HTT実践企業インタビューInterview

株式会社エニマス様

まずは「へらす」が先決。
そのためには「見える化」が必須なのです。

株式会社エニマス
代表取締役 小林昌純様

POINT
  • 自社の照明の消費電力把握のため「電力の見える化装置」を開発し、新たなビジネスを開拓
  • 見える化により、工作機械の待機電力削減や工場内の温度調整など様々な運用改善を実現
  • 脱炭素化を目指す企業へのソリューション提供

脱炭素化への取組には「まとまった先行投資が不可欠」と思われている方々も多いのではないでしょうか。しかし、「電力の見える化」が「エネルギーコスト削減の道筋を照らすことに繋がる」と語ってくださったのは、株式会社エニマスの小林昌純さんです。今回は、自社の脱炭素経営を進めていく過程で電力の測定装置を開発し、新たなビジネスチャンスを開拓するまでに至ったかつてない成功事例を紐解きます。

補助金活用の失敗から学び、生まれた、
「電力の見える化」を叶える〝ENIMAS(エニマス)〟

部品加工業の分野で40年以上にわたってものづくりを続けてきた、株式会社エニマスの親会社であるコバヤシ精密工業株式会社。その2代目代表として経営改革を進めていた小林さんは、自治体の「省エネ補助金制度」を活用し、自社工場の照明設備刷新に踏み切りました。

小林代表「補助金の申請書には〝この取組によって電気代が下がる〟といった誓約事項があるわけです。ところが翌年、仕事が忙しくなって新型の工作機械を3台導入したところ、思いがけず消費電力が跳ね上がってしまったのです」

行政機関からは契約違反と伝えられ、小林さんは悔しさを噛みしめたといいます。

小林代表「照明のLED化によって確実に消費電力は抑えられました。その上で事業が順調に発展したにもかかわらず、補助金の返金を言い渡されたことに大変なショックを受けました。そこでLED化以前と以後を調べあげ、照明の消費電力がどの程度下がったかをお役所に提示したいと考えました。それが、電力測定装置〝エニマス〟を開発する原動力になり、今となっては感謝の念しかありません」

相模原市商工会議所の下部組織である相模原市青年工業経営研究会に所属していた小林さんは、当時、同じ若手経営者の仲間たちに「電力を測る装置を作れないだろうか?」と相談を持ちかけました。もともと相模原市はものづくりの街であり、多士済々のメンバーがそれぞれの知見と技術を持ち寄り、部品加工、基盤製作、プログラム、アプリ開発などを経て、エニマスの初号機が完成しました。

小林代表その装置で工場の消費電力を調べたところ、照明は全体の3%以下。95%以上は工作・加工機械に拠ることがわかりました。ちなみに新しい機械を1台導入すると、それだけで約10%の電力が上積みされます。これでは、前述の結果になるのは当然の成り行きですよね」

時を経て現在、エニマスは相模原市役所に51台が納入され、市庁舎の消費電力をモニタリングしています。2020年に菅義偉元首相が2050年カーボンニュートラル宣言を行ったことを追い風に、経済産業省の「事業再構築補助金」を活用しながらエニマスの製品化と事業化を推し進めた結果でした。

小林代表「興味深いことに市庁舎では、水曜日だけ消費電力が15%ほど下がるんです。なぜだと思いますか?それは〝ノー残業デー〟だから。つまり、仕事の生産性を上げて毎日の業務を定時で終えることができれば、それだけで15%の省エネが叶い、結果、CO2の削減に繋がるということになります」

脱炭素化への資金を捻出するためにできること
それが何かは「見える化」で見極める

コバヤシ精密工業では〝消費電力の見える化〟によって、さまざまな対策を講じてきました。エニマスは各機器の配線ごとに設置することで、電流値をリアルタイムで検出できる機能を持っています。前述の通り、測定したデータでは全体の95%以上を工作・加工機械が消費していました。中には、使用頻度が極めて低いのに待機電力消費が高い機械も見つかりました。

小林代表「例えばドイツ製の5軸工作機は、電圧が三相交流で400V。トランス(変圧器)を介して日本の200Vに対応させます。調べたところ、機械本体の電源をオフにしていても、このトランスが電力を消費していました。そこで、私たちはトランス側にもブレーカーを設け、機械を使わない時は一切の電力供給が遮断されるようにしたのです。」

