企業インタビューInterview

有限会社鈴木建材店様

地域や従業員のために続けてきた取組が
脱炭素への道を切り拓いてくれました。

有限会社鈴木建材店
代表取締役 鈴木徳光様

POINT
  • 補助金を活用し太陽光パネルと蓄電池を設置。日中の電力は再生エネルギーを利用
  • 古材のリサイクルで環境配慮も、省資源・省エネルギーを推進
  • 営業用EV車に加えて、更なる脱炭素化に向けEVワゴン車の追加購入を決定

ダンプ一台でスタートし、地域の住宅や店舗の解体・建築から、街づくり、緑道やスーパー堤防の整備、公園の造成といった大規模な土木案件まで、いつしか幅広い分野の社会インフラを支える存在となったのが鈴木建材店様です。その取組は環境に配慮した省資源、省エネルギーに資するものばかり。東京都が推進するHTTを高いレベルで実践されています。

社風として根付く3R、リデュース(減らす)、リユース(再利用)、リサイクル(再資源化)

鈴木社長「もともと当社は、父がダンプ一台で始めました。都心部は良質な関東ローム層の赤土が出てきます。かつて建設現場から発生した残土は自由処分が許されていたので、父は捨て場に持っていってしまう良質土を目利きし、畑の土や植樹帯の土として再利用していました

土は地元の農家や植木屋さんへ。こうした活動がご縁となって、後年、公園や緑道整備などのお仕事に広がっていったと鈴木社長は語ります

鈴木社長「父から私に代替わりする以前、私は別の企業に勤めていました。一級建築士の資格を取得していたため、入社とともに〝家を建てる〟という事業も加わりました。解体の現場からは柱や梁といった廃材が出てきます。それらは新たに建てる家やお店で、装飾や家具の一部としてリユースしています。古材とはいえ、しっかりした強度を持つものは建築資材としても十分に使えます。古い建具や門扉、ガラス窓なども、当社の資材置き場で大切に保管しているんですよ」

絶えず続けてきたこれらの取組は、いつしか従業員の皆さんにも環境意識を芽生えさせるきっかけとなっていったようです。使えるものは再資源として残す。そのためには丁寧に取り壊す。資源の再利用は自然な形で行われてきました。

鈴木建材店流、H(へらす)T(つくる)T(ためる)

同社が本格的な脱炭素経営へと舵を切る決定的な出来事が訪れたのは15年ほど前。地元周辺エリアの再開発が進み、エネルギーインフラがプロパンガスから都市ガスへと変わっていく中で、ご自宅や顧客先にエネファームの導入を推進してきました。

鈴木社長「事務所や資材置き場では、屋根に太陽光パネルを設置し、日中はその再生エネルギーで電力を賄っています。また、蓄電池を設けて夜間に使用する分の電力も蓄えておく。これによって現在は購入電気量の約8割が削減できています。
しかも、都や区の補助金が活用できたため、導入に関わる初期費用を低く抑えることができました。事務所では7年前に耐震補強や高気密・高断熱化工事など、昨年の改修工事では4.4kWの太陽光パネルと9.7kWの蓄電池を設置し、必要な改修工事を行っています。また、新築住宅では低酸素住宅やZEH住宅、ゼロエミ住宅の助成金制度を活用させてもらっています。」

営業用EV車

また、会社所有の営業車両をEV車に切り替えたのも施策の一つ。今後は、EVワゴン車をもう一台増やすことが決まり、現在はその申請作業が着々と進められています。

鈴木社長「贅沢なことかもしれませんが、これで働きやすさが改善され、さらに環境にもいいとなれば、やらない理由はないですよね。もちろん導入時のコストは補助金だけではカバーしきれません。ある程度の自社負担を要します。しかし月々の電気代が数千円程度に収まり、3〜8年でほとんど償却できています。そして、そこで得たノウハウを、今度はお客様から寄せられる改修工事などのご依頼に生かすことができるんです」

界隈の住宅建築において、太陽光パネルの設置実績は既に数軒にのぼります。しかし、企業の脱炭素化において補助金申請はとかく煩わしいもの。鈴木社長は「それもまた学び」だと教えてくれました。

太陽光パネル

鈴木社長「当社では、東京都中小企業振興公社の助成金事業を活用させていただきました。専門のコンサルタントさんにお越しいただき、さまざまなアドバイスをしてもらいました。HTTもまた実践推進ナビゲーターさんが個別の事情を汲んで伴走してくださるとお聞きしています
太陽光パネルを導入したいと思うと、どうしても20〜30年後の製品寿命を考えてしまいがちです。しかし、例えばテレビや冷蔵庫といった電化製品にも寿命があります。壊れてしまうことを心配しながらも購入するでしょう。悩んでいないで、まずは始めてみるのがいいと私は思っています」

同社は、2019年にISO14001(環境マネジメントシステムに関する国際規格)を取得しています。これは同業種同規模の会社では極めて珍しいといえるケースです

鈴木社長「以前の会社でISO9000シリーズを取得したことがありました。申請から認証に至るまで、かなり苦労していたのを間近に見てきました。ところが当社の場合は驚くほどスムーズにことが運びました。これまでの取組に少し手を加えればよかったからです」

認証取得の意義の一つに会社のイメージ向上が挙げられますが、「従業員の誇りになればそれがいい」と鈴木社長。誰もがここで働きたいと思える会社を目指すための取組だと力強く語ってくださいました。

DXが生み出した持続可能性の好循環

同社はリモート勤務やワークシェアリングにも積極的です。4年前に事務職員を募集した際、4名の女性スタッフを採用したといいます。

鈴木社長「テレワークはコストが抑えられます。まず移動時間のムダや交通費が省けます。仮に通勤時間が往復で2時間かかるとしたら、その分を労働に充ててもらえますよね。うちもありがたいし、働く側にとっても大きなメリットになります」

社長は一級建築士。30年以上前からデジタルソフトを駆使して図面を引き、オンライン上のツールを介してデータの受授を行ってきたため、抵抗感はほとんどなかったとか。この導入によって、子育てや介護に携わる人材やダブルワーク希望者が活躍できる環境が一気に構築されていきました。

鈴木社長「冒頭でもお話したように、当社では古材の再利用に力を入れています。古木が持つ趣や味わい深さを多くの人に知ってもらい、何らかの事業に繋げたいと前々から考えていたんです。
そこで、テレワークスタッフに古材に関する資料づくりや企画の立案を任せました。いいアイデアがたくさん出てきて、私の発想にはなかった多様なプロジェクトが動き出しています。倉庫を使ってワークショップを開こうという計画もその一つです。廃材レンガでピザ窯をつくり、ピザを焼くというプランもあるんですよ」

本社から少し離れた鹿骨地区にある資材置き場。その一画に立つ倉庫は、近くの畑で採れた野菜でバーベキューを行うなど、レクリエーションの場としても活用されているそうです。さらには今後、その倉庫を災害時の緊急対策業務が必要な時の拠点として活用できるよう、前述した太陽光パネルの設置も検討中とのことです。

鈴木社長「〝edogawa_kozai_lab〟という名でInstagramのアカウントを設けて、コンテンツを制作したこともテレワークがきっかけとなって始まった試みです。生成AIを使って文章や構成を考えたり、現場で撮り収めた写真や動画を用いてリールを投稿したり。こういった取組も、DXに目を向けてきたからこそできた新しい道でした」

また、鈴木社長の先見性や、新しいテクノロジーへの関心と興味、深い理解は、江戸川区が掲げる多文化共生にも寄与しています。

鈴木社長「現在、当社で働く外国人は7名。それぞれ個性豊かな面々ですから、役割をあえて固定せず、現場ごとに多様な働き方を学んでもらっています」

技能実習生の受け入れは、彼らやその家族の暮らしを支え、中長期的には日本の技術を途上国に伝播させるSDGs的な役割も担います。

鈴木社長「何より伝えたいのは、この仕事が子どもたちに誇れるものであるということです。この業界には相変わらず3K(きつい・汚い・危険)のようなネガティブなイメージがつきまといます。私はそこを変えていきたいのです。なぜなら、私たちのような企業がいなければ、公園や道路などのインフラのメンテナンスができなくなってしまうからです。家の修理もおざなりになる。国籍を問わず、若い人たちがこの仕事に興味を持ってくれないと、ノウハウの継承が途絶え、やがては衰退してしまいます。今は外国人技能実習生のおかげでなんとかなっていますが将来が心配です」

近年は自然災害が増え、復興作業の現場においても土木建設業の存在は不可欠となっています。その役割を今後も果たしていくためには、子どもに勧めたくなる仕事にしていきたい。そして、地球の気候変動に対応するため、少しでも脱炭素化を進めたい。そう語る鈴木社長の横顔には、社会インフラを陰で支える職人の矜持が窺えました。

企業プロフィール

  • 有限会社鈴木建材店
  • 東京都江戸川区篠崎町7-11-5
  • 道路や堤防、公園などのインフラ工事、住宅の設計・施工・リフォーム、古木材や黒土・赤土・再生砂などの資材販売
  • 24名
  • https://skenzai.jp/
  • 2025年9月

中島合金株式会社様

まずは利益の創出。
その先に、脱炭素化への道筋が見えてきました。

中島合金株式会社
代表取締役 中島一郎様

POINT
  • 高周波誘導炉の導入で作業時間は3分の1。熱源対策も叶え作業環境の改善へ繋がり作業効率アップ
  • EMSによる電力コントロールと太陽光発電がエネルギーコスト削減の鍵
  • 業界での優位性確立を目標にCO2可視化からSBT認定取得を目指す

東京・荒川区に本社機能を置き、現在、茨城県つくば市の上大島工業団地内にて自社工場を稼働させている中島合金株式会社様。その脱炭素化への歩みは、業界ならではといえる過酷な労働環境の改善と、作業の効率化を目指すところからスタートしました。

「労働環境改善」への強い思いが描いた、省エネ実現までのロードマップ

複雑な形状の機械部品を安価に製造できる砂型鋳造。この分野で、銅合金鋳物やアルミニウム合金鋳物など、非鉄金属に特化した技術を提供してきたのが中島合金株式会社です。代表の中島一郎社長は、先代から事業を引き継いだ5代目社長。およそ30年前からこの仕事に従事するようになり、お父様が病に倒れてしまった後、創業100年を超える老舗企業の成長と発展を牽引してきました。

中島代表「HTT実践推進ナビゲーターさんからお話を伺い、脱炭素経営への取組を進めることになったのはつい最近のことです。でも振り返ってみれば、当社は2000年頃からさまざまな省エネ活動に取り組んできました」鋳造メーカーは原材料となる金属を仕入れ、溶鉱炉で溶かし、砂で固めた型枠に注いで製品を成形します。金属を溶かす温度は1,500度を上回ることも。かつては空調設備も十分ではなかったため、同社においても作業現場となる工場内では常に暑さとの戦いがありました。

中島代表「私自身、平社員として入社したばかりの頃、この作業に携わっていました。ガス燃料の溶解炉はガスの炎が周囲の温度を大きく引き上げてしまうため、現場の作業員に大変な負荷がかかっていたのです。そこで導入したのが電気で作動する高周波誘導炉(電気炉)でした。ちょうど家庭用のガスコンロとIHクッキングヒーターの違いをイメージしていただくとご理解いただけるでしょうか。IHなら鍋だけを温めますよね。基本的に周りは暑くなりません」
製品の品質低下や蒸気爆発などの事故を招かぬよう、工場内に水を持ち込むことは固く禁じられています。もちろん飲み水の携行も厳禁。それに加え、うだるような高温が、作業員の健康リスクを高めてしまっていました。

