「サプライチェーン排出量」と「Scope1, Scope2, Scope3」について

「サプライチェーン排出量」と「Scope1, Scope2, Scope3」について

カーボンニュートラルに取り組む中では、「サプライチェーン排出量」あるいは「Scope(スコープ)1、2、3」などの言葉を見聞きする機会も多いと思います。サプライチェーンとは、原材料の調達から製造、物流、販売、廃棄に至るまでの、企業活動の流れ全体をいい、そこから発生する温室効果ガスの排出量が「サプライチェーン排出量」であり、排出量を算定する国際基準が「Scope1、2、3」ということです。製造業だけの話?と思われがちですが、脱炭素経営の取組にあたっては、すべての業種において「サプライチェーン排出量」の把握が不可欠です。今回は、脱炭素経営のカギともいえる「サプライチェーン排出量」と、その算定基準である「Scope(スコープ)1、2、3」について解説します。

サプライチェーン排出量

サプライチェーンとは、原材料の調達から製造、物流、販売、廃棄に至るまでの、企業活動の流れ全体をいいます。例えば、コンビニエンスストアのおにぎりを作る食品加工業者の場合、主原料の米や具材、海苔のほか、製品を包むパッケージなど、さまざまな原材料を他の事業者から調達しています。調達した原材料をもとに自社の工場でおにぎりを製造、できあがったおにぎりは輸送業者などを介してコンビニエンスストアの店頭に並び、消費者に販売されます。ここに至るには、米を作る農家や魚介類の加工業者、消費者に届くまでの保管や物流の業者など、さまざまな他の事業者の活動による供給(Supply)の連鎖(Chain)が連なっています。

サプライチェーン排出量とは、この企業活動の流れ全体から発生する温室効果ガスを合計した排出量のこと。つまり、自社における直接的な排出だけではなく、サプライチェーンに関連する他の事業者の間接的な排出も対象になるということです。具体的には、自社内における燃料の燃焼や電気の使用などによる直接的な排出量だけでなく、購入した原材料やサービスの製造・輸送に伴う排出量、さらには販売した製品やサービスの流通、使用、廃棄などに伴う排出量が対象になります。

サプライチェーンにおける段階ごとに排出量を算定・把握することで、排出量削減のポテンシャルが大きい部分を明らかにして、効率的な削減対策の実施に繋げることがその目的といえます。また、サプライチェーン排出量を把握する過程においては、排出量について情報提供を働きかけることにより事業者間で理解が進み、協力して温室効果ガス排出量の削減を進めることも期待されています。

サプライチェーン排出量の算定

<Scope1、Scope2、Scope3>

サプライチェーン排出量を把握するためには、サプライチェーンの各段階における事業者の排出量データを収集し、積み上げていく必要があります。この時、まずは企業活動の中心に自社を据えて、購入した製品やサービスに関する活動を上流、販売した製品やサービスに関する活動を下流に区分して考えます。 環境省・経済産業省の基本ガイドラインでは、GHGプロトコル※1の基準に基づき、自社における燃料の燃焼や工業プロセスによる温室効果ガスの直接排出をScope1、自社以外から供給された電力、熱、蒸気の使用に伴う間接排出をScope2とし、サプライチェーンにおける上流・下流における間接排出(Scope2以外)をScope3と定義しています。

※1 GHGプロトコル
1998年に世界環境経済人協議会(WBCSD)と世界資源研究所(WRI)によって共同設立された組織。GHGプロトコルが発行したScope3基準は温室効果ガス排出量を算定・報告する際の国際的な基準になっています。

図1 サプライチェーン排出量におけるScope1、Scope2及びScope3のイメージサプライチェーン排出量におけるScope1、Scope2及びScope3のイメージ

さらにScope3は15のカテゴリに分類されていて、カテゴリごとに具体的な算定対象も示されています。Scope3のカテゴリと算定対象となる活動は以下の表の通りです。サプライチェーン排出量とは、このScope1、Scope2、Scope3の排出量をすべて足したものになります。

