ナビゲーターインタビュー
山内貴司さんnavigator

ナビゲーターインタビュー
山内貴司さん



東京都が推進するHTT(へらす・つくる・ためる)は、気候変動(地球温暖化)や世界的なエネルギー不足への対策として、キーワードとなる取組のことです。しかし、方法や解決策は十人十色。企業によって多彩なアプローチが可能な分、具体的な施策やロードマップの策定にお悩みの経営者様や担当者様も多いことでしょう。その際、強い味方となってくれるのがナビゲーターの存在です。そこで、皆様からのお問い合わせに応える精鋭スタッフをインタビュー。第1回目は、多士済々なナビゲーターを率い、ご自身もナビゲーション活動に邁進する山内さんに、その役割と事業にかける熱い想いを伺いました。

ナビゲーターの存在意義は、それぞれの立場を尊重し、
それぞれのHTT参画をサポートすること

ゼロエミッションの重要性を理解し、省エネによる経費削減・事業改善への取組に興味があっても、「何から始めるべきか」「何ができるのか」がわからず、二の足を踏んでいらっしゃる経営者やプロジェクトリーダーの皆様は多いはずです。そんな時、HTTの案内役となってくれるのがHTT実践推進ナビゲーターです。現在、当事業では複数名のナビゲーターが企業様からのお問い合わせやご相談に対応しています。その中でも、責任者を務める山内貴司さんは、もともと中小企業や町工場における“モノづくりの現場”でコーディネートおよびコンサルティング業務を専門としていたエキスパート。昨今のエネルギーコストの急激な高騰によって、電力使用量を見直したいと考える企業様からの声に耳を傾け、効果的な支援策を提示しています。

山内「すでにご案内している企業は1万5,000社にのぼり、コールセンターにお問い合わせを寄せてくださった企業様や、コールセンターのスタッフたちによる電話でのご案内に関心を持ってくださった企業様に対して、HTTの意義や役割、具体的な東京都の支援策など、情報提供を行なっています。私たちナビゲーターの仕事は、HTTの周知・啓蒙・広報活動を主軸に、各企業様によって異なる課題についてのヒアリングはもとより、ご相談内容に応じた支援策のご提案など多岐にわたります。現在、私を含めたナビゲーターが、さまざまな手段や助成金活用に至るまでの道筋を照らし、HTTについてのアドバイスをさせていただいております」

今だからこそ、多くの中小企業様に知ってほしい
東京都が掲げる手厚い助成金制度

コロナ禍の影響が長引く中、国際情勢に伴うエネルギー価格の高騰や円安といった要因で、多くの日本企業は厳しい経営状況を強いられています。省エネは、事業活動を維持、継続させる上でもはや欠かせないもの。また、SDGsやパリ協定など、脱炭素化社会の実現に向けた社会・経済システムの変革は、世界的な潮流として避けては通れない状況となっています。

山内「今、対策を打たなければ、やがては持続的な企業活動を妨げてしまう可能性があります。すでに名だたる大手上場企業は、サプライチェーン全体におけるCO2排出量の可視化や管理に着手しはじめました。しかし、東京都に所在を置く企業のうち98%以上は中小企業。政府が発表した2050年のゼロエミッション達成に向け、東京都は2030年までに温室効果ガス排出量を50%削減(2000年比)する「カーボンハーフ」を表明し、その実現に向けたさまざまな取組を強化・加速させていますが、そのためには中小企業の皆様のご協力が必要不可欠です。企業規模の大小に関わらず、総力戦で取り組まなくてはなりません。都が設けている53(2023年6月時点)にわたる事業者向け支援策もその一環です」

では、どのような取組が考えられ、それに対してどういった補助や助成が受けられるのでしょう。

山内「蛍光灯をLEDに変えたり、空調設備を最新の省エネ機器に変えたり、窓を断熱性の高いものにするだけでも、消費電力がセーブでき、HTTの『へらす』に貢献できます。また、営業車の一部をEV(電気自動車)にするのもいいですね。工場であれば、現在使用している機器の稼働効率を見直すことで節電に大きな効果をもたらします。さらに、太陽光発電などの再エネ設備を設置して『つくる』を実践したり、蓄電池システムの導入によって『ためる』にチャレンジしていただくのはいかがでしょうか? 対象は極めて広範にわたり、それぞれで助成金額や上限、申請期間などが設けられていますが、私たちナビゲーターがご相談に応じて最適な施策と情報をご提供します」