この電気炉の導入によって、現在、工場内の室温は約40度程度に。往時に比べれば随分と高熱環境は改善されてきました。

中島代表「以前から業界全体に熱源対策を講じなければという風潮が広がっていました。実際、大手の鉄鋳造メーカーさんは、かなり早い段階から積極的に進めていらっしゃいます。私たちもいずれは何か手を打たなければと考えていました。省エネよりもまずは労働環境の改善が目的でした。実はガス炉から電気炉への換装が直接省エネに繋がるというわけではないんですよ。使用するエネルギーがガスから電気に移るというだけで、ガス代は抑えられますが電気代は嵩んでいきます」

ところが、電気炉導入のメリットは作業環境の負荷軽減にとどまりません。電気炉は素材を溶解する際の作業効率が格段に違います。中島代表が、製品の原単位や生産に関わる従業員1名あたりの電気使用量を算出したところ、圧倒的に作業効率が上がっていることがわかりました。ガス炉では1時間かかっていた作業時間が、電気炉に置き換わったことで20分に短縮。実に3分の1程度になったのです。つまり、作業効率の向上は仕事を早く終えられるということ。従業員のワークライフバランスに好循環を生み出し、より多くの業務をこなすことで得られる収益は社員の皆さんへ給与として還元できます。

中島代表「この設備投資には約1億数千万円のコストを要しましたが、労働環境の改善のみならず作業効率の向上に貢献しました。古い機材のままでは、仕事を増やせば増やすほど膨大なエネルギーを消費していたことでしょう。結果的に省エネと企業成長の両立もできたということになりますね

この取組は取引先企業やお客様からのリクエストによるものではなかったといいます。あくまでも自発的、能動的に、先代社長であった中島代表のお父様が構想されていたことなのだとか。現在、同社では、銅および銅合金用の高周波誘導炉が3基、アルミニウム用のガス定置炉が2基、その他さまざまな機材が稼働し、常時10種類以上、業界最多の非鉄金属に対応可能な溶解設備を整えています。

いつしか省エネから脱炭素へと昇華

敷地内にある加工工場を見学させていただいた際、エネルギー消費の管理や最適化を担うEMS(Energy Management System)が設置されていました。これは、電気溶解炉を導入とともに取り入れられたもので、溶解炉が最大出力に達しないよう自動で電力をコントロールする役割を担っています。

EMS(Energy Management System)

中島代表「なにしろ工場における消費電力の約半分は溶解炉によるものです。出力を上げれば金属をスピーディに溶かせますが、電力コストに多大な影響を与えます。しかも工場内の温度をもっと下げたいと思えば、空調設備の拡充も視野に入れなければなりません。当然、消費電力は増大していきます。それらを少しでも逓減しようと、照明機器のLED化や太陽光発電システムの導入にも着手するようになりました。まずは実験的に東京の本社でやってみることに。荒川区の助成金制度を活用し、現在は8割程度の電力を賄えるようにまでなってきています

次なる目標は工場での本格実施。試算上では、建屋の屋根を太陽光パネル設置にフル活用すれば使用電力の大部分を賄える計算ですが、屋根には排煙装置なども敷設されているため一筋縄ではいかないのが現状のよう。将来的には工場全体を冷やす大型エアコンと、そのエネルギー使用量を補える規模の発電設備を設置し、電力消費をできるだけ抑えたうえでさらなる作業環境改善を目指す計画が進められています

中島代表「鋳造メーカーというものは鋳造のみを請け負うのがポピュラーです。とりわけ非鉄金属を扱う場合、単一材質にこだわる企業も多いですね。そんな中、当社では多種多様な材質を扱い、鋳造した製品の加工も手掛けています。本業で儲けを出すには、各部門におけるコストを徹底的に調べ上げ、それらをどうやって削減していけるのかが課題でした。その過程で見えてきたのがエネルギーでした。おそらく多くの会社さんはカーボンニュートラルのために「見える化」を図っていらっしゃることと思います。一方、私たちは事業の「見える化」や「スリム化」を志向してきた中で、エネルギーのコストカットに力を入れてきました。ちょうど2016年のISO14001を取得するタイミングで、少しずつ、少しずつ投資を続けてきたんです。その積み重ねが結果的に脱炭素に繋がっているのだと考えています」

DXもまた、従業員の働きやすさや負荷軽減が契機に

中島合金株式会社では、デジタル技術を活用した業務プロセスの自動化など、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進にも余念がありません。

中島代表「昔はパソコンを使わず、業務の進行は分厚い管理台帳に頼っていました。その後、私に代替わりしてからは、手書きの書類や帳票類をPCで管理するようになり、現在、作業現場ではほぼペーパーレス化が実現できています。
今はバーコードを読むための伝票類や、各工程の進捗を管理するための検査表くらいでしょうか。1ヶ月で紙の使用は500枚程度に抑えられています

こうした取組は、実は現場の従業員にとっても好ましい変化なのだそうです。

中島代表「仕事の合間に、資料に目を通したり、書類に伝達事項を書き込んだりするのはひと苦労なんです。作業の手をいったん止めて、汚れた手を洗い、ペーパーワークに向き合わなければなりません。
例えば、当社が扱う砂型は裕に6,000種類以上もあって、類似製品を作る際に膨大な資料の山から設計図を探すことになります。現在はタブレット端末で情報の入力と管理を行い、こうした煩わしさを回避できています。これらもスタート当初は言い出した私の仕事でしたが、今は従業員すべてが積極的に関わってくれています」

地球環境に思いをいたすことも大事。しかし、従業員の働きやすさを創出しながら労働意欲を喚起し、企業の利益を生み出していくことも重要だと中島代表は語ります。

中島代表「環境対策に投資することで利益は減ってしまいます。であるならば、環境対策に通じる成長戦略を練り上げるにはどうしたらいいのかを考えるのです。HTTに照らして言えば、私たちには『ためる』にあたる蓄電池の運用は予定していません。なぜなら、当社の事業実態にそぐわないからです。蓄電池には相応の導入コストがかかりますし、耐久年数を考慮すると先々もお金がかかっていきます。作業をしている間に発電し、その日に使う分だけを作り出せたらそれで十分。まずはH(へらす)とT(つくる)からですね

目下、重点的に取り組まれているのはクール・ネット東京の見える化支援(企業の脱炭素経営に向けた計画策定支援事業)活用。将来的には、そこからSBT(Science Based Targets)※1認定の取得をも目指しています。国際基準のSBT認定例は、非鉄鋳造業界ではまだまだ稀なこと。その先駆者になりたいと中島代表はいいます。

中島代表「仮に上流から何らかの要求があった時、実績があれば優位性を持てますよね。SBT認定へのチャレンジもその一つです。とにかく、儲かるものと儲からないものを徹底的に分析するべきではないでしょうか。どこに投資すれば労働環境がよくなるか、あるいは作業効率がアップして事業の成長に役立てられるか。その向こうに脱炭素化への道筋が見えてくるのだと思います

この先もお客様に求められる企業であるために。週の大半は本社がある東京とつくば市の工場を行き来しているという中島代表は、何事にも果敢に挑んでいくマインドを大切にしたいと答えてくださいました。

※1 SBT(Science Based Targets) https://www.httnavi.metro.tokyo.lg.jp/column3/

企業プロフィール

  • 中島合金株式会社
  • 東京都荒川区南千住7-30-1
  • 銅および銅合金・アルミニウム合金など、非鉄金属の鋳造・加工
  • 48名
  • https://nakacast.com/
  • 2025年9月

テレネットジャパン株式会社様

SDGsとビジネス機会の創出は両立できるもの。
脱炭素もまた持続可能な成長の実現に繋がります。

テレネットジャパン株式会社
代表取締役社長 石川知子様
常務取締役 佐々木良様

POINT
  • 梱包資材を省き、ごみの排出を削減。小さな積み重ねで環境負荷を低減
  • 地元に貢献したいという思いから、地域の環境整備やSDGsの取組にも積極的に参加
  • 10のアクションカードの共有により、社員一人ひとりが取組への意識変容へ繋がった

情報通信インフラの構築、ネットワークセキュリティの設計・施工・運用保守を主な事業領域とされているのがテレネットジャパン株式会社様です。同社が掲げるパーパスは、サステナビリティを通して社会や地域に貢献すること。脱炭素に対する多様な取組は、もはや企業風土の一つとしてしっかりと根付いていました。

脱炭素は地道な積み重ねから

製造業のように直接的な燃料消費は少ないものの、IT業界では各種サービスの普及に伴う電力消費の増大や環境負荷が、解決すべき喫緊の課題として挙げられています。しかし、デジタル化の伸展は、確実に業務プロセスの改善や生産性向上に寄与しています。通信インフラ技術の高度化もまた脱炭素に繋がっているのだと、佐々木常務は語ります。

佐々木常務「考えてもみてください。リモートワークが増えれば、移動によるCO2排出量を抑制できます。DXが進み、環境負荷に関連するさまざまな要素が低減できます。企業としての個々の取組には限界もありますが、まずはこうした多岐にわたる脱炭素化への貢献が前提としてあることを申し上げておきます」

ITサービス業界の中でも通信インフラ事業はメーカーとの連携が不可欠です。テレネットジャパン株式会社様も、長年大手システムインテグレーターのパートナー企業として事業を展開し、かねてから脱炭素化には積極的に取り組んできました。その功績はグループ内で高く評価され、およそ1,000社から選ばれた2社のうちの1社として、環境省基準の厳しい審査が設けられたサステナビリティ関連のアワードを受賞しています。

佐々木常務「通信インフラを構築する際、従来はとにかくハイスペックな機材を用いていました。現在は、お客様企業のそれぞれの現場にフィットする省電力性に優れた機材を選定し、最適なシステムを提案しています。また、個別の例ではネットワーク敷設時の社内テストも挙げられます。多様な機材を組み合わせて大掛かりな試験運用をするんですね。その際に出る梱包資材はすべてゴミになってしまいます。最初のプロセスから梱包を省いてもらい、できあがったシステムも当社が責任を持ってお客様のもとへお届けします。そんな小さな積み重ねも環境負荷低減に繋がっていると思います」

それでは、同社でこれまで行ってきた取組を具体的に見てまいりましょう。

・空調設備を省エネ型のエアコンに換装。
・社内の照明器具のLED化。
・情報システムのクラウド化によって社内オンプレミスサーバーを廃止。
・積算電力メーターをオフィス内各所に設置し、消費電力の「見える化」を実施。
・業務のDX化、テレワークの推進。
・窓ガラスに遮熱フィルム貼付を施し冷暖房効率をアップ。
・営業車をハイブリッド車に切り替え、CO2排出を削減。

・小型ソーラーパネルによる発電や、ポータブル電源の有効活用。
・グリーン電力オフセット導入の検討(一部活動を開始)

佐々木常務「センサー(積算電力計)でモニタリングすると、ウォーターサーバーの電力消費が大きいことがわかりました。こまめな消灯や電源オフでも節電効果は数%におよびます。また、社内の電話回線を管理するPBX (ビジネスフォンにおける電話交換機)も廃止を進めています。今はほとんどの連絡が各スタッフの携帯電話に直接入るので、外部からの電話を取り次いだり、転送するニーズが減っています。PBXをなくせば24時間動き続けているサーバーを削減できることになります」

しかし、同社のようなテナント企業の場合、ビル設備に関わる部分の刷新には、オーナーとの折衝や管理会社による規制などが障壁となってしまう面もあるのではないでしょうか。その問いには石川社長が答えてくださりました。

石川社長「ビルの屋上で発電する小型ソーラーパネルは、大規模な太陽光パネルではなく、市販のポータブル電源用ソーラーパネルです。建物にパネルを敷設する場合はオーナーさんの承認が必要となりますが、朝、出社したら、社員が屋上にあがって機材を置いてくるだけ。もちろんオーナーさんには了承を得ています。
100本以上におよぶ照明のLED化についてもご理解をいただき、非常用の蛍光灯以外はすべて差し替えました。普段からコミュニケーションを取り、信頼関係の醸成に努めていたからでしょう。以前は私たちから脱炭素化の必要性を働きかけてまいりましたが、最近ではオーナーさんからビル設備についてご提案いただくことも。テナント企業であっても、できることはたくさんあると思います」

