視化できるプラットフォームを開発。取引先の大企業や金融機関を通じて提供することで、中小企業の排出量可視化を支援しています。一方、エプソン販売株式会社は中小企業の脱炭素経営を支援する「グリーンモデル推進」活動をスタートして、EcoVadis(エコバディス)やSBTなど、難解な国際評価機関の認定取得を支援しています。また、同社はプリンターメーカーでありながらペーパーレスを推進。紙の使用量削減だけでなく、出力にかかるエネルギーコストやCO2削減に着目していることも特筆すべき点でした。
経営戦略のプロであるコンサルタントの方々からは、脱炭素経営をビジネスチャンスに変える方法について提言がありました。株式会社Strategic K代表の渡邊圭氏は、社会的価値と経済的価値を両立させるCSV(Creating Shared Value)の考えにもとづき、社会貢献を通じたビジネス戦略の方法について伝授いただきました。また、株式会社KAZコンサルティング代表の鈴木和男氏からは、「脱炭素は当たり前の時代、環境問題を含めた取組が必要」とのお話があり、製造工程の見直しや品質管理を徹底することがCO2削減につながること、それを実践して事業成長した企業の事例もご紹介いただきました。
■令和7年度開催 HTTセミナー一覧

脱炭素経営については「他社の動向が気になる」という声が多く聞かれるため、令和7年度の新たな試みとして、脱炭素経営を実践する中小企業によるパネルディスカッションを2回にわたって開催しました。第1回 経営と脱炭素の両立 中小企業における取組のリアルとはは、消費電力を見える化する装置を開発した株式会社エニマス、省エネと創エネで社屋のZEB化を実現した株式会社リーテム、補助金や支援制度を活用して事業成長につなげた株式会社ヨシザワの3社が登壇。ピンチをチャンスに変えた経緯が、当事者のリアルな言葉で語られました。
第2回 脱炭素経営が未来をひらく 中小企業のための成長戦略は、IT企業、土木建築業、鋳造業と、異業種3社の担当者が登壇。IT企業のテレネットジャパン株式会社はSDGsを旗印に全社一丸となって省エネを推進、有限会社鈴木建材店はエネファーム普及をきっかけに低炭素住宅を手掛け、脱炭素ビジネスの展開を進めています。また、鋳造業の中島合金株式会社は、従業員の作業環境改善を目的に電気炉を導入し、工場の屋根には太陽光パネルを設置。高エネルギー消費が避けられない業種であっても、省エネと創エネの両面で脱炭素化を実践する具体的なアイデアが示されました。
現場の生の声を届けるパネルディスカッションは注目を集め、各回ともに多くの方がオンラインで参加しました。参加者からは「現場の生の声が聞けてよかった」「脱炭素活動を前向きに取り組むヒントを得られた」「企業の規模や状況に応じてさまざまな方法があることを知った」「具体的な事例が大変参考になった」「補助金の活用方法がわかりやすかった」など、数多くの好評を得ました。中小企業の脱炭素経営における課題への向き合い方や、外部支援の活用方法など、パネリストの経験談から取組を加速させるヒントを得られたのではないでしょうか。
脱炭素経営の推進にあたっては、世界情勢を視野にいれつつ、政府の施策を注視する必要があります。脱炭素に関わる国内外の動向を知るため、各界の専門家にもご登壇いただきました。
エネルギーと環境をテーマに経営戦略の支援を行う合同会社桑島技術士事務所の桑島哲哉氏は、大企業の取組が加速するのにともない、ここ数年でSBT認証を取得する中小企業が急増していることを指摘。自社排出(Scope1、2)の削減だけでは限界もあり、中小企業においてもScope3を視野に入れた取組が急務との提言をいただきました。また、2025年12月のセミナーでは、監査法人トーマツの松永隼太氏が、2026年4月に開始される日本のサステナビリティ情報開示基準SSBJについて解説。制度開始によってサステナビリティ課題は経営戦略の中核となると指摘し、大企業のScope3開示が義務化されることで、今後はサプライヤーである中小企業にも一層の対応が求められることが示唆されました。
一方、「カーボンニュートラル達成には劇的な削減努力が必要」と切実に訴えたのは、環境省の井上雄祐氏。4月に始まる排出権取引制度については「課徴金による強制履行でもある」と、国の脱炭素政策に対する本気度を示されました。同時に、国や自治体による支援策の活用を強く推奨されています。そして、令和7年度の締めくくりとなる2月には、株式会社山本技術経営研究所代表の山本肇氏が登壇。「2026年、迫られる中小企業の脱炭素経営」と題し、世界情勢がいかに変化しようとも、GX戦略により経済成長と脱炭素を両立させる日本の方向性に揺らぎはないと、力強いメッセージをいただきました。
ここでは、令和7年度のセミナー参加者が寄せたアンケート回答をもとに、中小企業における脱炭素経営の動向について検証してみます。まずは申込み企業数を業種別内訳で比較したところ、製造業が189社と圧倒的に多く、次いで学術研究・専門・技術サービス業が129社、卸売業・小売業が90社となりました。製造業においては工作機械などによるエネルギー消費が高く、昨今のエネルギー価格高騰の影響は深刻です。そのため、エネルギーコスト削減につながる脱炭素経営が喫緊の課題であることが推察されました。
■お申込み企業の業種

次にセミナーの参加理由をみると、「社会課題として当然取り組むべきと考えているから」という回答が突出しており、気候変動やエネルギー問題に対する危機感、社会的責任への意識が浸透していることが窺えました。また「自社の成長につながる」や「コスト削減につながる」という回答も多く見られ、脱炭素経営を単なるCSR活動ではなく、経営戦略として取り組む傾向にあることがわかります。一方で「取引先から脱炭素に向けた取り組みを求められている」という回答も増加傾向にあり、排出権取引制度やサステナビリティ情報開示基準SSBJへの対応を見据え、中小企業への要請が本格化しつつあることが推察されます。サプライチェーン排出量削減に向けた動きが加速していることの表れともいえそうです。
■セミナー参加理由

また、脱炭素経営の課題については「情報不足」を挙げる回答が多く、多くの中小企業が具体的な進め方を模索している状況が見えてきます。各セミナーに対する感想としては、「支援策やコスト削減のメリットを理解できた」「Scope3の算定方法がわかった」などといった声が寄せられており、情報提供の場を設ける重要性が浮き彫りとなりました。一方で「人材・人手不足」や「資金不足」を課題とする声も多くあり、専門家による伴走支援や助成金制度など、国や自治体による支援策の認知が十分とはいえない状況が見て取れ、さらなる情報発信が必要であると考えられます。
■脱炭素経営の課題


セミナー登壇者の話や参加者のアンケートからは、中小企業における脱炭素経営が「検討段階」から「実践段階」へと明確に移行していることがわかります。多くの中小企業が脱炭素を単なる社会貢献ではなく、「経営戦略」として捉え始めていることも感じられます。その一方で、「情報不足」を訴える声も多く寄せられ、さらなる情報発信が必要であることも浮き彫りにされました。HTT実践推進ナビゲーター事業は、今後も東京都が推進する支援策をご案内するとともに、脱炭素経営に役立つさまざまな情報を発信してまいります。ナビゲーターへのご相談も承っておりますので、お気軽にご相談ください。
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