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東京都 2030年
カーボンハーフを実現。
未来を守るために
いま、企業ができること - ご相談・お問い合わせ
エネルギー供給を海外に依存せざるを得ないなか、世界情勢や経済社会、地球環境の変化など、これまであたりまえだった構造が大きく変わり、脱炭素化が世界中で急がれています。
脱炭素社会を実現するためには、中小企業の協力は必要不可欠です。
(東京都の部門別CO2排出量のうち、中小規模事業所は60%。「参照:東京都環境審議会第41回企画制作部会資料」)
2030年のカーボンハーフ、2050年のカーボンニュートラルへ向けて、選ばれる企業になるための取組を今、始めましょう。
省エネ・再エネ・蓄エネという、新しい価値観や基準を取り入れて「未来の東京」へとつなげていきませんか。
環境にやさしい再生可能エネルギーの活用はもちろんのこと、災害等にスタッフやその家族を守り、乗り越える強い会社をつくるためにも、省エネだけでなく、電力をためる、つくるにも注目です。
賢く
エネルギーコスト削減
光熱費や
燃料費の削減
脱炭素経営で
選ばれる企業へ
企業の優位性や資金調達力の向上、
社員のモチベーションや人材獲得力の強化
蓄エネで
BCP(事業継続計画)対策
災害等に負けない
強い会社をつくるため
電気代の削減(省エネ対策)から、
環境・エネルギー対策や経営方針、
GX人材の採用など、
お問い合わせください。
ご相談無料。
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HTTのセミナーでは、脱炭素、再エネ、蓄エネはもちろんのこと、持続可能、循環型社会、GX(グリーントランスフォーメーション)、事業継続、ブランディングなどの講師を招き開催しています。
中小企業としての脱炭素経営の一歩!
~最新情報をつかんで事業を成長へシフト~
ゼロボード総研所長
グローバルサステナビリティ基準審議会(GSSB)理事
待場 智雄(まちば ともお)氏
当セミナーのお申し込みは終了いたしました
株式会社山本技術経営研究所
代表取締役
山本 肇 (やまもと はじめ)氏
2023年2月から2024年2月まで、毎月一回のペースで開催してまいりました「HTTセミナー」。電力をへらす(省エネ)・つくる(再エネ)・ためる(蓄エネ)についてはもちろん、今私たちが取り組むべきこと、持続可能な循環型社会の実現・・・
2023年2月から2024年2月まで、毎月一回のペースで開催してまいりました「HTTセミナー」。電力をへらす(省エネ)・つくる(再エネ)・ためる(蓄エネ)についてはもちろん、今私たちが取り組むべきこと、持続可能な循環型社会の実現、GX(グリーントランスフォーメーション)、事業継続・新規事業開拓、HTTをきっかけにした新たなブランディングの創出など、さまざまなテーマのもと各分野の第一線で活躍する講師陣をお招きし、脱炭素化に対する中小企業の皆様の意識向上やアップデートに寄与するセミナーをお届けしてきました。そこで、過去全13回にわたって実施されたセミナーの概要をご紹介します。
HTTセミナーはこれまで全13回にわたり開催され、のべ800名以上にのぼる皆様がご参加されました。セミナー参加を申し込まれた皆様の所属企業の業種・業態は多岐にわたります。
・サービス業(25.6%)
・製造業(18.6%)
・学術研究、専門・技術サービス業(11.9%)
・情報通信業(7.5%)
・卸売業・小売業(7.1%)
・建設業(6.0%)
・その他(23.3%)
また、その企業規模も多彩で、企業規模の大小に関わらずこの分野への関心の高さが表されています。
・301名以上(34.3%)
・101〜300名(12.0%)
・51〜100名(8.4%)
・10~29名(7.6%)
・1〜4名(19.5%)
・その他(18.2%)
さらに、セミナー参加者の年齢層(アンケート回答者ベース)の内訳を見ると、自社の運営に携わる経営者ならびに、組織のマネジメントを担う管理職の皆様の参加が多いことがうかがえます。
・60代以上(40.1%)
・50代(40.7%)
・40代(7.6%)
・30代(10.1%)
・20代(1.2%)
興味深い数字として挙げられるのは、リピート割合の推移です。回を追うごとにリピーターが増加し、9月は58.6%と最大値を記録。以降も概ね40%前後の方々がリピーターの方です。つまり、単発の聴講に終わらず、継続して多様なテーマのセミナーに出席され「脱炭素経営に関する知見と取組の幅を広げたい」と志向する方々が多かったということが考えられます。
一方、参加理由も三者三様でしたが、脱炭素化の先に見据える自社のあるべき姿、よりよい企業体制の構築を模索されたいと願う事業者様が多く見られました。
・「社会課題として脱炭素経営に取り組むべきだと考えているから」(29.0%)
・「自社の成長につながる」(14.0%)
・「ブランディングの強化・人材採用や自社製品サービスのアピールにつながる」(10.4%)
これは、「取引先から脱炭素に向けた取り組みを求められている」(7.9%)、「地域社会から脱炭素経営、温室効果ガス削減を求められている」(6.3%)、「金融機関、株主、投資家から脱炭素経営を求められている」(4.7%)といった他動的なご意見を大きく上回る結果となっています。
もちろん、「コスト削減につながる」(10.6%)、「補助金がもらえる」(6.5%)もまた、社会全体で脱炭素化を進める上で欠かせない動機付けとなります。その他、利益の追求とは異なる視点から「従業員のモチベーション向上につながる」(3.9%)といったご意見も寄せられ、参加者の皆様の意識の高さが感じられました。
月に一回、過去13回にわたって行われてきたセミナーは以下の一覧の通りです。
それでは、各セミナーについてご紹介しましょう。
【2023年2月】
「脱炭素社会に向けた中小企業の脱炭素経営セミナー」
講師:株式会社ゼロボード 代表取締役 渡慶次道隆(とけいじ みちたか)氏
初回のセミナーは、企業向けのCO2排出量算定クラウドサービスを提供する株式会社ゼロボードの渡慶次氏をお招きしました。脱炭素経営は企業の社会的責任だけでなく、事業の持続的な成長のために重要な経営課題となっていることや、脱炭素社会に向けた国内外の動向、企業が脱炭素経営に取り組むべき背景や目的、メリットについて、中小企業の視点からご紹介いただきました。大企業のみにとどまらず、中小企業にもその役割が求められていることなどが語られました。
【2023年3月】
「中小企業の脱炭素化に向けた取組と実践事例」
講師:一般社団法人東京都中小企業診断士協会 大東威司(おおひがし たかし)氏
第2回は、中小企業診断士として実際に企業とコミュニケーションを取る機会が多い大東氏が登壇。脱炭素化に向けた国内外の動きに加え、さまざまなご相談に対してアドバイスを行われてきた立場から、中小企業が脱炭素化に取り組むメリットや効果、企業が取るべき具体的なアクション、実践事例などをお話しいただきました。
セミナーレポート「中小企業をますます元気に!利益追求で脱炭素化経営を」
【2023年4月】
「環境」で業績を上げる!事業継承×環境ブランディング
講師:株式会社ハバリーズ 代表取締役社長 矢野玲美(やの れみ)氏
第3回は、日本初となる紙パックのミネラルウォーター事業を成功させた矢野氏を招聘。参加者の皆様と同じ中小企業経営者という立ち位置から、脱炭素化に向けた事業効率化やコスト削減の先にある付加価値の創造について語られました。ハバリーズ社はビジネスの世界でも注目を浴びているサステナブル企業ですが、各種認証の取得やメディア戦略など、さまざまな付加価値を積み重ねていったことで、環境問題に敏感な多くの企業の賛同を得るに至ったそうです。
セミナーレポート「付加価値創造とともに、持続可能な社会を目指して」
【2023年5月】
中小企業が直面する「環境・エネルギー対策」への第一歩!
講師:株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 ストラテジー&オペレーショングループ シニアマネジャー/上席主任研究員 大森充(おおもり みつる)氏
講師の大森氏は、SDGsの観点から世界的な潮流や国内の政府動向を挙げながら、大企業だけでなく中小企業にも課題解決の役割が求められていると語られました。また、現在実績をあげている大手企業の取組や、大森氏が実際にコンサルティングを手掛けられた中小企業の施策例などを解説され、中小企業経営者が携えておくべき心構え、意識改革の重要性に触れられていました。特に国内中小企業の事例では、世界的に認知度の高い国際認証を所得し、社会的信用や競争力を高め、SDGsに関心を持つ企業への営業アプローチが広がったロールモデルについても語られました。
セミナーレポート「もはや脱炭素経営に「待ったなし」積極的参画でピンチをチャンスに」
【2023年6月】
カーボンニュートラルに向けたサプライチェーンにおける動向と具体的な取り組み方
講師:株式会社山本技術経営研究所 代表取締役 山本肇(やまもと はじめ)氏
中小企業振興公社で企業へのアドバイスを行い、自らもコンサルティング業に従事されている山本氏は、CO2排出量について実践的でわかりやすい基本計算式を提示されながら、算出・算定のイロハ、Scope1、2、3についての考え方、排出量算出時のカテゴリごとの分類などをご教示いただきました。サプライチェーン排出量算定において多く寄せられる疑問点についても丁寧に紹介され、より具体性の高い方法論を得られる内容となりました。
セミナーレポート「サプライチェーン排出量の算定、中小企業はどう取り組む?」
【2023年7月】
経営に活かせる! サプライチェーンにおける脱炭素化に向けた道筋
講師:ピコットエナジー株式会社 代表取締役 ゼロエミッション経営推進相談員 田村健人(たむら たけと)氏
中小企業診断士として数々の企業コンサルティングを手掛けてきた田村氏を講師に招き、エネルギーコストアップの原因や対策、省エネの基本的な考え方など、脱炭素経営への取組に欠かせない多彩なアプローチをお話いただきました。エネルギー管理士であり、東京都排出量取引制度技術責任者であるというバックボーンから豊富なエピソードが語られ、照明器具や空調設備の刷新といった使用電力の合理化だけにとどまらず、労働スタイルを見直して消費電力のピーク値を分散したり、生産効率を上げることでムダを省くなど、「我慢の省エネから、攻めの省エネへ」といったメッセージがありました。
セミナーレポート「持続的な経済活動と環境負荷低減のバランス。付加価値を生み出すエネルギー活用へ」
【2023年8月】
脱炭素経営の基本、サプライチェーンの可視化からのアクション!
講師:国際航業株式会社 カーボンニュートラル推進部 SDGs担当 今田大輔(いまだ だいすけ)氏
8月開催回の講師は、地方自治体による地球温暖化対策の実行計画策定や、企業コンサルティングの分野でSDGsおよびカーボンニュートラル推進アドバイザーとして活躍される今田氏です。課題解決には、まず現状の把握と可視化が不可欠であり、また、ともに取り組む社内スタッフの意識改革も必要だというポイントが紹介されました。利益との両立を示すことで全社的なコンセンサスを取るという考え方、こうした非財務価値が巡り巡って財務的価値に転換していく可能性を秘めているということなど、具体的なアクションやメリットが語られました。
セミナーレポート「まずは自社の排出量を明確にすることから。共通価値の創造で、全社一丸となって取り組むことが重要です」
【2023年9月】
「中小企業の環境経営の5つの手法」~環境問題解決の主役へ~
講師:慶應義塾大学大学院 理工学研究科 非常勤講師 藤平慶太(ふじひら けいた)氏
第8回は、再生可能エネルギーのベンチャー企業でシニアマネジャーを務め、現在、慶應義塾大学大学院で環境問題をテーマに教鞭を執る藤平氏にご登壇いただき、中小企業の環境経営において注目すべき5つの手法を語っていただきました。環境経営における収益向上の機会、コストやリスクのコントロール、レピュテーション(評判)やブランド価値の向上といった3つの競争優位性を発揮できる場を創出し、優秀な人材の確保やFIP制度を活用した売電収益など、中長期的な視座を持つことの重要性についても語ってくださいました。
セミナーレポート「経済と環境は両立する。それが現代の新常識です」
【2023年10月】
「脱炭素化支援窓口」に寄せられる声からヒントを探せ!~取組不安の解消から、脱炭素経営の強化支援まで~
講師:公益財団法人東京都中小企業振興公社 ゼロエミッション経営推進支援事業 相談員 山北浩史(やまきた ひろし)氏
東京都中小企業振興公社をはじめとする公的支援機関で、企業経営にまつわる一般相談を担当している山北氏は、日々窓口に寄せられたさまざまな声から、より具体性の高いケーススタディの数々を紹介されました。そのなかで、種蒔きを先延ばしすることが、収穫を遅らせることにつながるというメッセージや、助成金活用を目的化せず、あくまでも課題解決の手段とすることが肝要という話題ものぼり、取組への意義を再認識するきっかけとなる内容となりました。
セミナーレポート「無料相談をもっと気軽に活用してほしい。私たちに寄せられる声が、活路を開くヒントに繋がります」
【2023年11月】
事業成長のカギを握る、脱炭素化へ向けた社内体制づくり
講師:BSIグループジャパン株式会社 事業開発部部長 吉田太地(よしだ たいち)氏
本セミナーのゲスト講師は、英国発祥の国際規格開発企業であるBSIグループに所属される吉田氏。実際に世界のISO規格を策定し、認証を行う立場から、中小企業の脱炭素化経営について、さまざまなフレームワークをご教示いただきました。また、計画を前進させるには経営者のコミットメントが必要不可欠であることなどのポイントとともに、人を教育し、各々の意識を高め、組織全体をよりよい方向へ導くという社内体制づくりの重要性について語られました。
セミナーレポート「東京の中小企業には、 世界に誇れるポテンシャルがあります!」
【2023年12月】
成長戦略への脱炭素計画作成と、8業界の企業取組み事例
講師:中小企業アドバイザー 鷹羽毅(たかは たけし)氏
35年にわたるコンサルティング実績を持つ鷹羽氏の広範な知見をベースに、多様な業界の動き、各企業の取組事例、ビジネスチャンスを創出する多彩な手法が語られました。また、脱炭素をテーマにした事業戦略の手順、計画の立て方を具体的な事例とともに紹介されながら、温暖化対策は喫緊の課題であり「自社の成長を見込める拡大市場になりうる」という力強いメッセージをいただきました。
セミナーレポート「取組から市場参入へ発想転換。脱炭素でビジネスチャンスをつかむ」
【2024年1月】
中小企業の脱炭素化を支える、金融機関の支援とは
講師:一般社団法人バーチュデザイン代表理事 東京大学教養学部 客員教授 吉高まり(よしたか まり)氏
三菱UFJリサーチ&コンサルティングでフェローを勤める傍ら、大学で教鞭も執る吉高氏は、環境分野が注目される以前から環境金融ビジネスの世界に深く携わってきた第一人者。吉高氏は、自身が訪れた国際会議(UAE・ドバイでのCOP28)の模様とともに世界各国の気候変動対策に対する本気度、日本における関連法改正の変遷、現在政府や行政機関が主導する各種取組などを解説されました。また、銀行・金融機関が企業の脱炭素化経営を支援する動きも紹介され、銀行の最新動向がうかがい知れる貴重な機会となりました。
セミナーレポート「脱炭素経営の実践でつかみとる 脱炭素コスト減の先にあるチャンス」
【2024年2月】
今からでも遅くない! 中小企業が活用できる省エネ診断のポイント
講師:株式会社山本技術経営研究所 代表取締役 山本肇(やまもと はじめ)氏
本回で二度目の登壇となる山本氏は、ご自身の電気の専門知識を活かした技術コンサルティングという側面から「省エネ診断」について解説いただきました。講義では、照明や空調といった設備の「運用改善」、より効率の高い最新の「設備導入」、さらに生産ラインの見直しをはじめとする「プロセス変更」を改善策の三本柱として提示されながら、本旨である省エネ診断に際しては、どのような目的で診断を行うのか、改善したい対象はどこにあるのかなど、専門家の調査を前に充分な準備を行っておくことの大切さが語られました。
セミナーレポート「「省エネ診断」は光熱費高騰対策の切り札!専門家の力で効果的にエネルギーコスト削減を」
HTTセミナーは、社会が直面している地球温暖化やエネルギー不足とその対策の必要性、脱炭素化経営に関する様々な情報を提供してまいりました。今後も、当事業は東京都が推進するさまざまな施策についてのご案内とともに、本セミナーへのご参加を通して脱炭素化経営に取り組まれる皆様に役立つ情報をお届けしてまいります。また、当事業では引き続きHTT実践推進ナビゲーターへのご相談を承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。
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株式会社山本技術研究所
代表取締役
山本 肇(やまもと はじめ)氏
2024/02/16
電気の専門知識を活かした技術コンサルタントとして、企業の技術支援、経営支援を行うかたわら、東京都中小企業振興公社のゼロエミッション経営推進マネージャーとして活躍する山本肇さん。今回のセミナーでは・・・