何よりも重要なのは「現状の把握」だと語る山内さん。普段は見えにくい電気の使用量を可視化し、いかにムダが多いかを再認識すれば、社員の皆様の意識改革が促進され、ひとまず何に取り組むべきかが明確になってきます。

山内「東京都では、温室効果ガスの排出量が相当程度多い事業所の皆様を対象に『地球温暖化対策報告書』の提出を義務化しています。その書式に沿って、ご自身の事業所の現状を検証・把握するのが取組への第一歩かもしれません。また、最近では高機能なデマンド監視システムを導入されている企業様も多く、自社の電力使用量の管理を行っていらっしゃいます。対処すべきポイントが見えてくれば、エネルギーコストの削減や有効活用はもとより、業務そのものの改善、生産効率のアップにもつながっていきます」 さらに多彩な取組を実践し、明示できるようになれば、対外的な評価や企業価値が上がり、それだけで営業活動の機会が広がることも。節電・省エネによってムダを取り除いたその先に、新たなビジネスチャンスが待っているかもしれません。

ナビゲーターの願いは、
上手な制度活用でよりよい社会をつくりあげること


山内「最初に1つお伝えしておきたいのは、私たちの業務は営利ではないということです。都が推進するHTTを一社でも多くの中小企業様へご案内するのが旨。よく、助成金の申請代行や工事の仲介によって手数料をいただく営利企業に間違われますが、HTTの重要性と制度に関する理解の深度を深めていただくのが目的なんですね。ですから何らかの設備投資を強要するようなことは絶対にありません。HTTをご存じない企業様に向け、制度の普及を目指し、少しでも各企業様の利益向上に寄与できればという思いでこの業務にあたっています」




曰く「どんな些細なことであっても、不安があれば積極的に質問を投げかけてください」と山内さんが語ります。一本のお電話でのやりとりから、それまでHTTの存在を知らなかった企業様が、都が進める脱炭素化プロジェクトに共鳴し、実際に各種申請にまで至るケースが徐々に増えていると教えてくれました。

山内「省エネを無理強いしたり、行政から改善指示が出ることもありません。少しでも『へらす・つくる・ためる』を意識し、できることから始めていただければ。小さくとも一歩前へ踏み出すことが重要です」

そのために職場を訪問することもしばしばあるのだとか。企業様が置かれている現況の把握をお手伝いし、それにフィットしたアドバイスをさせていただくのがナビゲーターの役割です。

山内「脱炭素化や節電について、雑談感覚で会話を交わすだけでも構いません。相談者様の利潤追求の一環として省エネに取り組んでいただく。あるいは経営戦略策定の一助として環境問題に向き合ってもらう。もうそれだけで私たちは本望です。日々の努力が報われます」

週に一回、チームの責任者としてナビゲーター諸氏とのミーティングを重ね、情報共有や意見交換を欠かさないという山内さん。相談者様の立場や役職、経営状態に合わせて最善のアンサーが導き出せるよう、ナビゲーションそのものの品質向上にも余念がありません。地球温暖化対策と聞くと、まだまだピンとこない部分があるかもしれませんが、まずは少しでも節電・省エネに取り組み、利益率を上げるところから始めてみませんか? そして、そのお手伝いは、山内さんをはじめとするナビゲーターにお任せください。

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ナビゲーターインタビュー
齊藤潤さん



東京都は2030年にカーボンハーフを実現するため、気候変動への対応はもとより、中長期的なエネルギーの安定確保につなげるための取組を加速。そのキーワードであるHTT(電力をへらす・つくる・ためる)と東京都の取組について、中小企業の皆様へ伝え広めるのがHTT実践推進ナビゲーターの役割です。今回で2回目となるインタビューでご紹介するのは、ナビゲーターリーダーを務める齊藤潤さん。ご自身のキャリアを活かしつつ取り組んでいる、ナビゲーター活動について伺いました。