HTTへの取組を志向した場合、とかく入居しているビルの規約などが〝できない理由〟として立ちはだかってしまうことがあります、石川社長は「そこで扉を閉じてしまうのではなく、自分たちができることから始めるのがよいのでは?」と語ります。

リーダーの思いが、事業を拓き、意識を変えていく

そもそも石川社長は、先代社長であるご主人が他界された7年前、事業承継を経て現職に就任されました。それまで3人のお子様を育てていく中で、ご主人と二人三脚で地域活動にも積極的に参画されてきたのだといいます。

石川社長「私自身、ここ北区で生まれ育ち、同じ北区出身の主人に嫁ぎました。地元をよりよくしていこう、子どもたちが安心して暮らせる環境を守っていこうという思いは、仕事の傍らPTA会長を務め、保護司として青少年の育成に関わっていた主人の遺志でもあります。そうした活動に取り組んできたことで、さまざまな企業や団体との繋がりも持てるようになりました。また、子どもたちの安全安心を実現するために〝私たちのIT技術が貢献できないか?〟という発想が、幼稚園や保育園の見守りシステムや、小学校の門扉の電気錠システムなど、セキュリティ商品の開発にも広がっていきました」

コロナ禍をきっかけに、老人ホームの利用者さんとご家族の接触が制限された際、テレビ電話による面会システムを作りあげたのもその一つ。通信インフラの分野で培った数々のテクノロジーが多様なヒット商品を生み出しました。

佐々木常務「地元法人会では理事を、商工会では評議員を務める社長は、地域の環境整備やSDGsにも積極的です。おかげさまで北区からはSDGs推進企業認証をいただき、HTT取組推進宣言企業にも登録いたしました。当社の場合は、トップ自らが旗を振って、スタッフを導いています。リーダーが『よきにはからえ』ではなく、強い思いや願いを言葉に乗せて、みんなの意欲を盛り上げています。それが現在の省エネや脱炭素への取組にも生かされています

テレネットジャパン社では、社内の啓蒙活動にも力を注いでいます。例えば、社員一人ひとりが「SDGsを加速させるために、自ら取り組めるところからスタートしよう!」という命題のもと、「身近にできる10のアクション」を取りまとめたカードをスタッフの皆さんに配布しています。

※「身近にできる10のアクション」テレネットジャパン株式会社作成

佐々木常務「〝家のエネルギーを節約しよう〟〝徒歩や自転車を利用しよう〟〝環境に優しい製品を選ぼう〟といった10の行動指針をまとめ、社員証のように携行できるカードを作ったのです。そこには〝声をあげて〟というアクションもあります。まさに石川社長のマインドが表現されていて、スタッフから自発的な提案の声があがってくることもあります」

社員の理解が不可欠な脱炭素化に、積極参加を促した好例

社内全体の一体感を高める試みとして行われているのが、定期的に実施される避難訓練です。これは有事の際を想定し、オフィスがあるフロアから屋上まで移動する、いわば垂直避難訓練。実際に体験することで、初めてわかる気づきや発見があったといいます。

石川社長「当社には障がい者枠で採用した目の不自由なスタッフもいます。その手を引いて避難経路の外階段を歩いていくと、普段は気づきもしなかった段差や障害物があることがわかりました。オフィスを暗闇にして非常食を食べるイベントを企画した時も、さまざまな学びがありました」

佐々木常務「おそらく万が一何かが起きても、社員一人ひとりが独自に判断して、行動できる素地ができあがっていると思います。社内の人員だけでなく外部の帰宅困難者さえも誘導して、この会議室で一時的な受け入れもできるようになっています。そのための非常食や非常用電源も確保しているんですよ」

こうした社員間での意識の共有は、当然ながら脱炭素経営の実現にも欠かせません。社員一人ひとりの主体的な協力があってはじめて目標達成に向けた施策が叶えられるというもの。同社の和気あいあいとした雰囲気作りと意識改革には、これからHTTを始めようとされている中小企業の皆様にも学ぶべき点が多いのではないでしょうか。

企業プロフィール

  • テレネットジャパン株式会社
  • 東京都北区東田端2-9-6 クロコダイル第3ビル5F
  • 情報通信インフラの構築、ネットワークセキュリティ、システムソリューションの設計・施工・運用保守、関連サービスの提供
  • 81名
  • https://tnj.co.jp/
  • 2025年9月

株式会社リーテム様

環境にやさしい資源リサイクルを
業務の脱炭素化によってさらに確かなものに。

株式会社リーテム
総務部部長 兼 マネジメント推進部部長補 森田建治様
事業ユニット長 兼 東京事業部部長 市村貴光様

POINT
  • 空調設備の刷新を機に工場のZEB化、さらにはBELS認証5つ星の取得を実現
  • 太陽光パネルの設置でオフィス照明の完全創エネ化、今後は重機の完全EV化を目指す
  • 工場見学会では資源リサイクルの重要性を訴求し、脱炭素イベントへ積極的に参加

産業廃棄物、とりわけ金属の再生に特化し、収集・運搬から一次処理までを担うのが株式会社リーテム様です。資源リサイクル業は、それそのものが循環型社会の構築に不可欠な存在。同社のエコマネジメント力は、自社工場のZEB化、BELS認証(しかも最高評価の5つ星)の取得といったさまざまな取組によって、ますます拡張と深化を加速させています。

人々の暮らしを支え、持続可能な社会を目指す
廃棄物処理という業態

国の都市再生プロジェクトの一環として、東京都が大田区城南島と江東区海の森に整備したのが「東京スーパーエコタウン」です。この地には、厳格な審査によって選抜された先進的リサイクル事業者の施設が集まり、首都圏における廃棄物問題の解決や環境産業の育成が現在進行形で行われています。

総務部部長として同社の広報活動を担う森田さんは、この事業そのものが社会貢献につながるものだと語ってくださいました。

森田部長「私どもリーテムは、創業100年を超える資源再生事業の老舗企業です。従前から稼働してきた茨城県の水戸工場でも、かねてより脱炭素化には積極的に取り組んできました。一方、2005年に竣工したリーテム東京工場は、ここ『東京スーパーエコタウン』の一翼を担う最新鋭高性能工場として安全で安心な高効率リサイクル処理を行っています。もちろん売上を上げていくという企業としての命題もありますが、そもそも資源リサイクルそのものが持続可能な社会の実現に役立っているという自負がございます。脱炭素化はその目的と責任を果たすための重要なミッションと位置づけていました」

東京工場に集積される廃棄物は、家庭やオフィスから出る小型家電、OA機器、電子・電気機器、情報通信機器が中心。2013年に小型家電リサイクル法が施行されて以来、スマートフォンやパソコン、日用家電といった廃棄物が増えているそうです。

森田部長「こうした廃棄物には再資源化可能な金属が多分に含まれています。私たちはこの廃棄物の山を〝都市鉱山〟と呼んでいるんですよ。自然の鉱山から資源を採取・精製するのではなく、都市から出たごみの山、つまり都市鉱山から金属を取り出して再生・再利用する。それこそ天然の鉱山に匹敵するほどの資源が得られる〝宝の山〟なのです」

昨年、新紙幣が導入されたのは記憶に新しいところ。偽造防止の工夫が随所に凝らされた新紙幣に対応する銀行のATMや新型自動販売機の普及に伴って、古い機材の廃棄も 多いのではないかと語ります。

取り扱う範囲は多岐にわたり、それぞれに適正な処理が求められます。

森田部長「ただ解体すればいいというものではないのです。たいていの小型家電にはリチウムイオン電池などのバッテリーが内蔵され、そのまま破砕してしまうと発火事故や火災の原因になりかねません。バッテリーはしっかりと分離して絶縁を施し、破砕する本体と分けて管理する必要があります。冷媒にフロンガスが使用されている除湿機や冷風扇などの電化製品も同様です。多くの機器に用いられているプラスチック類は、分別して再利用すれば、原料となる化石燃料(原油)の使用削減に貢献できます。人の目で視認して、一つひとつ丁寧に仕分けなければなりません。この仕事は機械化が可能な部分は6割。あとの4割は人の手に委ねられています」

搬入された各種廃棄物は、鉄スクラップ・非鉄金属混合品・プラスチックなどに分別され、それぞれの二次加工を行う素材メーカーへと出荷されます。

きっかけは空調設備の刷新
工場のZEB化、BELS認証までのあくなき挑戦

では、脱炭素化に向けて具体的にどのような施策が採られてきたのでしょうか。水戸工場と東京工場の責任者である市村事業ユニット長が、取組をはじめたきっかけを教えてくれました。

市村ユニット長「もともとは、工場内の空調設備に不具合が発生したことに端を発します。2005年の操業開始から10数年が経過し、機材の入れ替えに迫られていたんですね。また、この工場自体、実は太陽光パネルが設置できるように設計されていて、以前から設置の計画があったのです。私どもが廃棄物処理に使う破砕機は大量の電力を消費します。ゆえに、工場すべての電力は賄えませんが、オフィス部分の電力は創エネによって補えると考えました。空調機器メーカーさんと機材選定などの協議を続けていくうちに『だったら工場そのものをZEB化し、BELS認証取得を目指してはどうか』という話に辿り着いたのです

BELS認証とは、第三者機関が建築物の省エネルギー性能を評価する認証制度。これを取得することで環境に配慮した建築物であることがアピールできます。

市村ユニット長「具体的には、先述した空調設備の刷新による省電力化、太陽光パネルの設置、さらには照明器具のLED化、窓の断熱化、換気設備の更新など、さまざまなアプローチから脱炭素化のプランを練りあげました。工場のZEB化に際しては、それぞれの機器、建材メーカーさんに助力をお願いし、計画のスタートからちょうど2年ほどはかかったでしょうか。2023年には無事に太陽光パネルの設置が叶い、当初の計画が実現に至りました」

LED化された照明
内側に取り付けた二重窓

しかしながら、その道程にはさまざまな苦労もあったと市村ユニット長は語ります。

市村ユニット長「申請にあたって、まずは現状を把握する必要が生じました。そこで東京都の無料省エネ診断を活用させていただき、専門家のアドバイスを仰いだんです。結果的にこの診断が契機となって、太陽光パネル設置以外の方策にも目を向けることができました。わからないことだらけの状況からのスタートです。データ収集には戸惑いもありましたが、社内に専属チームを組織し、それぞれが学びを得ながら地道に準備を進めました。この計画を後押ししてくれた経営陣の英断もさることながら、他部門のスタッフの献身的な協力もあって、スムーズな情報収集と共有が図れたと思います」

また、実際に各種設備を刷新する際にも、社内外で多様な調整作業を要したともいいます。

市村ユニット長「工場内で工事をしていただく場合の段取りや工期については、各メーカーさんと幾度となくご相談を重ね、あらゆる面でサポートしていただきました。この時に痛感したのは事業者選定の重要性です。例えば、この工場の窓は先進的な意匠で設計されていて、できればそのデザインを損ないたくはなかったんですね。そのことをメーカーさんに相談したところ、内側に二重窓を取り付けて断熱化を図るという策を提案してくれました。補助金申請時の書類作成などを含めて、メーカーさんの提案力や、個別の事情を鑑みた実行力に助けていただきました」

そして、何よりも大きかったのは現場スタッフの理解とコミットメント。「きっと私一人ではなしえなかった」と市村ユニット長は振り返ります。

市村ユニット長「本来業務の自由度が制限されてしまうため、昼間は施工ができないエリアも出てきます。そういった場合、工事は夜間に行われるのですが、必要に応じて当社のスタッフが立ち会わなければなりません。時には交代しながら休日に対応したこともあります。」