小林代表「また、コンプレッサーを1台から2台に増やすことでも電力消費を抑えています。通常は機械の台数を増やせば電力消費は〝上がってしまう〟と考えるでしょう。しかし電気使用量というものは電流値の2乗に比例して上がっていくもの。仮に70Aの機械1台と、26Aの機械2台を比較すると、前者が後者の4倍以上の電力を消費するのです。当社の場合は1台で14kWhだったところを、2台に分けて負荷を和らげたことで1台あたり5kWhとなり、結果4kWhの節電が可能になりました」

他にも、エニマスの活用によって見えてきた運用改善策は多岐にわたります。

・コンプレッサー室の温度調整(季節や外気温に連動した換気扇の稼働調整)
・工場全体の空気の流れ(バランス)を調整することで換気効率アップ
・空調室外機の定期的清掃
・断熱窓の設置による空調効率の向上


また、夏場のエアコン温度を29℃に設定し、その代わりに工場内にサーキュレーターを設置。とある経営塾にともに参加したアパレル企業の代表者さんに相談し、ミストによって脇の下や首筋を冷やすポロシャツを開発したり、従業員に保冷ベストを提供。工場内を循環した空気が流れてこれらの冷感ポロシャツや保冷ベストを着用した従業員の体感温度を下げ、作業効率が格段にアップしたのはいうまでもありません。設備の運用改善にとどまらず、従業員が働きやすい環境づくりにも取り組むなど、細やかな工夫や試行が重ねられていきました。

保冷ベスト着用により体感温度を下げる
見える化画面のイメージ図

小林代表現状を把握するだけではなく、なぜ、これほど電力を浪費しているのかという因果関係を見つけることが重要です。当社の場合、一昨年と昨年の比較データを見ると、使用電力の削減量は11.6万kWにのぼりました。電気料金に換算して480万円ほどの節約になったでしょうか。私たちのような製造業は、500万円の利益を生み出すために数千万円から1億円の売上をあげなきゃいけない。つまり、こうした取組は1億円分の仕事をしたのと同じことになるんです

電気代が下がるということは「利益」を生むのと同意。その利益を、次の一手を打つための「原資」にするという考え方です。

小林代表「脱炭素化というと、それなりに設備投資が必要だとお考えになる方も多いでしょう。省エネタイプの機械に買い替えたり、クリーンエネルギーを導入したり、太陽光パネルや蓄電池の設置をする前にもできることがあります。私は東京都のHTTに深く共感していて、特に『へらす』が最も優先度の高い取組だと思っています。まず『へらす』を徹底して原資となるお金を貯めて、そのあとで老朽化した設備を刷新し、『つくる』や『ためる』へと段階的に歩みを進めていってはいかがでしょうか

試行錯誤の末に得たナレッジをビジネスに転化
その先進的な活動が各方面から注目を浴びています

こうして培われた多彩なノウハウを他の事業者にも還元したい。そう考えた小林さんは、やがて株式会社エニマスを設立。自社の「見える化」のために開発したエニマスも、その後はさまざまな機能が盛り込まれ、幾度となくアップデートを繰り返したことで使い勝手を向上させています。現在は情報関連機器の販売会社との協働でエニマスを商品化するとともに、脱炭素経営を志向する全国の企業にそのソリューションを提供しています。

小林代表「冒頭で触れた相模原市以外にも、川崎市や南足柄市がこのエニマスに興味を示してくださっています。また、さまざまな企業の皆様ともコンサルティング契約を締結し、脱炭素化におけるあらゆる提案を行っています。しかしながら、脱炭素化を叫んでも現場の反応が芳しくない場合も多いです。経営陣はもとより従業員の皆さんも同じ方向を向かないと、取組は前に進みません。例えば、関西のとある企業では年間9,000万円の電気代を支払っていました。代表は『脱炭素化なんて二の次。まずは電気代の削減が急務だ!』と仰っていたほどです」

そこで小林さんは、年間9,000万円におよぶ電力料金のうち1,200万円の支出減を宣言。さらに従業員の皆さんがプロジェクトを後押ししてさらなる省エネを実現した場合、その分の利益を「ボーナスとして社員に還元してはどうか?」という提案をされたのだそうです。同企業代表はその申し出を快諾し、社員一丸となって対策に取り組む土台づくりに成功しました。