法人営業30年のキャリアを活かして、環境問題解決に向けた
最適なソリューションを提案

HTT実践推進ナビゲーター事業のスタートにあたり、中小企業の皆様と東京都の取組を橋渡しするナビゲーターとして、さまざまな経歴を持つエキスパートが集められました。旅行業界で30年を超えるキャリアを持つ齊藤さんもその一人。大手旅行会社の法人営業担当として、一般企業はもちろん、官公庁や自治体などあらゆる顧客のニーズを引き出しながら旅行企画を提案してきました。また、本社勤務になった後には、販売データの分析や営業戦略の策定、全国の法人営業支店の販売支援や人材育成にも携わってきたといいます。これまで培ってきたキャリアは、ナビゲーターの仕事にどのように活かされているのでしょうか。

齊藤「旅行の企画と環境問題への取組。この2つは扱っている内容がまるで違いますが、仕事としてやるべきことの根底は一緒だと考えているんです。私が携わってきたのは法人に対するソリューション営業。企業様から旅行に関わる課題やニーズを引き出して、その時々で最適なプランをご提示することに努めてきました。HTTのナビゲーター事業においては、解決すべき課題が旅行から環境問題に変わりましたが、企業様にとって有効なソリューションをご提案する意味では同じだと考えています」

ソリューション営業とは、顧客が抱える問題を引き出して、その解決策(ソリューション)を提案する営業スタイル。顧客の課題やニーズを聞き出すためのコミュニケーション・スキルはもちろん、事業内容や業界のトレンドなどを事前に知る情報収集力も重要です。

齊藤「企業様を訪問する際には、事業内容や規模はもちろん、どのような企業とお取り引きをされているのか、あるいは業界における環境問題の取組のトレンドなど、できる限り調べてから伺うようにしています。まずは現況についてお話を伺いながら、事業内容にリンクした環境問題のお話をさせていただき、どのような施策が有効なのか、企業価値を高めることができるのかをご説明しています。サポートの受け入れ体制によってもご提案の内容は違ってきますし、毎回、試行錯誤の繰り返しですが、喜んでいただけることも多くやり甲斐を感じています」

脱炭素経営の最初の一歩は自社のエネルギー使用量、CO2排出量を
見える化すること

東京都には約44万の中小規模事業所があり、CO2の排出量は業務・産業部門の約6割を占めています。脱炭素社会の実現に中小企業の協力が不可欠である所以はここにあり、実際、中小企業の取組がどの程度進んでいるのか気になるところ。HTT実践推進ナビゲーター事業がスタートして約半年、齊藤さんはナビゲーターとして企業様を訪問するなかで、環境問題への意識について、企業によってかなりの温度差があることを感じています。

齊藤「照明をLEDに変えるとか、空調設備を最新の省エネ型に変えるとか、社用車にEVを導入するとか、積極的に取組を進めていて『とりあえずやれることはやった』と言い切る企業様がある一方で、まったく頓着していない企業様も多くあります。ただ、総じていえることは、自社のCO2排出量を把握してない企業様が大半であって、現状分析ができていないため充分な解決に至っていないと感じることが多々あります。突然CO2の排出量を聞かれてもわからないのは無理からぬことですが、電気やガスなどエネルギー使用量から導き出す算定方法がありますので、まずは自社がどの程度CO2を排出しているのか、現状を知ることが最初のステップだとお伝えしています。電気使用量を可視化することでエネルギー効率の悪い設備を洗い出せば、効率的にCO2を削減することが可能です。設備交換にあたっては、東京都の支援策を利用することで投資費用を抑えることもできます」

企業が省エネ・脱炭素経営に取り組む際には、一般的に次の4つのステップを踏んでいくことを推奨しています。
STEP1:自社のエネルギー使用状況を見える化する
STEP2:電気の契約を再生可能エネルギー由来の電気プランに切り替える等の運用改善
STEP3:LED照明、高効率空調設備等の省エネ設備を導入する
STEP4:太陽光発電システムを導入して自社で創った再エネ電気を自家消費する