脱炭素化の先行企業として
中小企業の皆様へ伝えたいこと

こうしたさまざまな取組が実際にどの程度の費用対効果につながったか。この点は脱炭素化経営を指向される中小企業の皆さんにとって大いに気になるところでしょう。しかし、これは製造業をはじめとする多くの事業者にいえることですが、仕事の受注が増えると機械の稼働率は上がり、自ずと使用電力は嵩んでしまいます。BELS認証を取得した同社においてもそれは顕著で、現在も引き続きデータを蓄積しながら消費電力の推移を見守っているのが現状。今後のさらなる施策を模索し続けているといいます。

森田部長「東京工場の省エネは確実には進んでいます。しかし、私たちの仕事を支えているのは高圧電力で動く巨大な破砕機です。つまり業務が忙しくなればなるほど消費電力量が増えてしまうというジレンマがあります。でも、だからといって歩みを止めるつもりはありません。破砕機の電力はすべて再生可能エネルギーに由来する 非化石証書付き電力に置き換え、工場内で使用するフォークリフトの半数はEV化を果たしました。当初、EVの重機はパワーに欠け、重いもので3トンもある機器を運んだり、移動させたりする当社では運用面で課題が残りました。しかし近年は重機メーカーさんの努力もあってパワー不足が改善されつつあります。当面の目標はフォークリフトの完全EV化です。水素エネルギーの積極活用を推進されている東京都の試みにも興味は尽きません

EV化を目指す工場
2021年に開催された際のメダルの金型とリサイクル基盤

また、他にも目に見える成果としては、工場のZEB化やBELS認証取得が社外PRに貢献しているという点が挙げられます。

森田部長「当社では一般の皆様や子どもたちに、資源リサイクルの大切さを訴求するため、工場見学会を行なっています。また、先日は大田区からお声がけをいただき「おおたクールアクション」における脱炭素関連のイベントや講演に参加する機会が増えてまいりました。脱炭素やSDGsに対する関心と理解が深まり、社会そのものが変化しているということです。私たちはこうした時流を味方につけて、今できることに取り組むことが重要だと考えています」

電子基板などから抽出された金・銀・銅といった金属類。それらが2021年に開催された東京オリンピックでは、選手に授与されるメダルづくりに生かされました。社会インフラを縁の下で支え、環境にやさしい未来を次の世代へと残そうとする同社の挑戦は、これからも続きます。

企業プロフィール

  • 株式会社リーテム
  • 東京都大田区城南島3-2-9
  • 資源のリサイクルおよびリユース、製鋼原料および非鉄貴金属原料の売買など
  • 171名
  • URL https://www.re-tem.com/
  • 2025年7月

株式会社エニマス様

まずは「へらす」が先決。
そのためには「見える化」が必須なのです。

株式会社エニマス
代表取締役 小林昌純様

POINT
  • 自社の照明の消費電力把握のため「電力の見える化装置」を開発し、新たなビジネスを開拓
  • 見える化により、工作機械の待機電力削減や工場内の温度調整など様々な運用改善を実現
  • 脱炭素化を目指す企業へのソリューション提供

脱炭素化への取組には「まとまった先行投資が不可欠」と思われている方々も多いのではないでしょうか。しかし、「電力の見える化」が「エネルギーコスト削減の道筋を照らすことに繋がる」と語ってくださったのは、株式会社エニマスの小林昌純さんです。今回は、自社の脱炭素経営を進めていく過程で電力の測定装置を開発し、新たなビジネスチャンスを開拓するまでに至ったかつてない成功事例を紐解きます。

補助金活用の失敗から学び、生まれた、
「電力の見える化」を叶える〝ENIMAS(エニマス)〟

部品加工業の分野で40年以上にわたってものづくりを続けてきた、株式会社エニマスの親会社であるコバヤシ精密工業株式会社。その2代目代表として経営改革を進めていた小林さんは、自治体の「省エネ補助金制度」を活用し、自社工場の照明設備刷新に踏み切りました。

小林代表「補助金の申請書には〝この取組によって電気代が下がる〟といった誓約事項があるわけです。ところが翌年、仕事が忙しくなって新型の工作機械を3台導入したところ、思いがけず消費電力が跳ね上がってしまったのです」

行政機関からは契約違反と伝えられ、小林さんは悔しさを噛みしめたといいます。

小林代表「照明のLED化によって確実に消費電力は抑えられました。その上で事業が順調に発展したにもかかわらず、補助金の返金を言い渡されたことに大変なショックを受けました。そこでLED化以前と以後を調べあげ、照明の消費電力がどの程度下がったかをお役所に提示したいと考えました。それが、電力測定装置〝エニマス〟を開発する原動力になり、今となっては感謝の念しかありません」

相模原市商工会議所の下部組織である相模原市青年工業経営研究会に所属していた小林さんは、当時、同じ若手経営者の仲間たちに「電力を測る装置を作れないだろうか?」と相談を持ちかけました。もともと相模原市はものづくりの街であり、多士済々のメンバーがそれぞれの知見と技術を持ち寄り、部品加工、基盤製作、プログラム、アプリ開発などを経て、エニマスの初号機が完成しました。

小林代表その装置で工場の消費電力を調べたところ、照明は全体の3%以下。95%以上は工作・加工機械に拠ることがわかりました。ちなみに新しい機械を1台導入すると、それだけで約10%の電力が上積みされます。これでは、前述の結果になるのは当然の成り行きですよね」

時を経て現在、エニマスは相模原市役所に51台が納入され、市庁舎の消費電力をモニタリングしています。2020年に菅義偉元首相が2050年カーボンニュートラル宣言を行ったことを追い風に、経済産業省の「事業再構築補助金」を活用しながらエニマスの製品化と事業化を推し進めた結果でした。

小林代表「興味深いことに市庁舎では、水曜日だけ消費電力が15%ほど下がるんです。なぜだと思いますか?それは〝ノー残業デー〟だから。つまり、仕事の生産性を上げて毎日の業務を定時で終えることができれば、それだけで15%の省エネが叶い、結果、CO2の削減に繋がるということになります」

脱炭素化への資金を捻出するためにできること
それが何かは「見える化」で見極める

コバヤシ精密工業では〝消費電力の見える化〟によって、さまざまな対策を講じてきました。エニマスは各機器の配線ごとに設置することで、電流値をリアルタイムで検出できる機能を持っています。前述の通り、測定したデータでは全体の95%以上を工作・加工機械が消費していました。中には、使用頻度が極めて低いのに待機電力消費が高い機械も見つかりました。

小林代表「例えばドイツ製の5軸工作機は、電圧が三相交流で400V。トランス(変圧器)を介して日本の200Vに対応させます。調べたところ、機械本体の電源をオフにしていても、このトランスが電力を消費していました。そこで、私たちはトランス側にもブレーカーを設け、機械を使わない時は一切の電力供給が遮断されるようにしたのです。」

小林代表「また、コンプレッサーを1台から2台に増やすことでも電力消費を抑えています。通常は機械の台数を増やせば電力消費は〝上がってしまう〟と考えるでしょう。しかし電気使用量というものは電流値の2乗に比例して上がっていくもの。仮に70Aの機械1台と、26Aの機械2台を比較すると、前者が後者の4倍以上の電力を消費するのです。当社の場合は1台で14kWhだったところを、2台に分けて負荷を和らげたことで1台あたり5kWhとなり、結果4kWhの節電が可能になりました」

他にも、エニマスの活用によって見えてきた運用改善策は多岐にわたります。

・コンプレッサー室の温度調整(季節や外気温に連動した換気扇の稼働調整)
・工場全体の空気の流れ(バランス)を調整することで換気効率アップ
・空調室外機の定期的清掃
・断熱窓の設置による空調効率の向上


また、夏場のエアコン温度を29℃に設定し、その代わりに工場内にサーキュレーターを設置。とある経営塾にともに参加したアパレル企業の代表者さんに相談し、ミストによって脇の下や首筋を冷やすポロシャツを開発したり、従業員に保冷ベストを提供。工場内を循環した空気が流れてこれらの冷感ポロシャツや保冷ベストを着用した従業員の体感温度を下げ、作業効率が格段にアップしたのはいうまでもありません。設備の運用改善にとどまらず、従業員が働きやすい環境づくりにも取り組むなど、細やかな工夫や試行が重ねられていきました。

保冷ベスト着用により体感温度を下げる
見える化画面のイメージ図

小林代表現状を把握するだけではなく、なぜ、これほど電力を浪費しているのかという因果関係を見つけることが重要です。当社の場合、一昨年と昨年の比較データを見ると、使用電力の削減量は11.6万kWにのぼりました。電気料金に換算して480万円ほどの節約になったでしょうか。私たちのような製造業は、500万円の利益を生み出すために数千万円から1億円の売上をあげなきゃいけない。つまり、こうした取組は1億円分の仕事をしたのと同じことになるんです

電気代が下がるということは「利益」を生むのと同意。その利益を、次の一手を打つための「原資」にするという考え方です。

小林代表「脱炭素化というと、それなりに設備投資が必要だとお考えになる方も多いでしょう。省エネタイプの機械に買い替えたり、クリーンエネルギーを導入したり、太陽光パネルや蓄電池の設置をする前にもできることがあります。私は東京都のHTTに深く共感していて、特に『へらす』が最も優先度の高い取組だと思っています。まず『へらす』を徹底して原資となるお金を貯めて、そのあとで老朽化した設備を刷新し、『つくる』や『ためる』へと段階的に歩みを進めていってはいかがでしょうか

試行錯誤の末に得たナレッジをビジネスに転化
その先進的な活動が各方面から注目を浴びています

こうして培われた多彩なノウハウを他の事業者にも還元したい。そう考えた小林さんは、やがて株式会社エニマスを設立。自社の「見える化」のために開発したエニマスも、その後はさまざまな機能が盛り込まれ、幾度となくアップデートを繰り返したことで使い勝手を向上させています。現在は情報関連機器の販売会社との協働でエニマスを商品化するとともに、脱炭素経営を志向する全国の企業にそのソリューションを提供しています。

小林代表「冒頭で触れた相模原市以外にも、川崎市や南足柄市がこのエニマスに興味を示してくださっています。また、さまざまな企業の皆様ともコンサルティング契約を締結し、脱炭素化におけるあらゆる提案を行っています。しかしながら、脱炭素化を叫んでも現場の反応が芳しくない場合も多いです。経営陣はもとより従業員の皆さんも同じ方向を向かないと、取組は前に進みません。例えば、関西のとある企業では年間9,000万円の電気代を支払っていました。代表は『脱炭素化なんて二の次。まずは電気代の削減が急務だ!』と仰っていたほどです」

そこで小林さんは、年間9,000万円におよぶ電力料金のうち1,200万円の支出減を宣言。さらに従業員の皆さんがプロジェクトを後押ししてさらなる省エネを実現した場合、その分の利益を「ボーナスとして社員に還元してはどうか?」という提案をされたのだそうです。同企業代表はその申し出を快諾し、社員一丸となって対策に取り組む土台づくりに成功しました。

小林代表「来冬のボーナスが上がるとなれば、皆さんの参加意欲を大いに刺激できると考えました。結局、脱炭素化だけをクローズアップしてもうまくいかないんです。対策を立てて皆で取り組んだ結果、電気代が削減され、CO2排出量が抑制できたという流れが好ましい。『自分ごと』として捉えてもらうことが重要だと思うんです」

また、チェーン店を全国展開するある外食系企業では、各店舗にある冷蔵室の運用について見直しを図ったといいます。当然ながら、旧式の機材を使い続けている店舗ほど消費電力は高く、新型の省電力機器を導入した店舗ほど消費電力が抑えられていました。