小林代表「来冬のボーナスが上がるとなれば、皆さんの参加意欲を大いに刺激できると考えました。結局、脱炭素化だけをクローズアップしてもうまくいかないんです。対策を立てて皆で取り組んだ結果、電気代が削減され、CO2排出量が抑制できたという流れが好ましい。『自分ごと』として捉えてもらうことが重要だと思うんです」

また、チェーン店を全国展開するある外食系企業では、各店舗にある冷蔵室の運用について見直しを図ったといいます。当然ながら、旧式の機材を使い続けている店舗ほど消費電力は高く、新型の省電力機器を導入した店舗ほど消費電力が抑えられていました。

小林代表「ところが、年式が浅い設備を導入している店舗でも、古い設備の店舗とさほど変わらない状況が見受けられました。各地の現場を視察したところ、冷蔵室の入口にビニール製の簾がかけられている店舗と、そうでない店舗があることが見えてきました。たったこれだけのことで両店舗の消費電力量の差は実に35%も違うことがわかったんです

この企業では、年間の電力料金が数十億円にのぼるのだとか。仮に全店舗を均して全体の約20%の消費電力が削減できれば、数億円から十数億円の節約につながることも期待できます。

小林代表「繰り返しになりますが、設備を最新式に入れ替えるだけが対策ではないのです。見える化によって、今できること、やるべきことが見えてきます。そして因果関係を見極め、対策を講じ、再びどれほどの効果があったかを測定します。効果がなければ因果が崩れているということですね。効果があれば、こまめにやり続けること。それを文化にしてほしいのです」

手段を目的化することなく、あらゆる手段を洗い出して対策に変えチャレンジを継続していく。そのマインドを持つことこそが大切だと小林さんは語ります。

小林代表「日本は2030年までの温室効果ガス削減目標を46%減(2013年度比)に設定しています。当社は既に27%削減を達成しましたので、あと数年かけて19%削減を頑張るということになります。現状の取組で得た原資をもとに空調設備の3割を最新型に入れ替えれば約10%は達成できるでしょう。となると残りの9%は太陽光発電で賄おう、というプランが見えてきます。2030年までになんとか間に合うという算段です。こうした取組を全国の中小企業・小規模事業者500万社がコツコツと進めたら、凄いことになると思いませんか? 『将来の子どもたちのために』などと申し上げると綺麗事に聞こえるかもしれませんが、私たちが今やらなければ、私たち自身も、子どもたちも、生きられない世界になってしまいます」

そんな小林さんの先進的な理念と模範的な取組の数々に地元の各金融機関も賛同し、企業間マッチングという形でエニマスの普及をバックアップしています。また、これらの取組は、川崎市が主催する「かわさき起業家オーディション」の「かわさき起業家賞」をはじめ、数々の賞を受賞。奇しくも取材日には経済産業省が後援する「2023年省エネ大賞」の受賞が内定しました。

小林代表「人は豊かな暮らしを享受してきた分、自然を傷めつけ、ないがしろにしてきました。私たちも、エニマスを作ったから終わり……ではありません。これからも脱炭素化の必要性や取組方法について、わかりやすく発信していくのが私たちの責務だと考えています」

大学では環境工学を学び、一度は大手建築会社に就職したものの、やがて家業の製造業を承継した小林さん。その横顔には、今こうして再び環境問題の解決に向き合っている充実感と、「すべては省エネから始まる」という強い信念が窺えました。

企業プロフィール

  • 株式会社エニマス
  • 東京都町田市原町田4-11-13
  • 電気、電力の測定装置およびアプリケーション・ソフトウェアの設計、開発、製造、販売
  • 8名
  • https://enimas.co.jp/
  • 2024年9月

全日空モーターサービス株式会社様

脱炭素は避けられない課題。
全社一丸となって取り組んでいます。

全日空モーターサービス株式会社
企画総務部 マネージャー 竹中啓光様

POINT
  • 東日本大震災をきっかけに照明のLED化や空調設備の更新を実行し、電力削減目標を達成
  • 日本の航空業界初、廃棄対象地上支援器材のEV車両へのアップサイクルを実現
  • 再エネ導入やリニューアブルディーゼルの販売など、目標達成へ向けてあらゆる施策を実行