それぞれのステップに対応する東京都の支援策が用意されています。脱炭素経営への第一歩である自社のエネルギー使用状況の見える化は、現在何処にどれくらいのエネルギーを使用しているかを具体的に把握することで今後の省エネの具体的な取組がイメージしやすくなり、中小企業の皆様の課題解決に向けた有効なソリューションといえるでしょう。

脱炭素志向が企業価値を高める
大切な情報に気づいていただくことが使命

企業における環境問題の取組は、これまでCSR活動の文脈で語られることが多かったと思いますが、急速に進む温暖化や世界情勢の変化で浮き彫りとなったエネルギー問題を背景に、経営上の重要課題として捉える企業が増えています。大企業には自社が排出する温室効果ガスの量を報告する義務が課せられているため、サプライヤーである中小企業に対しても脱炭素経営を求める動きが見られるようです。

齊藤「訪問先の企業様からは、取引先である大企業に『脱炭素の取組についてアンケートを求められた』という話も何度か耳にしております。大企業にはサプライチェーン全体のCO2排出量を見極める必要があるため、脱炭素の取組に誠意が見られない回答を提出した場合、いつの日か取引先として選ばれなくなってしまう可能性があります。たとえ今は何もできていなくても、現状の把握や将来的に解決しなければならない課題を理解していることが伝われば、それだけでも意味があります。HTTについてお伝えするのが本来の役目ではありますが、企業様のご要望にお応えして、こうしたアンケートの記入について相談にのることもございます」


デジタル化が進む現代においては、インターネットを使えばすぐに情報を引き出すことも可能です。そこで、少し辛口な質問を齊藤さんに投げかけてみました。企業を訪問して情報提供するナビゲーターの活動にどのような存在意義があるのでしょうか?

齊藤「脱炭素をはじめ、環境問題への取組はいまや企業にとって不可欠であることに気づいていただく。それが我々ナビゲーターの第一の使命だと考えています。気候変動、パンデミック、世界情勢など、さまざまな物事が大きく変化する昨今を称した、VUCA(ブーカ)時代という言葉を耳にするようになりました。VUCAとは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った言葉で、目まぐるしく変化して先が見通せない状況を意味しています。そうした状況下で膨大な量のさまざまな情報が飛び交う「超情報化社会」の現代においては、企業は自社が関心のある情報は使い慣れたソースから定期的に収集できても、それ以外の価値ある情報を見過ごしてしまうリスクが高まっていると言われています。東京都がさまざまな支援策を用意して打ち出したHTTについても然り。脱炭素社会の実現に貢献することは、中小企業様にも多くのメリットがあり、企業価値の向上につながることをお伝えすることが私たちの使命。アナログな手法であればこそ、価値ある情報をお伝えできると信じています」

HTT実践推進ナビゲーターに
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ナビゲーターインタビュー
井上共規さん



HTT(電力をへらす・つくる・ためる)に大きな関心はあるものの、「どのような取組から始めるべきか」、「東京都の支援策にどのようなものがあるのか」といった疑問をお持ちの方々も多いことでしょう。その際にサポート役を担うのがHTT実践推進ナビゲーター。3回目となる今回は、ナビゲーターの井上共規さんにご登場いただき、企業様とのコミュニケーションを通して得たリアルな経営現場の声をお聞きしてみました。

決して一つではない答え
それを導き出すために必要なのは「聞く力」だと思います

長年、求人広告業界において企画・営業職に従事し、それぞれのクライアント企業が抱える人材確保の悩みや喫緊の課題を解決してきたのが井上さんです。2023年1月、HTT実践推進ナビゲーター事業開始と同時に、その旗振り役であるナビゲーターに就任。すでに多くの企業様とお会いし、HTTの周知や具体的な取組についてのご提案を重ねてきました。

井上「私たちナビゲーターの仕事は、都の支援策をご案内するだけにとどまりません。HTT推進の背景にある、2030年までに温室効果ガス排出量を50%(2000年比)にまで削減するカーボンハーフの表明や、その後を見据えたカーボンニュートラルへ至る道筋をお話ししながら、脱炭素化に向けた取組の重要性……つまりは本質の部分をできる限りお伝えしています」