小林代表「ところが、年式が浅い設備を導入している店舗でも、古い設備の店舗とさほど変わらない状況が見受けられました。各地の現場を視察したところ、冷蔵室の入口にビニール製の簾がかけられている店舗と、そうでない店舗があることが見えてきました。たったこれだけのことで両店舗の消費電力量の差は実に35%も違うことがわかったんです

この企業では、年間の電力料金が数十億円にのぼるのだとか。仮に全店舗を均して全体の約20%の消費電力が削減できれば、数億円から十数億円の節約につながることも期待できます。

小林代表「繰り返しになりますが、設備を最新式に入れ替えるだけが対策ではないのです。見える化によって、今できること、やるべきことが見えてきます。そして因果関係を見極め、対策を講じ、再びどれほどの効果があったかを測定します。効果がなければ因果が崩れているということですね。効果があれば、こまめにやり続けること。それを文化にしてほしいのです」

手段を目的化することなく、あらゆる手段を洗い出して対策に変えチャレンジを継続していく。そのマインドを持つことこそが大切だと小林さんは語ります。

小林代表「日本は2030年までの温室効果ガス削減目標を46%減(2013年度比)に設定しています。当社は既に27%削減を達成しましたので、あと数年かけて19%削減を頑張るということになります。現状の取組で得た原資をもとに空調設備の3割を最新型に入れ替えれば約10%は達成できるでしょう。となると残りの9%は太陽光発電で賄おう、というプランが見えてきます。2030年までになんとか間に合うという算段です。こうした取組を全国の中小企業・小規模事業者500万社がコツコツと進めたら、凄いことになると思いませんか? 『将来の子どもたちのために』などと申し上げると綺麗事に聞こえるかもしれませんが、私たちが今やらなければ、私たち自身も、子どもたちも、生きられない世界になってしまいます」

そんな小林さんの先進的な理念と模範的な取組の数々に地元の各金融機関も賛同し、企業間マッチングという形でエニマスの普及をバックアップしています。また、これらの取組は、川崎市が主催する「かわさき起業家オーディション」の「かわさき起業家賞」をはじめ、数々の賞を受賞。奇しくも取材日には経済産業省が後援する「2023年省エネ大賞」の受賞が内定しました。

小林代表「人は豊かな暮らしを享受してきた分、自然を傷めつけ、ないがしろにしてきました。私たちも、エニマスを作ったから終わり……ではありません。これからも脱炭素化の必要性や取組方法について、わかりやすく発信していくのが私たちの責務だと考えています」

大学では環境工学を学び、一度は大手建築会社に就職したものの、やがて家業の製造業を承継した小林さん。その横顔には、今こうして再び環境問題の解決に向き合っている充実感と、「すべては省エネから始まる」という強い信念が窺えました。

企業プロフィール

  • 株式会社エニマス
  • 東京都町田市原町田4-11-13
  • 電気、電力の測定装置およびアプリケーション・ソフトウェアの設計、開発、製造、販売
  • 8名
  • https://enimas.co.jp/
  • 2024年9月

全日空モーターサービス株式会社様

脱炭素は避けられない課題。
全社一丸となって取り組んでいます。

全日空モーターサービス株式会社
企画総務部 マネージャー 竹中啓光様

POINT
  • 東日本大震災をきっかけに照明のLED化や空調設備の更新を実行し、電力削減目標を達成
  • 日本の航空業界初、廃棄対象地上支援器材のEV車両へのアップサイクルを実現
  • 再エネ導入やリニューアブルディーゼルの販売など、目標達成へ向けてあらゆる施策を実行

今回ご紹介するのは、地上支援器材を通じて航空機の運航を支えるANAグループのエンジニアリング・カンパニー、全日空モーターサービス株式会社様。ANAグループが掲げる2030年、2050年の目標達成に向けて、あらゆる手段を模索する脱炭素の取組をご紹介します。

ANAグループの一員として、
2030年、2050年の目標実現をめざす

全日空モーターサービス株式会社は、ANAホールディングス株式会社の子会社として1969年に創立。羽田空港の敷地内に社屋と整備場を構え、各種地上支援器材や空港設備のメンテナンスを行っています。地上支援器材とはGSE(Ground Support Equipment)と呼ばれる機器で、空港で見かける航空機の牽引車やタラップ車、貨物や手荷物を積み降ろすベルトローダー車などもそのひとつ。全日空モーターサービスは、主に羽田空港内にあるANA保有のGSEをメンテナンスしていて、その数は約40種、2,800台にも上ります。これらGSEの車両整備事業のほか、ボーディングブリッジ(PBB)の製造、販売、メンテナンスを行う空港機事業、GSEなど空港内で稼働する車に燃料を供給する油脂事業を含め、3つの事業を柱として展開しています。

航空業界の脱炭素といえば、CO2を大幅に削減できるSAF(Sustainable Aviation Fuel:廃油やエタノール、バイオマス燃料などから製造)への切り替えが期待されるところですが、供給量の低さと高価格から普及率は非常に低いのが現状です。空における排出量削減の困難を補う意味でも、地上における脱炭素の意義は大きいといえるでしょう。企画総務部マネージャーの竹中啓光さんは、航空業界における脱炭素の背景とグループ全体の目標について、次のように語ります。

竹中さん「航空機はC02を大量に排出しますので、温暖化問題ではいろいろな意味で注目されています。ヨーロッパなどでは一部の利用者が鉄道にシフトする流れも出てきていますし、事業を継続していくうえで、脱炭素は避けては通れない課題なのだと思っています。ANAグループでは2050年のカーボンニュートラルに向け『2030年中期環境目標』を設定していて、航空機事業については2019年度比10%以上の削減、弊社のような航空機以外の事業については33%以上の削減と、脱炭素に向けた高い目標が掲げられています。それぞれ取組内容についても細かく定められていて、我々もそれを目標として取組に力を入れているところです」

全日空モーターサービスでは、照明のLED化や空調設備の更新など、HTTに繋がるような取組は早い段階から行われていて、そのきっかけとなったのが東日本大震災でした。2011年3月11日に発災した東日本大震災では、地震と津波により東北地方に未曾有の被害がもたらされ、福島第一原子力発電所では史上最悪レベルの事故が発生。東日本地域全体で計画停電が行われ、災害時におけるエネルギー供給の脆弱性が露呈したことは記憶に新しいことと思います。

竹中さん「羽田空港において計画停電はなかったのですが、東日本大震災を機にエネルギー供給に対する危機感が一気に高まったと感じています。古くなった空調を更新したり、照明の一部についてLED化を行ったり、いまで言うHTTに繋がるような省エネの取組を進めました。グループ全体で電力削減の目標が定められたのですが、空調更新による効果が思いのほか大きくて、当社の目標はそれだけで達成することができました

技術者たちの挑戦として始まった
廃棄対象の地上支援器材をEV車両へ

今年の5月、全日空モーターサービスは、飛行機への手荷物搭載時に使用するベルトローダーをEV車両へアップサイクルしたことを発表。9月には羽田空港における運用開始を予定しています。日本のエアライングループにおいては初の試みで、地上における脱炭素の取組として、航空業界をはじめ各界で注目を集めています。

竹中さん「このアップサイクルは技術者たちの脱炭素化に寄与する挑戦としてスタートした取組でした。EV化したのは成田空港で使用され、2022年に廃棄対象となっていたベルトローダーです。エンジンをおろして、EV専用のモーターとバッテリーを積むわけですが、設計から電気配線まですべて自前で行ったため難儀もしましたが、電気自動車協会等のご支援もいただいて実現することができました。車両走行はもちろん、荷役部分の稼働を含めてすべての動力が電力となっていて、60分程度の充電で羽田空港における1日の運航便に使用することを想定しています。ベルトローダーはだいたい20〜25年使用して廃棄されますが、修復してEV化することにより、さらに15年ほど寿命が延びると想定していて、アップサイクルによる廃棄物の削減にも貢献できると考えています」

アップサイクルしたベルトローダー
ベルトローダーとANA Future Promise Jet

同社では2台目以降のアップサイクルも考えていて、ビジネスに繋げることを視野に入れ、修復・EV化の費用と時間を効率化して、脱炭素に向けたソリューションの一つとして育てることを目指しています。このように既存GSEのEV化を進める背景には、2030年の目標に向けて取組を急ぐ必要に迫られている実情もあります。

竹中さん「国内ではGSEをつくるメーカーがほとんどないため、いまは多くが海外製です。ヨーロッパで行われるGSEの展示会を視察した社員からの報告では、世界的にGSEのEV化が流れになっていて、国内におけるEV化も急がれているところです。ANAでも2030年の中期目標への取組として空港車両のEV化促進を目指していますが、円安で海外製は割高なうえ、調達にも時間がかかることもあり、買い替えだけでは間に合わないのが現状です。そうした背景もあり、既存GSEのEV化については今後も進めていきたいという考えがあります」

ならば、羽田空港におけるGSE車両2,800台すべてをEV化できるかというと、そこには別の課題があるといいます。

竹中さん「車だけEV化しても、電力のインフラが進まないとどうしようもありません。関係各所も、羽田空港内の各所に充電器の設置を進めていますが、すべてのGSEをEV化すると電力量が追いつかなくなる恐れがあり、現状のEVでは充電時間が長いという問題もあります。羽田空港の臨海エリアでは水素供給のネットワーク構築も進められていますので、将来的には水素も含めて考えることになると思います」

太陽光パネルの設置、リニューアブルディーゼルの活用、
目標達成に向けあらゆる方策を試みる

一方、空港内の車に燃料を給油する油脂事業においては、空港内の給油所に太陽光パネルの設置を進めるなど、グループ目標達成に向けてあらゆる方策を試みています。

竹中さん「太陽光パネルについては、建物の屋根に乗せられるか構造計算をしているところです。空港内の施設なのでさまざまな制限があり、航空機の運航に支障がないよう、パネルの反射率を調整する必要も。同時に風力発電機器も設置できないかを考えていて、可能か否か多方面に確認中です。給油所の再エネ導入に関しては、脱炭素の意味もありますが、災害時に給油ポンプを稼働するためのBCP対策としての必要性も感じています。そのほか、油脂事業としては東京都の『バイオ燃料活用における事業化促進支援事業』を活用したANAの取組として、環境負荷の少ないリニューアブルディーゼルの販売も行っています。価格や供給量を考えると、実際に普及するのはまだ先の話かもしれませんが、目標達成に向けてはあらゆる方策が必要ということでしょう。当社でいえば、EV車への買い替えが必要ですし、既存GSEのEV化も必要。間に合わなければリニューアブルディーゼルも入れる、ということなのだと思います」

EV車
GSE用充電器

やれることはなんでもやる。そうした思いは会社全体に浸透していて、社員たちが知恵を出し合って生まれたアイデアが、ANA主催のアワードにおいて企業理念を体現した取組として最優秀賞に選ばれました。

竹中さん「整備に使うオイルの空き缶が多量に出るのですが、かさばるので空き缶置き場がすぐに一杯になってしまい、週に1度は回収業者さんに来ていただいていました。そこで、缶を潰せば一度に回収できる量を増やせると考えて、社員たちが仕事の合間に一斗缶を7分の1程度に潰す道具『ぺっちゃん缶』を作ったのです」

竹中さん「これは回収作業の負担軽減になると同時に回収車が排出するCO2を削減することもできるため、協力企業さんのメリットに繋がる取組でもあります。当社はANAの子会社でみなし大企業ではありますが、人員数を考えると悩みどころは中小企業の皆さんと一緒です。こうした事例のように、互いにウィンウィンの関係が築ける会社でありたいと思っています」