電気の専門知識を活かした技術コンサルタントとして、企業の技術支援、経営支援を行うかたわら、東京都中小企業振興公社のゼロエミッション経営推進マネージャーとして活躍する山本肇さん。今回のセミナーでは、省エネ対策の第一歩となる「省エネ診断」について解説いただきました。昨年来のエネルギー価格高騰により、中小企業にとって省エネ対策は喫緊の課題。インタビューでは、「省エネ診断」を着実に「省エネ」へと繋げるポイントを探ります。
高騰する光熱費をどうにか抑えたい、脱炭素を何から始めればいいのかわからない、そのようなお悩みをお持ちの企業様が多いのではないでしょうか。省エネにあたっては、使用する装置ごとに電気、燃料の活動量を把握して対応策を検討する必要がありますが、技術的な専門知識がない場合、効率的に行うのは難しいと思います。省エネ診断では、第三者である専門家が現地に出向いて調査を行い、導き出されたデータをもとにコスト削減の改善策を提案します。専門家の指摘は課題を見つけるうえで非常に有効ですし、省エネを進めることは脱炭素化の第一歩にもなります。中小企業の多くはエネルギーコストの削減に熱心であることから、照明のLED化など「やれることはやっている」そう考える企業様も多いかと思いますが、省エネ診断を受けることで「新たにコスト削減のポイントが見つかった」というケースも少なくありません。また診断レポートによって、これまで行ってきた省エネ対策に対する具体的評価も得られるため、担当者のモチベーションに繋がるというメリットもあります。
省エネ診断は、対象となる企業様が省エネ対策の何を知りたいのか、どの装置の問題で困っているのか、目的や対象をヒアリングすることから始まります。次に、エネルギーの使用状況のデータなどを見ながら、対象を絞るための事前打ち合わせを行います。この時は、電気や燃料などの領収書が必要となるのでご用意いただく必要があります。打合せの内容を受けて、電気工事士やエネルギー管理士などの専門家が現場を訪れ、空調、熱源、照明などの各設備を調査します。さらに詳しく調べる場合は、それぞれの装置がどれくらい電気を使っているのか、具体的に電力を計測する場合もありますが、時間や費用もかかりますので行うか否かはケースバイケースですね。
このように、ヒアリング、事前打合せ、現地調査を経て、専門家が結果を診断レポートにまとめて企業様へ提出いたします。内容にもよりますが、打合せから診断レポートの提出まではひと月程度の期間を要します。診断レポートには、電気やエネルギーの使用状況がグラフや表を使ってわかりやすく記載されるとともに、費用対効果の高い順に改善策も提案されており、全体で十数ページに及ぶ詳細な内容になります。この診断結果にもとづいて、省エネ対策の改善提案が行われます。
改善策は主に「運用改善」「設備導入」「プロセス変更」の3つに大別されますが、誰にでも取りかかりやすく、省エネ効果が高いのが「運用改善」になります。例えば空調設備の場合、温度設定やタイマー設定の見直し、省エネモードや人感センサーの活用などが考えられますね。最近の空調はさまざまな機能を有しているので、運用方法を見直すだけでも大きな効果が得られるのです。身近なところでいうと、清掃や点検をこまめに行うだけでも変化がありますので、設備導入の前段階として行っていただくとよいでしょう。
次の段階として行うのが「設備導入」ですが、現状装置では効率が悪い、あるいは電気の使用量が多くなっている場合などに、最新式のものに替えるという改善策です。空調の更新や照明のLED化、あるいは冷凍庫、ボイラー、モーター関係を最新式に更新するなどです。また、空調の高効率化を図るため、建屋の断熱を改善するという方法もありますね。一歩進んだ設備導入としては、太陽光発電や蓄電池を導入して、自社で再エネ発電してエネルギーの一部をまかなうという方法も考えられます。
さらに先を行く大きな改善策としては「プロセス変更」という提案もあります。例えば製造業の場合、現状の生産ラインだと多くの熱量がかかる、あるいは廃棄物の処理で無駄なエネルギーコストがかかるといった場合、製造プロセスそのものを抜本的に見直そうという考えです。このように改善策には3段階ぐらいのステップがありますが、企業様のケースに合わせて行うことになります。なかでも運用改善については、すぐに取り組めて効果も大きいというメリットがありますので、省エネ対策の第一歩としておすすめしています。
まず空調関係についてですが、オフィスビルや工場などでは、セントラル方式という全体システムが採用されていることが多いかと思います。この場合、空調機の他にも、熱源機、温風や冷風を送るポンプやパイプ、ダクトなどさまざまな機器があり、それぞれにおいて省エネ策があります。ダクトや配管の場合は空気漏れ、あるいは結露などもエネルギーロスに繋がりますので配管の長さや曲がりを少なくしたり、断熱したりすることも省エネ対策に繋がります。また、外気の取入れ量を低減することで空調の負荷を下げる方法なども考えられますね。工場など天井が高い空間の場合は、建屋全体を温めたり冷やしたりすると大きなエネルギーがかかるので、作業している人に直接温冷風があたるようにスポットクーラーを使う方法もあります。
最近の機器は高効率化されているため、更新することで非常に大きな効果を得ることができます。実際、空調を更新して、冷房で約4分の1、暖房で約3分の1まで消費電力が下がった事例もあります。照明についてはLED化がよく知られていますが、白熱電球をLEDに替えることで85%の省エネ効果が得られるケースもあります。LEDの性能が年々向上していることもあり、照明を替えるだけでエネルギー消費量がドラスティックに変わるのです。私が関わった事例ですが、店舗と事務所を含めて照明をLED化したところ、非常に大きな効果が得られました。照明の多い店舗であったことも理由の一つですが、省エネによるコスト削減効果のうち、実に8割近くを照明で得ることができました。このように小売業で店舗を多くもつ企業様の場合は、LED化だけでも大きな効果が得られると思います。
また社会全体で考えた場合では、CO2を多く排出するポンプやモーター、コンプレッサなど、工場における電動力応用設備の対策が喫緊の課題であり、ここに手を入れることで非常に大きな脱炭素、省エネ効果を得ることができます。例えば、高効率のトップランナーモーターを導入した場合、35%程度の高効率化が期待されます。こうした設備導入の前段階としては、適正な負荷率で効率良く運転する、不使用時は運転停止するなどの運用改善を行います。
まずは、どういう目的で省エネ診断を行うのか、改善したい対象は何なのか、事前打合せの際に目的と対象を明確に伝えることが大切です。そうすれば、自社の状況にカスタマイズした省エネ診断を行うことができます。現地調査ではエネルギーの使用状況を検分しますので、事前に電気や燃料の使用量がわかる領収書やデータを用意する必要があります。この時、季節や時間による使用料の変化がわかると詳細な診断ができますので、供給会社から提供される月別使用量の記録などがあれば用意しておくとよいでしょう。
また、診断を受けただけでは何も変わりませんので、改善提案に沿って実行に移すことが何より大切です。そうはいっても、診断結果をフォローできる技術担当者がいない、改善策に沿って設備更新する資金がない、といった事情もあろうかと思います。技術担当者がいない、あるいは資金面で困難がある場合でも、それぞれに対応した公的支援がありますので、ぜひご活用いただきたいです。
例えば、私も関わっている東京都の支援事業の一つである「ゼロエミッション実現に向けた経営推進支援事業」では、脱炭素化の取組から経営戦略の策定まで、中小企業を対象として総合的な支援を行っています。省エネ診断に始まり、改善策の提案、脱炭素化を事業にどう活かしていくか、従業員の意識をどう向上させるかなど、約2年半をかけて伴走支援を行っています。また、東京都環境公社(クールネット東京)では省エネ診断を中心にさまざまな支援を行っています。こうした公的支援を積極的に利用して、省エネを実行に移すことが大切です。
東京都は脱炭素社会実現に向けて、電力をH「へらす」T「つくる」T「ためる」HTTの取組を進めていますが、その第一歩がH「へらす」にあたる省エネの実行です。そうはいっても、事業活動のどのプロセス、どの装置で、どれくらいエネルギーを消費しCO2を排出しているのか、それを改善するにはどうしたらよいか、自社のみで判断するのは容易なことではないと思います。その場合、まずは「省エネ診断」により第三者である専門家の診断を受けて、自社の改善点の気づきを得ることが活動の出発点になります。
「省エネ診断」は、公的支援の枠組みで行えば無料、ないしは数万円程度の負担で受けることが可能です。先にご紹介した通り、東京都環境公社(クールネット東京)の省エネ支援策や、東京都中小企業振興公社の「ゼロエミッション実現に向けた経営推進支援事業」など、東京都にはさまざまな支援事業があるので、問合せに迷う場合は「HTT実践推進ナビゲータ事業」の窓口へご相談されるのが近道でしょう。目的に合わせた支援事業へと導いてくれるはずです。公的支援を活用してまずは最初の一歩を踏み出してください。
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一般社団法人バーチュデザイン代表理事
東京大学教養学部 客員教授
吉高 まり(よしたか まり)氏
2024/01/23
IT企業、米国投資銀行での勤務を経て、2000年に三菱UFJモルガン・スタンレー証券(当時:東京三菱証券)入社。日本初のエコファンド立ち上げに携わり、これまで15年以上にわたって気候変動および環境金融ビジネスに・・・
IT企業、米国投資銀行での勤務を経て、2000年に三菱UFJモルガン・スタンレー証券(当時:東京三菱証券)入社。日本初のエコファンド立ち上げに携わり、これまで15年以上にわたって気候変動および環境金融ビジネスに深く関わってきたのが吉高まりさんです。現在、三菱UFJリサーチ&コンサルティングでフェローを勤める傍ら、大学で教鞭を執る吉高さんに、世界的な脱炭素化への機運の高まり、その中で中小企業がなすべき役割、金融機関の支援や取組などについてお話を伺いました。
2006年、ケニア・ナイロビで行われたCOP12以来、気候変動に関する国際会議には毎回訪れています。パリ協定で合意された目標達成に向けて世界全体での実施状況をレビューし、その進捗を評価するのですが、今回は来年提出期限を迎える2035年に向けての目標を作るためのガイダンスとロードマップの承認が目的でした。セミナーでも触れさせていただいたように、2020年のドバイ万博会場が使われ、世界中から多くの参加者が集まっていたんですよ。
COP28の合意文書で最も注目すべきは、「公正、秩序ある、衡平(こうへい)な方法で、エネルギーシステムにおいて化石燃料から脱却(transition away from fossil fuels)を加速させる」という点です。当初は「化石燃料の段階的廃止(phase-out)」を盛り込むことが期待されていましたが、その表現がやや弱められた形です。しかし、具体的に化石燃料に言及し、脱却という言葉で使用逓減を明確化したのはとても意義のあることでしょう。さらに今回は再生可能エネルギーだけでなく、あえて原子力やCCS(CO2を集めて地中に貯留する削減・除去技術)も合意文書内に明記し、とにかく「あらゆる手段を用いて脱炭素化へ舵を切るんだ!」という強い意志が示されました。
また、会場には各国がパビリオンを出展し、脱炭素化への取組を披露していたのですが、日本のパビリオンでは他にないレベルの優れた技術展示がいくつもありました。メディアはほとんど伝えていませんが、海外ではこうした日本の技術や取組が高く評価されています。私たちが思っている以上に、世界は気候変動問題を自分ごととして考え、脱炭素化への道を突き進んでいるということです。
もちろん、日本政府も本気で対策を進めています。昨年2月に「GX実現に向けた基本方針」が閣議決定され※1、昨春「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律(GX推進法)」と「脱炭素化社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律(GX脱炭素電源法)」が成立しました。さらに昨夏、政府はGX推進戦略を閣議決定。エネルギーの安定供給と確保を大前提に、成長志向型のカーボンプライシング※2 構想など多様な政策イニシアティブを掲げています。
経済産業省が発表したGXリーグ基本構想も興味深いものの一つです。これは、大手企業のみならず、金融機関、スタートアップ企業、イノベーション技術を有する中小企業などが参加し、GXに取り組む企業同士の繋がりや、産官学金が垣根を越えてGXを議論、協議する場です。昨年から活動がスタートし、自主的な排出量取引(GX-ETS※3)、市場創造のためのルール形成、ビジネス機会の創出、企業間交流の促進に取り組んでいます。
※1 経済産業省「GX実現に向けた基本方針」が閣議決定されました
※2 カーボンプライシングとは、企業が排出するCO2に価格を付け、排出者の行動を変化させるための政策手法です。政府によって行なわれる主なカーボンプライシングには、排出したCO2に課税する「炭素税」、企業ごとに排出量を決めて超過した企業と下回った企業との間でCO2排出量を取引する「排出量取引制度」、CO2の削減を価値とみなして証書化し、売買を行う「クレジット取引」などが挙げられます。
※3 GX-ETSとは、GXリーグにおける自主的な排出量取引を行う市場で、各企業が設定した目標排出量を基準に、排出量の多い企業が排出量の少ない企業から排出権を購入するなど、排出量の差分を売買する制度です。
中小企業の現状を整理すると、「カーボンニュートラルの影響への方策の実施・検討」をしているのは全体の4割以上(2023年7月・日本商工会議所調べ)にのぼります。2021年の前回調査と比べれば製造業・非製造業ともに2倍以上の比率となり、実施・検討を行う企業は確実に増えているといえるでしょう。ところが、「自社のCO2排出量の測定」や「CO2排出量の削減目標の設定」といった項目は、実施・検討を合わせても10%前後にとどまります。意識の高まりはあるものの、具体的な動きはまだまだ少ないというのが現状です。
日本の全企業数のうち中小企業が占める割合は99.7%ですが、温室効果ガスの排出量は全体の1〜2割であることから(注:東京都の場合、中小企業が占める割合は約6割)「大企業が率先して対策を行えばいいじゃないか」という考え方にも繋がっているようです。しかしながら、エネルギーコストの上昇は企業規模の大小に関わらず影響を与えます。コスト削減は中小企業にとっても重要な課題となり、脱炭素化に向けたさまざまな取組を行うことで「生産効率を上げる」、「経営改善を図る」、「社会的責任を果たす」といったメリットが得られます。
まず、大企業と取引がある場合、対応しないことでサプライチェーンから外される懸念が生じます。直接の取引がなくとも、回り回ってさまざまな条件を求められる場面が出てくるかもしれませんし、脱炭素経営を進めることが自社の競争力を強化し、新規受注や売上増のチャンスを創出します。また、先々のリスク低減も意義の一つに挙げられます。やがて導入されるカーボンプライシング(炭素税など)によるコスト負担の回避、燃料価格高騰の影響極小化、太陽光発電の導入などによる気象災害への備え、非効率なプロセスの改善や老朽化した設備更新による固定費低減も見込めるでしょう。目の前の省エネを契機として、企業のあるべき姿(パーパス)を見直し、将来への道筋を立てることができるのです。
さらに脱炭素経営は、優秀な人材の獲得にも繋がります。大学の教壇に立っていて常々感じますが、学生たちの気候変動に対する関心や感度は極めて高いんです。給与や待遇のいい大企業よりも、脱炭素化への取組が積極的な中小企業を選びたいという声が確実に増えています。なぜなら彼らは、やがて自分たちが経営に携わる立場になることをイメージしているからです。まったく何もしていない企業より、すでに脱炭素化を掲げている企業の方が好ましいと感じるのでしょう。社員の共感を得て彼らのモチベーションを維持することは、定着率向上への期待にも繋がります。
ご存じのように、リーマンショックの衝撃と混乱は今なお記憶に新しいところです。金融システムというものは、世界中の関連機関が国境を越えて支え合っているため、どこかで何かが起こると直接関係がない国にも多大な影響を及ぼします。仮に巨大な自然災害が発生したら、世界中の金融が窮地に陥ります。その地域の問題だけではなくなってしまうんです。そこで2015年末に設置されたのがTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)です。気候変動が金融の安定を脅かすリスクと捉え、すべての企業に対して「移行リスク(規制強化や脱炭素技術移行への対応といった、脱炭素社会への移行に伴うリスク)」と「物理的リスク(気候変動に伴う自然災害や異常気象によってもたらされる物理的被害リスク)、および「機会(リスクに対し、企業が取組を行うことで得られるチャンス)」の財務的影響を把握してもらい、開示促進を推奨するというものです。このTCFDに賛同する機関・企業数は日本の場合1,470にのぼり、第2位イギリスの529を大きく引き離して現在国別トップとなっています。※4