しかし、訪問先企業の業種は多種多様。実際に足を運び、膝を突き合わせて会話を交わすと、さまざまな企業様がいらっしゃることに気づかされたといいます。

井上「私がこれまで訪問してきた企業様を振り返ると、製造業を営む企業が多かったですね。ただし製造業と一言で括っても、金属加工の分野なら一般的な金物加工や成形加工を生業とされる企業から、より高い精度が求められる精密加工を自社の強みにされている企業まで多岐にわたります。会社によって事業規模や設備環境が異なるうえ、取組に対する切迫感やご担当者の積極性にも温度差があります。ただ、HTTに注目されたきっかけをお尋ねすると、決まって返ってくるのが「電気代をいかに安くできるか」、「そのためにはどのような施策が考えられ、どのような支援が受けられるのかを知りたい」という反応でした。もちろんこれは中小企業経営者の皆様にとって当然の思いでしょう。なんらかの投資をしたらどんなリターンが得られるのかは確かに気になるところです」

製造業の場合は、省エネによるエネルギーコストの削減という明らかなゴールが見えています。ゆえに取組の方法を精査・具体化してゆくのは比較的容易とのこと。想定結果を数字で表し、環境問題に取り組む意義をコスト面からご理解いただくことができるのだといいます。ところが、照明器具のLED化といった基本策を完遂している企業様や、すでに助成金制度を活用して対策に取り組んでいる企業様の場合、新たな解決策を見いだすのは簡単ではありません。また、業種の違いでゴールへの道筋はさらに複雑化します。例えば、IT業界をはじめとするデジタルサービス企業は、環境問題に対する意識が高く、初歩的な省エネ対策が浸透している反面、プラスアルファで取り組める余白が自ずと狭まっていきます。

井上「ある程度HTTの『へらす』についての取組を終えていらっしゃる企業様は、一言でいうと、やれることが極端に少ないのが実情です。そうした場合は『つくる』や『ためる』にあたる太陽光発電や蓄電設備の導入というプランをご提案しています。でも、こちらは助成金を活用したとしても相応の投資や負担を伴うため、即決即断というわけにはいきません。また、導入に踏み切りたくても、社屋や工場の老朽化によって太陽光パネルの機材が設置できないといった壁が立ちはだかることもあります。個々の現状によってご提案のポイントは三者三様に変化します。まずは、それぞれの状況を詳らかにお話いただくことが重要で、そこからよりよい解決策を洗い出してゆくのが私の役目です。

この仕事は、本当に“聞く力”が試されますね。それだけにやり甲斐のある仕事だと感じています」

コロナ禍によって消沈しつつあった脱炭素化への芽吹きを
私たちナビゲーターが育み、加速させていきます

もともと日本では、省エネ・再エネに関心を持つ中小企業は多かったといわれています。それが停滞してしまった理由は、ずばりコロナ禍の影響。それまで予定していた設備投資が業績の悪化で減速してしまったことが挙げられるでしょう。さらに、ロシアのウクライナ侵攻に端を発する世界情勢の不安や資源価格の急騰もこれに拍車をかけています。海外への輸出をビジネスとする産業は半導体不足で軒並みスローダウン。ここ1〜2年は数々のマイナス要因が噴出し、ゼロエミッション達成に向けての先行きを不透明にしてきました。

井上「とはいえ、環境問題はその時々の景況感に大きく左右されると感じています。この事業がスタートしてから多くの企業様にHTT参画への働きかけを行なってまいりましたが、コロナ禍が収束に向かいつつある今、『もう一度トライしてみよう!』とおっしゃる経営者の方々も出てくるようになりました。私たちが都の支援策をご案内したことがきっかけとなって、それまで立ち止まっていた設備投資が一気に加速し始めたという例もあるんです