最後に、中小企業が脱炭素に取り組むうえで大切なことについて尋ねると「なによりも経営トップの強い意志。トップの強いメッセージがあればこそ自信を持って進められる」と、竹中さんは答えます。排出量削減に向けた技術的課題も多く、脱炭素が難しいとされる航空業界ですが、同社においてはグループトップのANA本社が掲げる明確な目標とメッセージに向けて、より強い使命感をもって取組を進めている様子が印象的でした。

企業プロフィール

  • 全日空モーターサービス株式会社
  • 東京都大田区羽田空港3-5-6
  • 航空機地上支援器材の保守管理、メンテナンス、開発、設計、製作、販売、および石油製品の販売
  • 116名(2023年4月1日時点)
  • https://www.anams.co.jp/
  • 2024年9月

株式会社ヨシザワ様

中小企業診断士の伴走支援と補助金の活用で、
赤字体質を脱却し経営改革ができました。

株式会社ヨシザワ
代表取締役 吉澤伸弥様

POINT
  • 補助金や伴走支援制度の積極的活用で、経営改革を実現
  • LED照明への換装や営業車をハイブリッド車へ替えることで、「電力をへらす」を実現
  • 水素ステーションや水素運搬船など、水素関連事業も積極的に手掛けている

今回ご紹介するのは、金属切削加工業の株式会社ヨシザワ様。補助金や伴走支援制度を積極的に活用して経営改革を進めた代表取締役の吉澤さんにお話を伺いながら、脱炭素経営にも役立つ公的支援の活用方法を探ります。

一社依存から抜け出すために、
補助金活用で新たな機械導入をめざす

日本有数の「ものづくりのまち」として知られる大田区で1941年に創業。以来、半世紀を超えて精密機械や生産設備の部品づくりに携わってきた株式会社ヨシザワの三代目として、吉澤伸弥さんが事業を引き継いだのは12年前のことでした。当時、大手メーカー一社に売上を依存していたヨシザワは、リーマンショックの煽りで発注が止まり、倒産寸前の状態だったといいます。

吉澤代表「会社をたたむか、お前が借金ごと引き継ぐか、どっちがいいんだ? そう言われました。子どもの頃から自分が継ぐものだと教え込まれていましたし、迷いはなかったですね。うちの一番の問題は、一つのお客さんに依存していたことなんです。当時は液晶テレビの仕事に寄りかかっていましたが、その仕事がストップした途端に立ちゆかなくなった。私が引き継いだ後も景気のいい半導体関連のお話をいただくこともありましたが、うちの規模だと1点請けるだけで手一杯になっちゃう。営業しなくても仕事がくるので楽なんですけど、液晶テレビと一緒でブームが終われば仕事もおしまいですから。もう一社依存はしない、そう心に決めて全部お断りしていました。うちは腕のいい職人さんもいて技術力には自信があったので、必死になって営業してまわり小さな仕事も引き受けて、少しずつ盛り返していきました」

営業努力の甲斐あって経営の危機は脱したものの、当時のヨシザワは借入金の利息を払うのが精一杯の状態でした。それでも一社依存はせず、少量でも多品種の仕事を請け負う体制づくりを目指すため、吉澤さんは補助金活用による新たな設備の導入を試みます。

吉澤代表「当時は借入金の利息だけを返している状態で投資する余裕がなかったのですが、補助金制度を使えば新しい機械を入れられると知ってチャレンジしてみたんです。提出書類は自分でつくりましたが、出しても、出しても採択されずに落ちるんです。そんなことを4、5回も繰り返していました」

補助金と伴走支援の活用を通じて
5年、10年先を見越した事業計画が可能に

長らく補助金申請に苦戦していた吉澤さんですが、ついには「ものづくり補助金」に採択され、新しい機械設備の導入に成功します。「ものづくり補助金」とは中小企業を対象に設備投資を支援する制度で、申請に際しては事業計画書の提出が求められ、その内容は慎重に審査されます。採択に辿り着く転機となったのは、政策金融公庫から借り入れる際に活用した、6カ月にわたる伴走支援制度でした。事業者に寄り添う中小企業診断士の的確なアドバイスにより、補助金を活用した経営改革の道筋が見えてきたといいます。

吉澤代表「中小企業診断士の先生からは、まずは返済計画を見直して赤字から脱却し、担税力のある会社になることが先決だといわれました。補助金制度もそうですが、その先生に6カ月にわたって指導していただける伴走支援も、税金によってまかなわれているわけです。税金を納める力をつけて、税金でつくられている補助金や支援制度をしっかり活用する、そういう、公的支援制度の根本を教えていただきました。第三者の視点で経営を見直す大切さを知ることで、思い切って借入金を精算することもできて、『ものづくり補助金』にも採択されました。そこがうちにとって本当のリスタートだったと思います」

また、補助金活用で申請書類を書き続けたことで、事業計画を練り直す習慣ができたのも大きな収穫でした。「それまでは2ヶ月先まで仕事が入っていれば満足していたのですが、5年後、10年後を見据えた経営を考えられるようになりました。これも中小企業診断士の先生に教えて頂いたことです。以前は銀行から催促されて事業計画書を作っていましたけど、今は自分から定期的に作り替えて押し売りみたいに配って歩いています」と、吉澤さんは笑いながら話します。

その甲斐あってか、これまでに「ものづくり補助金」に3回、「明日にチャレンジ中小企業基盤強化事業助成金」に3回、「躍進的な事業推進のための設備投資支援事業」に2回、「事業再構築補助金」、など、数々の補助金申請に採択され、新たな工作機械を次々と導入。立型マシニングセンターだけでも加工サイズの違いで10台、旋盤やワイヤー放電加工機なども揃えて全18台となり、あらゆる要望に応えられる体制を整えました。

吉澤代表「外注に頼ることなく、小さな物から大きな物まで社内で作れるよう、千差万別の機械を揃えようと思いました。例えば、お客様が10点の品物について相見積もりを取った時、7点までは見積もりを返せる会社はいっぱいあると思います。でも、うちは10点全部の見積もりを返せる会社でありたい。他ではできなくても、ヨシザワだったらできる。そういってくださるお客様の期待に応え続けていきたいんです」

水素社会実現の一助となるよう、
熟練の職人と若い技術者の力を尽くす

サーフィン好きで週末になると海へ出かけるという吉澤さんは、海を愛する心から、温暖化や環境問題への意識もお持ちです。仕事では、営業車をハイブリット車に変え、工場の水銀灯照明をLED化するなど、HTTに繋がる活動にも積極的に取り組んできました。また、水素関連企業に勤めるサーファー仲間の縁で、加工の難しい特殊素材の製品製作を手がけ、水素事業に関わる仕事も請け負うようになりました。

吉澤代表「水素環境に耐えうる硬い金属で、それまで外注していた工場ではギブアップして作れなかったそうです。他ができないのになんでできるんだ? って驚かれましたよ。それがなぜ可能かといえば、機械だけじゃない、うちには熟練の職人から若く優秀な技術者までいて、技術がきちんと受け継がれている。つまり、多種多様な機械設備と腕のいい技術者の両方が揃っているからなんです」

これを機に加工技術の高さを見込まれ、水素ステーションや水素運搬船など水素事業関連の受注が増加。水素事業の推進はカーボンニュートラル実現に向けた東京都の重要施策でもあり、今後も売上の拡大が期待されそうです。また、水素関連の仕事に携わるようになって、脱炭素の意識がより高まったという吉澤さん。昨年には節電対策と働く環境の整備を兼ねて、大田区の助成金を活用して工場内の空調設備を更新したといいます。このたびはHTT実践推進ナビゲーターの訪問を機に、HTTや脱炭素化に向けた取組を行う企業として「HTT取組推進宣言企業」にもご登録いただき、脱炭素への意気込みをお示しくださいました。

吉澤代表「HTTの、つくる、ためる、についても、太陽光発電や蓄電池を設置したいと思っているのですが、建物の耐久性やスペースの問題などで今のところは設置できずにいます。ペロブスカイト太陽電池などの開発も進んでいますから、いつかは設置できるだろうと期待しています。 将来的には、営業車として水素自動車と水素トラックを入れたいですね。実現するには資金的な問題もありますが、水素ステーションを増やすなど社会環境の整備が何よりの課題でしょう。少しでも早く水素社会が実現するためにも、ヨシザワでつくった部品がお役に立てたらと願っています」

助成金事業のほか、伴走支援や税制優遇など、東京都には脱炭素経営に取り組む中小企業のための公的支援が多数あります。株式会社ヨシザワ様のように、第三者である専門家の意見が経営改革の道標になるケースも多数あります。まずはHTT実践推進ナビゲーターにご相談ください。

企業プロフィール

  • 株式会社ヨシザワ
  • 東京都大田区中央8-41-8
  • 精密部品機械加工、各種生産設備部品機械加工
  • 28名
  • http://www.4438.co.jp/company/
  • 2024年8月

ホテルエミシア東京立川様

的確なアドバイスと迅速なレスポンス。
心強い味方を得たような気持ちになりました。

ホテルエミシア東京立川
総支配人 金田勲様、業務部 業務部長 藤倉雄次様、業務部 松浦生男様

POINT
  • コロナ禍の経営危機を乗り越え、省エネや業務改善に全社で取り組みながらホテルを再建
  • HTTナビゲーターとの出会いにより、照明のLED化や空調制御など脱炭素化への具体施策を実施
  • 若手スタッフのアイデアを活かしたアメニティの見直しや傘のリユースなど、SDGs視点の自発的取組が浸透
今回ご紹介するのは、立川駅近くにある宴会場やレストランを備えた宿泊施設、ホテルエミシア東京立川様。省エネやSDGsに関して以前から取り組んでいたことや、HTT実践推進ナビゲーターとの出会いから始まった支援策活用に至るまでのストーリーを伺いました。

コロナ禍の逆風を経て、
次なる課題はエネルギーコストの削減に

JR立川駅近くにあるホテルエミシア東京立川は、全国に展開するスマイルホテルをはじめ、シティホテルやリゾートホテル、各種レジャー施設を運営するホスピタリティパートナーズグループの一員。以前は「立川グランドホテル」として地域の人々に愛されてきましたが、2020年に改称し、大規模なリブランディングを実施。従来からある本館に加え、地上17階建てのタワー館を増築したことで総客室数は251室となり、多摩地区最大級のシティホテルへと生まれ変わりました。

しかし、2020年。東京オリンピックも控えた中で華々しいリブランドオープンを果たすと同時に、誰もが経験したことのないコロナ禍との戦いが始まりました。総支配人の金田さんは振り返ります。

金田総支配人「ほぼ、休業に等しい状態でした。宿泊や飲食のお客様は激減、収益の要であるご宴会、会議、結婚式が全く無い状態が続き、さらには館内のテナント様も撤退。ほとんどのスタッフが休業となる中、先の見えない不安から一人またひとりと自らホテルを去っていくスタッフとの別れは、非常に辛いものがありました。そんな静まり返る暗い館内の一角で、各部門責任者は何度となく集まり、協議を行いました。皆、大切なスタッフ、ホテルを守るために何でもやっていくと必死でしたね。そうやって考えに考えて作り出した経費節減案や業務改善策の実施に加え、他業種企業への出向やグループ会社への派遣を実施することも決め、さまざまな企業とのマッチングにも奔走しました。一定期間とはいえ、未経験の異業種の仕事に挑戦したスタッフたちの戸惑いや努力は本当に大きなものであったと思いますし、耐え抜いてくれたことに感謝しています」

その後は、医療従事者の隔離を目的とした受け入れや、ワクチン接種会場としてレストランを開放するなど、さまざまな工夫を凝らしながら営業を続けてこられたのだとか。徐々に状況が好転していく中で、環境や空間づくりに携わる業務部部長の藤倉さんは、さらなる経営改善に思考を巡らせたそうです。

藤倉部長「東京都のHTTの取組を知る以前から、環境保全や省エネ対策には着実に取り組んできました。客室のシャワーヘッドや、厨房の食洗機を節水タイプに入れ替えるのもその一つ。節電への取組としては、照明をLED電球に交換しています」