今回ご紹介するのは、地上支援器材を通じて航空機の運航を支えるANAグループのエンジニアリング・カンパニー、全日空モーターサービス株式会社様。ANAグループが掲げる2030年、2050年の目標達成に向けて、あらゆる手段を模索する脱炭素の取組をご紹介します。

ANAグループの一員として、
2030年、2050年の目標実現をめざす

全日空モーターサービス株式会社は、ANAホールディングス株式会社の子会社として1969年に創立。羽田空港の敷地内に社屋と整備場を構え、各種地上支援器材や空港設備のメンテナンスを行っています。地上支援器材とはGSE(Ground Support Equipment)と呼ばれる機器で、空港で見かける航空機の牽引車やタラップ車、貨物や手荷物を積み降ろすベルトローダー車などもそのひとつ。全日空モーターサービスは、主に羽田空港内にあるANA保有のGSEをメンテナンスしていて、その数は約40種、2,800台にも上ります。これらGSEの車両整備事業のほか、ボーディングブリッジ(PBB)の製造、販売、メンテナンスを行う空港機事業、GSEなど空港内で稼働する車に燃料を供給する油脂事業を含め、3つの事業を柱として展開しています。

航空業界の脱炭素といえば、CO2を大幅に削減できるSAF(Sustainable Aviation Fuel:廃油やエタノール、バイオマス燃料などから製造)への切り替えが期待されるところですが、供給量の低さと高価格から普及率は非常に低いのが現状です。空における排出量削減の困難を補う意味でも、地上における脱炭素の意義は大きいといえるでしょう。企画総務部マネージャーの竹中啓光さんは、航空業界における脱炭素の背景とグループ全体の目標について、次のように語ります。

竹中さん「航空機はC02を大量に排出しますので、温暖化問題ではいろいろな意味で注目されています。ヨーロッパなどでは一部の利用者が鉄道にシフトする流れも出てきていますし、事業を継続していくうえで、脱炭素は避けては通れない課題なのだと思っています。ANAグループでは2050年のカーボンニュートラルに向け『2030年中期環境目標』を設定していて、航空機事業については2019年度比10%以上の削減、弊社のような航空機以外の事業については33%以上の削減と、脱炭素に向けた高い目標が掲げられています。それぞれ取組内容についても細かく定められていて、我々もそれを目標として取組に力を入れているところです」

全日空モーターサービスでは、照明のLED化や空調設備の更新など、HTTに繋がるような取組は早い段階から行われていて、そのきっかけとなったのが東日本大震災でした。2011年3月11日に発災した東日本大震災では、地震と津波により東北地方に未曾有の被害がもたらされ、福島第一原子力発電所では史上最悪レベルの事故が発生。東日本地域全体で計画停電が行われ、災害時におけるエネルギー供給の脆弱性が露呈したことは記憶に新しいことと思います。

竹中さん「羽田空港において計画停電はなかったのですが、東日本大震災を機にエネルギー供給に対する危機感が一気に高まったと感じています。古くなった空調を更新したり、照明の一部についてLED化を行ったり、いまで言うHTTに繋がるような省エネの取組を進めました。グループ全体で電力削減の目標が定められたのですが、空調更新による効果が思いのほか大きくて、当社の目標はそれだけで達成することができました

技術者たちの挑戦として始まった
廃棄対象の地上支援器材をEV車両へ

今年の5月、全日空モーターサービスは、飛行機への手荷物搭載時に使用するベルトローダーをEV車両へアップサイクルしたことを発表。9月には羽田空港における運用開始を予定しています。日本のエアライングループにおいては初の試みで、地上における脱炭素の取組として、航空業界をはじめ各界で注目を集めています。

竹中さん「このアップサイクルは技術者たちの脱炭素化に寄与する挑戦としてスタートした取組でした。EV化したのは成田空港で使用され、2022年に廃棄対象となっていたベルトローダーです。エンジンをおろして、EV専用のモーターとバッテリーを積むわけですが、設計から電気配線まですべて自前で行ったため難儀もしましたが、電気自動車協会等のご支援もいただいて実現することができました。車両走行はもちろん、荷役部分の稼働を含めてすべての動力が電力となっていて、60分程度の充電で羽田空港における1日の運航便に使用することを想定しています。ベルトローダーはだいたい20〜25年使用して廃棄されますが、修復してEV化することにより、さらに15年ほど寿命が延びると想定していて、アップサイクルによる廃棄物の削減にも貢献できると考えています」