各企業が開示した情報や提言実施のモニタリングは、2024年に国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)※5 へ移管、統合化されますが、リスクだけを見ていても企業はビジネスチャンスを逸してしまいます。TCFDに賛同する金融機関は、取引先の企業との対話を通じて気候変動問題に対する指導・助言を行うとともに、CO2排出量削減に寄与する資金面、非資金面の取組実施を加速させています。
また、金融機関による脱炭素化対応支援メニューは広範にわたります。意識醸成・体制整備のための啓蒙活動や情報提供に始まり、CO2排出量算定支援、専門家による診断・コンサルティングサービス、目標・計画策定の支援などを行っています。もちろん銀行によって温度差があるのは否めませんが、多くの銀行はこの課題解決に積極的で、大半の地方銀行(62行中61行)がTCFDに賛同し、取引先企業へのソリューション提供を拡大させています。いうまでもなく、中小企業の皆さんが銀行に求める主な役割は資金調達面でのサポートでしょう。銀行はグリーンファイナンス(環境関連の投融資)を通して融資を行いますが、グリーンローンやサステナビリティ・リンク・ローン※6と呼ばれるものは、大手上場企業だけでなく中小企業においてもその活用事例が増えています。
事業計画に応じて貸付額が決まる通常融資と同様、脱炭素化に向けて目標を立てることで融資額が決まります。また、脱炭素化の推進については多様な助成金や補助金の活用と紐づけることも可能なので、取組の中身を明確にしておけば、銀行側もサポートしやすくなるのです。何しろ行政がお墨付きを与えていることになりますから。つまりは「GHG排出量の見える化」が大前提ということです。これがないと対話が始まりません。
※4 2023年10月12日時点。TCFDの活動終了に伴い、2023年11月以降の賛同企業の把握・公表は行われておりません。
※5 国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は、2021年11月に発足。企業がESG(環境・社会・ガバナンス)などを含む非財務情報開示を行う際の統一された国際基準を策定する機関です。
※6 グリーンローンは、企業や地方自治体などが国内外のグリーンプロジェクト(地球温暖化や環境問題解決への取組)と呼ばれる事業に要する資金を融資すること。一方、サステナビリティ・リンク・ローンは、借り手が環境問題解決に向けたサステナビリティ活動に関する目標(SPTs)の達成を奨励する融資です。融資後は年1回程度のレポーティングを行い、達成状況に応じて融資条件を見直していく仕組みになっています。
前述のように、金融機関でも専門家を派遣した診断やアドバイスを行うサービスの提供が増えていますが、HTT実践推進ナビゲーター事業ではHTT・脱炭素に関する支援策のご相談ができるとお聞きしています。そういった東京都の助成金に対する知識やメニューに精通したナビゲーターさんの存在は大きいでしょうね。多くの銀行も自らの生き残りを懸け、長期的目線で「社会の潤滑油」となるべく努力を重ねていますが、多岐にわたる支援策を熟知したプロフェッショナルな皆さんも、きっと心強い味方となってくれるはずです。
まずは、電力を「へらす、つくる、ためる」を入口として、脱炭素経営やその先のビジネス創出、SDGs、ESGにもビジョンを拡げてみてください。とりわけSDGsは、企業としての信頼度を高め、投資機会を生む分かりやすいコミュニケーションツール。今後は企業評価のベースとなってゆくため、中小企業の皆様にも必要となってきます。現在進行形で推移するさまざまな動きを敏感に捉え、自社の成長や躍進に活かしてほしいですね。
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中小企業アドバイザー
鷹羽 毅(たかは たけし)氏
2023/12/20
業界調査会社において多方面の調査やコンサルティング業務に35年の実績を持ち、現在は中小企業基盤整備機構近畿本部にてカーボンニュートラルアドバイザーとして活躍する鷹羽毅さん。セミナーでは脱炭素を成長戦略に繋げる「脱炭素計画作成」について・・・
業界調査会社において多方面の調査やコンサルティング業務に35年の実績を持ち、現在は中小企業基盤整備機構近畿本部にてカーボンニュートラルアドバイザーとして活躍する鷹羽毅さん。セミナーでは脱炭素を成長戦略に繋げる「脱炭素計画作成」についてお話いただきましたが、インタビューではさらに内容を深掘りして、脱炭素市場の可能性やビジネスチャンスの見つけ方にフォーカスしてお話を伺いました。
前職は業界調査会社に在籍していて、多方面の分野を対象とした専門的調査を通じて、企業様の個別コンサルティングを行ってきました。蓄電池や太陽電池、あるいは再生可能エネルギーなど、セミナーでお話したような業界市場についても長年携わってきまして、リチウムイオン電池や太陽電池、燃料電池については開発段階からリサーチを続けてきました。昨今では気候変動、温暖化問題への対策が喫緊の課題となったことから、前職の知見を活かして、現在は脱炭素を中心に企業様のさまざまなご事情に応じた支援、アドバイスをさせていただいています。2年ほど前には中小企業基盤整備機構にカーボンニュートラルに対する相談窓口が開設され、私は近畿本部のアドバイザーも務めさせていただくようになりました。
一口に中小企業といっても規模はさまざまです。従業員が数十人規模の企業様を例にすると、多くの場合は脱炭素に取り組む余裕がないというのが実情のようです。CO2排出量を国に報告する義務がある大企業と違い、中小企業に対しては法的規制がないので、取組を始める強い動機付けがないということも取組が進まない理由の一つでしょう。一方で大手企業のサプライチェーンの一員である場合、脱炭素の取組を求められて始めるケースが増えているようです。大手企業がカーボンニュートラルを推進するためには、Scope3にあたる川上、川下においても脱炭素の取組を進める必要があります。そのため、取引先の中小企業にも取組が要請され、やらざるを得ないという事情があります。
中小企業においても脱炭素に取り組むことで省エネによるコスト削減の効果が期待されるのですが、小売業やサービス業の中には、電気の使用量を減らしたところでさほど影響はないのでは?と考える方もいらっしゃるようです。企業価値やブランド力の向上についてもお伝えしていますが、数十人規模の中小企業様にとっては、魅力あるメリットに感じられないというのが本音ではないでしょうか。実際のところ、中小企業にとって最も大切なのは今日明日の売上です。こうした現状を鑑みると、中小企業が取組を始めるには、ビジネスチャンスであるという動機付けが必要だと考えています。
新製品の開発、新規事業の立ち上げ、新市場に参入するなど、事業戦略にはさまざまな手法があります。事業戦略の策定にあたっては、市場において自社製品にどのような強みがあるのか、競合他社に負けない技術は何であるのか、市場のニーズや動向についても徹底的に調査や分析を行います。自社製品、技術の独自性を見極めたうえで、新しい市場へ売り出す方法を考えるわけです。業界調査会社におけるコンサルティングでは大企業を対象としておりましたが、事業戦略を立てる道筋というのは大企業も中小企業も同じです。現在は中小企業の皆様に対して、脱炭素を取り組むべき課題ではなく、参入すべき市場と捉えて事業戦略を立てましょう、という提案をさせていただいています。
脱炭素というテーマは、今後も拡大を続ける成長市場であることは間違いありません。温暖化対策は世界共通の課題であり、各国が脱炭素社会の構築に向けた政策に大きく舵を切っています。日本でもGX(グリーントランスフォーメーション)の取組が盛んになり、化石燃料から再生可能エネルギーへの転換が進められ、太陽光発電や蓄電池の市場が拡大しています。そういった市場への参入は大企業の戦略であって、中小企業にどのような活路があるのか?と思われるかもしれませんが、例えば製造業であればそうした設備に使用する優位な部品や材料の開発。IT関連やサービス業であれば、脱炭素を支援するシステムやサービスの提供。あるいは小売業であれば環境に配慮したブランドや商品を展開することも考えられます。中小企業にも市場参入の可能性が十分あることに気づいていただき、脱炭素の対策から脱炭素をテーマとした事業戦略へと発想を転換して欲しいと考えています。
それが、セミナーでもお伝えした「脱炭素マーケティング戦略」です。社長・社員の知識と理解を深める「脱炭素教育計画」、企業活動全体における対策と方法を考える「脱炭素経営計画」、新規事業を創出する「脱炭素事業計画」の順に進めることをお薦めしています。脱炭素市場に参入するための製品やサービスを開発することが最終目標ですが、そこに至るにはまず、社員に対する教育、つまり脱炭素分野における人材育成が重要になります。脱炭素に対する理解が進めば省エネ対策や再生可能エネルギー導入の目処が立ちますし、対策のプロセスを実践することで、脱炭素に関わる製品やサービスの需要を正しく理解できるようになります。
また、脱炭素をテーマとした事業戦略においては、社長のトップダウンで取組を進めることと、脱炭素分野における人材育成の方法に成功の鍵があると考えています。「脱炭素に取り組む」という社長の意思決定があればこそ、社員は熱意を持って取り組むことができるのです。人材育成の方法としては、脱炭素分野の担当者を決めてプロジェクトチームを立ち上げ、外部研修やセミナーを受講するなどして、脱炭素のスペシャリストを育てることが肝要です。チームのスペシャリストが自社製品やサービスのなかに脱炭素市場における優位性を見出すことで、新たな事業戦略の道筋も見えてくるでしょう。
企業の脱炭素のプロセスにあたっては、石油やガスから電気への燃料転換、省エネ節電などの効率化、再生可能エネルギーの導入などの対策が行われるため、それに関わる製品やサービスの需要が高まるということになります。つまり、対応した製品やサービスを売っている企業は業績が上がることが見込まれるということです。例えば製造業の場合、省エネに繋がる高効率設備に関わる製品を開発すれば、その企業は売上が上がりますね。サービス業であれば、CO2の排出量を測定するサービスや、環境配慮型製品をブランディングするなどもいいですね。自社の製品やサービスを脱炭素市場にあてはめてみて、新たなビジネスイノベーションに繋げることができないかを考えてみてください。
また、中小企業が脱炭素化を進める上での課題として「対処方法や他社事例などの情報不足」を挙げる企業の割合が高いという調査結果があります。つまり、脱炭素を実践するノウハウへの潜在的ニーズが高いということでもあるのです。その場合、他社に先駆けて脱炭素化を実践して先例をつくり、方法論を提供するサービスの展開も考えられます。この場合、業種の如何を問わず、製造業、小売業、サービス業、どれにもあてはまりますね。より実践的な提案ができるわけですから、専門家やコンサルタントのアドバイスより有効かもしれません。このように、考え方次第でビジネスチャンスはいくらでも見つけられるはずです。
中小企業基盤機構がカーボンニュートラルの相談窓口を設けて、すでに2年の月日が経ちます。窓口ができたということは、それだけ脱炭素の取組が重要視されていて、問合せも多いということです。最近では脱炭素について学んでいる方も増えてきていて、SBT認定※1を取得するにはどうしたらいいか、といった専門的なご相談も受けるようになりました。世界的な脱炭素の潮流の中、サプライチェーン全体でカーボンニュートラルを達成するため、中小企業においても取組が広がりつつあるのを感じています。
東京都が推進するHTTというのは、まずは省エネで電力を減らす(H)、次に再生可能エネルギーの導入で電気をつくる(T)、さらに蓄電池で電気をためる(T)という、脱炭素経営で進むべき基本的なステップを表しています。取組の第一歩は自社のCO2排出量の見える化から始まりますが、排出量をどうやって算出したらよいのかわからないという声も多いようです。しかし、排出量の算出は決して難しいことではありません。セミナーでもご紹介しましたが、日本商工会議所がホームページで提供している「CO2チェックシート」※2に毎月の電気・ガス・灯油などの使用量を入力するだけで求めることができるのです。脱炭素の取組においては「情報不足」を課題として挙げる中小企業の方が多いのですが、私がアドバイザーを務める中小企業基盤整備機構やHTT実践推進ナビゲーター事業の窓口は、そうした皆様のために開かれています。このような支援機関や事業をご利用いただいて、脱炭素への第一歩を踏み出していただきたいと思います。
※1 SBTはパリ協定が求める水準と整合した企業が設定する温室効果ガス排出削減目標のこと。この目標を立てていることを示す国際認証がSBT認定です。
HTTコラム「TCFD、CDP、SBT、RE100 カーボンニュートラルのイニシアチブ、どこがどう違う?」https://www.httnavi.metro.tokyo.lg.jp/column3/
※2 日本商工会議所 日商エネルギー・環境ナビ https://eco.jcci.or.jp/checksheet
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BSIグループジャパン株式会社
事業開発部部長
吉田 太地(よしだ たいち)氏
2023/11/16
英国発祥、世界初の国家規格協会であるBSI(British Standards Institution)。その日本法人で、国際規格を用いたさまざまなソリューション開発に携わっているのが吉田太地さんです。吉田さんによると、脱炭素経営を目指す際に重要となるのが「社内体制作り」。・・・
英国発祥、世界初の国家規格協会であるBSI(British Standards Institution)。その日本法人で、国際規格を用いたさまざまなソリューション開発に携わっているのが吉田太地さんです。吉田さんによると、脱炭素経営を目指す際に重要となるのが「社内体制作り」。本セミナーでは、効率的な目標や方針の策定、計画を実行する社内体制構築のヒントを語ってくださいました。
BSIグループジャパンは、1901年に設立された英国規格協会の日本法人です。現在では180ヵ国以上で規格策定、製品やマネジメントシステムなどの審査・認証、研修やトレーニングを行っています。
そもそも、世界最古の認証会社といわれるこの会社が生まれたのは約120年前に遡ります。当時は第2次産業革命のさなかでした。ある時、ロンドン市内に地下鉄の鉄道網を整備するという話が持ち上がったのですが、それが容易には進みませんでした。イギリスには複数の鉄道会社があり、各社ともレールの幅が異なるため相互乗り入れができなかったのです。これではダメだ、規格化・標準化が必要だということになり、BSIの主導でそれまでおよそ75種もあったレール幅の規格を統一し、5つにまで減らしたのです。
鉄道だけではありません。重工業、通信、エネルギーと、グローバルビジネスを進めるためには、さまざまな分野で規格化が必要だということに彼らは気づいたんですね。そこで、イギリス王室からの勅令、いわゆるロイヤルチャーター(公益性の高い企業や組織、団体に法人格を付与し、権威を与えること)を有し、規格の策定と認証を行う企業として発展してきました。BSIグループでは、世界のISO規格※1の約8割に携わっていますが、認証のスキームを作り、人材育成のための研修を行ったり、その認証取得に積極的なパートナー企業を見つけたりと、業務は多岐にわたります。とりわけ私たち日本法人は、日本発の新規格を作り、世界に向けて発信したいと考えているんです。欧州で開発された新たな規格をいち早く日本で運用してみることもありますが、それも日本経済をより良くしていくために活用したいという思いで取り組んでいます。
※1 ISO規格は、国際標準化機構(ISO)が認証する国際規格です。あらゆるサービスや製品、企業のマネジメントシステムに関して国際的な基準を定めています。 https://www.bsigroup.com/ja-JP/Standard/
日本には、優れたマネジメントシステムがたくさんあります。大手自動車メーカーの生産方式や大手電子部品・電気機器メーカーの名誉会長が提唱した経営管理手法など、世界に誇れる経営手法が数多く生み出されてきました。例えば、日本最大手運輸会社の保冷輸送サービスがありますが、あれほどまでに温度管理を徹底し、食品の鮮度を保ったままお客様のもとへ届けるロジスティックスは、世界中を見渡しても他にありません。彼らと共同しBSIグループジャパンがこの保冷輸送サービスに関する規格を策定したのですが、この規格は、FSSCという食品安全マネジメントシステムに関する国際規格でも参照されており、いまや海外の物流会社にも大きな影響を与えています。
私たちが手掛けているISO規格も、最初から規格があったわけではありません。先人たちのさまざまな試行錯誤や創意工夫があってできあがっていったものです。改善に次ぐ改善を繰り返し、実直に、誠実に、仕事を進化させていく。これは、脱炭素経営や環境マネジメントシステムにおいても同じことで、日本企業は本質的な部分で得意としているものです。今回のセミナーも、実はISO14001※2をベースにお話をさせていただきました。環境経営のフレームワークは、ISOという冠がなくても説明が可能で十分実行に移せるんです。日本は高い経済水準と几帳面な国民性もあって、脱炭素のリーディングカントリーになれるポテンシャルを持っています。