図2 Scope3のカテゴリ

カテゴリ 該当する活動(例)
上流 1 購入した製品 原材料の調達、パッケージングの外部委託、消耗品の調達
2 資本財 生産設備の増設
3 Scope1、2に含まれない燃料及びエネルギー関連活動 調達している燃料の上流工程(採掘、精製等)
調達している電力の上流工程(発電に使用する燃料の採掘、精製等)
4 輸送・配送(上流) 調達物流、横持物流、出荷物流(自社が荷主)
5 輸送・配送(上流) 調達物流、横持物流、出荷物流(自社が荷主)
5 事業活動から出る廃棄物 廃棄物(有価のものは除く)の自社以外での輸送、処理
6 出張 従業員の出張
7 雇用者の通勤 従業員の通勤
8 リース資産 自社が賃貸しているリース資産の稼働
下流 9 輸送、配送(下流) 出荷輸送(自社が荷主の輸送以降)、倉庫での保管、小売店での販売
10 販売した製品の加工 事業者による中間製品の加工
11 販売した製品の使用 使用者による製品の使用
12 販売した製品の廃棄 使用者による製品の廃棄時の輸送、処理
13 リース資産(下流) 自社が賃貸事業者として所有し、他者に賃貸しているリース資産の稼働
14 フランチャイズ 自社が主宰するフランチャイズの加盟店Scope1、2に該当する活動
15 投資 株式投資、債券投資、プロジェクトファイナンスなどの運用
その他 従業員や消費者の日常生活

<Scope3排出量の重複算定>

全ての国内企業がサプライチェーン排出量を算定した場合、各社におけるScope1、Scope2排出量を総和すると、その数字は日本企業全体のCO2排出量の総和ということになります。しかし、Scope3を含めたサプライチェーン排出量を総和すると、図3のように企業Aと企業Bのサプライチェーン上の活動が重複している場合、排出量が重複してカウントされることも考えられます。このようにScope3の排出量は重複算定される可能性があるため、日本全体の排出量にならないと違和感を覚える方も多いようですが、目的はそこにありません。サプライチェーン排出量は、自社だけではなく企業活動の上流・下流における他者の削減活動までも評価することで、企業間で連携して排出量削減の取組を実施しやすくなり、より効果的にカーボンニュートラルを推進するための手法といえます。

図3 Scope3排出量の重複算定Scope3排出の重複算定

参考・引用:
環境省「サプライチェーン排出量算定の考え方」
環境省「物語でわかるサプライチェーン排出量算定」
環境省/経済産業省「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン」

「ゼロエミッション」の意味や「カーボン○○」の違いについて解説します!

例えば、よく耳にする「カーボン○○」という言葉。そもそもカーボンとは炭素を意味する言葉なのに、環境関連用語においてはCO2(二酸化炭素)を指して使われています。あるいはCO2の排出を意味するエミッションに関わる言葉なども多くあり、世間には知っているようでよく知らない環境関連用語があふれています。今回は「ゼロエミッション」「カーボン○○」など、基本の環境関連用語を紐解きながら、脱炭素化に向けた世界の潮流と国の政策、東京都や企業の取組についても解説していきます。

ゼロエミッションとネガティブエミッション

「ゼロエミッション」とは、1994年に国連大学によって提唱された環境問題に関する考え方で、“エミッション”は排出の意。産業活動で出される廃棄物を再利用するなどして、“廃棄物の排出”を“ゼロ”にすることを意味します。ここでいう廃棄物には、大気汚染物質、水質汚濁物質、温室効果ガスなど広義の廃棄物質が含まれますが、気候変動対策の観点からは、主にCO2など温室効果ガスの排出量ゼロを目指す言葉として使用されています。

一方「ネガティブエミッション」とは、大気中のCO2を回収あるいは吸収し、貯蓄・固定化することで、CO2を除去する技術を総称した言葉です。具体的には、植林や再生林、土壌炭素貯蓄などによる森林吸収、海藻など海洋植物に取り込むブルーカーボン、大気中から直接回収して貯蓄するDACCS などの技術があります。

東京都では2019年5月に行われたU20東京メイヤーズ・サミットにおいて、世界の大都市の責務として平均気温の上昇を1.5℃に抑えることを追求し、2050年までにCO2排出実質ゼロに貢献する「ゼロエミッション東京」の実現を宣言しました。ここでいう“実質ゼロ”とは、再生可能エネルギーなどによるCO2排出削減には限りがあるため、大気中に放出されてしまったCO2をネガティブエミッションなどの技術により吸収・除去することで“実質ゼロを目指す”ということです。
TOKYO ZERO EMISSION

出典・引用:
ゼロエミッションフォーラム
経済産業省「ネガティブエミッション技術について」
東京都環境局「ゼロエミッション東京」

カーボンニュートラル

2020年10月、政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「2050年カーボンニュートラル」を目指すことを宣言しました。“排出を全体としてゼロにする”とは、CO2など温室効果ガスの排出量から、吸収量と除去量を差し引いた合計をゼロにするということ。産業活動を続けるうえで排出せざるを得ない分については、植林や森林管理を進めてCO2の吸収量を増やしたり、ネガティブエミッション技術を活用して回収、貯留するなどして同じ量を差し引き、実質的にゼロを目指す、ということです。