アップサイクルしたベルトローダー
ベルトローダーとANA Future Promise Jet

同社では2台目以降のアップサイクルも考えていて、ビジネスに繋げることを視野に入れ、修復・EV化の費用と時間を効率化して、脱炭素に向けたソリューションの一つとして育てることを目指しています。このように既存GSEのEV化を進める背景には、2030年の目標に向けて取組を急ぐ必要に迫られている実情もあります。

竹中さん「国内ではGSEをつくるメーカーがほとんどないため、いまは多くが海外製です。ヨーロッパで行われるGSEの展示会を視察した社員からの報告では、世界的にGSEのEV化が流れになっていて、国内におけるEV化も急がれているところです。ANAでも2030年の中期目標への取組として空港車両のEV化促進を目指していますが、円安で海外製は割高なうえ、調達にも時間がかかることもあり、買い替えだけでは間に合わないのが現状です。そうした背景もあり、既存GSEのEV化については今後も進めていきたいという考えがあります」

ならば、羽田空港におけるGSE車両2,800台すべてをEV化できるかというと、そこには別の課題があるといいます。

竹中さん「車だけEV化しても、電力のインフラが進まないとどうしようもありません。関係各所も、羽田空港内の各所に充電器の設置を進めていますが、すべてのGSEをEV化すると電力量が追いつかなくなる恐れがあり、現状のEVでは充電時間が長いという問題もあります。羽田空港の臨海エリアでは水素供給のネットワーク構築も進められていますので、将来的には水素も含めて考えることになると思います」

太陽光パネルの設置、リニューアブルディーゼルの活用、
目標達成に向けあらゆる方策を試みる

一方、空港内の車に燃料を給油する油脂事業においては、空港内の給油所に太陽光パネルの設置を進めるなど、グループ目標達成に向けてあらゆる方策を試みています。

竹中さん「太陽光パネルについては、建物の屋根に乗せられるか構造計算をしているところです。空港内の施設なのでさまざまな制限があり、航空機の運航に支障がないよう、パネルの反射率を調整する必要も。同時に風力発電機器も設置できないかを考えていて、可能か否か多方面に確認中です。給油所の再エネ導入に関しては、脱炭素の意味もありますが、災害時に給油ポンプを稼働するためのBCP対策としての必要性も感じています。そのほか、油脂事業としては東京都の『バイオ燃料活用における事業化促進支援事業』を活用したANAの取組として、環境負荷の少ないリニューアブルディーゼルの販売も行っています。価格や供給量を考えると、実際に普及するのはまだ先の話かもしれませんが、目標達成に向けてはあらゆる方策が必要ということでしょう。当社でいえば、EV車への買い替えが必要ですし、既存GSEのEV化も必要。間に合わなければリニューアブルディーゼルも入れる、ということなのだと思います」

EV車
GSE用充電器

やれることはなんでもやる。そうした思いは会社全体に浸透していて、社員たちが知恵を出し合って生まれたアイデアが、ANA主催のアワードにおいて企業理念を体現した取組として最優秀賞に選ばれました。

竹中さん「整備に使うオイルの空き缶が多量に出るのですが、かさばるので空き缶置き場がすぐに一杯になってしまい、週に1度は回収業者さんに来ていただいていました。そこで、缶を潰せば一度に回収できる量を増やせると考えて、社員たちが仕事の合間に一斗缶を7分の1程度に潰す道具『ぺっちゃん缶』を作ったのです」

竹中さん「これは回収作業の負担軽減になると同時に回収車が排出するCO2を削減することもできるため、協力企業さんのメリットに繋がる取組でもあります。当社はANAの子会社でみなし大企業ではありますが、人員数を考えると悩みどころは中小企業の皆さんと一緒です。こうした事例のように、互いにウィンウィンの関係が築ける会社でありたいと思っています」

最後に、中小企業が脱炭素に取り組むうえで大切なことについて尋ねると「なによりも経営トップの強い意志。トップの強いメッセージがあればこそ自信を持って進められる」と、竹中さんは答えます。排出量削減に向けた技術的課題も多く、脱炭素が難しいとされる航空業界ですが、同社においてはグループトップのANA本社が掲げる明確な目標とメッセージに向けて、より強い使命感をもって取組を進めている様子が印象的でした。