また、これには大手企業が本格的な脱炭素化経営へと舵を切ったことも作用しています。



井上「環境問題への取組は、もはや中小企業の皆様にとっても避けられない課題です。サプライチェーンの強靭化を図る大手企業から脱炭素に関するアンケートや調査を求められたという声を度々お聞きしていますし、その回答いかんでやがては取引停止という事態に陥ってしまうことも大いに考えられるともいわれています。今は大丈夫だからと高を括って時勢に乗り遅れてしまうと、将来的に大切な取引先を失ってしまう可能性だってあるんです」

古くなったオフィス機器や冷暖房機器を省電力型の最新機種に換装したり、太陽光発電設備を導入したりすれば、それだけでエネルギーコストは抑えられ、取組への姿勢がアピールできます。その一方で、社内のDX化もまた、今すぐ取りかかれる有効な手段ではないかと井上さんは指摘します。

井上「それまで手作業に頼っていた業務をデジタル化することで作業効率を大幅に上げる。これだけでも労働時間の短縮に繋がり、間接的に消費電力の抑制が見込めますよね。最新のソフトウェアやデジタルサービスの導入などでも都の助成金制度を活用できるケースがあります。そういった施策と組み合わせれば、省エネをより一層深化させてゆくこともできそうです」

この仕事を通じて得た発見や気づきを共有し、
脱炭素化に対する意識改革をもたらしたい

ナビゲーターはあくまでも企業様の悩みや疑問を解決し、脱炭素化実現への案内人としてサポートするのが主な役割。助成金申請を代行することはなく、実際の設備導入に際しても各領域の専門家への橋渡し役に徹するのが常です。

井上「これまで私は広告業界で営業職を務めてきましたが、そこには必ず『商品が売れた』、『契約が取れた』という結果が伴いました。一方、現在の業務はHTTのPRとともに効果的な支援策を選定し、相談者様の背中を押すところまでがお仕事。実際に都の制度を活用して利益率が上向いたかどうか、各企業様の脱炭素化経営が深化したかどうかまでは、わからないことの方が多いんです。私たちナビゲーターの言葉が本当に皆様に届いているのか、役に立っているのかが、手応えとして感じられず不安になってしまう時もありました」



でも、井上さんがナビゲーターとなって約半年。ご自分の中にも動かしがたい変化が見られるようになったともいいます。

井上「企業様からのご要望に応じて訪問をさせていただく際、事前に情報を収集し、資料を準備して面談に臨みますが、逆に事業現場に携わる皆様の声から学ぶことも少なくありません。その都度、新たな発見や気づきが蓄積されていきます。脱炭素化に対する強い意識と願いが、私自身の中でも日進月歩で膨らみ続けているんです。温暖化による気候変動で自然災害が甚大化し、人が住みづらい世の中になってしまうと、経済活動にも大きな悪影響を及ぼします。事業継続のためにエネルギーコストを抑えることは大切ですが、今後もつつがなくビジネスを続けられるよう環境問題に取り組み続けてゆくことこそが肝要だという点を強調しています」

ご自身のうちに沸き起こった意識改革を、中小企業経営者の皆様にも共有できたら……。そんな思いを胸に、今日も井上さんは相談者様へのご案内を続けています。

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ナビゲーターインタビュー
河田力さん



東京が世界の大都市として機能し続けるには、世界情勢に左右されることなくエネルギーを安定確保することが喫緊の課題といえるでしょう。このエネルギー問題を解決するため、東京都が推進するHTT(電力をへらす・つくる・ためる)の取組を伝え広めるのがHTT実践推進ナビゲーターの役割です。今回で4回目となるナビゲーターインタビューでご紹介するのは河田力さん。企業様との対話で得た学びや、HTTの活動に込める想いについて伺いました。

第一次オイルショック以来の国策、
エネルギー安定供給のために再エネの推進を

30年以上に亘り、IT業界のトップランナー企業に勤務していた河田さん。営業職やITインフラソリューションの提案活動など、IT業界で幅広いキャリアを積んできました。その後は心機一転、環境分野の世界へ。太陽光や風力発電の設計から工事までを一括して請け負うEPC(Engineering, Procurement and Construction)の会社で、再生可能エネルギーの普及に努めてきました。まずはHTT実践推進ナビゲーターになった経緯について伺います。