※2 ISO14001は、環境マネジメントシステムに関する国際規格です。近年、環境リスクへの対応が経営上の最重要課題として求められている中、ISO14001を取得することで環境に配慮した企業・組織であることが国際的に認められます。 https://www.bsigroup.com/ja-JP/ISO14001/
東京都環境局「東京都環境マネジメントシステム要綱等」 https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/policy_others/iso14001/iso14001.html
省エネには、よりよい地球環境の実現が大義名分であると同時に、企業として経費削減を目指す目的もあります。たとえ1本でも不必要なボールペンの購入をやめれば、Scope3のカテゴリー1(購入した製品やサービスが製造されるまでの活動において排出されるCO2排出量)が、ボールペン1本分削減できます。つまり通常の財務管理と同じことなんです。
そして、電気使用量をカットし、経費削減で得られた利益は、何らかのモノやコトに再投資することになります。では、何に再投資すべきか? 私は、人材を育成し、環境を整え、事業基盤を作っていくことに注ぐべきだと考えます。外部不経済を利益に変え、社会の問題をビジネスチャンスに転じるという考え方もあるでしょう。今までなかなか着手できなかったことに取り組むことで、カーボンニュートラルと企業成長の両立が描けるようになってきます。
身近なところで申し上げると、皆さんが使われている、日本で多くのシェアを占めるスマートフォンを例にとればわかりやすいかもしれません。実はこれ、リサイクルの塊のようなものなんです。某社は、2030年までにグローバルサプライチェーンのカーボンニュートラル達成を目指す中で、各部品の脱プラスチック化をとことん追求し、サステナビリティに取り組む姿勢を世にアピールしています。既存の素材をどの段階で、どのようなサステナブル素材に置き換え、自分たちが何年かけて目標に近づいてきたか、今後何年かけて目標を達成するかを、さまざまなデータとともに詳らかにしているのです。投資判断におけるESG経営(環境、社会、企業統治に配慮し、企業が長期的に成長するために欠かせない考え方)の重要性が高まりを見せていますが、こうした情報開示は企業の信頼度を格段にアップさせます。
また、私は米国オレゴン州に本社を置く大手スポーツメーカーのスニーカーを愛用しているのですが、その他あらゆる製品もそのほとんどに再生素材が使われています。彼らにとって持続可能な社会の実現は、嫌々行うものではなく、もはや積極的に取り組むブランディングなのです。その分、過去のモデルに比べると少々高額になっているものの、消費者や投資家からの評価は上々です。環境問題の解決を自社の成長に活用し、上手に付き合っていくことが大切だということですね。こういった事例を参考にしながら、先を見据えて再投資することが自社の新たな付加価値を生み出し、日本が世界に誇るモノづくりの分野を活性化していくことにも繋がると思っています。
前述したように、人を教育し、組織の中にできるだけ多くの「わかる人」を作っていくことが、成功のキーになります。たった一人の担当者に任せてしまわず、複数で取り組むのが望ましい。情報セキュリティ研修やコンプライアンス研修と同じように、みんなで勉強し、ともに理解を深めていくことがポイントです。具体的には、チームに、経理、人事、総務、購買、製造といった各部署のスタッフを置き、社内調整を図ります。企業外活動における適切な経費削減を進める意味から、営業部のスタッフも加えるとよいでしょう。
最初は「こまめな消灯を心がけましょう」や「冷暖房の設定温度を守りましょう」といった、地に足の着いた計画からで構いません。あくまでも無駄なコストを削減するということが入口でいいと思います。次に、関連情報を簡単に管理できるようにすることも大切です。仕組みが複雑になっていると組織として知見が蓄積されず、柔軟な見直しや改善が望めません。例えば、GHG排出量の可視化におけるデータ収集や管理、共有を、専用のソフトウェアに委ねるのも有効です。脱炭素経営は、企業のイメージアップや社会の一員として責任ある活動をしていこうというCSR、SDGsと目的が異なり、財務のスリム化という形で事業に直結します。あくまでも企業成長を旨としているので、一定のコストをかけてソフトウェアを導入する意味が出てきます。近年はデジタル補助金が適用されるものもあるので、そうした制度を活用しながら社内のDX化を進めていくとよいでしょう。
そして最も重要なのが、経営者の皆様にも参加していただきたいということです。中小企業の経営にあたるのは、創業者もしくは創業一族の方々が多いと思います。経験上、創業社長は意思決定(速度)が速く、やると決めた時のコミット力や求心力、影響力(強さ)があります。速度と強さが噛み合った企業ほど物事はうまく進みます。これは中小企業ならではといえる強みであり、計画を前進させる過程で大きなアドバンテージとなります。
中小企業は、従業員数が多くないがゆえに、小回りが利きます。10万人規模の大企業では社員すべてにトップのマインドを浸透させるのに数年かかることもありますが、数十人規模の中小企業なら来週からでも始められます。社員一人ひとりと話し合いや擦り合わせを重ねても、時間はそれほどかからず、すぐに浸透させられるでしょう。中小企業経営者の皆様は、営業職や製造職を兼ねていらっしゃる方も多いので大変お忙しいとは思うのですが、それでも強い意志さえあれば必ずよりよい方向へと舵を切っていけるはずです。
東京都がメッセージを発信されている点が何よりも素晴らしいですね。誰もが安心して脱炭素化に取り組むことができると思います。HTTの推進によって今後もサステナビリティの輪は広がっていくと思いますが、個人的にお願いしたいのはさらなる若い世代へのアプローチです。そもそもサステナビリティの定義は「将来世代の幸せやニーズを損なうことなく、現在世代の幸せやニーズを満たす開発」だとされています。現代の子どもたちが、小さなうちからプログラミング技術を習得しているように、「サステナビリティとは何か?」を学ぶ機会を得て、自分の言葉で語れるようになってほしい。そういう子どもたちが、やがて成長し、未来を作っていくからです。
サステナビリティはとても夢のある話です。経営者自らが従業員の皆様へ、ぜひ夢を持って語っていただきたいですね。「へらす・つくる・ためる」の実践は、その第一歩です。本当の意味で、社会貢献度の高い企業が東京から世界へ飛び立てたら、これほど素晴らしいことはありません。日本で生まれた国際規格が世界で標準化されていくように、東京から世界のお手本となる中小企業が羽ばたいていくことを心から願っています。
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公益財団法人東京都中小企業振興公社
ゼロエミッション経営推進支援事業 相談員
山北 浩史(やまきた ひろし)氏
2023/10/17
公的支援機関、とりわけ東京都中小企業振興公社で幅広い業種の企業から経営に関する相談を受けている山北浩史さんは、窓口に寄せられたさまざまな悩みや課題解決に寄り添う経営支援のエキスパート。すべての相談ごとに対して常に「真剣勝負で臨む」という山北さんが・・・
公的支援機関、とりわけ東京都中小企業振興公社で幅広い分野の企業から経営に関する相談を受けている山北浩史さんは、窓口に寄せられたさまざまな悩みや課題解決に寄り添う経営支援のエキスパート。すべての相談ごとに対して常に「真剣勝負で臨む」という山北さんが、日々直面してきた数々の事例を挙げながら、脱炭素経営を成功に導くポイントを語ってくださいました。
東京都中小企業振興公社は、都と連携しながら、東京都を拠点とする中小企業を対象に、幅広いサービスを提供する総合支援機関です。都内中小企業の皆様を元気づけ、経済のさらなる活性化と都民生活の向上に寄与することを理念としています。支援メニューは、経営相談、各種助成金制度のご案内、販路拡大、人材支援、海外展開支援など多岐にわたりますが、公益財団法人であるためご相談は基本的に無料です。私を含め、常時数名の相談員が待機し、お電話やメール、窓口への直接訪問によって寄せられるご要望や疑問にお答えしています。
私は中小企業診断士、知的財産管理技能士、行政書士、商業施設士、IoTプロフェッショナルなどの資格を有し、自らも経営コンサルタントとしてコンサルティング会社を経営しています。ほかの相談員も経営に通じた専門家ばかりで、税理士、会計士、なかにはデザイナー職の方もいらっしゃいますね。日々、ご相談に来られる中小企業経営者の皆様のサポートに努めています。
当然ながら相談ごとは、基本的な事業計画の立て方から販路開拓、資金調達など多種多様。1999年からこの仕事に携わっていますが、最近はゼロエミッション化推進についてのご相談も増え、年々求められるレベルが高くなってきています。ほとんどの方々がご予約なしで窓口にお越しになられるため、相談員は事前準備のないまま皆様のお話に耳を傾け、コミュニケーションを重ね、最適解を探ることになります。法律や制度の知識はもとより、あらゆる世情やトレンドにも敏感にアンテナを張っていないと立ち行きません。経営そのものに関する情報のアップデートのみならず、新たに開発された最新技術や国内外の企業動向など、書籍、TV、インターネットを駆使して情報収集を心がけています。
「こんな事業はできないだろうか?」といった、構想段階でのお問い合わせは多いですね。例えば、廃棄植物を利用した植物性由来レザーの製造・販売を行いたいと相談に来られた方には、まず素材となる廃棄植物をどのように調達・確保するかを明らかにするとともに、製造方法の具体化・詳細化についてのアドバイスをさせていただきました。要は、何を始めるにしろ事業計画書が必要になります。キチンとした書類を作成するとなると多くの方々はそれだけで躊躇されてしまうのですが、アイデアをメモ書きにして残しておくだけでもいいんです。
また、断熱効果を有する塗料の販売について相談を受けた際は、その効果について客観的なデータを収集し開示していくことの必要性を説いたり、BtoBかBtoCか、想定する販売先についても助言しました。こちらも事業計画に落とし込む策定作業をお手伝いしたのですが、さまざまな質疑や情報提供を通して、ご相談者に気づきを得ていただくことが私たちの仕事です。
事業の計画段階や実施段階で意見を求められる例もあります。ある時、マンション管理の分野で、電力使用量やガス使用量を把握してデータ化するサービスを特色にした事業計画について、ご相談を受ける機会がありました。これは、CO2の排出量を減らし、省エネにも貢献する画期的な試みでしたが、そのデータ収集能力を他分野でも活かせば「より付加価値の高いビジネスも可能になるのでは?」という方向でさまざまなご提案をさせていただきました。
一方、エコバッグの事業化を進めている方からのご相談には、組織づくりの面でアドバイスしました。計画の詳細を伺ったところ、その事業に関わるメンバーの皆さんが出資者であり、労働者であり、経営意識を持たれていました。そこで、2022年10月に施行されたばかりの労働者協同組合法に基づき、会社ではなく相互扶助組織の設立をお勧めしたのです。この案件では創業メンバーのなかに独り親で就労困難な方がいたため、都の支援対象となるソーシャルファーム認証 ※1 の取得も促しました。このように既存の事業計画を第三者視点で拝見し、ブラッシュアップしていくこともお手伝いしています。
※1 ソーシャルファームは、自律的な経済活動を行いながら、就労に困難を抱える方が必要なサポートを受け、他の従業員と共に働いている社会的企業のことです。認証が取得できれば、創設や運営に関わる費用が補助されるなど、さまざまな支援を受けることができます。https://www.social-firm.metro.tokyo.lg.jp/
衣料のリサイクルやリメイク事業、ZEH ※2 関連事業、環境配慮型製品を商材とする事業などにおけるマーケティング戦略や販路開拓の助言・進言をすることが確かに増えてきました。私たちは公益財団法人ですから、それぞれの案件に守秘義務があり、ご相談者と将来顧客になりうる企業をマッチングさせるなどの行為は許されていません。しかし、環境問題への取組が注目を集めている今、省エネ事業を自社の強みにされようとする事業者がかなりの数にのぼるため、そういった方々が集う交流会や勉強会をご紹介したり、国土交通省が運営するNETIS(新技術情報提供システム)※3 への登録を促したり、販売促進に繋がるさまざまなPRのしくみや組織活用を提言しています。
同時に、自社の省エネにも関心が高まっています。全社レベルで業務車両のEV化を図ったり、ソーラーパネルや小型風力発電の導入で創エネに取り組もうといったことですね。積極的な企業ほどやりたいことがたくさんあるんです。その場合は、今やれること、やるべきこと、今は難しいが先々に繋げられることを整理して、取組テーマの抽出とロードマップの策定を献策しています。逆に、何から始めていいのかがわからないというご相談者も一定数いて、そういった方々にはヒアリングを通して、活用できる補助金制度や支援策の情報をご提供しています。
※2 ZEHはnet Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の略で、エネルギー収支をゼロ以下にする建物のことです。太陽光発電などの再生エネルギー技術を用いながら、断熱性や設備効率を高めるなどの配慮が施されています。
※3 NETISは国土交通省が新技術の活用のために、その情報の共有および提供を目的として整備したデータベースシステムです。登録された新技術は原則5年、最大10年まで掲載され、自社の信頼性のアピール、他社へのPR、公共工事入札時の加点評価などにも繋がります。
節電によってエネルギーコストの支出を下げることは重要です。そこから一歩、歩みを進め、自社の製品やサービスに脱炭素化の付加価値を与え、それによって収益を上げることができたらこれほど素晴らしいことはありませんよね。その場合、閃いたアイデアを5W2H(いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように、いくらで)で考え、市場規模や成長性といった実現可能性、競合状況、法的規制の有無を調べるなど、事業化ができるかどうかを精査しておかなければなりません。計画段階では、私たちのような外部の専門家にアドバイスを求めるなどして、再検討や軌道修正といった精度を上げる作業も必要になってくるでしょう。そして「時機に乗る」のではなく、「時中に行う」へ発想を転換しておくのが大きなポイントだと思います。これは、タイミングを図りながら先々に行うのではなく、すぐにでもできることを始めておくという意味です。新たな事業の創出に至らないまでも、エネルギーコストを賢く削減し、脱炭素サプライチェーンの一員として選ばれる企業になるためには、今まさに種を撒いておくことが肝要です。タイミングを逃すと収穫はずっと先になるのですから。
さらにもう一つ大切なことは、助成金活用を「目的」にするのではなく、あくまでも課題解決の「手段」と考えていただきたいということです。事業計画を立てる際、企業によっては前期のうちに予算取りを済ませていなければならないため、実際にその事業がスタートする頃には助成金の募集期間が終了し、資金調達が難航してしまうというケースがあります。セミナーの終盤でもご質問をいただきましたが、それに対処するためには日頃から情報を収集しておくことが不可欠です。助成金には例年募集されるベーシックなものがある一方、その年に初めて募集される新制度もあるので、新しいものは情報の先取りがとても難しいのですが、あらかじめそれを想定して事業計画を練っておく必要があるのです。「行政のサポートが得られないなら事業の中身を変更したい、時期を改めたい」と、助成金の有無で事業計画を歪めてしまうのは本末転倒です。
窓口でご相談を受けていて感じるのは、ゼロエミッションへのかつてない意識の高まりです。私たちは経済活動の活性化を促進するための経営相談を主な業務としていますが、2050年までにカーボンニュートラルを実現することはもはやマスト。厄介ごとだと後ろ向きに捉えず、付加価値を得るチャンスだと考えて欲しいのです。そういった意味でHTTは、ゼロエミッションを自分ごととして考えていただく機会を提供する素晴らしい取組だと思っています。HTT実践推進ナビゲーターの皆さんは、ゼロエミの意義を世に広めるまさに同志ですね。
また、事業者の皆様には、私たち中小企業振興公社の相談窓口やHTT実践推進ナビゲーター事業などを有効活用して、もっと気軽にご相談ごとを投げかけていただきたいと思っています。無料とはいえ、皆様は貴重な時間を費やしてご相談に臨むことになります。私たち相談員は、そんな中小企業の皆様の期待に応えたい、なんらかのアンサーを導き出し、少しでもお役に立ちたいという一心でお話をさせていただきます。それは、HTT実践推進ナビゲーターの皆さんも同様です。必ず「相談してよかった」と思っていただけるはずですので、決して敷居が高いなどとお考えにならず、ぜひ一度ご相談してみてはいかがでしょうか?