気候変動問題の解決に向けた世界の潮流としては、2015年にパリ協定が採択され、世界共通の長期目標として「世界的な平均気温上昇を工業化以前に比べて2℃より十分に低く保つとともに、1.5℃に抑える努力をすること(2℃目標)」などの合意がなされました。この実現に向けて、120以上の国と地域が「2050年カーボンニュートラル」という目標を掲げています。カーボンニュートラルの宣言は国や地域だけではなく、企業においても目指す動きが進んでおり、宣言した企業のリストには日本企業の名前も多くあります。

引用:経済産業省「カーボンニュートラル」って何ですか?(前編)

カーボンハーフ

「カーボンハーフ」とは、2021年1月27日、世界経済フォーラム主催の「ダボス・アジェンダ」において、東京都知事が「2030年までに温室効果ガスを2000年比50%削減、再エネ電力の利用割合を50%まで高めていく」と表明した目標のこと。これは、2019年に宣言した「ゼロエミッション東京」の実現に向けては、2030年までの10年間の行動が重要との考えで取組を加速させたものです。東京都では、CO2を「ハーフ」にしていくことをめざし、都民・行政・企業などがともに行動を起こす「TIME TO ACT for カーボンハーフスタイル」を呼びかけています。
2030年カーボンハーフ目標と現状

引用:
東京都環境局「2030年までに温室効果ガスを50%削減する「カーボンハーフ」を知事が表明」
東京都環境局「2030年カーボンハーフに向けた取組の加速」

カーボンプライシング

脱炭素化社会の実現に向けた有効な手段の一つとして、欧州をはじめ世界で導入が広がりつつあるのが「カーボンプライシング」という方法です。企業などが排出したCO2に価格付け(プライシング)する仕組みで、排出量に応じて費用負担を求めるものです。温室効果ガス排出にかかるコストを明らかにすることで、脱炭素社会に向けた行動を促すことを目的としています。カーボンプライシングにはさまざまな手法がありますが、政府主導で行われるものとしては、主に以下の3つがあります。

  • ・企業などが燃料や電気を使用して排出したCO2に対して課税する「炭素税」
  • ・企業ごとに排出量の上限を決め、それを超過する企業と下回る企業の間でCO2の排出量を取引する「排出量取引制度」
  • ・CO2削減を価値と見なして証書化し、売買取引を行う「クレジット取引」

そのほか「石油石炭税」などエネルギーにかけられる諸税や、電気料金に上乗せされている「再エネ賦課金」(FIT賦課金)もカーボンプライシングに含まれます。「再エネ賦課金」は、再生可能エネルギーでつくられた電気を電力会社が買い取る費用の一部に当てられていて、今はまだコストの高い再生可能エネルギーの導入を支えています。

「炭素税」については欧州を中心に導入が進んできました。EU諸国のうちフランスや英国、フィンランドなどでは「排出取引制度」に加えて「炭素税」も導入しています。日本では、「2050年カーボンニュートラル」の実現を目指して、政府が法制化を進めている段階です。また、政府主導のしくみ以外にも、企業が独自に自社のCO2排出に価格付けをして投資判断に活用する「インターナル(企業内)カーボンプライシング」などの手法もあります。
カーボンプライシングの分類

引用:
経済産業省 資源エネルギー庁 「脱炭素に向けて各国が取り組む「カーボンプライシング」とは?」
環境省「カーボンプライシングの意義」

カーボンリサイクル

CO2を資源としてとらえて分離・回収し、コンクリート、化学品、燃料などさまざまな製品に再利用してCO2の排出を抑制しようという取組で、「2050年カーボンニュートラル」実現の鍵を握るテクノロジーとして期待されています。カーボンリサイクルは、化学、セメント、機械、エンジニアリング、化石燃料、バイオなど様々な事業分野で取組が可能であり、日本においては「カーボンリサイクル産業」と呼べる各種の産業が育ちつつあります。コスト削減や社会実装を進めていけば、新たな産業としてグローバル展開できる可能性もあります。

主な技術としては、CO2を吸収してつくったコンクリート製品や構造物、CO2で培養する藻類からつくるバイオ燃料、太陽エネルギーを使ってCO2と水から有機物(でんぷん)と酸素を生み出す「人工光合成」などがあります。カーボンリサイクルの過程ではCO2の分離回収に関する技術が重要になりますが、日本では発電所から高濃度CO2を分離回収する設備が実証段階に入っています。また、CO2回収プラントの実績では日本企業がトップシェアを誇っており、日本の産学が数多くの特許を取得しています。
CCUS

引用:経済産業省「CO2削減の夢の技術!進む『カーボンリサイクル』の開発・実装」