企業プロフィール

  • 全日空モーターサービス株式会社
  • 東京都大田区羽田空港3-5-6
  • 航空機地上支援器材の保守管理、メンテナンス、開発、設計、製作、販売、および石油製品の販売
  • 116名(2023年4月1日時点)
  • https://www.anams.co.jp/
  • 2024年9月

株式会社ヨシザワ様

中小企業診断士の伴走支援と補助金の活用で、
赤字体質を脱却し経営改革ができました。

株式会社ヨシザワ
代表取締役 吉澤伸弥様

POINT
  • 補助金や伴走支援制度の積極的活用で、経営改革を実現
  • LED照明への換装や営業車をハイブリッド車へ替えることで、「電力をへらす」を実現
  • 水素ステーションや水素運搬船など、水素関連事業も積極的に手掛けている

今回ご紹介するのは、金属切削加工業の株式会社ヨシザワ様。補助金や伴走支援制度を積極的に活用して経営改革を進めた代表取締役の吉澤さんにお話を伺いながら、脱炭素経営にも役立つ公的支援の活用方法を探ります。

一社依存から抜け出すために、
補助金活用で新たな機械導入をめざす

日本有数の「ものづくりのまち」として知られる大田区で1941年に創業。以来、半世紀を超えて精密機械や生産設備の部品づくりに携わってきた株式会社ヨシザワの三代目として、吉澤伸弥さんが事業を引き継いだのは12年前のことでした。当時、大手メーカー一社に売上を依存していたヨシザワは、リーマンショックの煽りで発注が止まり、倒産寸前の状態だったといいます。

吉澤代表「会社をたたむか、お前が借金ごと引き継ぐか、どっちがいいんだ? そう言われました。子どもの頃から自分が継ぐものだと教え込まれていましたし、迷いはなかったですね。うちの一番の問題は、一つのお客さんに依存していたことなんです。当時は液晶テレビの仕事に寄りかかっていましたが、その仕事がストップした途端に立ちゆかなくなった。私が引き継いだ後も景気のいい半導体関連のお話をいただくこともありましたが、うちの規模だと1点請けるだけで手一杯になっちゃう。営業しなくても仕事がくるので楽なんですけど、液晶テレビと一緒でブームが終われば仕事もおしまいですから。もう一社依存はしない、そう心に決めて全部お断りしていました。うちは腕のいい職人さんもいて技術力には自信があったので、必死になって営業してまわり小さな仕事も引き受けて、少しずつ盛り返していきました」

営業努力の甲斐あって経営の危機は脱したものの、当時のヨシザワは借入金の利息を払うのが精一杯の状態でした。それでも一社依存はせず、少量でも多品種の仕事を請け負う体制づくりを目指すため、吉澤さんは補助金活用による新たな設備の導入を試みます。

吉澤代表「当時は借入金の利息だけを返している状態で投資する余裕がなかったのですが、補助金制度を使えば新しい機械を入れられると知ってチャレンジしてみたんです。提出書類は自分でつくりましたが、出しても、出しても採択されずに落ちるんです。そんなことを4、5回も繰り返していました」

補助金と伴走支援の活用を通じて
5年、10年先を見越した事業計画が可能に

長らく補助金申請に苦戦していた吉澤さんですが、ついには「ものづくり補助金」に採択され、新しい機械設備の導入に成功します。「ものづくり補助金」とは中小企業を対象に設備投資を支援する制度で、申請に際しては事業計画書の提出が求められ、その内容は慎重に審査されます。採択に辿り着く転機となったのは、政策金融公庫から借り入れる際に活用した、6カ月にわたる伴走支援制度でした。事業者に寄り添う中小企業診断士の的確なアドバイスにより、補助金を活用した経営改革の道筋が見えてきたといいます。

吉澤代表「中小企業診断士の先生からは、まずは返済計画を見直して赤字から脱却し、担税力のある会社になることが先決だといわれました。補助金制度もそうですが、その先生に6カ月にわたって指導していただける伴走支援も、税金によってまかなわれているわけです。税金を納める力をつけて、税金でつくられている補助金や支援制度をしっかり活用する、そういう、公的支援制度の根本を教えていただきました。第三者の視点で経営を見直す大切さを知ることで、思い切って借入金を精算することもできて、『ものづくり補助金』にも採択されました。そこがうちにとって本当のリスタートだったと思います」