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慶應義塾大学大学院理工学研究科 非常勤講師
藤平 慶太(ふじひら けいた)氏
2023/09/21
慶應義塾大学大学院で「企業と環境」をテーマに教鞭をふるうかたわら、再エネベンチャーでさまざまな企業の課題解決に取り組まれている藤平慶太さん。「中小企業の環境経営の5つの手法」と題した本セミナーを振り返りながら・・・
慶應義塾大学大学院で「企業と環境」をテーマに教鞭をふるうかたわら、再エネベンチャーでさまざまな企業の課題解決に取り組まれている藤平慶太さん。「中小企業の環境経営の5つの手法」と題した本セミナーを振り返りながら、日本における環境問題の意識変化を背景に、中小企業が取り組むべき環境課題のポイントについて伺いました。
私は環境分野に関わるようになって約20年が経ちます。当初は、日本に環境学を学べるところがなかったため、渡米してミシガン大学大学院で自然資源環境学を学びました。帰国後に環境に関わる仕事を探して、ようやく見つけたのがまだ小さなベンチャーだったレノバでした。当時はリサイクル事業が主体でしたが、社会における環境問題の関心が移り変わるに従って、リサイクルから温暖化対策、再エネといった具合にビジネスの軸も変化していきました。これまで国の調査や企業のコンサルティング業務に携わりながら、再生可能エネルギーやリサイクル、LCA(ライフサイクルアセスメント)、環境技術の海外展開などもご支援してまいりましたが、今はバイオマス発電や風力発電など、再エネ発電の開発を中心に行うようになっています。入社当時の十数年前に比べると環境問題への関心は大きく高まっており、社会の変化をリアルに感じています。
その後は、東京大学大学院で環境学研究系国際協力学の博士号を取得したことをきっかけに慶応大学大学院で非常勤講師を務めるようになりましたが、知人の教授からは「もっとベンチャーや起業に目を向けるよう、慶応生にベンチャーマインドを伝えて欲しい」という要望がありました。そのため授業では、学生に規模の大小や業種に関わらずさまざまな企業の環境への取組をレポートにまとめてもらっているのですが、これが中小企業やベンチャーに目を向ける良いきっかけになっているようです。私の講義に興味を持って「再エネベンチャーに決めました」と、就職先にベンチャー企業を志望する学生も複数いました。業種や分野、規模の大小に関わらず、この先の企業活動には環境という視点が必ず入ってくると考えていて、その時に具体的な行動を起こすためのヒントを授業の中から得てもらっています。
20世紀においては、経済と環境が対立するという概念がありました。消費者、企業、行政、それぞれに環境汚染に対する責任があって、経済発展にともない環境汚染が進むのは避けられないと考えられていました。環境問題を解決するには原始時代に戻った方がいいのでは、などと過激な思想を持つ人がいた時代もあります。ところが21世紀の現代においては、そうした考えは見られなくなり、逆に環境関連産業という新たな市場が主役になるという、社会経済のパラダイムシフトが起きています。つまり「経済と環境は両立する」というのが私の考えであり、学生への講義でもそう語っています。
海外から見ると遅れをとってはいますが、日本政府も本気で環境問題への取組を進めています。日本の場合は、2020年に当時の菅義偉政権が行った「2050年カーボンニュートラル」宣言を機に取組が加速度的に進んだのではないでしょうか。次世代型太陽電池やカーボンリサイクルなど、技術革新が起きやすい分野を積極的に支援していく内容で、環境分野のデジタル化、グリーン成長戦略など、現在の岸田文雄政権もこれに沿った方針を採っています。今や環境分野は大きな経済市場となっており、世界に取り残されてはならないと、日本政府も危機感を持って進めています。
主に3つの競争優位性が考えられますが、1つ目にあげられるのは「収益向上の機会」。つまり、環境問題の取組の評価で新しい収益の機会を得やすくなるということです。例えば、太陽光発電の導入により、地元企業の投資が増えて事業が大きく発展したという例も多くあります。2つ目は「コスト、リスクコントロール」ですが、省エネに取り組むことでエネルギーコストが下がるとか、廃棄物や排水の処理方法を改善することでコストが下がることも考えられます。また、事前に環境課題を解決しておくことで、行政指導などのリスクを未然に防ぐこともできます。3つ目は「レピュテーション(評判)、ブランド価値の向上」ですが、環境問題の取組が評価されSNSなどで情報が拡散される例が多く見受けられます。また、消費者は少し価格が高くても環境によい製品を選ぶ傾向にあるため、環境に配慮したモノ作りをアピールすることで製品のリピート率があがり、企業としてのブランド価値の向上も期待できます。
さらに加えれば、優秀な人材の確保にも繋がると考えられます。私は授業で学生達とディスカッションをしますが、優秀な学生ほど企業の理念をみて就職先を選ぶ傾向にあるように感じます。社会に役立つどんなスキルを得られるのか、どんな理念のもとで働けるのか、今の学生はそういうことを非常に重視しています。つまり、優秀な人材から選ばれる企業になるためにも、環境問題に対する取組が重要になってきているということです。
大企業がカーボンニュートラルの取組を加速するにあたり、サプライヤーである中小企業にも同様の動きを求める日が遠からず来ると思います。そうなった時、再生可能エネルギーの調達など脱炭素化への取組を進めておくと、競争優位性を発揮する良いチャンスに繋がると思います。風力発電、バイオマス発電、地熱発電、水力発電などさまざまな再生可能エネルギーがありますが、中小企業に限らず誰にでも取り組みやすいのが太陽光発電であり、東京都もさまざまな支援制度を設けて積極的に導入を進めています。補助金を利用すれば設備の導入費用も抑えられますし、自家発電、自家消費はエネルギーコストの削減に繋がるケースが多いので、導入の検討をおすすめします。
太陽光発電などの再生可能エネルギーに関しては、2012年に固定価格買取制度のFIT(Feed-in-Tariff)制度が導入され、太陽光で発電した電気を電力会社が一定価格で一定期間買い取ることを保証することで、発電事業者が利益を得る仕組みが設けられました。最近では再エネの普及が進んできたため、2022年からは、変動する電力価格に一定のプレミアム価格を上乗せするFIP(Feed-in-Premium)制度に移行しつつあり、今後一定規模以上の太陽光発電を導入される場合は、FIP制度のもとで行われることになります。
FIP制度は時間によって売電価格が変動するため、蓄電池などを活用して市場価格が高い時に売電することで、より高い収益が望めます。いずれ蓄電池を普及させるための制度でもあり、今後は蓄電池+再エネという活用方法も検証が進んでいくと思われます。現時点では蓄電池が高額ですが、世界では蓄電池の価格競争が起きているため、近い将来にはコストメリットが出てくるようになると考えています。
環境経営において重要なのは、どうやって意思決定がなされていくかということです。まずは環境意識の浸透というのがあり、短期間ではなく、長期の影響を考えて行動を構築する必要があります。そのために重要なのが、企業のトップが環境問題に対する明確なメッセージを出して、環境の取組のゴールを設定するということです。
次に行うのが、情報を収集して管理するということ。自社の事業はどれだけ廃棄物を出していて、エネルギーを消費しているのか、それによってどれだけ環境に負荷を与えているのかを把握します。収集した情報から改善すべきポイントを見つけ、改善方法や目標を設定していきます。次に、収集したデータを元に事業を再検討します。ライフサイクルアセスメントの結果なども参考にしつつ、製品やサービスの開発を行えば、新たなビジネスチャンスを見出すことも可能でしょう。こうしてトップが設定したビジョンゴールを中長期的に現場へ落とし込んでいくことで、最終的に環境経営を企業文化として定着させていくことが必要だと思います。
東京都は国に先駆けて、世界に並ぶ先進的な取組を進めようとしています。水素社会の実現にも意欲的に取り組んでいますし、HTTの取組の柱として太陽光発電の導入にも力を入れています。ただし、環境問題の課題解決は行政だけが力を入れても進みません。「笛吹けど踊らず」とならないよう、中小企業や基礎自治体、都民の皆さんが行動を起こすことが大切なのです。企業としてできることは、まずは東京都が用意する支援制度について知り、対応する助成金があれば積極的に使うこと。行動の最初の一歩が、HTT実践推進ナビゲーターなど行政の窓口に相談することなのだと思います。
セミナーでもお話しましたが、省エネは光熱費の削減であると同時に、売上ベースに換算するととても大きな利益にも繋がります。たとえば、既存の設備を省エネ型に更新して光熱費が30万円浮いたとすると、その30万円はそのまま利益になるのです。同じ額の利益をあげるのにどれだけ稼ぐ必要があるかというと、利益率5%とした場合では20倍の600万円を売り上げる必要があります。つまり、省エネは効率的に利益を生み出す手法でもあるのです。現在はエネルギー価格が高騰しているため、このタイミングで省エネに取り組めばより大きな利益を生み出すことができるでしょう。自主的な取組だけでは大きな成果は得にくいかもしれませんが、東京都で行っているHTT実践推進ナビゲーターに相談すれば、無料で高効率な策を出してくれます。そのようなチャンスを逃さずキャッチしていくこと、それもビジネスの大切な視点なのだと思います。
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国際航業株式会社 カーボンニュートラル推進部
SDGs担当 今田 大輔(いまだ だいすけ)氏
2023/08/29
企業における脱炭素の概念理解に始まり、どんな活動がCO2を排出し、どの部署がそれに関わり、どのようにこの問題を社内で共有すべきかなど、より実践的な考え方や取り組み方を語っていただきました。・・・
地方自治体の地球温暖化対策についての実行計画策定や、企業のコンサルティングを手掛けているのが、SDGsおよびカーボンニュートラルの推進アドバイザーとして活躍する今田大輔さんです。本セミナーでは、企業における脱炭素の概念理解に始まり、どんな活動がCO2を排出し、どの部署がそれに関わり、どのようにこの問題を社内で共有すべきかなど、より実践的な考え方や取り組み方について語っていただきました。
持続可能な開発目標……いわゆるSDGsは、皆様もご承知の通り2015年9月の国連サミットで採択されました。私はごく個人的な興味から、この当時からSDGsについて調べ、具体的にどのような取組ができるのかを考え続けてきました。その礎があって、現在は地方自治体におけるさまざまなしくみづくりや、農業・水産業分野での再生エネルギー導入をお手伝いするなど、普及実践に繋げていく活動を行っています。
SDGsはCSR(企業の社会的責任)や社会貢献活動の視点だけでスタートさせると大抵はうまくいきません。脱炭素経営についても同様のことが言えますが、企業のイメージアップのためではなく、今、真剣に取り組まないと将来生き残れないという覚悟が前提にあると考えています。今回のセミナーでもお伝えしましたように、温室効果ガスの排出量は全世界で年間約2,073億トンにのぼり、自然界で吸収される量が年間約2,033億トンといわれています。本来はこの収支が差し引きゼロになるのですが、毎年約40億トンもの温室効果ガスが蓄積されていることになります。
逆に申し上げると、カーボンニュートラルが実現するまでは着実に温室効果ガスは増え続けるということです。今まで溜まっていたものが、すぐに消えてなくなるわけではないということですね。私たちが自然界の循環に頼らずに危機意識を持ち、早期に排出量を削減する行動に移さないといけません。それを解決するためには「現状はどうなっているのか」に加え、企業活動の「どこで」「どれだけ」排出されているのかを可視化し、把握することが急務であるとお伝えしています。
調達・製造・在庫管理・配送・販売・消費など、すべての工程から温室効果ガスは排出されます。事業者自らによる直接排出(Scope1)、他社から供給されたエネルギー使用による間接排出(Scope2)をチェックし、事業活動に関連する自社以外の排出(Scope3)にも目を向けなければなりません。また、自社の「どんな活動」において排出しているのかを考える必要があります。
これには、環境省と経済産業省が取りまとめた「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン ※1」を片手に、分類される各カテゴリーを吟味しながら自社の事業にあてはめてゆくという地道な作業を要します。私たちのようなコンサルタントは、その専門知識や方法論をアドバイスできても事業の実態まではわかりません。やはり、自社のことを最もよくわかっていらっしゃるのが経営者の皆様です。時間がかかるとは思いますが、大企業とのお取引や脱炭素化の要請のあるなしに関わらず、中小企業の皆様には積極的に取り組んでいただきたいと考えています。
※1 サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン(環境省 経済産業省)
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/tools/GuideLine_ver2.4.pdf
例えばエネルギー使用については、その事業に関連してどんな燃料を使用しているかを詳らかにしていくことになります。とりわけ「電気」は各電力会社によって排出係数が異なるため、算出に注意が必要です。しかも、同じ電力会社でも年度によって排出係数が変わっている場合があります。製造・生産を伴わないオフィス系の企業様の場合は、ほぼすべてのエネルギー使用は電気ですよね。インターネットで公開されている「電気事業者別排出係数一覧」などを参考に確認していただければと思います。
次に、アクションすべき対象を把握することも重要です。自社の事業をScopeの各カテゴリーにあてはめていくと「どこに」の部分が見えてきます。企業内のどの部署が関わっているのかを明確にしつつ、「どれだけ」排出されているのか算出し積み上げていきます。その際、「その業務に関わっているから」という理由で担当部署に算定をまる投げしてしまうと、いわゆる“たらいまわし”の状況が発生し、社内で揉めてしまうケースも少なくないんです。共有しておきたいのは「活動量×排出原単位」という基本式です。計算式はカテゴリー毎にあり、同じカテゴリーでも複数の計算式があるため、その選択いかんで担当部署が変わるかもしれません。例えば、事業で出る廃棄物の処理は、埋め立てるのか、焼却するのか、リサイクルするのかによってそれぞれ排出原単位が変化し、生産部門なのか、環境部門なのか、あるいは経理部門なのか、詳細なデータを把握している部署もまた変わります。プロジェクトにはさまざまなスタッフの協力が不可欠です。参加メンバーを組成する際は、できるだけ理解に積極的な人材を集め、経営者ご本人など全体を見渡せるリーダーが指揮されることをおすすめします。
なぜ、脱炭素経営なのか? これを社内でどう伝え、社員の皆様に自分のこととして認識してもらえるかは極めて重要です。最初に申し上げたように、CSRの視点だけに固執して話を進めようとするとうまくいきません。売上をあげている社員から反発を招いてしまうことがあるからです。決して企業の社会的責任や社会貢献活動を否定するものではありませんが、利益との両立を示さないと全社的な同意は得られないでしょう。社員の皆様のモチベーションが低く、「上司に言われたからやる」という消極的姿勢では物事が立ち行きません。
私は、「社会的インパクト・マネジメント ※2」や「ESG ※3」を専門領域として企業経営者の皆様にアドバイスをさせていただいていますが、これまでの価値観は崩れ、時代は今まさに大きな変革期を迎えています。アメリカの高名な経営学者であるマイケル・ポーターが、CSV(Creating Shared Value=共通価値の創造)という考え方を提唱しています。これは営利企業として社会課題を解決し、経済的価値と社会的価値を両立させようという考え方です。カーボンニュートラルの文脈では「デカップリング」と呼ばれ、企業の成長と温室効果ガス削減を同時に目指すこととして注目を集めています。経営戦略や事業方針の策定において、目先の利益追及だけではない軸、つまり回り回って利益に繋がる軸というものが増えてきました。温室効果ガスを減らすという軸もこれに含まれます。電気料金を例にすると、今までは安さ重視で電力会社を選択していましたが、安さ以外にも「温室効果ガスの排出量」というポイントが判断の要素になりつつあります。