河田「EPCの会社では、企業に脱炭素のご説明をしながら、主にFIT制度(固定価格買取制度)※1を利用した小型風力発電の提案をしてまいりました。日々環境問題について学ぶ過程で、この国にとってエネルギーの安定確保が重要であるということにあらためて気づかされました。ちょうどその頃、HTT実践推進ナビゲーター事業が始まったことを知り、エネルギー問題をはじめ、これまで学んだ環境問題の知識がお役に立つのではと考えたのです」
EPCの会社では、再生可能エネルギーの分野に深く関わってきた河田さん。太陽光や風力など、自然環境を活用した再生可能エネルギーは、カーボンニュートラルの実現とともに、日本のエネルギー自給率を上げるうえで欠かせないエネルギーであることに気づきます。

河田「一口に環境問題といいますが、フォーカスされているのは気候変動対策であり、CO2をいかに減らすかということ。これは裏を返すとエネルギー問題の話でもあるのです。50年前の第一次オイルショック以来、日本は国際情勢に左右されずエネルギーを調達する道を探ってきたわけですが、近年では戦争や災害、パンデミックなど予測不能な事態が立て続けに起こり、たちまちエネルギー危機に直面することが明らかになりました。これに対処するにはエネルギー自給率を上げるしかありませんが、日本には資源がありません。つまり、エネルギー自給率を上げるには再生可能エネルギーの普及を急がねばならない、そういう状況が差し迫っているのだと感じました」

電力をH(へらす)、T(つくる)、T(ためる)のスローガンの通り、HTTの取組がフォーカスしているのもエネルギー問題。中長期的なエネルギーの安定確保は、多くの企業が集中する東京都にとって最優先事項。気候危機への対応とともに大きな課題の一つに掲げられています。ナビゲーターとして多くの企業様と対話を重ねる河田さんですが、都内中小企業の間でエネルギー問題における危機感はどの程度共有されているのでしょうか。

河田「猛暑で電力ひっ迫が起こりやすくなったとはいえ、実際に停電が起きたわけではないので、一般的に中小企業の危機感は薄いというのが正直な印象です。ただし、海外に事業展開している企業の場合は事情が違います。たとえば、ベトナムに工場がある企業様の話では、熱波の影響でたびたび停電が起こり、その都度設備を止めざるを得ない状況が続いているそうです。いずれ日本でもそういう時がくるのではないかと危機感をお持ちでした。また、あるIT企業の役員の方とお話をした時には『日本の再エネは太陽光と風力に偏りすぎている』とお叱りの声をいただいたことも。環境問題の取組にとても熱心な方で、ご自宅では太陽光発電と蓄電システム、EV車用のポートも設置されていました。エネルギーコストがかかる製造業と違って、IT企業の場合は会社でできる省エネに限りがありますが、サーバーを更新することで消費電力を下げられるのではと検討されていたので、対応できそうな助成金についてご紹介させていただきました」

※1 再生可能エネルギーの買取価格を法律で定める方式の助成制度。世界50ヵ国以上で用いられ、日本では2012年に施行された再生可能エネルギー特別措置法によって開始されました。太陽光発電、風力発電、水力発電など、再生可能エネルギーから作られた電気を、電力会社が「一定価格」で「一定期間」買い取ることを国が保証しています。

脱炭素社会の実現に向けて
より一層高まる省エネの役割と必要性

HTTの中で最も身近といえるH(へらす)の取組は「省エネ」を指しますが、第一次オイルショックの教訓から省エネ法が設けられたのは1979年のこと。以来、日本は長らくエネルギー効率の向上を追求し続け、世界でもトップクラスの省エネ率を達成してきました。この上さらにHTT(電力をへらす・つくる・ためる)に取り組むには、どのような方法が考えられるでしょうか。