また、補助金活用で申請書類を書き続けたことで、事業計画を練り直す習慣ができたのも大きな収穫でした。「それまでは2ヶ月先まで仕事が入っていれば満足していたのですが、5年後、10年後を見据えた経営を考えられるようになりました。これも中小企業診断士の先生に教えて頂いたことです。以前は銀行から催促されて事業計画書を作っていましたけど、今は自分から定期的に作り替えて押し売りみたいに配って歩いています」と、吉澤さんは笑いながら話します。

その甲斐あってか、これまでに「ものづくり補助金」に3回、「明日にチャレンジ中小企業基盤強化事業助成金」に3回、「躍進的な事業推進のための設備投資支援事業」に2回、「事業再構築補助金」、など、数々の補助金申請に採択され、新たな工作機械を次々と導入。立型マシニングセンターだけでも加工サイズの違いで10台、旋盤やワイヤー放電加工機なども揃えて全18台となり、あらゆる要望に応えられる体制を整えました。

吉澤代表「外注に頼ることなく、小さな物から大きな物まで社内で作れるよう、千差万別の機械を揃えようと思いました。例えば、お客様が10点の品物について相見積もりを取った時、7点までは見積もりを返せる会社はいっぱいあると思います。でも、うちは10点全部の見積もりを返せる会社でありたい。他ではできなくても、ヨシザワだったらできる。そういってくださるお客様の期待に応え続けていきたいんです」

水素社会実現の一助となるよう、
熟練の職人と若い技術者の力を尽くす

サーフィン好きで週末になると海へ出かけるという吉澤さんは、海を愛する心から、温暖化や環境問題への意識もお持ちです。仕事では、営業車をハイブリット車に変え、工場の水銀灯照明をLED化するなど、HTTに繋がる活動にも積極的に取り組んできました。また、水素関連企業に勤めるサーファー仲間の縁で、加工の難しい特殊素材の製品製作を手がけ、水素事業に関わる仕事も請け負うようになりました。

吉澤代表「水素環境に耐えうる硬い金属で、それまで外注していた工場ではギブアップして作れなかったそうです。他ができないのになんでできるんだ? って驚かれましたよ。それがなぜ可能かといえば、機械だけじゃない、うちには熟練の職人から若く優秀な技術者までいて、技術がきちんと受け継がれている。つまり、多種多様な機械設備と腕のいい技術者の両方が揃っているからなんです」

これを機に加工技術の高さを見込まれ、水素ステーションや水素運搬船など水素事業関連の受注が増加。水素事業の推進はカーボンニュートラル実現に向けた東京都の重要施策でもあり、今後も売上の拡大が期待されそうです。また、水素関連の仕事に携わるようになって、脱炭素の意識がより高まったという吉澤さん。昨年には節電対策と働く環境の整備を兼ねて、大田区の助成金を活用して工場内の空調設備を更新したといいます。このたびはHTT実践推進ナビゲーターの訪問を機に、HTTや脱炭素化に向けた取組を行う企業として「HTT取組推進宣言企業」にもご登録いただき、脱炭素への意気込みをお示しくださいました。

吉澤代表「HTTの、つくる、ためる、についても、太陽光発電や蓄電池を設置したいと思っているのですが、建物の耐久性やスペースの問題などで今のところは設置できずにいます。ペロブスカイト太陽電池などの開発も進んでいますから、いつかは設置できるだろうと期待しています。 将来的には、営業車として水素自動車と水素トラックを入れたいですね。実現するには資金的な問題もありますが、水素ステーションを増やすなど社会環境の整備が何よりの課題でしょう。少しでも早く水素社会が実現するためにも、ヨシザワでつくった部品がお役に立てたらと願っています」

助成金事業のほか、伴走支援や税制優遇など、東京都には脱炭素経営に取り組む中小企業のための公的支援が多数あります。株式会社ヨシザワ様のように、第三者である専門家の意見が経営改革の道標になるケースも多数あります。まずはHTT実践推進ナビゲーターにご相談ください。

企業プロフィール

  • 株式会社ヨシザワ
  • 東京都大田区中央8-41-8
  • 精密部品機械加工、各種生産設備部品機械加工
  • 28名
  • http://www.4438.co.jp/company/
  • 2024年8月