脱炭素経営に取り組むメリットは、優位性の構築(競争力強化で売上・受注を拡大)、エネルギーコストの低減、知名度・認知度の向上(他社との差別化、顧客からの支持)、社員のモチベーションアップや人材獲得力の強化(働くスタッフの共感や信頼が得られ、この会社で働きたいと思う人材の獲得が期待できる)、資金調達面で有利になる(金融機関などの融資条件の優遇)といったことが挙げられます。こうした目に見えにくい「非財務価値」がやがて大きな意味を持ち、巡り巡って「財務的価値」になりうる可能性を共有できれば、全社的な協力体制が生まれ、社員が一丸となって前を向くことができるのではないでしょうか。
※2 社会的インパクト・マネジメント…社会的インパクトは、事業のアウトプットが社会にもたらす短長期の変化、便益、成果のこと。直接的・間接的な影響として受益者やその周辺に変化を与えることから「アウトカム」とも呼ばれています。これらを企業の意思決定や業務改善に活用するのが社会的インパクト・マネジメントで、欧米を中心に世界中で注目を浴びています。
※3 ESG…環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取った経営用語。企業が長期的な成長を遂げるためには環境課題、社会課題、企業統治課題の3つの観点からを解決することが望ましいという考え方です。SDGsのゴールやターゲットと重なる部分もあるため、企業がESGに配慮した経営をすることで、SDGsの達成にも貢献できます。
これまで多くの企業様へ脱炭素経営の重要性をお話させていただく機会がありましたが、その経験から申し上げると、残念ながら「脱炭素はボトムアップでは広がらない」と感じています。やはり経営に携わる意思決定層の皆様が「正しい知識」で判断し、「トップダウン」で物事を進める方が成果を上げやすいようです。とはいえ、「正しい知識」は一朝一夕で得られません。中小企業の場合は、本来業務と兼務しながら取組を進めざるを得ない方々が多く、かといって大企業のようにこの分野に精通した専門家を雇うのも容易ではないでしょう。
そんな中で、HTT実践推進ナビゲーター事業は頼りになる存在だと思います。専門性の高い知識を有したナビゲーターが最適な支援策を案内してくれるというのですから、これほど素晴らしいしくみはありません。また、多種多様な支援事業がワンストップでわかるのもいいですね。多くの地方自治体は、国の施策に基づいたサポートを中心に行っていると聞きます。東京都は独自に設計されている制度もあり、手厚く幅広い補助を受けられる環境が整備されています。東京都の中小企業の皆様は私の目から見ても、本当に羨ましいと感じます。
おそらく、脱炭素やサステナビリティに対する理解は、今後当たり前のものとなっていきます。英会話を学んだり、仕事に必要な資格を取得したりするのと同じように、社会人が携えておくべきリテラシーの一つに位置付けられてゆくでしょう。
中小企業経営者の皆様にお願いしたいのは、ご自身が「正しい知識」で判断する姿勢をお持ちになると同時に、社員の方々にも基礎的なリテラシーとしてこの領域を学ぶチャンスを与えていただきたいということです。特定の担当者さんのみに任せてしまうのではなく、社員皆さんでこの問題に取り組んではいかがでしょうか。今、ご自分たちに何ができるのかを考え、HTTの実践を通して理解を深めていただけたらと願っています。HTT実践推進ナビゲーターの活用そのものが、学びの機会になればよいですね。
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ピコットエナジー株式会社 代表取締役
ゼロエミッション経営推進相談員
田村 健人(たむら たけと)氏
2023/7/20
これまで、中小企業診断士として多くの企業コンサルティングを手掛けてきた田村健人さんは、エネルギー管理士、東京都排出量取引制度技術管理者の立場からも常に的確な助言をされてきた経営改善支援の・・・
これまで、中小企業診断士として多くの企業コンサルティングを手掛けてきた田村健人さんは、エネルギー管理士、東京都排出量取引制度技術管理者の立場からも常に的確な助言をされてきた経営改善支援のスペシャリストです。先日行われたセミナーにおいても、エネルギーコストアップの原因と対策、省エネの基本的な考え方など、脱炭素経営への取組に欠かせないさまざまなポイントを講義していただきました。
ご存じの通り、2015年にパリ協定が採択されて以来、脱炭素に向けた動きは世界的に加速し続けています。日本でも2020年10月の「2050年カーボンニュートラル宣言」に続き、2030年度における温室効果ガス削減目標を46%に設定(2013年度比)することを表明したほか、今年2月には「GX(グリーントランスフォーメーション)※1 実現に向けた基本方針」が閣議決定され、4月からは改正省エネ法が施行されました。とりわけGX戦略は、戦後日本における産業・エネルギー政策を大転換させるエポックメイキングな出来事といえるでしょう。気候変動問題に対して、日本が国家を挙げて取り組むという強い決意表明が発信されたわけです。
当然ながら中小企業の皆様も、この大きな時代のうねりから目を逸らさずにはいられません。温室効果ガス排出量の「見える化」、カーボンニュートラルに向けた「設備投資の促進」が拡大し、地域の金融機関や中小企業団体などの支援機関も「プッシュ型」の積極的な働きかけを行っていくことになるでしょう。また、グリーンな製品が尊ばれ、官民ともにグリーン製品の選定や調達が推奨されるようになると、そこに新たな市場が創出されていきます。
さらには、すでに欧米で一般化されている炭素税が、やがて日本でも導入されることになるかもしれません。日本の地球温暖化対策のための税(いわゆる温対税)はCO2排出量1tあたり289円ですが、イギリスでは2,870円/t-CO2、フランスでは5,930円/t-CO2、スウェーデンにいたっては15,470円/t-CO2です(2018年為替レート)。もちろん温対税の拡充についての議論はこれからの話ですが、日本でも他国と同等規模の税制度が2028年から本格導入されるという見方もあります。
※1 GXは「Green Transformation」の略称。温室効果ガスを発生させる化石燃料から太陽光発電、風力発電などのクリーンエネルギー中心の経済社会システムへと変革し、カーボンニュートラルと経済成長の両立を目指す取組です。
第1次オイルショックを契機として1979年に制定された省エネ法は、エネルギー使用の合理化が最大の目的でした。今年から施行された改正省エネ法は、化石エネルギーから非化石エネルギーへの転換を目指すとともに、合理化の対象範囲を非化石エネルギーにも広げています(太陽光発電も報告対象)。この法律における省エネとは、経済産業省が推進する「経済の健全な発展に不可欠なエネルギーの効率的活用」という考え方に基づいています。
一方、環境省が主導するCO2排出量削減は、温室効果ガスの排出をとにかく減らしていこうというのが本旨。極論を申し上げると、経済活動を縮小してしまえばゼロエミッションの達成に近づくのですが、それだけでは平和な日常を持続させるための環境負荷低減には繋がりません。両者は一見すると全く異なる方針を採っているようにも思えますが、目標とする到達点は同じです。脱炭素社会の実現と企業の成長にバランスよく取り組んでいかなければなりません。エネルギー管理の専門家として、私が心がけているのは付加価値の創造です。付加価値を生み出すことにエネルギーを集中して使う大切さを説きながら、ご相談に来られるそれぞれの企業様にフィットした取組をご提案しています。
照明をLED電球に替える、社用車にEVを導入する、空調を最新の省エネ型に置き換えるなど、とかく設備投資に目が行きがちですが、実はエネルギーコストが上がってしまう原因は他にもあり、相応の対策を図ることでエネルギー使用の合理化が実現できます。電力会社との契約の見直しもその一つでしょう。規模が大きい企業は高圧電力、小規模な企業は一般家庭と同じ低圧電力で契約されていることと思います。
電力使用料金の多寡は、概ね支払金額(円)÷電力使用量(kWh)で30〜37円/kWhが目安とされています。これを上回る状況なら、契約そのものを見直す余地がありそうです。普段は誰もいない倉庫であれば、不要な空調屋外機を電源から外して契約外とすることで、基本料金の大幅な低減が可能です。また、工場内にある空調や製造機器の起動を一斉に行うと消費電力が一気に跳ね上がりますが、時間をずらして順番に起動すればピーク値を低くできます。電力使用量を平準化することでコストを抑えられるケースもあります。最新型の省エネ設備を導入したのに電気代が思うように下がらない場合は、給排気に伴う熱漏れや、換気扇から冷気や熱が逃げている可能性を疑ってもいいでしょう。空調の設定温度を上げ下げして「我慢の省エネ」を続けるだけではなく、建物の断熱性を高めたり、窓の気密性を向上させた方がよい場合もあるんです。
やはり、ご相談企業との信頼関係の構築が鍵だと思っています。これもダメ、あれもダメと、こちらが否定から入ってしまうと、どうしても反発される方々がいらっしゃいます。企業様が長年培われてきたこと、大切にしてきたことに理解を示し、共感し、皆様が受容できるラインを探っています。
特に伝統ある老舗中小企業の場合は、エネルギーが高コストになりがちです。省エネに対する関心や意識があっても、昔ながらのやり方を曲げたくないという会社さんは多いんです。とある食品加工会社さんのケースを例に挙げると、加熱調理の工程に消費電力のムダが見られました。その工程は安易に省けるものではなかったのですが、機器の使い方を変えたり部品を追加したりして、生産効率をアップさせることができました。結果的には年間で約1,000万円のエネルギーコスト削減が実現できたのです。
最近はTVやラジオなどで「HTT」の話題を耳にする機会が増えてきました。世の中に浸透しつつあると思います。しかしながら、具体的に何から手を付ければいいのか、まだまだ腑に落ちていない企業様が多いのではないでしょうか。
東京都の支援は、他の自治体に比べて格段に手厚いことで知られています。申し込みのハードルが低く、補助率に優れています。しかも企業の成長を促しながらゼロエミッションに資する、幅広い選択肢が設けられているので、おそらく経営者の皆様が抱えている多様な問題をほぼ解決できるといっても過言ではありません。都内に事業所や工場を構えている企業は本当に恵まれていると感じます。ただ、一つだけ申し上げておきたいのは、助成金をもらうことが目的になってはいけないということです。自社が将来どのように成長・発展してゆくか、社会に対して何を還元してゆくのか。それらを叶えていくための手段であると捉えるべきでしょう。
省エネ設備への更新を促す助成金には、導入機器の機種指定や運用期間に一定の制約があります。例えば助成金を利用して設備を導入した後に、エネルギー使用の合理化が進んだことで攻めの経営に転じようとしても、助成金の制約によりすぐに機器の刷新ができない場合があります。つまり、成長のチャンスを逸してしまうということです。企業様のお考えによっては、助成金の活用をおすすめしないこともあるんです。
助成金を上手く活用して脱炭素経営を進めていくためには、まず自社の現状を把握するところから。経済産業省の「カーボンニュートラルに向けた投資促進税制」の計算シートや、日本商工会議所の「CO2チェックシート」、環境省のCO2排出係数公表サイトの情報に沿って、自社のエネルギーコストおよびCO2排出状況を数値化し、今後どうしたいか、ご自身の会社にとって何をすることがベストかを、明確にしてゆくことが肝要だと思います。
何からはじめて良いのか、導入するにはどうしたらいいのか、不明な点等がございましたら、まずはHTTのスペシャリストであるナビゲーターにご相談ください。ご相談は無料で、貴社にとっての最適な方法をご提案させていただきます。詳しくはお電話または下記フォームよりお問い合わせください。
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株式会社山本技術経営研究所 代表取締役
山本 肇 (やまもと はじめ)氏
2023/6/29
「カーボンニュートラルに向けたサプライチェーンにおける動向と具体的な取り組み方」と題した本セミナーでは、事業活動に関わるあらゆる排出量を合計したサプライチェーン排出量の重要性について・・・
「カーボンニュートラルに向けたサプライチェーンにおける動向と具体的な取り組み方」と題した本セミナーでは、事業活動に関わるあらゆる排出量を合計したサプライチェーン排出量の重要性について解いていただきました。とはいえ、Scope3にあたる上流、下流の間接排出の把握や、排出量の算定方法に難しさを感じやすく、何から手を付ければいいのか頭を悩ます担当者の方も少なくないはず。そこで、サプライチェーン排出量の捉え方や実際に算定する際のポイント、取組の事例などを伺いながら、講師の山本肇さんにアドバイスをいただきました。
サプライチェーン排出量とは、自社における排出だけでなく、事業活動に関わるあらゆる排出を合計した排出量を指します。まずは自社の工場などで燃料を燃焼した時の排出をScope1といい、電気を使った時の間接排出をScope2といいます。次に事業活動全体に視野を広げて、上流では原材料調達やその輸送・配送において、下流では製品の使用から廃棄にいたる段階の他社の排出をScope3と捉えます。カーボンニュートラルを実現するには、Scope1、2、3すべてを考える必要があるということです。
Scope3は他社の事業活動による排出であるため、コントロールに難しさを感じるかもしれませんが、たとえ自社においてカーボンニュートラルを実現できたとしても、原材料調達で多くのCO2が排出されているようでは、トータルの評価には繋がりにくくなります。逆に省エネ効果の高い製品を作って世に送り出せば、製品使用時の排出量を減らすことで間接的にカーボンニュートラルに貢献することも可能なのです。サプライチェーン排出量の全体像を把握すれば、優先的に削減すべき対象を特定できるようになります。
サプライチェーン排出量には関連する他社の排出量も含まれるため、各社で算定が行われた場合、「重複するのでは?」と懸念される声も聞かれます。結論をいえば重複はします。しかし、日本全体の総排出量を求めることが目的ではないので問題はないのです。サプライチェーン排出量というのは、事業活動の上流、下流も含めた全体で世の中にどのような影響を与えているのかを認識することで、各企業に脱炭素経営の指標としていただくことが目的なのです。
まずは自社の脱炭素化に取り組むことが大切ですので、Scope1、2における排出量の算定から始めましょう。Scope1は自社における直接排出ですから、重油、ガソリン、ガスなど、燃料ごとに使用量を調べて計算式にあてはめて算出します。Scope2は他社から供給された電気や熱の使用に伴う間接排出ですので、供給元の電気事業者ごとの排出係数をもとに算出します。次の段階として、事業活動の上流、下流にあたるScope3について目を向けるとよいと思います。
Scope1、2は省エネルギー対策になりますから、脱炭素を進めるとともに、自社のエネルギーコストを下げることにも繋がります。特にScope2においては、東京都がHTT(電力をH「へらす」T「つくる」T「ためる」)の取組を加速させており、さまざまな支援策が用意されているため、取り組みやすい領域といえるでしょう。
また、組織単位で排出量を算定するサプライチェーン排出量とは別に、カーボンフットプリント※1で製品単位の排出量をだしておけば、他社から問合せがきた時に確度の高い情報を提供できるようになります。このように各社で取組が進み、Scope1、2における確度の高い排出量と製品の排出量を公表できるようになれば、Scope3における他社の情報が得やすくなり、サプライチェーン排出量が算定しやすくなると考えられます。
※1 気候変動への影響に関連するライフサイクルアセスメントに基づき、当該製品システム(製品単位)における温室効果ガスの排出量から除去・吸収量を除いた値をCO2排出量相当に換算したもの。