河田「第一次オイルショック以来、日本は省エネとともに歩みながら経済成長を遂げてきました。そうした背景もあり、日本企業はエネルギーコストに対する意識が高く、大企業であっても雑巾を絞るようにして節電を心がけていますし、ほとんどの企業様は何らかの形で省エネに取り組んでいます。ただし、脱炭素という観点で取り組む企業様はまだ少ないように感じます。HTTに繋がる取組としては、まずは自社がどれだけCO2を排出しているかを把握することから始めるようお勧めしています。CO2排出量は東京都が提供する地球温暖化対策報告書というExcelシートに記入することで計算でき、この報告書の作成を通して現状を認識すれば、削減すべき箇所や取組の方向性を見つけることが可能になります」

しかし、報告書の作成でCO2排出量を可視化できたとしても、設備更新や再エネ・蓄エネの導入にはそれなりの資金を要します。二の足を踏む企業様が多いのではないでしょうか。

河田省エネ目的で設備投資をしたいけど資金がない、再エネ導入による費用対効果の判断ができない、脱炭素の取組を仕切れる人がいないなどの声が聞かれますが、そうした課題解決のため、東京都はさまざまな支援策をご用意しています。特に製造業などエネルギーコストが利益を左右する企業様は設備更新のチャンスでもあるので、ぜひご活用いただきたいと思います」

東京都の支援策は多岐にわたり、その補助内容や条件もそれぞれ異なるため、課題の解決策として繋げられずにいるケースも多い中、ナビゲーターである河田さんの訪問により思わぬ支援策を見つけた企業様もあるようです。

河田「製造業ではあるのですが、企画と設計だけをしていて工場を持たないため、効果的な省エネの取組はできないとお考えの企業様がいらっしゃいました。何か省エネ対策としてアプローチできそうなポイントはないかとお話を伺うと、埼玉県に研究所があり、試作品を作るのに多くの電力を消費していることがわかりました。その施設の所在が東京都ではないので対象外と思われていたようですが、太陽光発電や蓄電池の設置については、都内に本社を置かれる企業様であれば助成事業の適用が可能です。埼玉、神奈川、千葉など、東京電力管内の工場や事業所への設置にも使うことができるのです」

HTTの取組によって
東京の産業競争力を強化する

2050年のカーボンニュートラル実現のため、グローバルに展開する大企業を中心に脱炭素経営の機運が高まっています。今後はその動きが中小企業の間で広まることが望まれますが、中小企業が脱炭素経営に取り組むメリットはどこにあるのでしょうか。

河田「大企業には自らの事業活動だけではなく、サプライチェーン全体の排出量を削減することが求められています。将来的には環境負荷の少ない製品やサービスを優先するグリーン調達が進むことも考えられ、サプライヤーである中小企業が脱炭素化を無視した経営を続けた場合は、サプライチェーンから排除される可能性もあります。金融機関もまた、そうしたリスクを先読みしています。脱炭素経営に消極的だと、資金調達に差し障ることも考えられます。脱炭素経営というのは環境問題に対する企業の責任である以前に、中小企業が経営を安定化させるための必須条件となりつつあるのです。環境問題に対する意識変化の高まりは、政治や経済のうえだけではなく、社会全体に見られる傾向です。脱炭素経営で環境に配慮した事業活動をアピールできれば、企業としてのブランド価値も高まりますし、優秀な人材の確保にも繋がるなど多くのメリットが考えられます」

裏を返せば、脱炭素経営はグリーン調達で有利に働く、競合優位性を獲得するビジネスチャンスでもあります。また、東京都には脱炭素経営を後押しする支援策も数多くあります。

河田「これはナビゲーターの仕事をして気づいたことですが、東京都の支援策というのは戦略的にもよく考えられ、設計されています。支援策にはWebサイトやPR広告の制作費、DX推進、BCP対策(事業継続計画)など一見すると無関係に思える物がありながら、全ては中小企業の競合優位性に繋がるような内容になっています。脱炭素の取組を推進することで東京の中長期的なエネルギーの安定供給を目指しつつ、産業競争力強化にも寄与するように組み立てられているのです。企業様が助成事業を利用して脱炭素経営に取り組み、その結果企業価値を高めるということは、東京都の発展に貢献するということなのです

脱炭素経営の取組を検討されるのであれば、まずはHTT実践推進ナビゲーターにご相談を。企業様それぞれに適した支援策へとナビゲートいたします。

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