しかし、公共スペースや宴会場の照明機器については、課題が大きかったようです。本館が建てられたのは30年以上も前。宴会場の大型のシャンデリアなど、調光機能を持つ照明機器はLED化に対応しておらず、システムそのものを最新設備に更新する必要がありました。さらに、電気設備も細やかな分電制御が難しい仕様で、新築のタワー館とは異なり省エネ化に相応なコストがかかるため、簡単には手を付けることができない状況であったようです。

藤倉部長「そんな時、お電話をくださったのが東京都HTT実践推進ナビゲーター事業の山内さんでした。日々さまざまな事業者様から営業の電話がありますので、山内さんからのアプローチも、当初は営業活動の一つかなと考えていました。しかし、お話を伺ううちに、ちょうど私たちが直面している課題に合致するお話しばかりであったため、さっそくご訪問をお願いし、省エネ対策につながる助成金や補助金制度について、詳しく教えていただくことにしました」

ナビゲーターの提案で無料の省エネ診断を実施
専門家の助言がさらなる呼び水に

コロナ禍が収束し、ようやく人の往来が元に戻りつつある今、複合的な要因からエネルギー価格が高騰を続けているのは周知の通り。消費者はもちろん、企業にも大きな打撃を与えています。

金田総支配人「省電力機器への換装、スタッフの啓蒙活動などあらゆる施策を経てやり尽くした感があり、頭を悩ませていたところで出会えたのが、ナビゲーターの山内さんでした。山内さんは当ホテルが置かれている状況に耳を傾け的確なアドバイスをくださいました。後の相談時もレスポンスは迅速で、心強い味方を得たような気持ちになりました」

その後、ビル管理システムの経験がある業務部の松浦さんを中心に、無料の省エネルギー診断(東京都環境公社)を実施。東京都から派遣されたプロの診断士とともに、まずは照明のLED化による削減効果の算出に取りかかられたそうです。

松浦様「ご協力くださった診断士さんはその道のプロでした。電力使用量を減らす具体的手段についてや、現状を見える化する手段を伺い、事前にイメージしていたこと以上のアドバイスをいただけました」

ナビゲーターの山内氏や省エネ診断士の助言をもとに、同ホテルでは東京都の「ゼロエミッション化に向けた省エネ設備導入・運用改善支援事業」の助成金を活用する方針に決めました。ただし、申請時に必要な書類を揃えるためにかなりのご苦労があったといいます。

松浦様「例えば、既設の照明設備の仕様(型番・消費電力等)の入力が必須条件のなかで、古い照明器具は型番などの詳細が不明なものも多く、仕様書に記載されている機種が廃番になっていることもありました。それについては、東京都の指示で該当設備を個別に撮影して、写真付きの申請用報告書を作成しなければならなかったのです。時間のかかる作業でしたが、先日なんとか申請用報告書は完遂しました」

結果、ゼロエミッション化に向けた主な取組としては、従前から想定していた宴会場およびパブリックスペースの照明のLED化をはじめ、運用面では空調機のデマンド制御や冷温水発生機の設定温度管理の検討、毎月の電力使用量や料金推移をグラフ化して館内のバックヤードに掲出し、従業員への意識啓蒙を実施。現在はひと通りのチェックと書類作成を終え、申請結果を待っている状況だといいます。

SDGsへの取組で培ったモチベーションを
ゼロエミッション化にも活かしたい

もともと、ホテルエミシア東京立川ではSDGsの取組を積極的に行っており、若手スタッフを中心とした専門チームによる勉強会や定期的なミーティングが実施されていました。その後、コロナ禍という厳しい状況に直面したのを契機に、業務改善が急務となり、一人ひとりがより深く考える機会を得たことで、日々の業務に対する意識を向上させることへも繋がったといいます。

藤倉部長「普段は積極的な発言がほとんどなかった若手スタッフたちが、一生懸命考えたアイデアを持ち寄り、自信を持って発表してくれるようになったのです。これまで私たちは、持続可能な社会の実現を目指して、歯ブラシやヘアーブラシといった客室のアメニティをバイオマス製品に変更するなど多様な取組を行ってまいりましたが、これらも彼ら彼女らの意見がボトムアップで挙がってきた例ですし、お客様が不要になって当館に寄付してくださった傘を「リユース傘」として別のお客様に自由にお持ち帰りいただくという新しいサービスも、実は若手スタッフたちのアイデアによるものでした」

忘れ物や不要物として放置されることの多いビニール傘は、1ヶ月で30本以上にのぼることもあるのだとか。金属やプラスチックなどの異素材で組み立てられている傘は、分解が困難なため、リサイクル処分を行うにもかなりの費用がかかってしまいます。これをスタッフたちが選別し、綺麗な状態で再利用できるようになれば、不意の雨に降られて困っている方々へのベネフィットにも繋がります。ほかにも、こまめな消灯による節電や清掃時の節水、会議資料やPRツールのペーパーレス化、ペットボトルの完全リサイクル、食品ロスの軽減など、環境に配慮した取組の数々が浸透しています。

金田総支配人「設備や環境面の整備を多角的に実施してきましたが、HTTとの出会いから取組を通じ、課題の大きかったゼロエミッション化へ更なる大きな一歩を踏み出せたと実感しています。コロナ禍の厳しい時期を経て、ONEチームとなったスタッフ一人ひとりが、今後も継続的に高い目的意識を持って取り組めば、更なるエネルギーコストの大幅削減、経営改善も不可能ではないと信じています。今後も引き続き、皆の気づきとアイデアを集め、脱炭素社会の実現に繋げていきたいと思います」

コロナ禍でも、スタッフ、お客様、そして持続可能な社会のために前進し続け、今や人手が足りないほどまでに回復したホテルエミシア東京立川。金田総支配人は、脱炭素化への取組について各企業個々に工夫を重ねている中、時に行政の支援に頼ることで課題解決の糸口に繋がる可能性があると語ってくださいました。今回、それらを考えるきっかけを与えてくれたのが、ナビゲーターの山内氏と省エネ診断士の存在だったといいます。

まだ、脱炭素化への具体的な取組や方針を決めかねている中小企業の皆様。まずはHTT実践推進ナビゲーターに相談をしてみませんか?

企業プロフィール

  • ホテルエミシア東京立川
  • 東京都立川市曙町2-14-16
  • 宿泊、婚礼、宴会、会議、レストランを営むフルサービス型ホテル
  • 168名
  • https://www.hotel-emisia.com/tokyotachikawa/
  • 2023年10月

コーデンシTK株式会社様

手掛かりを指し示し、解決への道を明るく照らす。
ナビゲーターの存在が私たちを導いてくれました。

コーデンシTK株式会社 業務部 ご担当者様

POINT
  • 省エネやSDGsに関心を持ちながらも対策に踏み出せずにいた中、HTTナビゲーターとの出会いをきっかけに具体的な行動を開始
  • 省エネ診断を通じて自社の現状を可視化し、省電力機器の導入可能性や課題を明確化
  • 太陽光発電にも積極的に取り組み、設置困難な状況でも諦めず前進を続ける姿勢が脱炭素化の実現を後押し
コーデンシTK株式会社様
今回ご紹介するのは、光技術を応用した光学機器やセンサー製品を販売するコーデンシTK株式会社様。HTTを知ったきっかけや、その後の課題解決までの道のりを伺いました。

スタート地点は「何から始めていいのかわからない」
対策を加速させたHTTナビゲーターとの出会い

渋谷区南平台に本社を構えるコーデンシTK株式会社は、光センサーや光半導体、デジタルサイネージなど、光の先進技術を駆使した各種製品群を扱う企業です。主な業務はグループ本社が開発・製造する電子機器や光学機器をPRし、東日本エリアの販売戦略を担うこと。社員の大部分がセールスを担当されているため、製造業に比べれば電力消費量の影響は穏やかですが、昨今の原油価格高騰や世界情勢の不安定化によるコスト増の風雨に例外なく晒され、省エネ化推進の必要性が高まっていたようです。

業務部ご担当者様(以下略)「もともと私どもは電子部品を商う会社です。ISO14000シリーズの国際規格認証を取得したほか、SDGsを積極的に推し進めるなど、環境マネジメントに対する意識はそれなりに高かったと考えています。その下地もあって、早い段階から社屋の照明器具をLED電灯に換装するなど、省エネに資する工夫や取組を続けてきました。そんな折、HTT実践推進ナビゲーター事業のスタッフさんから一本の電話がありました。HTTについてのご案内だったんです」

組織全体を縁の下で支え、外部からの窓口役をも担う業務部には、日々さまざまな電話がかかってきます。「最初は怪しい営業の電話かと思っていました」と恐縮した表情で仰るように、省エネや環境対策の話題については関心があったものの、少なからず警戒心の方が先立ってしまったといいます。

「でも、会社にとって有益なことには常にアンテナを張っておくのが私たち業務部の仕事です。また、電気料金を抑えるためには、例えば社員の残業をできるだけ減らすなど、企業内活動を抑制するのが近道ではありますが、それはあくまでも働き方改革の一環として考えるべきものですよね。社員に何事かを強いることもなく、オフィスの快適性を損なうことなく、できるだけみんなが働きやすい環境を維持しながら、人知れず省エネにつながる施策を行っていくことが好ましいと考えていました。抜本的に解決できる手段を探していたので、まずはお電話でご説明を伺ったのち、HTT実践推進ナビゲーター事業のホームページを拝見し、問い合わせフォームからいくつかの質問を投げかけてみました。さっそくHTTナビゲーターの齊藤さんからご連絡があり、弊社を訪問したいとの申し出が。実際に対面で具体的な情報提供やご提案をいただき、そこからは一気にお話が進んでいきました」

診断士のレポートとアドバイスで
迷いが払拭された省エネ対策

当初からコーデンシTK社が注目していたのが、太陽光発電でした。自社ビルの屋上に太陽光発電モジュールを設置すれば、それまで取り組んできた「へらす」に加え、電力を「つくる」ことも可能です。そこでナビゲーターの齊藤氏は、太陽光発電に関連する東京都の助成金制度をご案内。併せて蓄電池設置による「ためる」プランについてもご提案を行い、まずは現在の電力使用状況の見える化を進言したのだとか。省エネ対策立案のベースとなりうる「省エネルギー診断(東京都環境公社)」を通じて、モヤモヤとしていたものが少しずつ形を成していく感覚を得られたのだそうです。

「プロの診断士の目に私たちの会社がどのように映るのか。果たしてどのようなアドバイスがいただけるのか。何よりも今、私たちの現在地がどの辺りにあるのかが知りたくて、診断には全面的に協力させていただきました。現況を把握してもらうために揃えるべき資料は多岐にわたり、相応の時間と労力を要しましたが、そこを超えてしまうと進むべき道がとたんに拓けていくものなんですね。例えば、なんとなくエアコンと併用していたサーキュレーターの運用方法や、社員に向けて省エネ意識や節電を啓蒙するために掲げていた社内表示にもお墨付きをいただくことができました。また、当社は社屋内に福利厚生としてドリンクの自動販売機を設置しているのですが、ベンダーに要望を出せば、省エネタイプの機材に置き換えてもらえることもわかりました。今まで行ってきたことに自信が持て、これから改善してゆくべき点に向き合える豊富な知識が養えました」

太陽光発電についても同様です。実現可能な具体案が見つかれば、すぐにでも検討に入る準備は整っていました。しかし、本社社屋ビルのカマボコ型にデザインされた屋上には、建築上、従来型の太陽光パネルの設置が困難であるということが判明します。