排出量は、「活動量」×「排出原単位」という基本式によって求めることができます。ここでいう活動量とは、燃料や電気の使用量、貨物の輸送量、あるいは取引金額などが該当します。排出原単位とは、活動量あたりのCO2排出量のことで、たとえば電気なら1kWh使用あたりの排出量、貨物の輸送なら1トンキロあたりの排出量をいいます。基本式に入れる活動量と排出原単位の特定には、環境省のガイドラインやデータベース※2を活用することができます。
Scope1、2に関しては自社の燃料使用量や電気量ですので難しくないと思いますが、Scope3に関しても基本的には既存のデータベース※2を使用して算出することが可能です。Scope3の場合は、「購入した製品・サービス」「輸送・配送」「出張」など15のカテゴリがありますので、カテゴリごとに分類してから算出します。
実際にデータベースを見てみると、あてはまる項目がなくて悩まれる方も多いのですが、最初から正確な数値を求めるのは難しいですから、まずはわかる範囲で取り組んでみましょう。たとえば調達した原材料がステンレスであった場合、データベースには鉄、銅材など大まかな分類しかないため、鉄の排出原単位で算定することになります。このように精度の高い数値を計算する必要はありませんが、どのデータベースをもとに計算したのかは明示するようにしてください。まずは、大まかに自社のサプライチェーン排出量の全体像を把握することを心がけましょう。
※2 環境省のデータベース
・サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス排出等の算定のための排出源単位について(環境省)
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/tools/unit_outline_V3-2.pdf
・温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度/算定方法・排出係数一覧(環境省)
https://ghg-santeikohyo.env.go.jp/calc
パワエレとは、パワーエレクトロニクスの略で電力を変換するための技術を指し、省エネ問題を考えるうえのキーテクノロジーとしても注目されています。電力変換の身近な例でいいますと、交流を直流に変換するACアダプタがありますが、ひと昔前に比べると、スマートフォンやパソコンの電源アダプタがずいぶんと小型化して高効率化されたことはご存じの通りだと思います。同じように、電源設備も日進月歩で進歩していますし、古い設備は最新型に比べるとどうしても電力効率が悪くなることもあり、耐用年数を迎えたら設備交換を検討するのがよいと思います。
設備交換に際しては、現状の電気効率はどの程度なのか、それを新しい設備にするとどれくらい効率がよくなるのか、現状を知ることから始めます。省エネ対策とはいえ、あくまで設備投資だということを忘れないでください。
投資額は何年で回収できるのか、電気効率だけで考えると時間がかかりそうな場合も、電気代が高騰している現在の状況を鑑みると案外早くペイできる可能性もあります。また、助成金を使えば初期投資を軽減することもできます。省エネの取組を加速する東京都では多くの助成金や支援策が用意されていますので、老朽化した機器の設備更新にはよいチャンスだと思います。
実際、設備投資をきっかけに脱炭素経営を始める方は多いのですが、ある企業の場合、設備投資で自社の燃料費が軽減できることから、「Scope1の取組になるのでは?」と考えて相談に来られました。その設備を使うことで製品の製造をスピードアップすることが可能で、生産量を3倍に増やせるということでしたが、お話を伺うなかで、作られる製品がリサイクル材であることがわかりました。つまり、製品の使用によっても排出量を減らせることがわかったのです。
まず、生産スピードが3倍になるということは、燃料費が1/3に下がるということですから、Scope1の取組にあたります。同時に、その設備で作られる製品がリサイクル材であるということは、製品の使用時においても脱炭素に貢献できるので、Scope3の取組にもあたるわけです。当初は燃料費の軽減を目的に設備投資を検討されていましたが、リサイクル製品を作ることでより広く社会に貢献できることがわかり、とても喜んでくださいました。助成金の申請にあたっては、Scope1にあたる直接排出削減の計算とともに、Scope3の製品使用時における計算ものせることができたため、助成金対象としてスムーズに採択されたそうです。
脱炭素経営というのは、企業によってそれぞれ違った取組のかたちがあるのだと思います。そのかたちを見極める意味で、サプライチェーン排出量は最初に取り組むべき事柄といえるでしょう。必要性は感じているけど具体的にどうしたらよいかわからない、という場合、まずは公共の窓口に相談するのが一番の近道です。東京都では中小企業をバックアップする体制を整えており、こちらのHTT実践推進ナビゲーター事業もその一つです。また、私が関わる東京都中小企業振興公社とも連携しており、月に一度専門家を派遣するハンズオン支援を行っていて、サプライチェーン排出量の算定についても理解できるまで寄り添いながら支援を行っています。
また、脱炭素経営というのは環境問題における取組である以前に、自社の事業規模を拡大することが目的であると認識していただきたいのです。極端な話ですが、事業を縮小すればCO2の削減に繋がりますがそれでは意味がありません。事業を拡大するために、脱炭素経営で何に取り組むべきなのか、そういう視点が重要です。脱炭素経営によって企業価値を高め、社会から選ばれる企業になること、それが最大の目的です。公的支援が整った今がビジネスチャンスです。まずは第一歩を踏み出してはいかがでしょうか。
何からはじめて良いのか、導入するにはどうしたらいいのか、不明な点等がございましたら、まずはHTTのスペシャリストであるナビゲーターにご相談ください。ご相談は無料で、貴社にとっての最適な方法をご提案させていただきます。詳しくはお電話または下記フォームよりお問い合わせください。
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株式会社日本総合研究所
リサーチ・コンサルティング部門
ストラテジー&オペレーショングループ
シニアマネジャー/上席主任研究員
大森 充(おおもり みつる)氏
2023/5/23
なぜ今、取り組まなければならないのか? 中小企業の役割とは? ESGやSDGsの観点から、企業の経営計画やDX戦略、事業開発の現場に・・・
なぜ今、取り組まなければならないのか? 中小企業の役割とは? ESGやSDGsの観点から、企業の経営計画やDX戦略、事業開発の現場に数多く携わってきた大森充さんを講師に迎え、脱炭素化推進の意義を伺いました。
これまで企業は、顧客に価値を提供し、雇用機会をつくり、納税をすれば、社会に貢献しているとみなされてきました。自由な資本主義を追求する過程で、従業員に負荷をかけたり、サプライヤーに無理を強いたり、外部環境に多少の悪影響を及ぼしても許されてきたのです。 しかし、サステナビリティ(持続可能性)の主語は、企業ではなく、あくまでも「地球」です。そもそも健全な地球環境が維持できなければ、私たちの社会や経済は成り立ちません。そこで生まれたのが2015年に国連加盟国197ヵ国が合意・採択したSDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)です。
SDGsが掲げる17のゴール・169のターゲットにおいて、とりわけ大きな課題が気候変動対応です。地球の劣化は皆さんが想像される以上に深刻です。なんの手立ても講じずに進むと、2050年には海洋に漂うプラスチックゴミと、海に生きる魚の量とが同じになるという試算があります。また、すでに1970年から現在まで脊椎動物の個体群は平均68%減少しました。温暖化による気候変動でハリケーンや台風の甚大化が進み、気象災害の被害額も全世界で年間平均1,200億ドル(2008〜17年)にのぼっています。経済を盛り立てた結果、意図せずして人ですら生きづらい環境を作り上げてしまったのです。ちなみに、前述した2015年に国連で採択された文書の名称は「持続可能な開発のための2030アジェンダ」で、世界を変革する(Transforming our world)という文言で表現されています。チェンジ(変える)ではなく、より強いニュアンスを持つトランスフォーミング(変革・転換)が使われているほど、世界は切迫した状況に陥っています。
2020年10月、当時の菅政権が2050年までにCO2排出量をプラスマイナスゼロの状態にするカーボンニュートラル実現を宣言しました。このシナリオは、このまま何もしなければ世界の平均気温が4℃上昇してしまうところを、さまざまな対策によって1.5℃に抑えようとするものです。世界123ヶ国と1地域が賛同している中、日本は後発の宣言となりましたが、その一方でTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言に沿うかたちでプライム市場上場企業に脱炭素化計画の開示が求められるなど、ボランタリー(自発的な任意)から義務化への流れが構築されつつあります。また日本政府の働きかけもあり、このTCFDに賛同する機関数は、イギリスやアメリカをしのぎ世界第1位となりました。
もし地球環境のさまざまなリスクが顕在化すると、これから生まれてくる世代にとってはそれがごく当たり前のことになり、今後思うような改善が見込めないかもしれません。私たちが気候変動を緩和できる最後の世代です。そうした状況や、よりよい社会を未来へつなぐ責任を鑑み、本気で問題解決に取り組もうと考える企業が増えてきたと言えますね。
CO2排出量の抑制は大企業だけの問題ではありません。サプライチェーン全体での解決が絶対に必要となってきます。
例えば、製造業におけるサプライチェーン全体のCO2排出量を可視化した場合、資材の調達、製造・加工、流通や販売は大企業がある程度コントロールできます。しかし、原材料の製造をはじめ、実際の製造や加工作業などの下請け業務を担うのは中小企業です。特に商品が消費者の手に渡り、廃棄に至る過程での排出量ボリュームが大きいため、この部分を大幅に削減できなければカーボンニュートラルは実現できません。東京都に所在する企業のうち約99%を中小企業が占めているように、産業やサービスの中心は中小企業の皆さんです。目標達成には中小企業の力が必須となります。
今後、大企業はサプライチェーン全体で気候変動解決を目指すサプライヤーエンゲージメントの仕組みを作り上げていくでしょう。その際、CSR(企業の社会的責任)を目的に、サプライヤーにはさまざまな基準や条件が課せられ、それをクリアした中小企業がパートナーとして選ばれるようになります。
実際、米国の大手電機メーカーでは、ZEB(ゼロ・エネルギー・ビル ※1)への入居がサプライヤー選定の要件となっています。また、大手自動車メーカーは各部品を製造するサプライヤーにCDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)に回答することを要件としています。サプライチェーンの構成企業として、積極的に取り組んでいる姿勢を示し、責任の一端を担うことができなければ、最悪の場合は排除させられてしまう可能性もあるのです。
仮に取引量の多い顧客からCSR調達の要請を受けたら、一つ一つしっかりと対応していくことが肝要です。決して他人事ではなく、自分が抱える問題として捉え、「この部分はできている」「この部分はできていないが、将来的にこうしたい、こうすればできる」という真摯な回答が重要です。わからないことがあれば調べ、専門知識を少しでも吸収し、自社が置かれている立場や能力を見極めるだけでも、それが後々メリットになっていきます。
※1 ZEB…Net Zero Energy Buildingの略称。快適な環境を実現しながら、その建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指したビルのこと。省エネによってエネルギー消費量を減らし、創エネによってあらたなエネルギーを作ることで、エネルギー消費量を正味ゼロにすることができる。
最近私がコンサルティングをお手伝いした大阪のプラスチックプレート製造企業では、もともと環境問題に対する意識が高く、100%リサイクル材料でものづくりを行なっていることを武器にしていました。その後、CSR調達をきっかけに、自分たちにどのような貢献ができるのか、あらためて自社に対する理解を深め、PRに転化したことで、廃プラ削減への取り組みが評価されました。コロナ禍による需要もあって、感染症対策用アクリル板の売上がアップし、大幅な受注増につながっています。
また、横浜にある某施工会社は「B-Corp」という国際的な認証制度を取得されました。社会や環境に配慮した公益性の高い企業に対して与えられるこの制度は、例えばアウトドア用品のパタゴニア社が認証を受けたことでも知られています。取得すれば世界的に評価される分、その条件は厳しく、とてもハードルが高いものです。しかし、B-Corpのような国際認証を取得することは社会的信用や国際競争力を高める手段となります。SDGsに関心のある企業への営業チャンスが広がり、中小企業によるSDGsのロールモデルとしても注目を浴びています。
先ほどもお話ししたように、環境・エネルギー対策はまさに総力戦。大企業の努力だけでは成し得ません。十分な効果を得るためには中小企業の皆さんの意識改革が鍵となります。そういった裾野の活動を活性化させる上で、HTTが果たす役割は大きいでしょう。
まずは、社内の照明を白熱電球からLEDに変えるなど、手軽にできる「減らす」から始めてもいいですね。そして、自社の状況を見極め、一つ一つの課題をクリアし、社会的使命を果たすためのパーパス(目的)を設定することが大切です。また、省エネ対策をテコにして、社内環境のイノベーションに役立てたり、環境にやさしい事業を新たに創出したり、ブランディングにつなげるのもよいと思います。文字通り、自社で消費するエネルギーを「つくる」ことも必要ですが、自社の事業を再定義してあらたなビジネスチャンスを「つくる」ことにもチャレンジしていただきたいですね。
さらに、中小企業を取り巻く問題として、しばしば労働人口の減少が取りざたされていますが、若者の価値観は「どの企業に勤めるか?」から「どんな仕事に就くか?」に変化しています。とりわけZ世代は環境問題に関心を持ち、企業が携えるべきパーパスに敏感です。彼らはエコフレンドリーで、やりがいを感じられる企業に魅力を覚える傾向にあるのです。脱炭素化への積極参加は、若く優秀な人材を獲得しやすくなることにも繋がっていくと思います。
何からはじめて良いのか、導入するにはどうしたらいいのか、不明な点等がございましたら、まずはHTTのスペシャリストであるナビゲーターにご相談ください。ご相談は無料で、貴社にとっての最適な方法をご提案させていただきます。詳しくはお電話または下記フォームよりお問い合わせください。
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株式会社ハバリーズ 代表取締役社長
矢野 玲美(やの れみ)氏
2023/4/20
事業継承をきっかけに、徹底した環境ブランディングによって新たな付加価値の創出を実現された、株式会社ハバリーズ代表取締役・矢野玲美さん。紙パック包装のナチュラルウォーター「ハバリーズ」で・・・
事業継承をきっかけに、徹底した環境ブランディングによって新たな付加価値の創出を実現された、株式会社ハバリーズ代表取締役・矢野玲美さん。紙パック包装のナチュラルウォーター「ハバリーズ」で一躍時の人となった矢野さんが、4月20日のHTTセミナーで語られたお話には、今、私たちが取り組むべき脱炭素化経営と、事業効率化やコスト削減を越えた業績拡大の大いなるヒントが散りばめられていました。
京都で生まれた私は、幼い頃から母の仕事を間近に見ていました。母は大分県出身、宇佐市の羽馬礼(はばれい)という地域を中心に複数の水源を所有し、ミネラルウォーターの製造・販売を手掛けてきました。事業の内容は、ホテルやドラッグストアなどが主なクライアントとなり、その相手先のブランド名でペットボトルの水を製造するOEMがメイン。営業は代理店、販売は取引先に委ねるという完全な製造業が主体で、常に1円以下の価格競争が付いてまわり、お客様からお値引きのご相談があると応じるほかなく、あまり公平性があるとはいえない事業スタイルではと感じていました。
水は人にとってなくてはならないものですが、その価値はとても曖昧です。
羽馬礼の湧水がどんなに優れた天然水であっても、おいしい水は他の地域でも産出されています。あとは価格勝負。しかも日本は欧米とは異なり「水はタダ」という感覚がいまだに根強い。おぼろげながら、やがては私がこの家業を受け継ぐんだろうなと考えてはいましたが、正直、水ビジネスにはネガティブなイメージしか持っていなかったんです。
大学卒業後、私は技術系商社に入社しました。海外を飛びまわる中で、ある日「紙パックで包装された水」を見つけたんです。その当時、紙パックは日本では見かけないマテリアルでした。社会全体が脱プラスティック、カーボンニュートラルを叫んでいる今、環境問題を語り合う国際会議の場で、なぜかテーブルの上にペットボトルの水が並んでいることに違和感を覚えてもいました。
時代が変わり、省エネ、再エネ、脱炭素化に取り組んでいることが企業活動の評価につながり、今やそれが株価にも結びついています。この状況を逆手に取って水ビジネスを始めようと宣言したら、周囲の方々からは「この業界は厳しい」「事業継承の魅力に乏しい」「せっかく商社に勤めているのにもったいない」など、反対意見が多々寄せられました。でも、大分県が誇る大切な水源を守り、それを未来へ残してゆくために、業界を変え、健全な事業化を進めていく。この信念を強みにして、第二創業を推し進めようと決意したのです。
2020年6月、コロナ禍の真っ只中にハバリーズを立ち上げました。平時でさえ難しいのに「よりによって、なんでこの時期に?」という声があったのも事実です。しかし、私の中には、東京オリンピック・パラリンピックの開催に向けて「サステイナブルな紙パックのナチュラルウォーターを世に出したい」という強い思いがありました。
商品開発にあたってはいくつかのポイントがあります。まず、経済合理性に適うかどうか。少々高くても手の出せる価格帯でないとその商品は売れません。また、商品に込めた理念やストーリーも重要です。水源が羽馬礼地区にあることからパッケージには羽の生えた馬、つまりペガサスをデザインしました。これはペガサスのように優雅でありながら、社会に輝きをもたらす存在でありたいという願いが込められています。ちなみにセミナーでもご質問を受けましたが、デザインや制作物に関する世界観については当事者である私たち自身が中心となって、細部に至るまで考えています。
サイクル循環が100%可能であることにもこだわりました。包装本体がFSC認証(※1)取得済の紙であるだけでなく、キャップもBONSUCRO認証(※2)を取得したサトウキビ由来の植物性ポリエチレンを使用しています。ただただ「自然に優しい」を謳っても独りよがりなメッセージにしかなりませんから、国際機関が定める認証を取得しています。
世界が取り組むべきSDGs(持続可能な開発目標)にフィットした認証取得は、例えば融資をお願いする金融機関から求められることも多いんです。
同時に紙のパッケージは、ペットボトルやアルミ缶に比べて気候変動への負荷が最も低いとされていて、ゴミの減資率が78%以上に。廃棄面でもコスト削減が期待できます。さらに、法人向けに開発したリサイクル回収ボックスのスキームも、有名ホテルグループをはじめ多くの企業様から支持をいただいています。まず、ハバリーズの水とともに再生紙で作られたトイレットペーパーを購入していただき、その梱包用のダンボールに飲み終えた水の紙パックをまとめ、指定の工場に送料無料で送り返していただくというしくみです。これによって、紙から紙へのリサイクルが見える化できるようになりました。
こうした一つ一つの付加価値が積み重なり、メディア戦略が功を奏したことも大きいですね。多くの雑誌やTVなどのメディアがハバリーズの水に注目してくださり、環境問題に敏感な世界のハイブランド各社からお問い合わせをいただくことにつながりました。経済性、デザイン性、環境性、これにメッセージ性をプラスした商品開発が多くの取引先企業様を巻き込んで、社会へインパクトを与える大きな渦になっていったんだと思います。
※1 「FSC認証」…持続可能な森林活用・保全を目的として誕生した、「適切な森林管理」を認証する国際的な制度です。認証を受けた森林からの生産品による製品にはFSCロゴマークがつけられます。
※2 「BONSUCRO認証」…持続可能なサトウキビを促進するために2008年に設立された組織が定める認証制度。温室効果ガスを定量的に測る数少ない認証の一つです。
国内の事業継承問題に目を向けると、後継者不在企業は実に61.5%以上にのぼり、社長の平均年齢は60.3歳(2021年 帝国データバンク調べ)というデータが発表されています。祖母から母に受け継がれた水の製造事業は、現在も大分を拠点に継続していますが、ハバリーズの本社は京都に置いています。私は既存の家業をそのままの形で引き継ぐよりも、新たなブランドを構築して新会社を設立するゼロスタートの道を選びました。新規起業の方が行政や銀行のサポートを期待でき、アドバンテージがあると考えたからです。
京都市では、スタートアップ企業を奨励するコンテストが行われていたり、他の企業とのマッチングを促す催しが開かれていたりします。私たちもチャンスがあれば積極的に参加し、メディア関係者をご紹介してもらうなど、さまざまな分野の方々とのパイプづくりに努めてきました。もともと私たちは、少数精鋭の経営で意思決定もスピーディです。水の製造に関する知見やノウハウがありましたし、今の時代にあったスリムでファブレスな企業経営に努めました。今ある経営資源を最大限に活用し、足りないところは外部の方々と協働して目の前の課題に取り組む。そういった面で行政の皆さんの助言やサポートを生かすことができたと思います。
また、東京都が推進されている「HTT」も素晴らしい試みだと思います。エネルギーコストを削減し、脱炭素経営を目指すことで行政の手厚い支援が受けられるのですから、これを活用しない手はありません。それが、私たちも直面した事業継承の問題をクリアするきっかけになったり、皆さんの企業価値、製品価値を高めるブランディングにもつながっていけばなおいいですね。
最初の一歩は「補助金や助成金がもらえるから」「コストを減らし利益を追求したい」というモチベーションでも、私はいいと思います。HTTに参画することで、あらためて環境問題に関心を持ち、設備投資や助成を受ける過程で、さまざまなナレッジや情報を吸収することができます。その蓄積がやがて自社の企業価値を高める武器になるでしょう。「地球環境の保全に資する企業となる」といった大きな目標を掲げることも大切ですが、自分たちの事業活動を維持し、成長してゆくことが肝要です。それそのものがサステナビリティといえます。
私にとっての「水」は、たまたまそこにあったもの。水源を持ち、水の製造事業を行っていたというファミリールーツがあっただけで、皆さんにとっても、それぞれに「何か」があるはず。事業継承や環境ブランディングをきっかけにして、一社でも多くの企業様がSDGsに取り組んでいただけるような世の中になることを願っています。
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一般社団法人 東京都中小企業診断士協会
大東 威司(おおひがし たかし)氏
2023/3/23
3月23日に行われたセミナー講演「中小企業の脱炭素化に向けた取組と実践事例」の振り返りとして、脱炭素化の流れや中小企業が脱炭素化に取り組むメリット、具体的なアクション、実践事例などについて・・・
3月23日に行われたセミナー講演「中小企業の脱炭素化に向けた取組と実践事例」の振り返りとして、脱炭素化の流れや中小企業が脱炭素化に取り組むメリット、具体的なアクション、実践事例などについて、講師の中小企業診断士、大東威司さんにお話を伺いました。
2015年のCOP21ではパリ協定(産業革命以前に比べて2℃より十分に低く保ち、1.5℃に抑える努力をする)が採択され、CO2排出量の削減に向けた長期目標に対して、主要排出国を含む多くの国が足並みを揃えたことに大きな意義があると思います。具体的な目標が出揃ってきたところで、今は日本を含めた各国がちゃんと行動できるか否かが試されているのだと思います。
パリ協定では、気温上昇を2℃未満に抑えるというシナリオと整合した、企業が取り組む温室効果ガス排出削減目標としてSBT(Science Based Targets)が設定され、日本では中小企業向けとして2030年に目標を定めた独自のガイドラインが設定されました。SBTでは削減すべき温室効果ガスを、Scope1(事業者自らによる温室効果ガスの直接排出)、Scope2(他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出)、Scope3(Scope1,2以外の間接排出)の3つのカテゴリーに分類していますが、中小企業向けSBTでは主にScope1と2の排出量を2018年比で30〜50%削減することを目指しています。
東京都は日本の首都であり、人口も企業の経済活動も桁外れに大きく、都市というより国に近い経済規模があります。当然、CO2の排出量も多いわけで、大都市の責務として1.5℃目標を追求し、2019年には「ゼロエミッション東京戦略」を策定、2021年には取組を加速して都内CO2排出量を2030年までに50%削減する「カーボンハーフ」を表明しました。そうした流れのなかで、2021年1月、全国レベルで電力需給がひっ迫する事態や、ウクライナ・ロシア情勢による世界的なエネルギー不足が生じたこともあり、CO2排出削減だけではなく、いまはエネルギーの安定確保が待ったなしの状況なのです。
こうした背景もあって昨年の2022年4月には節電や省エネの取組として「HTT=電力を減らす(H)、創る(T)、蓄める(T)」のキャンペーンがスタートしました。印象深いのは、昨年12月の都議会で太陽光パネル義務化条例が成立したことで、建築物に対する脱炭素化を進める大きな一歩であり、東京都の強い意気込みを感じます。東京には非常に多くの建物がありますしオフィスビルや工場だけでなく住宅からのCO2排出も多いため、建築物の脱炭素化に注目したのはよい観点だと思いました。
日本の太陽光発電の普及は欧米に比べて後れを取っていましたが、東京都の動きをみて川崎市でも義務化を決定するなど、全国的な動きに繋がる大きな流れをつくったといえるでしょう。
脱炭素化を入り口に考え、構えてしまう人も少なくないのですが、そうではなくて、純粋に自社の利益追求の視点で考えていただきたいのです。まずHTTの1番目のH(電気を減らす)についてですが、省エネでCO2を削減するということは光熱費を減らすことであり、製造原価や管理費を節約する分、そのまま利益が上がるということです。たとえば省エネによるコストカットで20万円の利益が生じた場合、同じ利益を営業活動で得ようと思うと、かかる経費を勘案すれば数百万円の売上アップが必要になります。つまり、脱炭素化の取組は、営業活動より効率よく利益を上げられる可能性が高いということです。
次に2番目のT(創る)については、太陽光発電を導入することでクリーンなエネルギーを創り出すと同時に、余ったエネルギーを蓄電しておけば停電などの非常時にも速やかに事業復帰ができるなど、リスク対策にも繋がります。東京は直下型地震などの自然災害や、電力需給のひっ迫など、さまざまなリスクにさらされていますので、非常用電源の確保には大きなメリットがあると思います。
また、脱炭素化経営は環境問題に積極的に取り組む企業としてイメージアップにもなるので、人材確保の上でも有利です。今の若い人は環境問題について義務教育で学んでいるので、環境問題に関心の薄い企業というのは就職先として対象外と考える傾向にあります。
そして何より大事なのは、銀行などの融資条件に環境問題への取組が求められつつあることです。有価証券報告書などに環境問題の取組が明記できないようだと、将来、融資を受けにくくなる可能性もあります。取引先からの評価も同様であり、脱炭素化の取組を条件とする企業が増えているので、対策を怠るとサプライヤーとして選ばれなくなる恐れもあります。
脱炭素化を進める行動指針としては、先に説明したSBT(Science Based Targets)の目標を基準に考えるとよいと思います。まずScope1については、自社で使う熱源エネルギーによる直接排出の削減にあたりますので、ボイラーや暖房などに使っているガスや化石燃料、電気の使用量を減らしましょう、ということです。Scope2は、余所から供給されたエネルギーによる間接排出を削減することですので、いま使っている電力などを太陽光発電など再生エネルギーにスイッチしていくことになります。Scope3は、原材料の仕入れなど事業活動の上流における排出から、製品の使用や廃棄など下流における排出までが含まれ、少し複雑になっています。
取り組む手順としてはScope1、2から、まずは自社で使っているエネルギーの量を把握し、プロセスの改善、設備更新などで電気の使用量をどこまで減らせるかを考えるのが最初のステップになると思います。
東京都には省エネ設備導入や運用改善を対象とした支援事業(助成制度)が数多くあり、クール・ネット東京などを通じて申し込むことが可能です。窓口探しで戸惑うようであれば、まずは東京都中小企業振興公社やHTT実践推進ナビゲーター事業(本事業)に問い合わせるとよいでしょう。
私が携わっている東京都中小企業振興公社の「ゼロエミッション実現に向けた経営推進支援事業」では、まずは相談窓口を設けて、その場でわかる範囲でアドバイスをお返ししています。そこでは、将来に向けた事業の展望や夢を伺ったうえで、経営戦略の一環として省エネ対策をどう埋め込んでいくかなどをお話ししています。実際に取組を進める場合は、現地調査による準備支援の段階を経た後、ハンズオン支援といって、経営戦略・ロードマップ策定のサポートなどを行いながら、最長2年半にわたって継続的に伴走支援を行うことになります。
セミナーでもお伝えしたパン工場の例ですが、「バリューチェーンの中で選ばれる企業になる」という社長の目標があって、取引先大手企業から要請されたCO2削減の取組を行う期限に先んじて、「ものづくり補助金」を利用して既に急速冷凍技術を獲得されていました。ただし、冷凍したパンを保存するスペースがなかったため、工場を拡張して冷凍貯蔵スペースを造り、その上に太陽光発電を載せてCO2削減を図るという、さらなる脱炭素化による経営戦略をたてることにしました。
また、私の地元である板橋区の金属メッキ工場では、古い電源設備を更新することで、脱炭素化の取組を利益追求に繋げた例もあります。工場では高圧電気を使うため変圧器などを納めたキュービクルという設備を設置していますが、40年ぐらい更新していなかったため、電力変換時にかなりの電気ロスが生じていました。そこでキュービクルを更新することで省エネを図ることにしたのですが、板橋区の補助金を利用するなどして1千万円以上かかる投資費用を数百万円に抑えることができました。さらに、更新した設備が変圧器のトップランナー制度の対象であったため、固定資産税が3年間減免される、税制優遇を受けることもできたのです。
このように、老朽化した製造設備を使っている工場などは更新への投資のチャンスだと思います。補助金を使って少ない投資で設備を更新できますし、税制優遇を受けられる可能性もあります。CO2削減とともに光熱費のコストカットにもなりますし、設備更新するにはいいタイミングになるわけです。あくまで理論値ではありますが、この金属メッキ工場の場合は電気代を約40%削減できる計算なので、投資資金を回収するのに必要な期間もかなり圧縮できると思われます。脱炭素化を視野に入れた経営戦略においては、目先の投資額で判断せずに、中長期的な視野で利益に繋げることを考えることが大切です。
何からはじめて良いのか、導入するにはどうしたらいいのか、不明な点等がございましたら、まずはHTTのスペシャリストであるナビゲーターにご相談ください。ご相談は無料で、貴社にとっての最適な方法をご提案させていただきます。詳しくはお電話または下記フォームよりお問い合わせください。
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いま、中小企業者・小規模事業者にも環境対策への積極的な取組が求められています。
下記のような事例でも東京都の助成金が活用できます!
電力を
へらす
電力を
つくる
電力を
ためる
※HTT関連の助成金の対象は東京都内の中小企業、小規模事業者です。
※大企業の子会社、学校法人、一般・財団法人、医療法人、社会福祉法人等は対象外です。
HTT実践推進ナビゲーターを実際に活用した企業様にインタビューをしました。