「自社ビルの形状についてはどうしようもありません。ただ、私たちには太陽光発電を『諦める』という選択肢もあったのです。これは決してネガティブな話ではなく、ダメなら別の方策を考えるための『前進』に繋がることです。その後、少々の時間経過があって、再び齊藤さんからご連絡がありました」

ナビゲーターの齊藤氏があらためて最新情報としてご案内したのは、フィルム式の太陽光発電モジュールの存在でした。奇しくもコーデンシTK社の取り扱い製品には、軽量かつ薄型で曲がる「Magic Flex」というLEDディスプレイがラインナップされているのですが、まさにそれと似た特性を持つ太陽光パネルが販売されていました。これなら曲線を描くカマボコ型の屋根にもフィットします。

前を向く気持ちがあれば、きっと背中を押してくれる
ナビゲーターへのご相談をおすすめします

さっそくコーデンシTK社は、太陽光発電モジュールおよび蓄電池の設置費用や、具体的な設置プランの策定を専門業者に依頼しました。調査の結果、社屋上層階部分の陽当たりが極めて良好なことがわかり、屋上だけでなく壁面部分にもパネルを延長設置するプランも浮上したといいます。

「実はその後、太陽光パネルの設置業者さんから、当社の屋上には充分な枚数のパネルを設置することができず十分な発電量を得られないという理由から、残念ながら費用対効果は薄いとの回答をいただきました。助成金を活用しても、設置には相応のコストがかかります。コストを回収できなければ、当然ながら設置は断念せざるを得ません。ただ、私たちにとってはこれも『前進した結果』であり、ポジティブに捉えています。中小企業経営者の皆さんになら共感いただけると思うのですが、小さな会社は本来業務に加えて、細かい経理業務や求人、社内環境の整備など、目の前に山積みされる諸問題に忙殺されがちです。環境負荷低減や脱炭素化に向けた取組は大切であると思いながらも、どうしても二の次になってしまうんですよね。でも、今、私たちに何ができて、何ができないのかを見極めることは、エネルギー使用の合理化・最適化はもとより、企業の成長を促す付加価値の創造にも役立つはずです

フィルム式太陽光モジュールは業者の診断の結果設置には至りませんでしたが、ビルの日当たりが非常に良いことから、ナビゲーターの齊藤氏より次なる一手として「ガラス一体型太陽光モジュール」をご案内しており、これから再度の実地調査に入る予定とのことです。

振り返ればいくつかのハードルがあったなか、着実に一歩ずつ進んでこられているのが、何よりの収穫とのこと。迷った時に「きっとできますよ!」と背中を押してくれたHTTナビゲーターの齊藤氏や、省エネルギー診断によってレポートをまとめた診断士さんの存在が、プラスに働いたことは紛れもない事実でした。この大きな一歩は、今後の脱炭素経営を見据えていく上で、一つの成功事例といえるのではないでしょうか。

「準備は大変でしたが、想像以上に詳細かつ的確なレポートにまとめていただくことができました。また、その前後で齊藤さんにお力添えをいただいたことにも大変感謝しています。こうしたHTTの取組が、当社の省エネのみならず、未来の東京を守ることにも繋がっていけばうれしいですね。ぜひ、躊躇されている他の企業の皆さんにも、HTT実践推進ナビゲーターへのご相談を強くおすすめしたいと思います」

企業プロフィール

  • コーデンシTK株式会社
  • 東京都渋谷区南平台町3-1 コーデンシTK渋谷ビル
  • 電子部品、光学部品、電子機器および光学機器の販売
  • 32名
  • https://kodenshi-tk.co.jp/
  • 2023年8月

株式会社エイチ・エー・ティー様

働く社員のためにはじめた老朽設備の更新が、
さらなる省エネと経営改善にも繋がりそうです。

株式会社エイチ・エー・ティー 代表取締役 吉田隆史様

POINT
  • 空調更新のタイミングでHTTナビゲーターと出会い、補助金活用でコスト削減に成功
  • 専門家の訪問で、省エネと職場環境の両立に加え、製造業に即した経営アドバイスも得られたことが大きな収穫に
  • 脱炭素はすでに一部実施済みだったが、今回の取組でエネルギーコスト削減が経営改善にも直結することを実感した
株式会社エイチ・エー・ティー様

今回ご紹介するのは、航空宇宙産業の部品加工に携わる株式会社エイチ・エー・ティー様。代表取締役社長の吉田さんに、HTTナビゲーターの提案で東京都の支援事業を活用するまでの経緯とともに、脱炭素の取組に対する想いについても伺いました。

製造設備の新規導入と併せて
空調管理の見直しへ

1998年に東京都国立市で創業、今年で25年目を迎える株式会社エイチ・エー・ティーは、放電加工、ウォータージェット、機械加工などの技術を主軸として、航空宇宙関連部品の加工や製造に携わるモノ作りの企業です。本社である国立事業所では航空宇宙、各種産業界の試作品の加工を行い、福島事務所では航空機エンジン部品の量産部品を、そして東京都昭島市の事務所では非破壊検査器機の設計・施工、販売、検査機器の校正を手掛けています。

吉田社長が、東京都の取組であるHTT(電力をへらす・つくる・ためる)について知ったのは初夏のころ。本格的な夏の猛暑に備えて空調設備の更新を検討しているさなか、HTT実践推進ナビゲーター事業のスタッフから電話案内がありました。

吉田社長「国立事業所の工場は、2019年、2023年と、連続して製造に関わる最新設備を導入してきました。その流れの中で、設備の動作保全や職場環境を快適に整えるため『空調を新しくしよう!』と考えました。工場には新たに導入された放電加工やウォーター切断加工、マシニングなどの工作機械がずらりと並んでおり、現状では機械が発する熱と古くて効きの悪い空調により、夏場には温度管理が厳しくなっておりましたので、社員からも喜びの声が上がりました。さっそくメーカーに見積を取り、いざ発注しようというタイミングでHTTの案内電話があったんです。ここ数年はコロナ禍で飛行機も飛ばず、エネルギー高騰のあおりも受けているところでしたので、少しでも費用の助けになるならと考えて、ナビゲーターの山内さんに来ていただくことになりました」

パンデミックを機に、むしろ守りから攻めの経営へ。従来からのものづくり産業に加え、非破壊検査部門を充実させようと考えていた吉田社長にとっては、ナノサイズX線CT撮影装置や、高精度3Dスキャナーなどの最新機器を導入したばかりの出来事でした。空調設備の見直しにあたって多少なりとも役立つ情報が得られるならと、HTT実践推進ナビゲーターからのアプローチを受け入れることになったといいます。

ヒアリング内容をもとに、
ナビゲーターが事業内容や経営状況に応じた支援事業を提案

コロナウイルスのパンデミック下にあった2020年、2021年には、世界的な渡航制限の影響により民間機の生産が大きく落ち込み、航空機産業が大きな打撃を受けたことは多くの人の知るところです。航空機生産におけるサプライチェーンの一員であるエイチ・エー・ティーもまた然り。パンデミックが収束しつつある現在は航空機産業も回復基調にありますが、ロシアによるウクライナ侵攻でエネルギー価格の高騰にも見舞われ、今なお厳しい状況が続いています。吉田社長から会社が置かれた状況を伺ったナビゲーターの山内氏は、このたびの空調設備更新にあたり「原油価格高騰等緊急対策事業」という支援事業の活用を提案しました。

吉田社長「山内さんに教えていただくまでは、そうした支援事業があることも知りませんでした。うちは福島県に工場があり、東日本大震災以来、補助金制度はたびたび活用させてもらっているので機械設備の補助金についてはよく知っていたのですが、空調などのインフラ設備補助金は知りませんでした。アドバイスがなかったら自費で設置する予定でしたので、とても助かりました」

山内氏が提案した「原油価格高騰等緊急対策事業」とは、世界情勢による原油や原材料価格の高騰により、経済的打撃を受けている中小企業に対して、専門家のアドバイスをもとに固定費削減の取組を支援しようというもの。対象は東京都内で製造業を営む中小企業で、直近の売上高が前期、あるいは前々期より減少していることが条件でした。エイチ・エー・ティーは燃料費高騰のあおりを受ける航空機産業で条件に見合っており、一般的な省エネ対策の助成金に比べると助成率が80%と高いことや、緊急対策であるため比較的早い対応が期待できるというメリットも考えられました。

助成支援までの具体的な流れは、最初に所定の申込みフォームにより専門家の派遣を依頼。事務局の内容確認が済むと、派遣された専門家が現地調査を行って支援レポートを作成、レポートの内容にもとづいて助成金の申請を行うという手順です。取材を行った8月末の時点では、助成金申請を済ませて審査待ちという段階。吉田社長の「この夏こそ空調を新しくする!」宣言の実現には間に合わない様子でしたが、「社員にはこの夏も暑さに耐えてもらうことになって申し訳なかったのですが、浮いた経費をボーナスに上乗せできたので、みんな喜んでくれました」と、吉田社長も嬉しそうに語ります。


専門家のアドバイスで見えてきた、
脱炭素の取組と経営改善に繋がる道筋

これまでも幾度か補助金を活用してきた吉田社長ですが、申請手続きはすべて自分一人で行ってきたそう。HTT実践推進ナビゲーター事業からの案内をきっかけに行った今回の場合は、ナビゲーターの山内氏や東京都から派遣された専門家の意見を訊けたことが、思わぬ収穫だったようです。

吉田社長「ご紹介いただいた助成金活用では、ナビゲーターの山内さんや、東京都から派遣されたコンサルタントの方など、無償で専門家のアドバイスが訊けたことがありがたかったですね。派遣されたコンサルタントは大手自動車メーカーの生産部にいた方だったので、製造業の実情に精通されていて、経営面でも役立つアドバイスをいただくことができました。今回の助成金活用では、こうした専門家の方とのご縁ができたことも大きな収穫でした。これまで自己流でやってきましたが、これを機に専門家の助言をもとに会社経営についても見直したいと思っています」

今回の助成金活用では、高効率空調設備へ更新することで従業員の方々が快適に働ける環境が整うのと同時に、省エネについても大きな効果が期待されます。HTTのH(へらす)の取組に繋がり、カーボンニュートラルにおける貢献度も高いといえるでしょう。HTTについてはナビゲーターをきっかけに知った吉田社長ですが、最後に、脱炭素の取組についてどのように考えているのか伺ってみました。

吉田社長「これまでHTTについては何も知りませんでしたが、今回活用させていただいて、とても良い取組だと思いました。ナビゲーターもコンサルタントも東京都から派遣される方なので安心で、無償で役立つアドバイスをいただけるので助かりますね。脱炭素の取組については、照明のLED化などは数年前に済ませていますし現時点ではやれることが限られると思っていましたが、今回お話を伺うなかでエネルギーコストを効率よく下げることで、結果として利益を上げられることもわかりましたし、脱炭素の取組は、有効な経営改善に繋がることも実感できました。行政の支援というと補助金や助成金ばかりに目が行きがちですが、専門家の意見を訊けるよいチャンスでもあるので、中小企業の方は活用してみるとよいと思いました」

パンデミックやロシアのウクライナ侵攻など厳しい世界情勢の荒波を乗り越え、創業から四半世紀という節目を迎えたこの夏。来期の売上はコロナ前を上回るとの予測もあり、脱炭素の取組で結ばれた縁をもとに、エイチ・エー・ティーのさらなる飛躍の年となることを願います。

企業プロフィール

  • 株式会社エイチ・エー・ティー
  • 東京都国立市泉1-6-10

  • 【ものづくり事業】航空宇宙関連、各種試作開発品加工(MC、旋盤、各種放電、ウォータージェットなど)
    【非破壊事業】非破壊検査機器の取り扱い、検査機器校正サービス(光学機器、圧力計)
    【評価計測事業】3D計測リバース計測、X線CT撮影受託サービスなど
  • 32名
  • https://www.h-a-t.co.jp/
  • 2023年8月